民事訴訟法及び民事執行法の改正に関する要綱
平成十六年二月十日
法制審議会総会決定
第一 | 民事訴訟法関係 |
一 | 民事訴訟手続等の申立て等のオンライン化(新設) |
1 | インターネットを利用した申立て等の許容 民事訴訟に関する手続における申立てその他の申述(以下「申立て等」という。)の将来的なオンライン化に備えるため、法令の規定により書面によりすることとされている申立て等のうち、最高裁判所規則(以下「規則」という。)で定めるものであって、最高裁判所が定める特定の裁判所に対してするものについては、規則の定めるところにより、インターネットを利用した申立て等を認めるものとする。 |
2 | インターネットを利用した申立て等の到達時期 1の方法によりされた申立て等については、当該申立て等に係る電子データが裁判所の使用するコンピュータ中のファイルに記録がされた時に当該裁判所に対して到達したものとみなすものとする。 |
3 | インターネットを利用した申立て等における署名押印等に代わる措置 1の方法による申立て等をする場合において、法令の規定により、署名、記名、押印その他氏名又は名称を書面に記載すること(以下「署名押印等」という。)とされているものについては、当該法令の規定にかかわらず、当該申立て等をする者は、氏名又は名称を明らかにする措置をもって当該署名押印等に代えなければならないものとする。 |
4 | インターネットを利用した申立て等の内容の書面への出力等 |
(一) | 1の方法によりされた申立て等(督促手続におけるものを除く。)については、2のファイルに記録された情報の内容を書面に出力しなければならないものとする。 |
(二) | (一)の書面は、訴訟記録に編てつし、これを原本として取り扱うものとする。また、1の方法によりされた申立て等についての訴訟記録の閲覧若しくは謄写又はその正本、謄本若しくは抄本の交付及び送達又は送付に関する事務は、(一)の書面をもって行うものとする。 |
二 | 督促手続のオンライン化(民事訴訟法第三百九十七条関係) 一1の方法によりされた支払督促の申立てに係る督促事件については、一によるものとするほか、以下のとおりとするものとする。 |
1 | インターネットを利用して取り扱う督促手続の地理的範囲の拡大 インターネットを利用した督促手続を取り扱う簡易裁判所の裁判所書記官に対しては、次に掲げる督促事件の申立てをすることができるものとする。 |
(一) | 当該簡易裁判所の管轄区域内に普通裁判籍等を有する債務者に係る督促事件 |
(二) | (一)の簡易裁判所以外の簡易裁判所であって規則で定めるものの管轄区域内に普通裁判籍等を有する債務者に係る督促事件 |
2 | 支払督促等の作成及び記録の電子化 |
(一) | 支払督促その他1(一)の簡易裁判所の裁判所書記官がする処分であって規則で定めるものは、規則の定めるところにより電子データにより行うものとし、これを原本として取り扱うものとする。 |
(二) | (一)により裁判所書記官が電子データにより行う処分については、一3と同様とするものとする。 |
3 | インターネットを利用してする処分の告知 裁判所書記官の処分であって規則で定めるものの告知は、インターネットを利用してすることができるものとする。 |
4 | インターネットを利用してする処分の告知の到達時期 |
(一) | 3の方法によりされた処分の告知については、当該処分に係る電子データが当該処分の告知を受ける者が使用するコンピュータ中のファイルに記録がされた時に当該者に対して到達したものとみなすものとする。 |
(二) | 一1の方法により支払督促の申立てをした債権者の同意があるときは、(一)にかかわらず、裁判所が使用するコンピュータ中に当該処分に係る電子データを規則で定めるところにより記録し、かつ、裁判所書記官が当該処分の告知を受ける債権者に対し、その電子データの記録がされた旨の通知を発した時に当該処分の告知を受ける債権者に到達したものとみなすものとする。 |
5 | 電子データで作成された督促事件記録の取扱い |
(一) | 督促事件記録の謄写等に代わる措置 電子データで作成された督促事件記録に係る謄写等については、規則で定めるところにより、これに代わる相当と認める措置を執らなければならないものとする。 |
(二) | 督促手続が訴訟手続に移行した場合の措置 電子データで作成された督促事件記録に係る督促事件について、適法な督促異議の申立てがされ、督促手続が訴訟手続に移行した場合には、督促事件記録中電子データで作成された部分については、一4と同様に取り扱うものとする。 |
三 | その他 |
1 | 管轄の合意(民事訴訟法第十一条第二項関係) 管轄の合意は、書面のほかに、その合意の内容を記録した電子データによってもすることができるものとする。 |
2 | 債権者に対する仮執行宣言付支払督促の告知方法(民事訴訟法第三百九十一条第二項関係) 債権者に対する仮執行宣言付支払督促の告知については、当該債権者の同意を要件として、その正本を送付する方法によることができるものとする。 |
第二 | 民事執行法関係 |
一 | 少額訴訟債権執行制度(新設) |
1 | 少額訴訟債権執行制度の創設 地方裁判所における通常の債権執行制度に加えて、簡易裁判所において、少額訴訟に係る債務名義による金銭債権に対する強制執行(以下「少額訴訟債権執行」という。)をすることができるものとする制度を創設するものとする。 |
2 | 少額訴訟債権執行の開始等 |
(一) | 少額訴訟債権執行の開始 少額訴訟債権執行は、裁判所書記官の差押処分により開始するものとする。 |
(二) | 差押処分の申立ての相手方 差押処分の申立ては、少額訴訟に係る債務名義の作成に係る簡易裁判所の裁判所書記官に対してするものとする。 |
3 | 執行裁判所 少額訴訟債権執行の手続において裁判所書記官が行う執行処分に関しては、その裁判所書記官の所属する簡易裁判所を執行裁判所とするものとする。 |
4 | 裁判所書記官が行う執行処分に対する不服申立て |
(一) | 執行異議 少額訴訟債権執行の手続において裁判所書記官が行う執行処分に対しては、執行裁判所に執行異議を申し立てることができるものとする。この場合においては、執行裁判所は、執行異議の申立てについての裁判が効力を生ずるまでの間、担保を立てさせ、若しくは立てさせないで、裁判所書記官の処分の執行の停止若しくは民事執行の手続の全部若しくは一部の停止を命じ、又は担保を立てさせてこれらの続行を命ずることができるものとし、この裁判に対しては、不服を申し立てることができないものとする。 |
(二) | 執行抗告 (一)の執行処分のうち、通常の債権執行の手続において執行抗告をすることができる執行処分に相当するものについては、(一)の執行異議の申立てについての決定に対して執行抗告をすることができるものとする。この場合において、執行異議の申立ては、裁判所書記官の執行処分の告知を受けた日から一週間の不変期間内にしなければならないものとする。 |
5 | 差押処分の内容等 差押処分の内容、差押えの効力とその発生時期、差押禁止債権の範囲等は、差押命令と同様とするものとする。 |
6 | 差押禁止債権の範囲の変更 |
(一) | 執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押処分の全部若しくは一部を取り消し、又は差押禁止債権の部分について差押処分をすべき旨を命ずることができるものとする。 |
(二) | 事情の変更があったときは、執行裁判所は、申立てにより、(一)により差押処分が取り消された金銭債権について差押処分をすべき旨を命じ、又は(一)によりされた差押処分の全部若しくは一部を取り消すことができるものとする。 |
7 | 転付命令等のための移行 |
(一) | 転付命令等のための移行の申立て 差押債権者は、通常の債権執行の手続において転付命令又は譲渡命令、売却命令、管理命令その他相当な方法による換価を命ずる命令(以下「転付命令等」という。)の発令を受けるために、執行裁判所に対し、転付命令等のうちいずれの命令を求めるかを明らかにして、裁判所書記官の所属する簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行させる決定をすべきことを求める旨の申立てをすることができるものとする。 |
(二) | 執行処分に対する不服申立てがされているときの移行決定の効力 執行裁判所の移行決定が効力を生ずる前に執行処分に対する不服申立てがされているときは、(一)の申立てによる移行決定は、不服申立てについての裁判が確定するまでは、その効力が生じないものとする。 |
(三) | 移行決定が効力を生じたときの効果 (一)の申立てによる移行決定が効力を生じたときは、差押処分の申立て又は(一)の申立てがあった時に(一)の地方裁判所にそれぞれ差押命令の申立て又は転付命令等の申立てがあったものとみなし、既にされた執行処分は(一)の地方裁判所における債権執行の手続においてされた執行処分とみなすものとする。 |
8 | 弁済金の交付 裁判所書記官は、債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付することができるものとする。 |
9 | 配当のための移行 |
(一) | 配当のための移行 配当を実施しなければならない場合には、執行裁判所は、裁判所書記官の所属する簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所又は更に差押命令を発した執行裁判所(更に差押処分がされた場合にあっては、当該差押処分をした裁判所書記官の所属する簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所)における債権執行の手続に事件を移行させなければならないものとする。 |
(二) | 移行決定の効力 執行処分に対する不服申立てがされているときの(一)の移行決定の効力及び(一)の移行決定が効力を生じたときの効果は、それぞれ7(二)及び(三)と同様とするものとする。 |
10 | 裁量移行 |
(一) | 裁量移行 執行裁判所は、差押処分の申立てに係る事件の内容等に応じ、裁判所書記官の所属する簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行させることができるものとする。 |
(二) | 移行決定の効力 執行処分に対する不服申立てがされているときの(一)の移行決定の効力及び(一)の移行決定が効力を生じたときの効果は、それぞれ7(二)及び(三)と同様とするものとする。 |
二 | 不動産競売手続 |
1 | 最低売却価額制度(民事執行法第六十条等関係) |
(一) | 最低売却価額制度の見直し 最低売却価額を売却基準価額とし、これを二割下回る価額以上の額での買受けの申出を認めるものとする。 |
(二) | 評価人による評価の考慮事情 評価人は、近傍同種の不動産の取引価格、不動産から生ずべき収益、不動産の原価その他の不動産の価格形成上の事情を適切に勘案して、遅滞なく、評価をしなければならないものとする。この場合において、評価人は、強制競売の手続において不動産の売却を実施するための評価であることを考慮しなければならないものとする。 |
2 | 剰余を生ずる見込みのない場合の措置 執行裁判所は、1(一)の価額では執行費用のうち共益費用であるもの(以下「手続費用」という。)及び差押債権者の債権に優先する債権(以下「優先債権」という。)を弁済して剰余を生ずる見込みがないと認める場合であっても、次のようなときは、売却の手続を実施することができるものとする。 |
(一) | 1(一)の価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額と同額のとき。 |
(二) | 1(一)の価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額には満たない場合であって、手続費用の見込額を超えるときにおいて、執行裁判所から剰余を生ずる見込みがない旨の通知を受けた差押債権者が、一週間以内に、すべての優先債権を有する者(1(一)の価額でその優先債権の全部の弁済を受けることができる見込みがある者を除く。以下「優先債権者」という。)の同意を得たことを証明したとき。 |
3 | 差引納付の申出の期限(民事執行法第七十八条第四項関係) 買受人が売却代金から配当等を受けるべき債権者であるときは、売却許可決定が確定するまでの間、執行裁判所に対し、配当等を受けるべき額を差し引いて代金を配当期日等に納付することを申し出ることができるものとする。 |
三 | 執行官による援助請求(民事執行法第十八条関係) 執行官は、執行裁判所と同様に、民事執行のため必要がある場合には、官庁又は公署に対し、援助を求めることができるものとする。 |
四 | 裁判所内部の職務分担 |
1 | 裁判所書記官の権限とする事項(民事執行法第十四条、第四十七条、第四十九条、第六十二条、第六十四条、第七十八条及び第八十五条関係) 次の事項を裁判所書記官の権限とするものとする。 |
(一) | 費用予納命令 |
(二) | 配当要求終期の決定・延期 |
(三) | 物件明細書の作成・備置き等 |
(四) | 売却実施命令・売却決定期日の指定 |
(五) | 代金納付期限の指定・変更 |
(六) | 配当表(執行裁判所が定めた債権の額、執行費用の額並びに配当の順位及び額等を記載した書面)の作成 |
2 | 不服申立て 1の事項についての裁判所書記官の処分に対する不服申立ては次のとおりとするものとする。 |
(一) | 1(一)の事項 |
(1) | 執行裁判所に対し、一週間の不変期間内に、異議を申し立てることができるものとする。 |
(2) | (1)の異議の申立てについての執行裁判所の裁判に対しては、更に不服を申し立てることができないものとする。 |
(3) | 1(一)の処分は、確定するまではその効力が生じないものとする。 |
(二) | 1(二)から(五)までの事項 |
(1) | 執行裁判所に対し、異議を申し立てることができるものとする。 |
(2) | (1)の異議の申立てについての執行裁判所の裁判に対しては、更に不服を申し立てることができないものとする。 |
(3) | (1)の異議の申立てがあったときは、執行裁判所は、(1)の異議の申立てについての裁判が効力を生ずるまでの間、担保を立てさせ、若しくは立てさせないで、裁判所書記官の処分の執行の停止若しくは民事執行の手続の全部若しくは一部の停止を命じ、又は担保を立てさせてこれらの続行を命ずることができるものとし、この裁判に対しては、不服を申し立てることができないものとする。 |
五 | 扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制(新設) |
1 | 間接強制の方法による強制執行の許容 扶養義務等(民事執行法第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務)に係る金銭債権についての強制執行は、直接強制の方法によるほか、間接強制の方法によっても行うことができるものとする。 |
2 | 間接強制の決定の要件 債務者が、支払能力を欠くために1の金銭債権に係る債務を弁済することができないこと、又はその債務を弁済することによってその生活が著しく窮迫することを証明したときは、間接強制の決定をすることができないものとする。 |
3 | 間接強制金の額の基準 1の間接強制金の額を定めるに当たっては、執行裁判所は、債務不履行により債権者が受けるべき不利益並びに債務者の資力及び従前の履行の態様を特に考慮しなければならないものとする。 |
4 | 間接強制の決定の取消し 事情の変更があったときは、執行裁判所は、申立てにより、間接強制の決定の変更をすることができるほか、債務者の申立てにより、その申立て後(申立て後に事情の変更があったときは、その事情の変更があった時以後)に生じた間接強制金を含めて、間接強制の決定を取り消すことができるものとする。 |
5 | 間接強制の決定の執行停止 |
(一) | 4の取消しの申立てがあったときは、執行裁判所は、その申立てについての裁判が効力を生ずるまでの間、担保を立てさせ、又は立てさせないで、間接強制の決定の執行の停止を命ずることができるものとする。 |
(二) | (一)の執行停止の裁判に対しては、不服を申し立てることができないものとする。 |
6 | 扶養義務等に係る定期金債権についての執行開始の要件の特例 扶養義務等に係る金銭債権が確定期限の定めのある定期金債権である場合において、その一部に不履行があるときは、将来分の定期金のうち六月内に確定期限が到来するものについても、間接強制の申立てをすることができるものとする。 |
第三 | その他 その他所要の規定の整備をするものとする。 |