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人権擁護委員制度の改革に関する論点項目

 人権擁護委員制度の位置付け
  (1)  人権擁護委員制度の今日的意義(別紙「人権擁護委員制度の概要」(以下「概要」という。)3(1)~(4)5(1)参照)
     制度発足当時(昭和23年)に比べ,人権侵害の態様の変化と多様化,人権問題にかかわる民間活動の活発化など,人権を取り巻く状況が大きく変化している今日において,民間ボランティアとしての人権擁護委員が人権擁護行政の一翼を担う人権擁護委員制度の意義は何か。
 市町村単位で置かれるボランティアとしての基本的性格を変更する必要があるか。

  (2)  人権擁護委員の果たすべき役割(概要3(2)5(3)参照)
     人権擁護委員が果たすべき役割は何か。
 人権教育・啓発に関する答申及び人権救済制度に関する答申で示した人権啓発及び人権相談における積極的役割,人権救済におけるアンテナ機能に加え,委員の適性に応じた救済手続へのより積極的な関与をどう位置付けるべきか。

 適任者確保の方策
  (1)  人権擁護委員の選任(概要3(5)4(1)資料3参照)
     意欲及び適性を兼ね備えた人権擁護委員を選任するためには,市町村長の推薦に基づく現行の選任制度及びその運用をどのように改善すべきか。
    I  人権擁護委員の資格,選任(推薦)基準
       人権擁護委員に一般的に求められる資質は何か。果たすべき役割に応じて求められる専門性は何か。
       人権擁護委員の年齢構成はどうあるべきか。任期に関する制限は必要か。
       人権擁護委員の男女構成はどうあるべきか。
       人権擁護委員の職業・所属団体で考慮すべきことは何か。
       外国人の中からも人権擁護委員を選任できるものとすべきか。
    II  人権擁護委員の選任方法
       専ら市町村長の推薦に基づく選任方法を維持すべきか。他にも適任者を選任し得る途を設ける必要はないか。
       市町村における推薦手続及びその後の委嘱手続に改善の余地はないか。

  (2)  人権擁護委員の研修(概要資料4参照)
     研修に何を期待すべきか。
     研修の質・量は十分か。どのような研修をどれだけ実施すべきか。
     研修を効果的に実施する方策は何か。

 人権擁護委員活動の活性化の方策
  (1)  人権擁護委員の活動方法(概要3(3)3(8)4(2)参照)
     専門委員制度(子どもの人権専門委員,人権調整専門委員)や常駐委員制度を含め,人権擁護委員活動を活性化するための仕組みをどう整備すべきか。
     原則,市町村とされている職務執行区域は相当か。
     人権擁護委員へのアクセスポイントとしては,どのような場所(法務局,市町村役場,人権擁護委員の自宅等)が適当か。

  (2)  人権擁護委員の待遇(概要3(1)3(4)3(6)参照)
     人権擁護委員の待遇で改善すべき点は何か。

  (3)  人権擁護委員の組織体の役割(概要3(7)資料1参照)
     人権擁護委員協議会,都道府県人権擁護委員連合会等の委員組織体の果たすべき役割は何か。

  (4)  市町村等との連携協力(概要5(1)参照)
     人権擁護委員及びその組織体と,市町村その他関係機関・団体とはどのように連携協力していくべきか。

  (5)  人権擁護委員制度の周知(概要4(3)資料5参照)
     人権擁護委員制度の周知を図る有効な方策は何か。

 その他


人権擁護委員制度の概要

 法務省の人権擁護機関における人権擁護委員の位置付け(資料1
   法務省の人権擁護機関は,人権擁護局,法務局・地方法務局とそれぞれの支局という法務省の内部組織と,民間のボランティアである人権擁護委員の2つから成り立っている。
   平成13年1月1日現在,1万3,991名の人権擁護委員が,特別区を含む全国の3,200余りの市町村に配置されている。

 人権擁護委員制度の沿革
   昭和23年2月,法務庁設置法の施行により,法務庁に人権擁護局が設置され,我が国の人権擁護行政がスタートした。人権擁護局は,新憲法の中心をなす基本的人権の保障をより十全なものとするため,当時の米国連邦司法省公民権課をモデルに,広く人権擁護一般を任務とする行政部局として,新たに設けられたものである。
   人権擁護委員制度は,人権擁護委員令(政令)により,人権擁護局が発足して間もない同年7月,人権擁護局の活動を補佐するものとして創設されたが,これは,人権擁護行政は,その性質上,民間の協力を得て官民が一体となって行うのが望ましいということのほかに,当時,人権擁護局には出先機関がなく,人権擁護行政を全国的に展開していくためには,民間人の協力に頼らざるを得なかったという事情もあった。
   人権擁護委員制度は,翌昭和24年,人権擁護委員法の制定により,法律に根拠を有する制度となった。これは,このような制度の設置は法律で定めることとなったことに伴うものであるが,市町村ごとに,市町村長の推薦に基づき,全国合計2万人(定員)を上限とする人権擁護委員を配置するという現在の人権擁護委員制度の骨格が確立された。
   人権擁護委員法は,昭和28年に,人権擁護委員の任期を2年から3年に延長するとともに,当初,委嘱すべき人数の倍の候補者を市町村長が推薦していたのを,委嘱すべき人数と同数の候補者を推薦し,候補者が不適格と認められるときは法務大臣が再度推薦を市町村長に求める方法に改めるなどの改正が行われたほかは,大規模な改正はなされることなく,現在に至っている。
   昭和23年に人権擁護委員令により人権擁護委員制度が発足した当時の人権擁護委員の定数は150人に過ぎなかったが,翌昭和24年に制定された人権擁護委員法では,定数は全国で2万人を超えない範囲とされ,実数も昭和31年に5,000人を,昭和50年には1万人を,そして,平成7年に1万3,000人をそれぞれ超えて,増加してきた。

 人権擁護委員制度・人権擁護委員法の概要(資料2
  (1)  委員の位置付け・身分(法5条,6条,8条,14条)
     無報酬である。
     法務大臣の指揮監督を受ける。
     国家公務員法は適用されない。
     職務遂行に当たり災害に遭った場合,国家公務員災害補償法は適用されず,民法上の委任契約に関する規定により補償が行われる取扱いになっている。

  (2)  使命・職務(法2条,11条)
     使命
      I  国民の基本的人権が侵犯されることのないように監視すること。
      II  基本的人権が侵犯された場合には,その救済のため,すみやかに適切な処置を採ること。
      III  常に自由人権思想の普及高揚に努めること。
     職務
      I  自由人権思想に関する啓もう及び宣伝をなすこと。
      II  民間における人権擁護運動の助長に努めること。
      III  人権侵犯事件(※)につき,その救済のため,調査及び情報の収集をなし,法務大臣への報告,関係機関への勧告等適切な処置を講ずること。
      IV  貧困者に対し訴訟援助その他その人権擁護のため適切な救済方法を講ずること。
      V  その他人権の擁護に努めること。
       ここでいう「人権侵犯事件」は,公権力による侵犯だけでなく,私人による侵犯をも含んでいる。

  (3)  活動区域(法10条)
     原則として,人権擁護委員の置かれている市町村の区域内である。

  (4)  定数,任期,待遇(法4条,9条,8条)
     定数は全国で2万人を超えない範囲である。
     任期は3年である。
     予算の範囲内で活動に要する費用を弁償する。

  (5)  資格・選任(法6条,7条)(資料3
     市町村長の推薦に基づき,法務大臣が委嘱する。
     人権擁護委員法上,年齢に関する制限はないが,法務局長及び地方法務局長に対する通達により,原則として新任の人権擁護委員の場合は65歳以下,再任の場合は75歳未満の候補者を推薦するよう市町村長に要請する取扱いとなっている。同様に,性別に関する制限も人権擁護委員法上はないが,女性の割合がいまだ低いことに照らし,できる限り女性の候補者を推薦するよう要請する取扱いとなっている。
     委員候補者の推薦に当たっては,市町村内の各地区や一定の団体にあらかじめ一定人数の候補者の人選を依頼している例が多い。

  (6)  服務規律(法12条,13条)
     秘密保持,差別的取扱いの禁止,政治的中立性の保持等

  (7)  人権擁護委員の組織体(法16条~18条の2)(資料1
     人権擁護委員法上,人権擁護委員協議会,都道府県人権擁護委員連合会,全国人権擁護委員連合会が設けられているほか,法律上の組織ではないが,都道府県連合会と全国連合会の中間に位置するものとして,ブロック人権擁護委員連合会が設けられている。
     委員組織体の主な任務は,構成メンバー間の連絡・調整,資料・情報の収集,研究・発表等であるが,組織体として関係機関に意見を述べることもその任務とされている。
     これらの組織体には,いずれも固有の事務局は設けられていない。全国人権擁護委員連合会の庶務は法務省人権擁護局が行っているほか,都道府県人権擁護委員連合会,人権擁護委員協議会についても,対応する法務局・地方法務局やその支局において,その庶務の相当部分を行っている実情があり,人権擁護委員による自主運営の取組が進められている。
     人権擁護委員が組織体の任務を遂行するために要した費用は国庫から弁償されるほか,組織体が地方自治体等から補助金又は助成金を受領して活動経費に充てている例がある。

  (8)  常駐委員制度・専門委員制度
     常駐委員制度(平成3年度導入)
       人権擁護委員が法務局・地方法務局や一定の支局に常駐し,人権相談等に従事する。
     子どもの人権専門委員(平成6年度導入)
       子どもの人権問題を主体的,重点的に取扱う。
       全国に568名。
     人権調整専門委員(平成8年度導入)
       人権侵犯事件において当事者間の利害を調整する必要がある事件について,両当事者の主張を聴き,中立公正な立場から調整を行う。
       全国に240名。

  (9)  研修(資料4

 人権擁護委員制度の実情
  (1)  構成
    I  男女比
       平成13年1月1日現在,全国の1万3,991名の人権擁護委員のうち,女性は4,403名で,女性が占める割合は31.5パーセントである。
    II  年齢
       人権擁護委員の平均年齢は,65歳である。
 年代別では,60歳代が最も多く全体の55パーセント,次いで,70歳代が25パーセントを占めており,60歳代と70歳代で全体の8割を占めている。一方,若年層では,20歳代が全国で3人,30歳代が全国で30人である。
 平均年齢が高いのは,人権擁護委員としての活動時間を確保することが比較的容易な定年退職者等が委員の相当部分を占めていることによる。
 なお,女性委員についてみると,60歳代が最も多いのは同様で,全体の55パーセントを占めているが,次に多いのは50歳代で25パーセントを占めており,女性については,男性に比べやや若い層から委嘱されている。
    III  職業
       無職が43.6パーセントで最も多く,農林漁業14.4パーセント,宗教関係7.7パーセント,会社役員5.7パーセントと続いている。弁護士は3.0パーセントを占めている。
 無職の人の大半は定年退職者等で,その中では,特に教育関係の職業に就いていた人が多い。

  (2)  活動実績
    I  人権啓発
       人権擁護委員は,法務局・地方法務局やその支局の職員とともに,あるいは,単独で様々な啓発活動に従事している。平成12年に人権擁護委員が啓発活動に従事した延べ回数は11万6,600回であり,人権擁護委員1人当たりの平均従事回数は,8.3回になる。
    II  人権相談
       平成12年に人権擁護委員が取り扱った相談件数は16万8,880件で,人権擁護委員1人当たりの取扱件数は,12.1件になる。このうち,法務局・地方法務局やその支局に設けられた常設相談所で受けたものが5万6,276件,市町村役場やデパート等で臨時に開設する特設相談所で受けたものが7万3,860件,人権擁護委員の自宅で受けたものが3万8,744件となっている。
 常設相談所では,常駐人権擁護委員が人権相談を受けており,その専門に応じ,「子どもの人権110番」,「女性の人権ホットライン」,「外国人のための人権相談所」といった対象を限定した相談にも携わっている。
    III  人権侵犯事件
       平成12年に,人権擁護委員が人権侵犯事件に関与した件数は1万1,194件であり,人権擁護委員1人当たりの取扱件数は,0.8件になる。
 人権擁護委員の関与の態様で最も多いのは,人権侵犯事件の端緒としての委員通報,すなわち人権擁護委員が被害者などからの申告や相談等により人権侵犯事件を認知し,これを法務局等に通報することにより,人権侵犯事件の調査処理手続が開始されたというものであり,平成12年に受理した人権侵犯事件1万7,391件のうち委員通報によるものは8,761件で,50.4パーセントを占めている。
 人権擁護委員は,このように人権侵犯事件に関するアンテナ機能を担う一方で,救済そのものに関与する例は必ずしも多くないが,主に子どもの人権専門委員による子どもを被害者とする人権侵犯事件への取組や,ドメスティック・バイオレンス等の女性に対する暴力事案について,人権擁護委員が救済に積極的役割を果たしている例がある。

  (3)  活動の周知度(資料5
     平成9年7月の世論調査によれば,人権擁護委員の活動のうち,知っているものがあると答えた人は39.7パーセント,知っているものはないと答えた人は50.2パーセントである。また,人権が侵害されたと思った時に誰に相談したかとの問いに対し,1.1パーセントの人が人権擁護委員に相談したと答えている(このほかに,人権相談所という回答が0.8パーセント,法務局という回答が1.9パーセントある。)。

 その他
  (1)  人権擁護委員制度の特徴
     民間人の協力を制度化したものであり,官民一体となった人権擁護行政の推進を可能にするものである。
 当初,地方における体制の不備を補う面があったことは否めないが,先進各国の実情や我が国における弁護士会や各種NGOの活躍等からも明らかなように,人権擁護における民間の活動は極めて重要であり,人権擁護委員制度により,人権擁護に関する民間の活動を活発化するとともに,官民一体となった人権擁護行政の推進を可能としている。
     地域社会に密着した人権擁護活動の実現
 人権擁護委員は,地方自治の最小単位である市町村からの推薦を得て委嘱されるものであり,現在約1万4,000名の委員が3,000を超える市町村にあまねく配置されている。地域社会において,社会的信望のある人権擁護委員が,啓発,相談,人権侵犯事件への関与等を行うことにより,人権擁護行政を地域社会に浸透させることが可能となるとともに,人権擁護委員が地域社会と法務局等の間のパイプ役を果たすことが期待されている。

  (2)  各方面からの指摘
     人権擁護委員制度に関しては,批判を含む様々な指摘が各方面からなされており,
    例えば,平成8年5月の地域改善対策協議会の意見具申においては,
     より積極的な活動が期待できる適任者を確保するための方策
     人権擁護委員の活動をより活性化するための方策
     その活動を実効あるものにするための方策
    等について,総合的に検討する必要があるとされている。
 また,昨年11月に公表した「人権救済制度の在り方に関する中間取りまとめ」に対しても,人権擁護委員制度に関する多数の意見が寄せられており,例えば,
     現行の人権擁護委員制度は機能していない。
     抜本的な改革が必要である。
     年齢やジェンダーバランスを考慮するとともに,定住外国人を含むマイノリティーも加われるようにすべきである。
    といった意見があった。
 全国人権擁護委員連合会からは,人権擁護委員制度についての意見が述べられている(本審議会第66回会議議事録参照)。

  (3)  本審議会の答申
     「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」(平成11年7月)第3,1(2)
 人権擁護委員は,現在,約14,000人が全国の市町村まであまねく配置されており,地域において国民の日常生活に接しつつ広く人権尊重思想を普及する機関として,その担うべき役割は非常に大きい。
 今後とも法務省の人権擁護部門と一体となって,全国的な視野に立ちつつ,それぞれの職務執行区域において地域に密着した啓発活動を積極的に展開することが期待される。その際には,市町村や教育関係機関等と緊密に連携協力しながら,効果的な啓発活動を行っていくことが求められる。特に,今後は,人権擁護委員やその組織体が,上記のような啓発活動の企画・立案にも積極的に取り組むことが望まれる。これらの役割を十分果たすためには,人権擁護委員に対する研修を一層充実することも必要である。
     「人権救済制度の在り方について」(平成13年5月)第7,3
 人権擁護委員は,今後も積極的に相談業務に関与するほか,当該市区町村や他の民間ボランティア,被害を受けやすい人々等との日常的な接触を通じて,人権侵害の早期発見に寄与するなどの役割を果たすとともに,さらに,その適性に応じて,あっせん,調停,仲裁にも積極的な参加を行うなど,積極的救済にも寄与すべきものとして位置付けるべきである。
      I  全国の市区町村に配置された人権擁護委員は,最も身近な相談窓口であり,その専門性の涵養等を通じて相談の質的向上に努めるとともに,当該市区町村や民生委員等の民間ボランティア,さらには,被害を受けやすい人々等との日常的な接触を通じて,様々な人権侵害の早期発見に努め,人権救済においてアンテナ機能を担うことが期待される。
      II  人権救済には,一定の専門的知識,経験,素養等が必要であるが,人権擁護委員にも,その適性に応じて,あっせん,調停,仲裁やその調査手続への積極的な参加を求め,調停等に関する体制の充実を図るべきである。