国連犯罪防止・刑事司法会議における
ワークショップの開催について

国連犯罪防止・刑事司法会議とは?

国連犯罪防止・刑事司法会議(略称「コングレス」)は,国連が主催する刑事司法分野における世界最大の国際会議であり,1955年以来,5年ごとに開催されています。コングレスでは,国連とその加盟国が犯罪対策のために今後実施すべき方策などが議論され,最後にその内容を盛り込んだ政治宣言が採択されます。第12回に当たる今回は,2010年4月12日から19日まで,ブラジルのサルバドールで開催され,約100か国から司法大臣,検事総長などの高官を含む政府関係者の参加があったほか,国際機関,NGOなどを含めると約3,000人の刑事司法関係者が参加しました。

国連犯罪防止・刑事司法会議とアジ研との関わり

国連アジア極東犯罪防止研修所(略称「アジ研」)は,国連と日本国政府との協定に基づいて設立された国連の地域研修所です。アジ研は,発展途上国の刑事司法関係者を日本に招いて研修を実施することに加えて,国連の行う犯罪防止計画の策定やその実施についてもさまざまな貢献をしています。また,アジ研が研修やセミナーのテーマを選定するに当たっては,研修参加国の必要性はもとより,国連により決定された犯罪防止や刑事司法に関するプログラムの重点事項に十分な考慮を払っています。それは,今回のコングレスの議題及びワークショップ(研究集会)のテーマのほとんどすべてが,アジ研の最近の研修・セミナーで取り上げられていることからもお分かりいただけると思います。

コングレスでは,全体会合のほか,ワークショップが同時並行で開催されますが,第10回コングレス以降は,その一つをアジ研が企画・運営することが通例となっています。今回は,5つのワークショップが開催されましたが,アジ研は,そのうちの一つ,「矯正施設における過剰収容に対する戦略とベストプラクティス」と題するワークショップの企画・運営を担当しました。


コングレス会場
コングレス会場

過剰収容ワークショップでは何が議論されたのですか?

矯正施設における過剰収容は,日本だけではなく,世界各国においても大きな問題となっています。全世界の矯正施設収容人口は約1,000万人といわれていますが,そのうち多くの者が過剰収容状態の施設に収容されています。過剰収容ワークショップでは,世界的に著名な研究者・実務家を招いてこの問題について議論を行いました。

ワークショップでは,まず,「過剰収容の現状」,「過剰収容の原因」,「過剰収容の対策」及び「中・低所得国に固有の過剰収容問題」についてのプレゼンテーションが行われ,引き続いて,以下のパネル・ディスカッションが行われました。


ワークショップのパネリスト
ワークショップのパネリスト

判決がなされる前の段階において採り得る過剰収容対策

第1パネルでは,判決がなされる前の段階において採り得る過剰収容対策,特に未決拘禁者(裁判を受けるため矯正施設に収容されている人などのこと)の数を減らすための方策について議論がなされました。日本では考えられないことですが,途上国の中には,被収容者の半数以上が未決拘禁者である国もあり,その原因として,非効率な裁判による未決拘禁の長期化などが指摘されています。この問題の解決策として,弁護士補助職員(パラリーガル)を積極的に活用することによって裁判を迅速化した事例が紹介されました。

判決や判決後の段階における過剰収容対策

第2パネルでは,判決の際やその後の段階において採り得る過剰収容対策について議論がなされました。この点については,刑務所に収容する以外の措置(社会奉仕命令,自宅拘禁刑など)を導入することが有効と考えられますが,その場合であっても,具体的な運用の在り方によっては,かえって逆効果となることが紹介されました。そのほか,矯正処遇の充実によって再犯防止を図った結果,刑務所に収容される受刑者の数が減少した事例や効果的な仮釈放の在り方についての紹介がありました。

国民や関係者の支持・支援を獲得するための戦略

第3パネルでは,これまでの2つのパネルで論じられたさまざまな過剰収容対策について,市民や関係者の支持・支援を得るための方策について議論がなされました。特に,受刑者の社会復帰への支援を広く呼び掛けて成功を収めたシンガポールのイエロー・リボン・プロジェクトが注目を集めました。


ワークショップの開催風景
ワークショップの開催風景

おわりに

ワークショップは大変な好評のうちに終了し,議論の成果を踏まえた勧告を採択の上,コングレスの全体会合に報告しました。今回のワークショップの成果が,世界における過剰収容の解消への第一歩となることが期待されます。

なお,このワークショップの詳細及びコングレスのフォローアップのため開催された第19回国連犯罪防止・刑事司法委員会(略称「コミッション」)の模様につきましては,アジ研ホームページ(http://www.unafei.or.jp/http://www.unafei.or.jp/english/)に掲載しておりますので,是非こちらも御覧ください。