国際私法の現代化に関する要綱
平成17年9月6日
法制審議会総会決定
(前 | 注)本要綱は,現行法例中の国際私法規定に関し,内容的な改正を行う部分のみを掲げたものであり,本要綱で新設・改正が提案されていない条文についても,現代語化(平仮名口語体化)を図るものとする。なお,本要綱中の条文の引用は,現行法例のものである。 |
第 | 1 自然人の能力に関する準拠法 |
1 | 行為能力 第3条第1項及び第2項の「能力」を「行為能力」に改めるものとする。 |
2 | 自然人の行為能力に関する取引保護規定 日本においてされた法律行為のみを取引保護の対象とする第3条第2項を改め,すべての当事者が同一法域内に所在するときにされた法律行為については,当該法律行為をした者が本国法によれば行為能力の制限を受けている者である場合であっても,行為地法によれば行為能力者であるときは,その者を行為能力者とみなすものとする。 |
(注 | )取引保護規定の適用除外を定める第3条第3項にいう外国に在る不動産に関する法律行為は,2の改正に伴い,行為地と異なる法域に在る不動産に関する法律行為に改めるものとする。 |
第 | 2 後見開始の審判等の国際裁判管轄及び準拠法 |
1 | 後見開始の審判等の国際裁判管轄 裁判所は,以下のいずれかの場合には,後見開始の審判をすることができるものとする。 |
(1) | 成年被後見人が日本に住所又は居所を有する場合 |
(2) | 成年被後見人が日本の国籍を有する場合 |
(注 | )保佐開始の審判及び補助開始の審判の国際裁判管轄についても,同様の規律とするものとする。 |
2 | 後見開始の審判等の準拠法 後見開始の審判の原因及び効力は,日本の法律によるものとする。 |
(注 | )保佐開始の審判及び補助開始の審判の準拠法についても,同様の規律とするものとする。 |
第 | 3 失踪宣告の国際裁判管轄及び準拠法 裁判所は,以下のいずれかの場合には,日本の法律によって失踪宣告をすることができるものとする。ただし,失踪宣告の効力は,(3)を管轄原因とする場合には日本に所在する不在者の財産に,(4)を管轄原因とする場合には不在者についての日本に関係する法律関係に,それぞれ限定されるものとする。 |
(1) | 不在者が生存していたとされる最後の時点において日本の国籍を有していた場合 |
(2) | 不在者が生存していたとされる最後の時点において日本に住所を有していた場合 |
(3) | 不在者の財産が日本に所在する場合 |
(4) | 不在者について日本に関係する法律関係がある場合 |
第 | 4 法律行為の成立及び効力に関する準拠法 |
1 | 当事者による準拠法選択がされていない場合の連結政策 |
ア | 当事者による準拠法選択がされていない場合の法律行為の成立及び効力は,当該法律行為に最も密接に関係する地の法律によるものとする。 |
イ | 法律行為について,その種類の法律行為に特徴的な給付を一方当事者のみが行う場合には,その給付を行う者の常居所地法(その者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあってはその事業所の所在地の法律,当該法律行為が異なる法域に所在する複数の事業所に関係する場合にあっては主たる事業所の所在地の法律)を当該法律行為に最も密接に関係する地の法律と推定するものとする。 |
ウ | 不動産を目的物とする法律行為については,イにかかわらず,不動産の所在地の法律を当該法律行為に最も密接に関係する地の法律と推定するものとする。 |
エ | 労働契約については,イにかかわらず,労務供給地の法律(労務供給地が一義的に定まらない場合にあっては,労働者を雇い入れた事業所の所在地の法律)を労働契約に最も密接に関係する地の法律と推定するものとする。 |
(注 | 1)異なる法域に所在する者の間の法律行為の行為地の決定に関する第9条は,削除するものとする。 |
(注 | 2)エの労働契約とは,労働者(労務の供給をする者をいう。)が使用者(労務の供給を受ける者をいう。)に対しその指揮監督に服して労務を供給し,その対価として報酬を得る旨の契約をいうものとする。 |
2 | 準拠法の事後的変更 当事者は,法律行為の成立及び効力の準拠法を変更することができるが,その変更は,法律行為の方式についての有効・無効に影響を与えず,また,第三者の権利を害することとなるときは,その変更を第三者に対抗することができないものとする。 |
(注 | )準拠法の変更の効力を遡及的なものとするか将来的なものとするかは,当事者がその変更の際に選択することができるものとする。 |
3 | 消費者契約に関する消費者保護規定 |
ア | 契約の成立及び効力について当事者による準拠法選択がされた場合であっても,その契約が消費者契約であって,当該契約の成立及び効力並びに方式に関して消費者がその常居所地法上の強行規定に基づく特定の効果を主張したときは,当該主張に係る強行規定が適用されるものとする。 |
イ | 当事者による準拠法選択がされていない場合の消費者契約の成立及び効力並びに方式は,1ア及び第5にかかわらず,消費者の常居所地法によるものとする。 |
ウ | ア及びイの規律は,以下のいずれかの場合には,適用しないものとする。 |
(1) | 事業者の事業所が,消費者が常居所を有する法域と異なる法域に所在する場合で,消費者が当該事業所の所在する法域において契約を締結したとき。ただし,消費者が,その常居所を有する法域において,事業者から,当該事業所の所在する法域における契約の締結についての勧誘を受けた場合を除く。 |
(2) | 事業者の事業所が,消費者が常居所を有する法域と異なる法域に所在する場合で,消費者が当該事業所の所在する法域において契約の履行のすべてを受けたとき,又は受けることとされていたとき。ただし,消費者が,その常居所を有する法域において,事業者から,当該事業所の所在する法域において履行のすべてを受けることについての勧誘を受けた場合を除く。 |
(3) | 事業者が,消費者がどの法域に常居所を有するかを知らず,かつ,知らなかったことについて相当の理由があるとき。 |
(4) | 事業者が,契約の相手方を消費者でないと誤認し,かつ,その誤認について相当の理由があるとき。 |
(注 | )消費者契約とは,消費者(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く個人をいう。)と事業者(法人その他の社団若しくは財団又は事業として若しくは事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。)との間の,労働契約を除く契約をいうものとする。 |
4 | 労働契約に関する労働者保護規定 契約の成立及び効力について当事者による準拠法選択がされた場合であっても,その契約が労働契約であって,当該契約の成立及び効力に関して労働者が当該契約に最も密接に関係する地の法律上の強行規定に基づく特定の効果を主張したときは,当該主張に係る強行規定が適用されるものとする。 |
(注 | 1)労働契約の内容は,1(注2)と同様とするものとする。 |
(注 | 2)「当該契約に最も密接に関係する地の法律」については,1エと同様,労務供給地の法律(労務供給地が一義的に定まらない場合にあっては,労働者を雇い入れた事業所の所在地の法律)が推定されるものとする。 |
第 | 5 法律行為の方式に関する準拠法 |
1 | 法律行為の方式に関する準拠法 法律行為の方式を当該法律行為の効力を定める法律によらしめる第8条第1項を改め,法律行為の方式は,当該法律行為の成立を定める法律によるものとする。 |
(注 | )行為地法による法律行為の方式を有効とする第8条第2項の規律は,維持するものとする。 |
2 | 異なる法域に所在する者の間で行われる法律行為 |
(1 | ) 異なる法域に所在する者に対する意思表示 異なる法域に所在する者に対する意思表示については,その発信地を行為地とみなすものとする。 |
(2 | ) 異なる法域に所在する者の間で締結される契約 異なる法域に所在する者の間で締結される契約の方式は,申込地又は承諾地の法律によることができるものとする。 |
(注 | )本規律は,申込地と承諾地が異なる場合の契約の方式について,第8条第2項の規律に対する特則として,規定するものである。 |
第 | 6 法定債権の成立及び効力に関する準拠法 |
1 | 不法行為の原則的連結政策 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,侵害の結果が発生した地の法律によるが,その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは,加害行為がされた地の法律によるものとする。 |
(注 | )事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及び効力については,原因事実発生地法によらしめる第11条第1項の規律を維持するものとする。 |
2 | 例外条項 |
(1 | ) 不法行為 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力については,不法行為の当時における当事者の常居所地が同一であること,当事者間の法律関係に基づく義務に違反して不法行為が行われたことその他の事情に照らし,1により適用すべき法律が属する法域よりも明らかにより密接な関係を有する他の法域がある場合には,その法域の法律によるものとする。 |
(2 | ) 事務管理又は不当利得 事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及び効力については,事務管理又は不当利得の当時における当事者の常居所地が同一であること,当事者間の法律関係に起因して事務管理が行われ又は不当利得が生じたことその他の事情に照らし,原因事実発生地よりも明らかにより密接な関係を有する他の法域がある場合には,その法域の法律によるものとする。 |
3 | 当事者自治 |
(1 | ) 不法行為 当事者は,不法行為が発生した後に,それによって生ずる債権の成立及び効力について,準拠法を変更することができるが,第三者の権利を害することとなるときは,その変更を第三者に対抗することができないものとする。 |
(注 | 1)本規律は,1の原則的連結政策及び2(1)の例外条項に優先して適用されるものとする。 |
(注 | 2)準拠法の変更の効力については,第4・2(注)と同様とするものとする。 |
(2 | ) 事務管理又は不当利得 不法行為と同様の規律とするものとする。 |
4 | 個別的不法行為 |
(1 | ) 生産物責任に関する準拠法 生産物の瑕疵により人の生命,身体又は財産を侵害する不法行為によって生ずる生産業者等に対する債権の成立及び効力は,生産物が取得された地の法律によるが,その地における同種の生産物の取得が通常予見することのできないものであったときは,生産業者等の事業所の所在地の法律(生産業者等が複数の事業所を有するときは,主たる事業所の所在地の法律)によるものとする。 |
(注 | 1)「生産物」とは,生産され又は加工された物一般をいうものとする。 |
(注 | 2)「生産業者」とは,生産物を業として生産し,加工し,流通させ,又は販売した者をいい,「生産業者等」とは,生産業者及び生産業者として氏名,商号,商標その他の表示をした者をいうものとする。 |
(注 | 3)本規律と2(1)及び3(1)の規律との関係は,1の規律と2(1)及び3(1)の規律との関係と同様とするものとする。 |
(2 | ) 名誉又は信用の毀損に関する準拠法 他人の名誉又は信用を毀損する不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,被害者の常居所地法(被害者が法人その他の社団又は財団である場合にあっては,その事業所の所在地の法律(被害者が複数の事業所を有するときは,主たる事業所の所在地の法律))によるものとする。 |
(注 | )本規律と2(1)及び3(1)の規律との関係は,1の規律と2(1)及び3(1)の規律との関係と同様とするものとする。 |
第 | 7 債権譲渡に関する準拠法 債権譲渡の債務者その他の第三者に対する効力を債務者の住所地法によらしめる第12条を改め,債権譲渡の債務者その他の第三者に対する効力は,譲渡の対象となる債権の準拠法によるものとする。 |
第 | 8 後見等 外国人に対する後見について例外的に日本の法律が適用される場合を規定する第24条第2項を改め,被後見人が外国人である場合について,以下に掲げるときは,裁判所による後見人の選任及びその効力は,日本の法律によるものとする。 |
(1) | 被後見人の本国法によれば後見開始の原因がある場合であって,日本における後見の事務を行う者がいないとき。 |
(2) | 日本において被後見人に対する後見開始の審判があったとき。 |
(注 | 1)後見を被後見人の本国法によらしめる第24条第1項の原則は,維持するものとする。 |
(注 | 2)保佐及び補助についても,同様の規律とするものとする。 |
第 | 9 その他 その他関連する規定について,所要の整備を行うものとする。 |
(注 | )本要綱に基づく改正により住所地法を準拠法とする規定が存在しなくなる場合には,住所地法に関する規律を定める第29条を削除することとなる。 |
以 上