第4回GGセミナーで「証人保護」が議論されました。

【GGセミナーって何ですか】

GGセミナーは,ユナフェイが毎年1度,東南アジア諸国向けに開催しているセミナーです。

ユナフェイは,正式名称を「国連アジア極東犯罪防止研修所(United Nations Asia and Far East Institute for the Prevention of Crime and the Treatment of Offenders)」と言い,日本国政府と国連との協定により,東京都府中市に設置された刑事司法分野の国際研修・研究機関です。発足は1962年で,通常,アジ研又はUNAFEI(ユナフェイ)と略称されています。

ユナフェイの活動は多岐にわたりますが(あかれんが30号,及びあかれんが31号の記事を御覧ください。),その一環として,東南アジア諸国における「法の支配」と「良い統治」の確立に向けた取組を支援するため,平成19年以来,これらの国の刑事司法実務家を対象とするセミナーを,年1回開催してきました。「良い統治」のことを英語でグッド・ガバナンス(Good Governance)と言いますが,そこから取って,このセミナーはGGセミナーと呼ばれています。

【第4回GGセミナー】

第4回GGセミナーは,平成22年12月7日から9日まで,ユナフェイとフィリピン司法省との共催により,フィリピンのマニラにて開催されました。フィリピン,カンボジア,インドネシア,ラオス,マレーシア,ミャンマー,タイ及びベトナムの8か国から22名の実務家が参加し,国連薬物・犯罪事務所,米国司法省及び独連邦司法省から招へいした3名の専門家とともに,「証人保護」を中心に議論を行いました。

【証人保護ってどういうことですか】

セミナー参加者
(フィリピン司法副大臣・検事総長を囲んで
GGセミナー参加者による記念撮影)

捜査・訴追当局が犯罪と戦い,犯罪者を処罰するための武器は,法と証拠以外にはなく,そして,証拠の多くは,証人によってもたらされます。ですから,証人が,身の危険や報復を恐れることなく,真実をありのまま述べることができるというのは,とても大切なことです。特に,組織犯罪,企業がらみの犯罪,腐敗(汚職),テロなど,複数の者が関与する犯罪の全容を解明し,中心人物を処罰するためには,共犯者や内部者の証言がなくてはならないといえるでしょう。しかしながら,国によっては,治安情勢が悪く,証人がしばしば危険にさらされる例がありますし,犯罪組織の中には厳しい「沈黙の掟」を有するものも存在します。

そのため,国連の国際組織犯罪防止条約や腐敗防止条約では,締約国に対し,その有する手段の範囲内で,証人保護のための適切な措置をとることを求めています。その中には,心理的に証言をしやすくするための一般的な工夫(例えば,ビデオ・リンク方式による証人尋問など)に始まり,事件の関係者のいない土地に証人を転居させた上で法的に全く新しい身分を付与するといった,一部の国で行われている特殊なプログラムのようなものまで,それぞれの国の事情に応じた様々な手段が考えられます。

本セミナーでは,国連薬物・犯罪事務所,米国及び独の専門家から,各国における制度的な取組やこれまでに蓄積された実績・経験に関する発表があり,それを踏まえて内容の濃い意見交換が行われました。


【終わりに】

セミナー風景
(GGセミナーの開催風景)

本セミナーは,フィリピン検事総長とユナフェイ次長が共同議長を務め,最終日には討論の結果を「勧告」として取りまとめ,盛況のうちに閉幕しました。昨年のテーマであった「財産回復」同様,複雑な法律問題を伴う新たな論点について,国際的な議論の場を設けて知見と経験の共有を図るのは大切なことであり,GGセミナーは,そのために貴重な機会を提供するものと評価されています。本セミナーのより詳細な情報は,ユナフェイのホームページに掲載されていますので,是非御覧ください。また,第4回GGセミナーの成果は,近日中に報告書(英語)として出版予定です。


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国際協力人材育成研修

【国際協力人材育成研修とは】

法務省は,1994年からアジアの開発途上国に,法律の起草や法律家の育成など法制度の整備を支援しています。これを専門的に扱う部署が法務総合研究所の国際協力部です。職員は,裁判官・検察官・法務局出身の教官と国際協力専門官です。教官は,相手国に応じた研修やセミナーのプログラムを企画・立案しています。また,JICA(独立行政法人国際協力機構)の長期専門家として対象国に派遣されることもあります。通常の業務とはかなり異なりますので,教官や長期専門家として活躍する人材を育成しなければなりません。そこで,法務省では,2009年から,将来このような業務に携わってくれることを期待して,法務省・検察庁職員を対象に,「国際協力人材育成研修」を実施しています。

【研修内容】

1回5名程度を対象にした2週間の研修です。2010年は,10月20日から11月2日までの日程でした。この研修の特徴は,実際にアジアの支援対象国に出張して,現地における活動を見聞することです。もちろん,その前には,国内で,国際協力部長や教官から国際協力の基礎知識や日本の支援活動の説明を受けます。そして,10月25日から29日までの間,ベトナムを訪問しました。

ベトナムは,約33万平方キロ(九州・沖縄を除く日本の面積とほぼ同じ)の国土に,約8,500万人(2009年4月1日時点)が住んでいます。法分野の支援ではベトナムに対する支援が皮切りであっただけに,これまで,民法改正・民事訴訟法起草支援や検察官・裁判官の実務能力改善支援など様々な活動をしてきました。

研修員は,ベトナム到着後,裁判官・検察官・弁護士出身の長期専門家から,現地での活動内容や課題など具体的に説明を受けました。その後,現地でベトナムの司法省,最高人民検察院,最高人民裁判所,統一弁護士会を訪問し,各担当者から,各機関の課題や,日本の法制度整備支援への期待を聞くのです。


(最高人民裁判所前において)

また,研修員は,ハノイ市の北部に位置するバクニン省の人民検察院を訪問して長期専門家とバクニン省の検察官によるワークショップを傍聴し,日本とベトナムの検察官の役割の違いに関する発表を聞いたのです。いずれの訪問先も,それぞれの現状と課題につき率直に話してくれましたし,研修員からの質問に丁寧に答えてくれました。研修員は,現地での支援の実際を垣間見ることにより,大いに刺激された様子でした。

最終日には,ハノイ法科大学内にある名古屋大学日本法教育研究センターを訪問し,日本法を学んでいる大学3年生18名に対し,日本の検察官の役割について講義を担当しました。聴講生は,研修員のパワーポイントを利用した講義に熱心に耳を傾けていました。

このように研修員は,盛り沢山の予定をこなす一方で,司法省・バクニン省人民検察院職員・ハノイ法科大学生とそれぞれ昼食をともにする機会があり,ベトナムの法曹関係者や法律を学ぶ学生と交流したわけです。



(名古屋大学日本教育研究センターでの講義風景)

【終わりに】

研修員は,帰国後,レポートを提出しましたが,その中には,「日本の法制度を当然の前提として考えていたが,実はそうでなかったことに驚かされた。」「単に支援する側とされる側という関係ではなく,お互いに納得できるものを作り上げるパートナーであるという姿勢が重要であると実感した。」などとあり,今回の研修を通じて,国際協力への理解を深めたようです。国際協力部では,研修員が,近い将来,我々の同僚となって活躍してくれることを願っています。

(国際協力部教官 松原禎夫)


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