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保険法の現代化に関する検討事項(6)

保険法部会資料 7

第5  生命保険契約に固有の事項

6  保険金受取人が保険金を取得することができなくなる事態を防ぐための方策(いわゆる介入権等)

 保険契約の解除がされることによって保険金受取人が保険金を取得することができなくなる事態を防ぐための方策として,例えば,次のような方法によって保険金受取人が保険契約を存続させることができるものとすることが考えられるが,どうか。
(1)  保険金受取人は,保険契約者以外の者で保険契約の任意解除をすることができるもの(差押債権者や破産管財人)に対して一定の金額を支払うことにより,その任意解除権の行使を制限することができるものとする方法
(2)  任意解除権が行使され,保険契約の解除がされた後であっても,保険金受取人であった者は,一定の要件の下に契約の復活を求めることができるものとする方法
(参考・現行条文)
○ 商法第652条 他人ノ為メニ保険契約ヲ為シタル場合ニ於テ保険契約者カ破産手続開始ノ決定ヲ受ケタルトキハ保険者ハ被保険者ニ対シテ保険料ヲ請求スルコトヲ得但被保険者カ其権利ヲ抛棄シタルトキハ此限ニ在ラス
第683条 第六百四十条、第六百四十二条、第六百四十三条、第六百四十六条、第六百四十七条、第六百四十九条第一項、第六百五十一条乃至第六百五十三条、第六百五十六条、第六百五十七条、第六百六十三条及ヒ第六百六十四条ノ規定ハ生命保険ニ之ヲ準用ス
(2) (略)
(補足)  保険契約者が経済的に破綻して,解約返戻金請求権に対する差押えがされ,又は保険契約者について破産手続開始の決定がされた場合には,差押債権者又は破産管財人が解約返戻金を確保するために保険契約の任意解除をすること(保険法部会資料3の第3の4(1)参照)があるが,これでは保険金受取人の生活保障という生命保険契約の目的が達成されないこととなってしまうとして,保険契約の解除がされることによって保険金受取人が保険金を取得することができなくなる事態を防ぐための方策が必要であるといわれている。
 例えば,ドイツ法におけるいわゆる介入権を参考にして,保険金受取人が差押債権者又は破産管財人に対して解約返戻金相当額を支払った場合には,保険契約者の地位を承継するという制度を設けるべきであるとの立法論的な提案がされている。
 そこで,本文では,保険金受取人が保険金を取得することができなくなる事態を防ぐための方策を導入することを提案するとともに,議論のたたき台として,その具体的な方法についての2つの案を掲げている。
 本文の2つの案のうち,(1)は,保険契約の解除がされる前に解除がされないようにしようとするものであるのに対し,(2)は,保険契約の解除がされた後に何らかの方法で改めて契約を続けることができるようにしようとするものであり,(1)と(2)は併存し得るものである(保険契約の解除がされる場合は,差押債権者や破産管財人による任意解除の場合に限られないが,本文は,典型的な場面を想定して記載したものである((注)1参照)。)。
 本文の検討に当たっては,保険金受取人の保護の必要性,差押債権者等の利益,モラル・ハザード防止の必要性,契約の相手方である保険者の立場等に留意し,さらに民事執行や破産の実務の観点からも検討することが不可欠であることから,本文では,大まかな案を提示するにとどめ,それぞれの具体的な問題点について(注)2及び3で問題提起をしている。
 なお,商法第652条(同法第683条第1項において準用する場合を含む。)の規律については,保険法部会資料3の第3の3(4)参照。
(注)1  保険金受取人が保険金を取得することができなくなる事態を防ぐための方策を設ける必要があるのは,どのような場合か。
2  本文(1)の方法に関する次の各問題点について,どのように考えるか。また,ほかに検討すべき問題点はないか。
(i)  (1)の方法を採ることができる者の範囲(保険金受取人のうち,保険契約者又は被保険者の相続人又は親族に限るべきか,保険金受取人であるかどうかを問わず,保険契約者又は被保険者の相続人又は親族であれば認めるべきか等)
(ii)  (1)の方法を採ることができる者であることを確認する方法(例えば,(i)において保険金受取人であることを要するとすれば,保険契約者の債権者等や保険者は保険金受取人であるかどうかを確認する必要が生ずると考えられる。なお,保険金受取人の指定又は変更の意思表示については,保険法部会資料6の第5の4(1)参照)
(iii)  (1)の方法を採る機会を保障する方法(保険契約者の債権者等は契約の解除をする前にその旨を(1)の方法を採ることができる者に知らせなければならないこととする必要があるか,その具体的な方法としてどのような方法があるか,保険契約者の債権者等は一定の期間解除権を行使することができないこととする必要があるか等)
(iv)  (1)の方法を採るための要件(保険契約者の債権者等に対して解約返戻金相当額を支払うことを要件とする必要があるか等)
(V)  (1)の方法を採った場合の効果((1)の方法を採った者にも保険料支払義務を課すこととする必要があるか,保険契約者は任意解除権及び保険金受取人の変更権を有しないこととする必要があるか,(1)の方法を採った者が保険契約者の地位を承継することとする必要があるか等)
3  本文(2)の方法に関する次の各問題点について,どのように考えるか。また,ほかに検討すべき問題点はないか。
(i)  (2)の方法を採ることができる者の範囲(2(i)参照)
(ii)  (2)の方法を採ることができる者であることを確認する方法(2(ii)参照)
(iii)  (2)の方法を採る機会を保障する方法(契約の解除がされたことを(2)の方法を採ることができる者に知らせなければならないこととする必要があるか,その具体的な方法としてどのような方法があるか,(2)の方法を採ることができる期間を限定する必要があるか,その具体的な期間はどの程度か等)
(iv)  (2)の方法を採るための要件(保険者に対して解約返戻金相当額を支払うことを要件とする必要があるか,保険金額の減額等の余地を認める必要があるか等)
(v)  (2)の方法を採った場合の効果(保険契約者は誰か((2)の方法を採った者が解除前の保険契約者に代わって保険契約者となることとする必要があるか),(2)の方法を採った者にも保険料支払義務を課すこととする必要があるか,保険契約者は任意解除権及び保険金受取人の変更権を有しないこととする必要があるか,復活した後の契約の内容をどうすべきか等)
4  本文の規定の性質(任意規定か強行規定か)について,どのように考えるか。

7  重大事由による解除(特別解約権)

 いわゆる重大事由による解除に関する規律については,次のような明文の規定を設けることで,どうか。
(1)  保険者は,次に掲げる場合には,生命保険契約の解除をすることができるものとする。
(ア) 保険金受取人が当該保険者に対する当該契約に基づく保険金の請求について詐欺を行った場合
(イ) その他の当該契約に関して当該保険者との信頼関係を損ない,当該契約の存続を著しく困難ならしめる事由がある場合
(2)  (1)の規定により保険契約の解除をした場合においては,保険者は,(1)に掲げる事由があった後解除までの間に発生した保険事故について,保険金を支払う責任を負わないものとする。
(参考・現行条文)
○ 商法に規定なし
(補足)  本文は,損害保険契約における重大事由による解除(特別解約権)(保険法部会資料5の第4の1(12)参照)と同様に,重大事由による解除を明文で定めることを提案するものである。
 なお,生命保険契約のうち死亡保険契約については,保険事故は一回しか発生し得ないものであって,保険事故が発生すると契約は失効すると解されていること,また,生存保険契約については,故意免責に関する規律がないこと(保険法部会資料6の第5の2参照)から,損害保険契約における規律とは異なり,保険契約者等が故意に保険事故を招致したことを解除事由として掲げないこととしている。
(注)1  本文(1)の解除事由(いわゆる殺人未遂行為,予備行為,他の保険契約に関する事由が当該契約の解除事由となるか等)について,どのように考えるか。
2  本文(1)(ア)の「保険金受取人」の範囲(保険金請求権の譲受人,質権者等を含めるべきか)について,どのように考えるか。
3  本文(1)の規定による解除権に関し,除斥期間の定めを設けることの必要性について,どのように考えるか。
4  重大事由による解除に関する規律について,ほかに生命保険契約に固有の問題はあるか。
5  被保険者は一定の場合には自己の意思によって将来に向かって契約を失効させることができる旨の明文の規定を設けるべきであるとの考え方があるが,どうか。
6  本文の規定の性質(任意規定か強行規定か)について,どのように考えるか。

8  年金保険契約

 いわゆる年金保険契約に関する特別の規律を設けることの必要性について,どのように考えるか。
(参考・現行条文)
○ 商法に規定なし
(補足)  年金保険契約は,被保険者の生存を保険事故とする保険契約(生存保険契約)の一種であって,生命保険契約として位置付けられている。
 現行商法には年金保険契約に関する特別の規律は設けられていないが,被保険者が生存している限り保険事故が反復的に発生し,これにより保険給付が定期的に行われる場合があるという特殊性があるといわれており,本文は,この特殊性に応じた特別の規律を設ける必要性について問題提起をするものである。
 保険金請求権が定期金債権である場合の消滅時効期間は,保険事故の発生によって具体化した個々の保険金請求権(いわゆる支分権)については2年と考えられている(商法第683条第1項,第663条。保険法部会資料2の第3の2(3)参照)のに対し,個々の保険金請求権を発生させる根拠であるところのいわゆる基本権については法文上必ずしも明らかではない。そこで,これを規定上明確にすることも考えられる。
 なお,年金保険契約に基づく保険金請求権については,現行法上も,民事執行法第152条第1項第1号の要件を満たす場合には,その一部が差押禁止債権になると解されている(保険金請求権の差押禁止については,保険法部会資料2の第3の2の(後注)参照)。
(参考) ○ 民法(明治29年法律第89号)
(定期金債権の消滅時効)
第 168条 定期金の債権は、第一回の弁済期から二十年間行使しないときは、消滅する。最後の弁済期から十年間行使しないときも、同様とする。
2  定期金の債権者は、時効の中断の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。
(定期給付債権の短期消滅時効)
第 169条 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。
○ 民事執行法(昭和54年法律第4号)
(差押禁止債権)
第 152条 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一  債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二  (略)
2 ・3 (略)

9  団体生命保険契約

 いわゆる団体生命保険契約に関する特別の規律を設けることの必要性について,どのように考えるか。
(参考・現行条文)
○ 商法に規定なし
(補足)  団体生命保険契約とは,一般に,一定の客観的区分によって特定された人の集団を包括して被保険者とする生命保険契約をいい,団体定期保険契約,団体信用生命保険契約,団体年金保険契約等がこれに含まれるといわれている。
 団体生命保険契約について,現行商法には特別の規律はなく,原則として生命保険契約一般の規律が及ぶと解されているが,本文は,団体生命保険契約に固有の規律を設けることの要否について問題提起をするものであり,具体的には,例えば,次のような点が問題になると考えられる。
(i)  保険金受取人の指定又は変更に関する規律の在り方(保険法部会資料6の第5の4参照)
(ii)  被保険者の同意に関する規律の在り方(保険法部会資料6の第5の1参照)
(iii)  保険者又は保険契約者から被保険者に対する情報提供(保険契約の概要を記載した書面の交付等)に関する規律の在り方
(注)  団体生命保険契約に関する規律に関連して,いわゆる事業保険契約(個人保険契約のうち,事業主が保険契約者となり,その従業員等を被保険者とする生命保険契約をいう。)に関する規律の在り方について,どのように考えるか。

10  その他

その他,生命保険契約に固有の問題として検討すべきものがあるか。