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必要な救済措置とこれを実現するための手法

第 4 必要な救済措置とこれを実現するための手法

1 人権侵害類型と必要な救済措置

(1)  差別
 人種,信条,性別,社会的身分,門地,障害,疾病等を理由とする,社会生活における差別的取扱い等については,調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助等の手法により,積極的救済を図るべきである。差別表現については,その内容,程度,態様等に応じた適切な救済を図るべきである。
ア  人権侵害の現状と救済の実情
I  先に指摘したとおり,女性・高齢者・障害者・同和関係者・アイヌの人々・外国人・HIV感染者等に対する雇用における差別的取扱い,外国人等に対する商品・サービス・施設の提供等における差別的取扱い,同和関係者・アイヌの人々等に対する結婚・交際における差別,セクシュアルハラスメント,アイヌの人々・外国人等に対する嫌がらせ,同和関係者・外国人等に関する差別表現等の問題がある。
II  これらのうち差別的取扱いに関しては,雇用や公共的な各種事業等の分野ごとに禁止規定が設けられているが,社会的身分に基づく募集・採用差別や,一般業種に関する商品・サービス・施設の提供等における差別的取扱いなど,私人間における差別に関しては明示的に禁止されていない領域もあり,違法な差別の範囲が必ずしも明確ではない。
III  そのほか,これらの差別に関する司法的救済については,一般に,異なる取扱いの差別性,不合理性を立証するための証拠収集が被害者にとって重い負担となっており,また特に雇用等の継続的関係における相手方との力関係や人間関係悪化等への懸念もあり,被害者が訴えにくい状況がある。
IV  雇用における差別に関しては,労働省都道府県労働局長による紛争解決援助や機会均等調停委員会による調停,募集等における個人情報の収集制限に関する労働大臣(公共職業安定所長)の指導,助言,改善命令等の行政上の取組がなされている。
イ  必要な救済措置等
(ア) 差別的取扱い等
a 救済対象
これらのうち差別的取扱いに関しては,一般に積極的救済が必要であるが,まず,その対象とすべき差別的取扱いの範囲を明確にする必要がある。
I  積極的救済を行うべき差別的取扱いの範囲は,上記の問題状況や,差別を禁止する憲法14条1項,人種差別撤廃条約(特に1条,5条)(注6)の趣旨等に照らし,人種・皮膚の色・民族的又は種族的出身,信条,性別,社会的身分,門地,障害,疾病を理由とする,社会生活(公権力との関係に係るもののほか,雇用,商品・サービス・施設の提供,教育の領域における私人間の関係に係るものを含む。)における差別的取扱いを基本とすべきである。
(注6) 人種差別撤廃条約
 あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約。
II  一定の年齢以上であることを理由とする差別の問題については,雇用における定年制等,既存の社会制度との関係にも十分留意する必要があり,人権救済制度において対応すべき事案等について引き続き検討することとする。
III  性的指向等(注7)を理由とする差別的取扱いについては,積極的救済の対象とすることを引き続き検討することとする。
(注7) 性的指向等
 性的指向(異性愛,同性愛,両性愛の別を指すsexual orientationの訳語)のほか,性同一性障害,インターセックス(先天的に身体上の性別が不明瞭であること)等を含む。
IV  結婚・交際における差別を含め,個人の私的生活における差別については,個人の内心にかかわる問題であるから,強制的な権限を伴う救済の対象とすることは困難である。なお,これらの差別を目的とした身元調査の問題に関しては,人権救済制度における対応の在り方について引き続き検討することとする。
V  セクシュアルハラスメントや人種,民族,社会的身分等にかかわる嫌がらせも,差別的取扱いと同様,積極的救済の対象とすべきである。
b 救済手法
I  積極的救済の対象とすべき差別的取扱い等に関しては,当事者間の合意を基本とする調停や仲裁のほか,勧告・公表,さらには,これらが奏功しない場合の訴訟援助の手法が有効と考えられる。
II  差別の事後的救済には限界があることから,差別が慣行化し,あるいは差別の指示,宣言が行われているなど,将来,上記の差別的取扱い等が生じる明白な危険がある場合に,特定の個人に被害が生じる前にどこまでの対応が可能かについても,引き続き検討することとする(第4,2(7)参照)。
(イ) 差別表現
I  差別表現のうち,特定の個人に対する侮辱や名誉毀損に当たるものについては,差別的取扱いに関する救済手法と同様の手法により,積極的救済を図るべきである。
II  いわゆる部落地名総鑑の出版やインターネット上の同種情報の掲示のように,人種,民族,社会的身分等に係る不特定又は多数の者の属性に関する情報を公然と摘示するなどの表現行為であって,差別を助長・誘発するおそれが高いにもかかわらず,法律上又は事実上,個人では有効に対処することが著しく困難な一定の表現行為が行われた場合の救済については,表現の自由との関係に十分配慮しつつ,差止め,削除等の手法の可否について引き続き検討することとする(第4,2(7)参照)。
III  集団誹謗(ひぼう)的表現(人種,民族,社会的身分等により識別された一定の集団を誹謗・中傷する表現)の中には,関係者の人間としての尊厳を傷つけ,あるいは一定の集団に対する差別意識を増幅させるなど,人権擁護の観点から看過し得ないものがあり,適切に対応することが必要である。集団誹謗的表現は,その内容,程度,態様等において様々なものがあることから,その対応に当たっては,これらを踏まえることが必要であり,憲法の保障する表現の自由の観点からも,慎重な配慮が求められる。
○  集団誹謗的表現のうち,個別的人権侵害であるととらえることのできるもの(例えば,特定の職場や地域の中で当該集団に属する多数人を侮辱し,その名誉を毀損するもの)については,特定の個人に対する侮辱や名誉毀損に当たる差別表現と同様に取り扱うべきである。
○  上記以外の集団誹謗的表現についても,その内容,程度,態様等に留意しながら,人権救済機関による意見表明や行為者に対する個別指導等の手法によって適切に対応していくことを考えるべきである。


(2)  虐待
 加害者・被害者間に法律上又は事実上の力の優劣を伴う関係がある中で起きる虐待についても,調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助等の手法や早期発見のための工夫等により,積極的救済を図るべきである。
ア  人権侵害の現状と救済の実情
I  先に指摘したとおり,夫・パートナーやストーカー等による女性に対する暴力,家庭内・施設内における児童・高齢者・障害者に対する虐待,学校における体罰,学校・職場等におけるいじめ等の問題があり,深刻化しているものが少なくない。
II  虐待は,通常そのほとんどが犯罪を構成するが,「法は家庭に入らず」の原則により警察等が家庭内の問題に慎重な姿勢をとってきたこと,被害者が処罰意思を明確に示すことのできない状況に置かれている場合も少なくないことなどから,刑事的規制が必ずしも有効に機能してこなかった。女性に対する暴力,保護者等が加害者となることが多い児童,高齢者,障害者に対する虐待は,いずれもその密室性や加害者との力関係,被害者自身の立場の弱さ等から潜在化し,問題を一層深刻化させている。
III  近時,女性に対する暴力の関係では,ストーカー規制法(注8)が成立し,ストーカー行為が犯罪とされるとともに,行政的対応が整備された。また,児童虐待の関係では,児童虐待防止法(注9)が成立し,児童福祉法の下での児童相談所の対応が強化された。行政面では,警察が,女性,子どもを守るための積極的対応を打ち出し,婦人相談所や婦人保護施設における被害女性の保護・支援の取組も一定の範囲で拡大している。各種施設における虐待に関しては,都道府県知事等による監督の仕組みがあるほか,近時,地方自治団体によるオンブズマン組織設置の動きがある。
(注8) ストーカー規制法
 ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年5月成立,同年11月施行)。
(注9) 児童虐待防止法
 児童虐待の防止等に関する法律(平成12年5月成立,同年11月施行)。
イ  必要な救済措置等
I  虐待に関しては,上記のとおり,一定の立法的・行政的な手当てがなされているが,いまだ十分な取組が行われていない分野もあり,人権救済制度においても積極的救済が必要である。その前提として,積極的救済の対象とすべき虐待の範囲を明確にする必要がある。
○  その範囲は,上記の問題状況や児童虐待防止法上の定義等に照らすと,加害者・被害者間に法律上又は事実上の力の優劣を伴う関係がある中で起きる虐待,すなわち,家庭,施設,職場その他の場所で,女性,子ども,高齢者,障害者等の相対的に劣位にある者に対して行われる身体的虐待,性的虐待,心理的虐待,ネグレクト(保護義務者の場合)を含むものとすべきである。学校における体罰,学校や職場等におけるいじめも,これに含まれる場合がある。
II  虐待に関しては,差別と同様に,調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助等を整備するとともに,人権救済機関は,関係機関等との連携協力により,早期発見や被害者の保護・支援に努めるべきである。
○  虐待は潜在化しやすく,その間に深刻化する傾向があることから,人権救済機関は,訪問相談の実施や民生委員等の各種民間ボランティアとの連携等により,早期発見に努めるべきである。また,障害者や高齢者に関しては,周囲とのコミュニケーションに関する困難性から,虐待被害の発見が遅れることがあるため,これらの人々とのコミュニケーションを確保する工夫も必要である。
○  虐待については,被害者に対する事後的なカウンセリングが重要であるほか,加害者へのカウンセリングにより再発防止を図る必要がある場合も少なくないが,カウンセリングには心理学等の専門的知識を要することなどに照らすと,人権救済機関は,公私の関係機関・団体における取組を踏まえつつ,これらと連携協力していく必要がある。また,被害者の生活支援の面でも,公私の関係機関・団体と連携協力すべきである。
III  家族や訪問販売業者等による高齢者,障害者の財産権侵害についても,その密室性や被害者のコミュニケーション障害,被害認識の欠如等から問題が潜在化しやすいなど,虐待と共通の問題がある。人権救済機関としては,虐待の早期発見のための取組の中で,これらの問題についても目配りし,あっせん,指導等任意の手法により被害の拡大を防止し,被害者の保護を図ると同時に,適宜告発等により刑事手続を促すなど必要な措置を講ずべきである。


(3)  公権力による人権侵害
 公権力による人権侵害のうち,差別,虐待に該当するものについて,調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助の手法により,積極的救済を図るべきである。
ア  人権侵害の現状と救済の実情
I  先に指摘したとおり,公権力による人権侵害には,各種の国営・公営の事業等における差別的取扱いや虐待等,私人間におけるものと基本的に同様の態様のものがあるほか,違法な各種行政処分による人権侵害,捜査手続や拘禁・収容施設内における暴行その他の虐待からいわゆる冤罪や国等がかかわる公害や薬害等の問題に至るまで様々な問題がある。
II  行政処分に対しては一般的な行政不服審査や個別の不服申立ての手続が整備されている。また,捜査手続や拘禁・収容施設内での虐待等については,付審判請求を含む刑事訴訟手続のほか,内部的監査・監察や苦情処理のシステムが設けられている。
イ  必要な救済措置等
 公権力による人権侵害についても,私人間におけると同様,自らの人権を自ら守ることが困難な状況にある差別や虐待の被害者に対して,特に積極的救済を図る必要があることは言うまでもない。
 他方,各種行政処分に対しては一般又は個別の不服申立制度が整備されており,また,人権救済機関が冤罪や公害・薬害等の問題にまで幅広く対応することは,関係諸制度との適正な役割分担の観点からも適当でないことから,公権力による人権侵害すべてを積極的救済の対象とすることは相当でない。
 このほか,規約人権委員会の最終見解における勧告の趣旨等をも勘案すると,公権力による人権侵害に関しては,前記(1),(2)の差別,虐待に該当するものについて,他の手続との関係にも留意しつつ,調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助の手法により,積極的救済を図るべきである。


(4)  メディアによる人権侵害
ア  マスメディアによる人権侵害
 マスメディアによる人権侵害に関しては,まずメディア側の自主規制による対応が図られるべきであり,その充実・強化を要望することとするが,犯罪被害者等に対する報道によるプライバシー侵害等については,調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助により,積極的救済を図るべきである。
(ア)  人権侵害の現状と救済の実情
I  報道によるプライバシー侵害,名誉毀損,過剰な取材による私生活の平穏の侵害等の問題がある。
 特に,犯罪被害者やその家族のプライバシーを侵害する報道や行き過ぎた取材活動は,二次被害とまで言われる深刻な被害をもたらしている。被疑者・被告人の家族についても同様の問題があるほか,少年被疑者の実名報道等の問題もある。これらの人々は,その置かれた状況から,自ら被害を訴えることが困難であり,また裁判に訴えようとしても訴訟提起・追行に伴う負担が重く,泣き寝入りせざるを得ない場合も少なくない。
II  新聞,雑誌等の活字メディアについては,各社の自主規制に委ねられているが,放送については,法律上の訂正放送制度に加え,放送局が共通の自主的苦情処理機関として設置した「放送と人権等権利に関する委員会機構(BRO)」による取組がある。
(イ)  必要な救済措置等
a 自主規制
 活字メディアについては第三者性や透明性の確保を含む自主規制の強化・徹底を,放送についてはBROの更なる充実を要望することとする。
I  マスメディアによる人権侵害の問題については,憲法上保障された表現の自由,報道の自由の重要性にかんがみ,まずメディア側の自主規制による対応が図られるべきである。新聞,雑誌各社においても,第三者を活用した苦情処理制度の新設等の取組も含め,一定の努力がなされているが,なお十分な信頼を得るためには,苦情処理の過程に第三者を活用する取組を更に進めるとともに,結果の公表も含めて苦情処理制度全般の透明度を高める取組が期待される。なお,自主規制の充実に関しては,諸外国において,メディアが苦情処理のために自主的に設置した共通の第三者機関による取組が評価されていることも参考にされるべきである。
II  放送に関するBROについては,審査基準の明確化や取材活動への対応を含め,その活動が一層充実・強化されることが期待される。
b 人権救済機関による救済
 犯罪被害者とその家族,被疑者・被告人の家族,少年の被疑者・被告人等に対する報道によるプライバシー侵害や過剰な取材等については,これらの人々が自らの人権を自ら守っていくことが困難な状況にあることに照らし,調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助により,積極的救済を図るべきである。
I  マスメディアにおける自主規制の現状等に照らすと,マスメディアによる人権侵害の問題をすべてその自主規制に委ねることは相当でないが,他方で,マスメディアによる人権侵害を広く積極的救済の対象とすることは,表現の自由,報道の自由の保障等の観点から相当でなく,特に救済の必要性の高い上記の分野に限って積極的救済を図るべきである。
II  誤った犯人報道を含め,誤報による名誉毀損の被害も深刻であるが,行政に属する人権救済機関が報道内容の真偽や取材内容等についての調査を行うことは,表現の自由,報道の自由との関係で相当でなく,また,実効的な調査も期待できないことから,これらの人権侵害は,原則として人権救済機関による積極的救済にはなじまないものと考える。


イ  その他のメディアによる人権侵害
 インターネットは,個人が不特定多数の人に向けて大量の情報を発信することを可能とし,これを悪用した差別表現の流布や少年被疑者等のプライバシー侵害の問題が顕在化している。これらについては,まず一般の差別表現等としての救済の在り方を検討すべきであるが,インターネットに固有のものとして,通信の秘密で守られた発信者情報の開示等の問題があり,これについては,関係省庁による検討状況も踏まえて,実効的な救済の在り方を引き続き検討することとする。

2 救済手法の整備

 以上を総合すると,人権救済制度における救済手法を大幅に拡充することが必要であり,相談やあっせん,指導等に加え,調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助等の整備を図る必要がある。
(1)   相談
I  あらゆる人権侵害に対応できる総合的な相談窓口を整備する必要がある。相談窓口は,被害者が気軽に相談できる身近なものでなければならない。この観点からは,特に,都道府県や市町村の行う各種相談事業との有機的な連携が重要である。
II  相談は,適切な助言等を通じて,人権侵害の発生や拡大を防止し,当事者による紛争解決を促すなどそれ自体が有効な救済手法であるから,担当する職員等には各種人権問題とその解決手法に関する専門的知識が必要であり,職員等の質的向上が重要である。一方,相談の振り分け機能との関係においては,他の救済にかかわる制度や細分化された行政窓口等の中から,事案に応じた適切な部署に紹介・取次ぎを行う必要があり,これをたらい回しに終わらせないためにも,関係機関との連携協力体制の構築が必要である。


(2)  あっせん,指導等
 あっせん,指導その他の強制的要素を伴わない専ら任意的な手法による救済は,従来から法務省の人権擁護機関が行ってきたところである。実効性に一定の限界があることは否めないものの,粘り強く加害者を啓発して自主的に是正措置等を講ずることを促すその手法は,再発防止等の観点から人権救済にふさわしいものであると同時に,事案に即した柔軟な解決を可能にするものであり,これに従事する職員の専門性を涵養するなどして,引き続き,この手法による対応を充実していく必要がある。


(3)  調停
 調停者が必要に応じて事実関係を調査した上で,当事者間の合意による紛争解決を促す調停は,裁判手続に比べ,簡易・迅速で,具体的事案に即した柔軟な救済を可能とする手法であり,諸外国の人権救済機関も含め,内外で最も活用されている代表的な裁判外紛争処理の手法である。人権救済においても,この手法を大いに活用すべきであり,一定の専門性等を有する人権擁護委員の参加を含め,調停手続やこれを担う体制の整備を図るべきである。


(4)  仲裁
 仲裁人が,仲裁判断に従うとの当事者双方の合意を前提として,必要な調査を行い,確定判決と同一の強い効力を持つ仲裁判断を示す仲裁は,解決の柔軟性を維持しつつ,より簡易・迅速に事案の最終的な解決を図る裁判外紛争処理の手法である。従来,我が国では,一定の分野を除き,必ずしも十分に利用されてこなかったが,その有用性にかんがみ,人権救済においては,事案に応じて柔軟に活用すべきである。


(5)  勧告・公表
 人権侵害の加害者に対し,人権侵害の事実を指摘して任意に一定の救済措置を講ずるよう促す勧告は,それ自体に勧告内容の遵守を強制する効力はないが,人権救済機関の権威を背景とした相応の指導力を期待することができるとともに,その不遵守に対する公表は,一般に対する啓発効果のほかに,これを嫌う者にとっては事実上間接強制の効果を持ち得る。法務省の人権擁護機関においては,従来から任意調査に基づいて人権侵害の事実を確認した一定の重大事案に関して勧告を行ってきたが,要件・手続等を整備した上,勧告・公表の手法を有効に活用すべきである。


(6) 訴訟援助
I  勧告・公表までの手法によっても被害者救済が図れない場合の対応として,被害者が自らの請求権に基づき訴訟提起できる場合には,被害者が司法的救済を得られるよう人権救済機関がこれを援助していくことが相当である。
○  諸外国の人権救済にかかわる機関の中には,審判手続を経て,拘束力のある裁定を行うものがあるが,被害者自らが訴訟提起できる場合には,むしろ訴訟の利用を図ることが直截かつ合理的である。
○  他方,諸外国の人権救済にかかわる機関の中には,被害者に代わって自ら訴訟を提起することにより救済の実現を図るものもあるが,被害者自らが訴訟提起できる場合の人権救済機関による訴訟提起の必要性については疑問があるほか,法制面での問題もあり,むしろ被害者の訴訟を援助していくことが相当と考える。
II  訴訟援助の具体的手法としては,法律扶助に加え,人権救済機関が調査の過程で収集した資料を訴訟に活用していくための資料提供の制度について,その要件や手続の点も含め,整備することを検討すべきである。また,救済の確実な実現を図るためには,更に進んで人権救済機関が被害者の提起した訴訟に主体的に関与し得る仕組みも考えられるところであり,人権救済機関による意見陳述や訴訟参加の制度について引き続き検討することとする。


(7)  特定の事案に関する強制的手法(注10)
  差別を助長・誘発するおそれの高い一定の表現行為や慣行的な差別的取扱い等,被害者個人による訴訟提起が法律上又は事実上著しく困難であったり,それだけでは問題の実質的解決にならない事案に関する救済の在り方については,上記手法のほか,人権救済機関による命令・裁定や人権救済機関が裁判所に差止命令の発付を求める制度等も視野に入れつつ,表現の自由との関係や行政と司法の在り方等を踏まえて,引き続き検討することとする(注10)。
(注1 0)特定の事案に関する強制的手法
 差別を助長・誘発するおそれの高い一定の表現行為(第4,1(1)イ(イ)II)や慣行的な差別的取扱い等(同(ア)bII)については,勧告・公表等の手法に加え,これを強制的に排除する手法についても検討する必要がある。その手法としては,人権救済機関が命令又は裁定(後者は行政審判に基づく審決等をいう。)によって差止め等を命ずる方法や,裁判所が人権救済機関の申立てに基づいて差止め等を命ずる方法が考えられる。前者の手法については,排除すべき行為が表現行為に属する場合,行政機関がこれを行うとすると,表現の自由の保障との関係が特に問題となり,他方,後者の手法については,表現の自由の保障との関係のほか,類似の制度が現行法上例外的にしか認められておらず,また,司法制度との適合性の点も含め,三権分立の下での行政と司法の在り方が問題となるなど,検討すべき課題がある。
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