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新司法試験調査会在り方検討グループ(第2回)議事録

(司法試験管理委員会庶務担当)
1  日時
平成15年4月17日(木)15:30 ~17:30

2  場所
法務省大臣官房人事課会議室

3  出席者
(委員)
磯村保,小津博司,柏木昇,釜田泰介,鈴木健太,中川英彦,宮川光治
(敬称略)

(同委員会庶務担当(法務省大臣官房人事課))
池上政幸人事課長,横田希代子人事課付,古宮義雄試験管理官

4  議題
(1)  庶務担当からの報告
(2)  今後の検討の進め方
(3)  検討事項の整理等
(4)  次回の予定

5  配布資料
資料1  新司法試験調査会開催日程等一覧
資料2  新司法試験調査会各科目別ワーキンググループ議事概要
資料3  新司法試験Q&A等
資料4  規制改革推進3か年計画(抜粋)
資料5  法科大学院関係者に対するヒアリング実施予定(案)
資料6  「新司法試験において選抜すべき法曹像」についての意見等の整理

6  議事等
(1)  庶務担当からの報告
【釜田委員】お忙しいところをお集まりいただき,ありがとうございます。第2回の在り方検討グループの会議を始めさせていただきます。お手元の本日の議事進行表に従いまして議事を進めさせていただきます。
 第1点は,庶務担当からの報告でございます。よろしくお願いいたします。

【横田人事課付】庶務担当から御報告させていただきます。まず,前回の在り方検討グループの第1回の議事録の庶務担当説明部分の取扱いにつきまして,御協議いただきたいと思います。
 新司法試験調査会の全体会では,庶務担当の説明部分の議事録への記載につきましては要旨による記載を認めていただいております。この在り方検討グループでも,同様の取扱いとされるかどうかをお伺いしたいと思います。

【釜田委員】ただ今の点いかがでしょうか。(一同了承)では,御了承いただいたということで進めさせていただきます。ありがとうございました。

(庶務担当から配布資料について順次説明)

(2)  今後の検討の進め方
【釜田委員】それでは,議題の2,今後の検討の進め方を議題とさせていただきます。
 第1点目は,法科大学院関係者に対するヒアリングの実施についてでございます。ただ今の庶務担当の説明にございました資料5の案に基づいて,5月22日にヒアリングを実施してはどうかということを諮らさせていただきます。庶務担当から補足説明をお願いします。

【横田人事課付】大学のヒアリング対象校の選定に当たりましては,法科大学院協会設立準備会の方々や磯村委員にも御助言をいただきまして,規模の大小,国立・私立の別,地域性などを考慮して,4校の対象校を選定いたしました。
 また,ヒアリングの内容につきましては,法科大学院の概要,カリキュラムの概要と特色,成績評価,修了認定の方法,新司法試験の在り方に関する御意見等を予定しています。

【釜田委員】資料5の中で,特にヒアリングの内容のところを御覧いただきまして,これ以外に付け加えるべき点,御意見などございましたらちょうだいしたいと思います。いかがでございましょうか。

【磯村委員】この内容自体の問題ではなく,どういう形でプレゼンテーションしていただくかということですが,ここに挙がっているだけでも随分分量が多いと思いますので,ある程度ペーパーで準備していただけると時間を有効に活用できるのではないでしょうか。

【釜田委員】そうですね。

【宮川委員】それから,すべてでなくていいのですが,いくつかの科目についてシラバスのようなものができているのであれば,それを資料としていただきたい。

【釜田委員】今出ましたことを,庶務担当から大学側と詰めていただくことでよろしいでしょうか。それでは,こういう内容で第4回会合になります5月22日にこの4大学から御説明をいただくということにさせていただきます。
 それから次の点でございますが,科目別のワーキンググループでは活発に会合が開かれているとのことであり,この各グループとの意見交換の場をどこかで持ちたいと思いますが,これにつきまして庶務担当の方から御説明願います。

( 庶務担当から日程調整状況等につき説明し,協議の結果,5月13日午後4時半からの会合が可能であることが確認された。)

【小津委員】これは主として科目別グループから見たら,この在り方のグループでどういうことを検討するべきだと考えているかということが中心になるわけでございましょうか。

【釜田委員】向こうからもそういう御意見が出るでしょうね,こういう点は。

【小津委員】こちらで考えてもいいかもしれない,科目別でも考えてもいいかもしれない細かい内容に入って議論すると相当時間が掛かるでしょうし,この日までには,まだ我々の議論も十分進んでいないような気がいたしますけれども。

【中川委員】フリートーキングですか。

【釜田委員】最初はそうなりますね。

【小津委員】しかも,主として論点整理的フリートーキングでしょうか。

【釜田委員】そうしますと,取りあえず1回意見交換をしてみてということでしょうか。お互いに,こちらも途中でございますが,大体出ている意見等を,向こうに伝え,向こうの検討状況も知るということでいかがでしょうか。

【磯村委員】特に,科目別ワーキンググループの検討の中で,ワーキングを超えるような問題について,単に在り方検討グループとの関係だけではなく,他の科目別ワーキングループとの相互関係も含めて,それらの論点を出していただいて,どう調整するかということを取りあえず整理する会になるのではないかと思います。私が個人的に情報交換をしている段階でも,基本的な方向で随分考え方が違うというところもありそうですので,そういう突き合わせをするということが,まず必要なのではないかと思います。

【釜田委員】そうしましたら,そういう趣旨で5月13日の4時半以降に会合をもつということで庶務担当に調整をお願いしてよろしいでしょうか。

【宮川委員】どのようにして進めるのですか。どなたが座長をやられて,どのように進められるのですか。髙橋教授が御出席になるのであれば,全体の座長ですから座長をやっていただくのが適当かと思います。

【釜田委員】(髙橋宏志委員に)座長として出てきていただくということでよろしいでしょうか。(一同了承)

【横田人事課付】それでは,そのように調整させていただきます。

【宮川委員】在り方検討グループで議論した内容,議論状況については,ペーパーを事前にお渡しするのでしょうか,それともどなたかが御説明するのでしょうか。

【横田人事課付】科目別ワーキンググループの方へ,庶務担当から,在り方検討グループの議事録や議事概要をお渡ししておきます。

【鈴木委員】13日までの在り方検討グループでの検討は,今日と5月7日ですね。それまでにどれについてどの程度意見が出ているのか,この後の進め方の問題なので,特定のところなら意見が出そろっているところもあるでしょうけれど,全体的なものは心配かなという気がするのですけれど。

【小津委員】そういう情報もそれぞれのグループに言っておいた方が効率的ですね。

【中川委員】いずれにしても何か結論を出す会ではないですよね。情報交換というか,フリートーキングであまり縛らない方が自由にいろいろな問題点が出てくるのではないですか。

【釜田委員】そうでございますね。

【横田人事課付】この意見交換会の議事の取扱いにつきましてはいかがされますか。

【磯村委員】取りあえずの意見交換ということもあり,議事録の詳細をそのまま公開することは必ずしも適当ではないように思いますが。

【横田人事課付】一応,意見交換会の概要の取りまとめを庶務担当の方でさせていただいて,それを次回以降の議事録の添付資料とするということではいかがでしょうか。

【釜田委員】そうですね,それでよろしいですか。

【小津委員】それで結構です。

【釜田委員】それでは,そのように進めさせていただきます。(一同了承)

【宮川委員】傍聴はどうなるのですか。

【釜田委員】どうですか,特に問題なければ。

【池上課長】科目別ワーキンググループからは,オブザーバーの方に聞いていただく分には構わないという御意向のようでございます。また,逐語の議事録とか,詳細な議事要旨が公開されるということは,議論の途中段階なので御容赦願いたいとのことですが,意見交換会の概要について,その次の在り方グループで報告がなされて,それが在り方グループの議事録の一部として公開されることは差し支えないという御意向と伺っております。

【釜田委員】分かりました。それはそういうふうに進めさせていただきます。
 それからもう一点,いわゆる今の司法試験の在り方につきましては,すでに司法制度改革審議会の方でも御議論があり,また,法曹養成検討会,その他のところでも既に御議論があったところでございますが,この前の会合で,今までの議論の経緯について全体像の説明を一度聞いてはどうかという御指摘もございましたので,司法制度改革推進本部から御担当の方にお出でいただきまして,簡単に経緯を御説明いただいてはいかがでございましょうか。庶務担当の方ではそういうことも踏まえて検討を進めていると伺っておりますが,何かございますか。

【横田人事課付】前回の会合で中川委員から司法試験に関する従前の議論についてきちんと説明を聞きたいという御要望がございました。そこで,その御要望に沿うようでしたら,5月7日の次回会合に,司法試験法の改正に携わられた司法制度改革推進本部の方にお出でいただき,改正経緯等について伺うことも可能だと考えております。

【釜田委員】いかがでございましょうか,次回御説明いただくということでよろしいでしょうか。

【小津委員】私は,そういうことをしていただくと大変ありがたいと思います。

【宮川委員】どのくらいの時間ですか。

【釜田委員】そうですね,次回会合は2時間を予定していますので,その前半を取ってはいかがでしょうか。

【横田人事課付】質疑応答は1時間を限度に考えています。

【釜田委員】それでは庶務担当の方で調整していただき,7日の午前10時からの会合で司法制度改革推進本部の方に御説明をいただくようお願いします。

(3)  検討事項の整理等
【釜田委員】それでは,議題の3点目,検討事項の整理等について諮らさせていただきます。この前,各委員の皆様から,我々に課されています各課題について,検討すべき問題点をいろいろとお挙げいただきました。これについて庶務担当の方で御説明いただけますか。

( 庶務担当から資料6「新司法試験において選抜すべき法曹像についての意見等の整理」について説明)

【釜田委員】この在り方検討グループに課されました課題の第1でございます「新司法試験において選抜すべき法曹像」につきましては,この前の会合で,既にそれはいろいろなところで言われているのではないかと,それをまずこの会合で確認する必要があるということで,庶務担当でその該当箇所をまとめ,この資料6を作っていただきました。それを踏まえまして,2,3,4の検討課題というものが出てくるわけでございますが,この前の御議論を思い出してみますと,短答式,論文式をどういうふうにするのかという問題,それから総合評価をどうするかという具体的な問題が後に続くわけでございますが,この選抜すべき法曹像と具体的な3つの課題との間に新司法試験というのはどうあるべきなのか,司法試験の理念と申しますか,どういうことを目的としてやることになるのかということを押さえるべきだと,そういう御指摘もございました。
 そこで,今日,短答式,論文式,それから総合評価に関する論点を御議論いただきます前に,新司法試験の理念と申しますか,性格付けはどうなるのかということについて,御議論をいただく時間を持つ必要があるのかと思っておりますが,それはいかがでございましょうか。

【磯村委員】前回も議論になったところだと思うのですが,理念型として考えたときに,資格試験として一定のレベルに達していれば合格するという発想でいくのか,やはり合格者についてのある種の枠というのがあって,その枠の中で合格者を選抜していくかという考え方の対立があり得,その二者択一でとらえるべきではないかもしれませんが,その点が一つあろうかと思われます。
 同時に,これも前回の共通認識だと思いますが,あるべき法律家像というものが当然前提となるわけですが,新司法試験でその資質全部を問うことはできないとすると,逆に試験でどのような資質を問えるのかということを考える必要があると思われます。比較的コンセンサスが得られやすいのは,少なくとも法律家には一定程度の法的な知識と概念・制度の理解が必要であって,そういうものを問うことは,試験が最もやりやすい部分であるという点です。短答式でも法的な推論の能力を聞くということになってくると,どういう試験を出せばそれを問えるかということについて,少し意見が分かれてくるかもしれません。そういう趣旨からも現行の短答式試験が,どういう意図でなされて,それがどの程度効果を上げているか,それを吟味する必要があるのかなと考えております。

【釜田委員】今の御意見はいかがでしょうか。最初に御指摘いただきました資格試験か選抜試験か,この点につきましては,この前の御意見の中でも既に出ていたところでございます。また,今までの司法制度改革審議会以来の会合記録を拝見しますと,いろいろな場でもそういう議論があったようでございます。
 また,法曹養成のための法科大学院の立ち上げがされておりますが,その中でも恐らく非常に大きな課題として関心を持たれていると思います。この辺りのことをまず,御意見ちょうだいできればと思います。いかがでございましょうか。

【柏木委員】今後の在り方検討会ではこの理念を検討してもよろしいのではないかと思います。要するに合格者枠というのは現実に,例えば,司法研修所のキャパとかそういう問題から来るわけでありまして,本来ならば,やはり原則としては資格試験であるべきで,先ほど言及されましたが,3,000人とは上限ではないということもあり,それから改革審議会の報告書でも3,000人という数字は決して固定的なものではなくて,3,000人程度ということになっていたか,正確な言葉ではないですけど,なっていたかと思いますので,やはりここでは原則資格試験であるというベースで議論をした方がいいのではないかという気がいたします。

【中川委員】分からない点があるのだけれども,法科大学院を卒業した人は,多少の訓練を受ければ法曹実務家として活動できる能力,資質,適性を備えた人であると,また,そういう教育を法科大学院でやるんだというのが前提ではないかと思うのです。また,そういうふうにするということで法科大学院を企画されておる先生方も非常に強く言われますし,その熱意をもってやっておられます。そうだとするとこの試験は,要するに,卒業時において法科大学院が目的としておる能力なり資質なり,あるいは適性を備えたかどうかを確認する試験というふうにとらえるのが素直なような気がするのですけれど,その辺りはどうなんですか。

【鈴木委員】司法試験というのは,今,中川委員がおしゃったように,その後の司法修習を受ければ法曹として十分やっていけるという能力を判定するということだろうと思います。具体的に申しますと,今は1年半の修習ですけれども,それを法科大学院が出来たということで短縮しても,現行のレベルと比較しまして,理想的にはより高いレベルということになるのですが,少なくとも現行のレベルと同程度にはなるという能力を判定するのだろうというような気がします。俗なことを言えば,司法修習に耐えるかどうかということだろうなという気がします。
 ただ,現実問題としましては,1,500人から3,000人という目標と,当面の22年までに3,000人ということでございまして,それをどういうカーブで実現していくかという問題もございますし,それをどういう体制でもっていくかということで,やはり年々の合格者がどのくらいかなということが,その準備に一番影響してきますし,殊に現行制度と併行いたしますので,修習を実施するときにどれくらいのバランスになるか,受け入れる側として目途をつけなければいけない,そういう問題が出てくると思います。
 現在1,200人でございますが,1,200人ないし1,500人にする過程では,単に研修所のキャパというよりも,実務修習の受入れをどうするのかというところを,あらかじめ検討してやっていかなければならないということがあり,今後もそういう現実的な問題はあるかなという気がします。

【宮川委員】中川委員がおっしゃったように,本来,法科大学院での教育が充実して,そこできちんと教育が行われて,かつ,厳格な成績評価と修了認定が行われていれば,本当は,司法試験というのは不要なのかもしれないですね。
 一つの理想型を考え,そういう理想的な法科大学院での教育というものを考える。それを修了した者としての能力を持っているのか,その能力についてはすべて試すことはできないですから,いくつかの部分の能力についてそれを確認するというテストだと。過渡期においては,スタート時の何年かにおいては,なかなか法科大学院でそういう理想的な教育が行われ難いということがあるかもしれません。その場合には,合格者数が3,000人をはるかに下回るということもあり得るかと思います。
 しかし,法科大学院制度が成熟していく中で,3,000人を相当程度超える合格者が毎年出てくるということになっていく可能性がある。そういう変化に対応できるような修習制度を作るべきなので,受入側の苦労は私も理解できますけれども,できるだけ制約にならないような事後のシステムを作るということが大事だと思います。

【磯村委員】今,過渡期についてはという御議論がありましたが,例えば,法科大学院が成熟すれば新司法試験の在り方が変わってくるけれども,当初はそれなりに試験に重きを置かないといけないのではないかという議論もあるように伺っておりますが,そこがもう一つの大きな問題なのではないかと思うのです。
 法科大学院が本当に成熟するかどうかを見定めてという議論は,結局10年,20年たっても,その当初のやり方がなかなか変えられないという結果につながりやすいという面があって,制度を大きく変革しようとする時期に,試験のやり方も思い切って変えるという決断をするのか,やはり経過措置的に少し様子を見るというような発想をとるのかということで,いろんなものの見方,試験のとらえ方が随分違ってくるのではないかというように思います。

【宮川委員】試験制度そのものは,従来のものと同様とせずということになっているわけですから,短答式においても,それから論文式においても今までと全く違ったイメージのものを構築しようと,こういうことで私たちも集まっているわけですよね。

【磯村委員】おっしゃるとおりなのですが,例えば,採点の仕方をどうするかというときに,将来的には別としても,当初は,やっぱり論点をある程度積み上げて,細かく点を付けていくということがしばらくは必要なのではないかという意見が一方にはあって,他方では最初から,ABCDぐらいの大きな枠で行けばいいという議論があるとすると,同じように試験制度を改めるといっても,そこに考え方の違いが反映するように思います。

【柏木委員】さっきから基本理念に返ってしまいますけれども,基本理念としては,従来の司法試験が点で個人の能力を測定していたものに対して,今後の法科大学院における教育,それに司法試験は,プロセス重視型ということになっていたと思います。
 そうしますと,私の理解するところでは,理念は法科大学院を修了すればその7割8割はそのまま司法研修所に送り込んでも十分な能力がついているはずであると,それを確かめるのが司法試験だというような理解ではなかったかという気がするのです。法科大学院の修了を単なる受験資格と見るのか法的能力が備わっていると推定するのかという点は,そういう理念から見れば正に推定であって,その推定が正しいかどうかを確かめるのが,司法試験だということになるのだろうと思うのですね。ですから,あくまで理念としては,数を絞るための選抜ではなく,資質の確認であると,そういうものが新司法試験の理念であるべきであろうと考えます。

【小津委員】ただ今の,あるいは他の方のお話で,数ありきではいけないということは,誠にそのとおりで,そういう意味であれば,資格試験と言いますか,一定の水準が観念的にはあって,それをクリアしているかどうかを判定するべきであって,そういうことについては私も賛成であります。
 それから,プロセス重視,あるいは,プロセスとしての法曹養成でありますし,法科大学院を卒業した者が受ける試験ですから,本来,法科大学院の課程をきちんと修了していれば,観念的に設定したレベルに到達しているべきであると,逆にそうでない人が法科大学院を卒業してくるということがおかしいと,こういう観念的なものがある。ただ,観念的にそうであるからといって,やはり試験をする側の立場からして,法科大学院を卒業していればその水準に達していると推定するというのはきつすぎるであろうと思われます。
 きちんとした能力があるということを確認するというのは,確かに確認するための試験だという表現になるであろうと思います。
 しかし,推定までしてしまうのは,当分の間難しいのではないかと思います。制度が本当に安定してきて,法科大学院の力がつき,逆に言うと,法科大学院がそういうものでなければ存立し得ないということになれば,それは法科大学院を卒業したら大体大丈夫ですということになりますし,そうなっていただきたいと思っております。
 7割,8割というのは,法科大学院を卒業した者の2割しか司法試験を合格しないということだと,一体司法試験と法科大学院の関係は何なんだということになりますから,トータルとして見た場合には,かなりの高率で司法試験を合格することになるのだと思います。
 ただし,特にスタートした時点では,それぞれの法科大学院がいろいろなことをやられると思いますし,準備状況もあろうかと思いますから,個々の法科大学院から見た場合に,自分のところの法科大学院を卒業したのであるからその中で8割が合格する司法試験でなければ司法試験の側がおかしいのであるという議論になると,それは少し議論が逆ではないかという気がします。

【中川委員】今,小津委員が言われた試験と法科大学院の関係を少し別の切り口から考えてみますと,実態的にはですね,法科大学院が理想的なものになるというのは,なかなか時間が掛かると思うのですね。教官の質とか数とか,急に理想的な人達が教官で来るわけではないですよね。生徒の方は,かなり将来的に法曹になりたいという人が多いと思いますね。必ずしもそういう人たちばかりではないと思いますけれども,やっぱり法曹志向の人が集まってくる。だけど教官の方はですね,急に実務を一気に教えられるかなんてそんなにならないと思うのですね。だから試験の方が多少リードする面が僕はあったっていいと思いますね。つまり,こういうふうなことを身につけてほしいのですよという内容を持ったような試験を施行して法科大学院の方も頑張ってくださいよと。だから卵と鶏のような関係になると思うのだけれども。理想的に求めている法曹像というものはこういうものなのですよと試験を通じて具現化する,それを目指して法科大学院の方も頑張っていくという,そういう良き関係が築ければいいかなと思いますね。
 だから若干無理な面があるとしても,その試験の内容の中にその求めているものを盛り込んでいくと。それは具体的にはいろいろとあると思いますが,いわゆる法の推論の問題もあるでしょうし,あるいは,経済とか実務とか,法の関係とか,そういうことも入れたって少しはいいと思うのですね。文化的なもの,一般教養的なものも入れたらいいと思う。そういうもの,そういう内容の試験も考えてもいいのではないかという気がしますね。法科大学院と試験との関係をいいものとしていくという切り口があるのではないかと思いますけどね。

【宮川委員】司法試験によって法科大学院に良いメッセージを送るということは,スタート時においては必要なのかもしれませんが,これは非常に慎重にやらないと,方向性によっては問題になるかとも思いますね。基本は理想的な法科大学院の教育像というのを我々がしっかり踏まえて,それにのっとった司法試験を構築するということであり,それが良いメッセージだと思いますね。

【小津委員】今の点は,中川委員がおっしゃることも,宮川委員がおっしゃることもそのとおりで,例えば,この在り方検討グループで我々の報告書をまとめる時にその辺りをどういう書き方をするかという問題が出てくると思います。
 現実に司法試験の考査委員の中核になられる方々は,現に法科大学院を担われる方々になると思いますので,現実にそこが大きくずれることもないかなと思います。また,試験をする側としては,自分たちであるべき法曹像は何かということをきちんと踏まえた上で試験をする,という気持ちで試験を考えていくことが大事ではなかろうかと思います。
 もちろん,法科大学院の教育内容を踏まえない試験というのは望ましくありませんけれども,あまりそのことにばかり目が行きますと,すべての法科大学院で絶対にやっていることでないと試験に出してはいけないということを重視しすぎる弊害が出てくるかもしれないという気もします。

【磯村委員】私の先ほどの発言の趣旨は,経過期間については別途考えるべきだという意見を私自身が持っているというわけではなくて,むしろ科目別ワーキンググループでの議論でそのような御意見もあるように聞いておりますので,ここで理念として議論するというときに,そことの食い違いがあり得るということを申し上げたかったということです。
 私はどちらかといえば,資格試験としての性格を強調する方向を考えておりますが,資格試験として考えても非常に難しいのは,さっき鈴木委員がおっしゃられたことと同じことを別の言い方で言うことになると思いますが,何が必要なレベルなのか,その資格試験合格のために到達すべきレベルはどのようなものかということについてのコンセンサスをどう得るのかという点だと思います。例えば,自動車運転免許取得のためのペーパーテストで90点取らないと合格しないというのは,これは50問の中で45問は正解しないとダメだというレベル設定が客観的になされているのだろうと思いますし,医師の国家試験でも各大学医学部での教育を前提として一定レベルの択一的な試験が行われているのだと思いますが,新司法試験については,そのレベル設定そのものが難しいという気がいたします。

【釜田委員】時間の関係もございますので,この議題につきましては,今日はここで一応閉じさせていただきまして,また,先ほど予定しました各ワーキンググループとの交流の場でも相互に出てくるかとも思いますので,その時にまた御意見をちょうだいしたいと思います。ありがとうございました。
 今のような御議論を踏まえまして,短答式試験において議論すべき問題は何かという点に移らさせていただきたいと思います。庶務担当の方で整理していただきました論点メモ(注;再構成の上,次回以降の議事録に添付することとされた。)を御覧いただきながら,まずそこで整理していただいた順序に従って,御意見を伺えればと思います。

【横田人事課付】この論点メモは,庶務担当の方で取りあえずまとめさせていただいた案に過ぎませんので,このようなまとめ方でよろしいのかについても御協議いただきたいと考えております。ですから,これはこのまま資料として添付させていただくのではなく,この場で御指摘を受けた後,更にきちんと整理した形とさせていただきたいと考えております。

【磯村委員】前回の宿題については,意見を述べるということではなくて,どういう論点があるのかということを各委員が提出するという話であったので,こういう意見があったというまとめ方は,論点メモとしての範囲を超えているのかなという気がしています。それぞれについてもちろんいろんな意見があり得るわけですが,検討すべき議論項目としてこういうものがあるということが,本来の出発点ではなかったかと思うのですが。

【小津委員】確かに御指摘のとおりで,そういう意味では,こういうことを検討するべきだという意見があったという,その項目の資料の方がふさわしいかもしれないと思いました。

【宮川委員】この論点メモをどのように公表するのかということは,後に議論することとして,これを参考にしながら議論したらどうでしょうか。

【釜田委員】そうですね,これを手掛かりとしていろいろと御意見をお出しいただければいいと思います。

【小津委員】全体として見ますと,このグループで考えるべきことと,それぞれの科目別で考えることと,科目別の各グループでは考えにくいから,共通のこととして考えなければいけないけど,在り方として考えるにはふさわしくないという3種類のものがあるような気がいたします。

【中川委員】短答式と論文式の区別をした方が良いのではないかというのは,当たり前なんですけれども,短答式で問うべきものは,基本的な概念やコンセプトがきちんと理解されているかということが一つ,それから知識に隔たりがないか,これはまんべくなくですね,そのいろいろな法分野についての理解があるかと,そこら辺を試すのが短答式の役割ではないでしょうかと,一方,論文式の方は,与えられた事象についての分析,問題点の整理をできるのかなどを踏まえ,円満な常識を取り入れた妥当な結論が導き出されるかどうか,そういう総合的な能力を確認すべきだと,そういうふうに僕は勝手に考えましてですね,短答式と論文式の役割をある程度きちんと分けた方がいいのではないかなという意味でこれを申し上げたのです。
 だから,試験の形式もこういうことになりますとかなり違ってくるだろうし,出題の中身とかいろいろな面でですね,どういう役割分担を負わせるのかというのが一番大切ではないかと思います。

【釜田委員】今おっしゃっていただいた点は,私の理解では既に今までの審議経過に基づいて,今回出来ました新司法試験法の中においても,第3条でしたか,短答式による筆記試験,論文式による筆記試験がそこで試す能力といいますか,何を問うのかということについて,今おっしゃられたような形で分けられているのではないでしょうか。

【中川委員】これですね,必ずしもはっきりしないんですよね。3条ではですね,短答式は専門的な法律知識及び法的推論の能力を有するかどうかの判定だと,こう言っているんですよね。論文式は専門的な学識並びに法的分析構成及び論述の,論述というのはちょっと違うのだろうけど,何か似たようなことを言っているんですよね。それで,その4項というものがあってですね,司法試験においては,うんぬん,知識を有するかどうかの判定に偏することなく,法律に関する理論的かつ実践的な理解力,思考力,判断力の判定に意を用いなければならない。
 だから,三つ合わせて考えますと,同じようなことをごちゃごちゃと言っているような気がしましてですね,それは分からないでもないのだけど,試験という場面で論文と短答式をやるのだったら,やはりちょっと区分けをしないとですね,同じことを2回しても仕方がないのではないかと,目的はこれではっきりしているわけですけど,と思いましてですね。

【鈴木委員】4項はまとめですから全体でどういうことかということですが,論文と短答では一応言葉の上では書き分けてあるわけです。問題は,中川委員がおっしゃったように,どういうふうに盛りつけていくのかということだと思いますけど,基本的には違うのだろうと,違うと言うと変ですが,何を試すのかというのは,それぞれの役割があるだろうということで,中川委員がおっしゃったように,短答はどちらかといえば基本的な理解・知識を問うのだろうと,論文はもう少し具体的事件の処理能力と言いますかね,そういうものを問うだろうということで,短答式,論文式それぞれの試験内容をどうすべきかという中で,自然に出てくる議論ではないだろうかという気がしますね。

【磯村委員】この点は各科目のワーキンググループでも検討されている問題だと思うのですが,在り方検討グループで議論すべき必要があるのは,例えば一つのワーキンググループでは,現行短答式試験と同じような形式の方がいいという議論がなされ,他のワーキンググループではもっと基本的な,パズル的な性格をあまり持たないようなものがいいということになった場合に,各科目で同じ短答式試験でも出題傾向が違うということでいいのかどうかという点ですね。
 そのような場合,短答式試験のコンセプトを統一的にどちらかの方向にまとめるということが必要であって,それがこの場であり,ワーキンググループとの相互の意見交換の中でそれを調整していくことが必要ではないかと思います。
 かなり多数の基本的な問題を出すのか,あるいは,むしろ問題数を絞って,短答式においても考えさせて一つの答えを導かせるような問題にするかどうかについては,大きく対立しているところではないかと思います。

【小津委員】試験のレベルでいえば,短答式のほうが基本的と言いますか,基礎的と言いますか,という気がします。第3条に「専門的な法律知識及び法的な推論の能力」と書いてあるところの「法的な推論の能力」をどの程度重視するかということになります。ここを重視すると何か非常に考えさせるものを短答式で工夫することになります。専門的な法律知識の方は,正に専門的な法律知識ということで。

【鈴木委員】「法的な推論の能力」,これ自体も何を意味するのかというところから本当は始めなければいけないのでしょうけども,それがどういう形で問えるのかと,例えば,現在の短答式の試験がそれを十分試しているのかという問題だろうと思うのですね。
 一方で,専門的な法律知識というのは,ある意味では明確のような気がしますけれども,ただ条文的な知識を問うのか,そうではなくて,むしろ理解に踏み込んだ知識ということにするかということですが,いずれにしましても,やはり短答式の試験というのは,論文で試される法的な分析,構成,論述の能力ということの前提としてですね,法律の議論というのはやはり基本的な知識がないと論理的な思考ができないということを踏まえてですね,その内容を聞いていくと。
 そういう意味では,法的な推論の能力は,もちろん3条で明確に書いてありますので,無視はできませんけれども,あまりそこに重点を置くと,現行短答式をどう評価するかにもかかわりますけれども,どこかに出ていたパズルのような問題になってしまうということになるし,逆に基本的な法律の知識となるとある程度幅広い知識を聞いた方がいいのではないかと,この前も少し申し上げましたけれども,あまり問題が少ないと,ある分野なんか出ないからおよそ勉強しないとそういうことになってしまうと。そういうことがないようある程度幅広い知識理解を聞いた方がいいのではないかなとそういう気がいたします。

【中川委員】私も正直なところ,短答式を拝見しまして,何か気分が悪いですね。もちろん私の知識では解けないですね。自信を持ってこれ間違いないというのは,多分5分の1くらいしかないですね。結局何かに偏ってしまってますよね。問うているものが何なのかが良く分からないのですよ。問われているものが何なのか,知識なのか,あるいは今委員がおっしゃった推論なのかですね。何を一体問題にしているのかなという辺りがどうも良く分からなかった。
 それで,たまたまこれ御参考になるか分かりませんが,最近3年ぐらい前にですね,ニューヨーク州の弁護士試験を受けた人がいまして,どういうふうな内容だったって聞いたところ,これは2日間あって,1日目は,ニューヨーク州法の問題のみらしいんですが,全部短答式なんですね。2日目の全国統一試験,これも短答式のようですけれども,結局ルール,つまり基本ルールというものを問う試験らしいんですね。ああいった判例法の国ですから,結局一つの事象に対して確立されたものの考え方とか,判例とかルールとかが,それが頭に入っていないと解けない問題らしいんですね。だからいくつか解答が並んでまして,この中から正しいものを選べというやり方らしいのですが,それを解くためにはきちっとルールを理解していなければいけない。そういう問題をですね,ちょっと忘れましたですけれどもかなり数が多くて,それを何時間か掛けて,午前,午後とやるらしいのですけれども,いろいろな問題が出てくると,非常にバラエティーがあって,しかし根本には,基本のコンセプトとか,基本のルールとか,そういうものが理解できていないと解けない,こういう試験らしいんですね。それはそれで一つの非常に明快なメッセージを発しているわけで,アメリカらしい,あるいは判例法の国らしい感じもしますけれども,一つのやり方だろうなと。
 それと比べますと,ちょっと我が国のものは,大分違ってきてますよね趣が。あまりにも技術的,しかも何を問われているのかが,今一つはっきりしないと,何を勉強したらいいか迷ってしまうのではないのかなと,そんな感じがいたしました。

【宮川委員】私も短答式の平成10年頃からの問題を相当程度解いてみたんですが,芸術的と感じるような問題がある。一つの傾向としては,いくつか選択肢があるわけですが,間違っているものの組合せを選べという出し方が多いですよね。
 今,中川委員が御紹介なさったMBEの問題も日弁連で翻訳したものがありますので,それを前に解いてみたことがあるのですが,これは,正解を求めるものなんですね。法準則について正確な知識があればですね,スラスラと解いていけるという,問題の素直さに大分差があるような気がしました。我が国の司法試験問題は,法的推論ということにこだわり過ぎているのではないかと,解きながら感じました。また,司法試験法にいう法的推論というのはこういうものを想定しているのであろうかと。作題者はそうなのだというふうにお考えになっていらっしゃるのかもしれませんが,ひょっとしたら違うものではないのかと感じました。
 法律学を学ぶ時に,重要な法律条文とか,法原理や概念についての基本的なところとか,あるいは,判例や学説の主要なもの,こういったものについては正確に理解しなければいけない。そういう正確な理解があるかどうかということを確かめようというのが短答式で,短答式と論文式は役割分担をするということであり,今度の新しい新司法試験法というのは,二段階に分かれているのではないかと思うのです。短答式で確かめる法的推論能力とは何かというと,そういう基礎的な法知識,専門知識,それを踏まえて簡単な事実を与えて,果たしてこの事実に対して適用されるべき法準則は何かということを考えさせ,また,結論を考えさせる,そういう程度の推論ですね。そういうものが短答式試験が担っているところだと思います。
 そこから先の,法原理,あるいは概念についての理解を使って更に複雑な事例を解析したり,分析したり,論理的に考えたり,あるいは論述したり表現したりする力を試すのは,これはもう論文式だということで,役割分担されているわけなので,そういうものとして構築していくことになるのかなと。その場合に,知識がどのレベルのものかということについては,基本的な知識を問うのであって,例えば,民法なら民法の標準的な基本書には必ず書かれているような,そういうものであると,それを超えないということ,そういう設問を作るのであると思います。

【磯村委員】私はこれまで問題作成に全然関わっておりませんが,研究者という立場でこれを見たときに,もちろん非常に難しい問題もあるのですが,かつての知識偏重問題に対するアンチテーゼとして現在のような問題が作成されているという面もあり,その点では積極的に評価できるところもあるのではないかと思います。
 かなり以前は,通説判例によれば正しい命題はどれかというような問題が多くて,しかもゼロ解答があり,ある意味で知識の正確さを問うというものでした。知識の正確さを問うこと自体は必要だと思いますが,その当時の短答試験は,同時に第一次段階的な選抜試験であったということで,知識偏重主義の弊害が顕著であったように思います。
 法律家が議論をするときに,あるところで一定の考え方を採ると,他のところでこういう考え方を採るということはあり得ないということがよくあります。現行短答式問題の中には,そういった観点を意識した問題が少なからず含まれているように思われ,確かに法的な推論能力というところに少し意識が偏り過ぎているかもしれませんが,新しい短答式試験でもそうした趣旨を尊重しながら,広く基本的な知識を問うことを主眼として,その中で何点以上取れば必要な法律的知識が備わっているというような見方をすればいいのではないかと思います。
 これは,前回も論点として出ていますが,短答式試験が第一次段階的な選抜として使われ,かつ知識問題を問うことになると,結局,みんなが解ける問題では第一次段階的な選抜にならないので知識の細かさを要求することになり,それがまた勉強の仕方に悪影響を及ぼすという,そういう循環になっていたのではないでしょうか。

【柏木委員】短答式と,それから論文式の区別に関してですけれども,現行の試験は確かに段階的な選抜という性格がありますが,新司法試験では段階的な選抜は無くなるわけです。そうしますと,そもそも基礎的な能力を短答式に任せ,それから分析力を論文式に任せるというような区別の仕方がいいのかどうかということが,ちょっと疑問に感じました。
 と言うのは,論文式はまだ議論が進んでいないのですけれど,今までの論点式が批判されているとすれば,どうもかなり複雑な事例を与えて,解答させるということになるのではないかと想像するのですが,そうしますと問題の数が非常に少なくなる,そうするとまんべんなく知識を持っているかどうかということがテストできないわけです。短答式は,問題の数を多くできるわけですから,まんべんなく知識を持っているのかということが測れる。まんべんなく知識と分析力を持っているかを短答式で測り,深い能力を持っているかどうかは論文式で測るという,こういう役割分担ではないかと思っていたのですけれども。

【磯村委員】短答式と論文式の違いのもう一つの要素は,短答式試験は,どういう工夫をしても,結局どれか一つが正解だという意味では正解を発見する出題とならざるを得ないところがあります。ところが,正解志向はいけないというのが法科大学院教育を必要とする一つの大きな理由であったと思いますし,特に従来の法学部の専門教育等で十分に考慮されていなかったのが,事実そのものの揺らぎだと思います。一定の事実を所与の前提として法的問題を検討しなさいということが,これまでの論文式試験の出題の仕方であったと思うのですが,事実そのものが実際に動いていく,あるいは一致していない,例えば,当事者Aはこれこれの主張をし,当事者Bはまた別の主張をし,さらに第三者Cはこういうふうに主張したというように,それぞれ主張の間に矛盾があり,各当事者の主張自体の中にも矛盾があるという状況の下で,どういう問題を拾い上げていくかを問う方法が,少なくとも一つの在り方として考えられるのではないかと思います。

【宮川委員】それは短答式試験で可能だと。

【磯村委員】いいえ,短答式試験はそうなり得ないだけに,論文式試験ではそういう出題が考えられるという趣旨です。

【宮川委員】それなら全く異論ありません。

【小津委員】これまでの話に関連して二つ。宮川委員が芸術的だと言われました今の司法試験の,恐らくその一つには,例えば,必ず五つ選択肢がなければいけない,こういう枠組みに合わせようとするために,何とかと何とかの差はいくつかというような設問になり,余計に見かけがテクニカルな印象になっているのかもしれません。その辺りは科目別の先生方と御議論する中で考える必要があると。
 二つ目は,ここにおられる委員の方は,当然それを前提としておられるわけですけれども,知識という場合に,何条にどう書いてあるというだけを言うかというとそうでもなくて,基本的な概念はどういうことかということも入っていて,これは基本的だけれでも結構難しくて,しっかり法科大学院で勉強しないと本当に正確な理解が出てこないような面もあるだろうと。
 先ほどの交通法規の運転試験の例であえて申しますと,「赤信号は止まれということだ」ということは一つの知識ですけれども,「赤信号だけれども自分としては行っても大丈夫だと思うときは行ってもいいのか」というと結構深い内容があるのですけれども,運転する人にとっては絶対に分かってないとだめなことなんですね。そういうような意味で基本的でイエスかノーかで答えられるはずだけれども,いわゆる単なる知識と言われていることとは違うのが結構法律の分野ではあるのではないかなと。

【中川委員】三ヶ月章さんが書いておられることで,皆さんは百も承知でしょうが,僕は非常にそれが刺激的だったのでそれを書き留めてきたのですけれど,ドイツのシュヒンゲンという法律学者が法律家の基準像ということをお書きになっている中で,若い法学生に与えなければならない教育とは何かというのをいくつか書いておられるのですけれども,それが非常に今の議論にぴったりな感じなのです。まず,やっぱり法律知識が一番,だけどこれは重箱の隅の知識ではなくて,法が規律する事柄の深い本質,なぜそれを規律しなければいけないのかということを理解させるとか,比較部分に関心を持たせる,ただ,他の国ではそれがどういうことになっているのかということも含めてですね,法律知識がまず大事であるというのが一つなんですね。
 それから,社会的・経済的理解が必要だと。これは物事を歴史的に見る,歴史的にその法律はどうなっていたか,あるいは,文化として見る訓練,つまり与えられたものとしてではなくて流れとして見る必要があるだろうとか。それから会計学,経営学,社会学などの隣接領域ですね,これとの関係は一体どうなっているのかという見方も必要だと。いわゆる法的な思考ということですね。また,達意の文書を作成する能力,きちっとした文書,説得力のあるものを書きそれを口頭で表現できるか,そういう能力が大切ではないかとかですね。あるいは,教養という言葉で,これは法秩序の底にある秩序一般の原理についての的確な理解,もっと更に深い秩序があるのではないかと。確かにありますよね掟(おきて)みたいなものが,そういうものについてもきちんとした理解が。それから,品性だとか決断力とか,そういうこともおっしゃっているのだけれども,今,小津委員が言われた,知識というものを深く掘り下げて考えていく必要がある。いわゆる表面知識ではなくて,本質的なものを理解してもらうと,それをできるだけ試すようにする。
 それから,論文式の中には,ちょっと先走った議論ですが,今の文章表現能力とかですね,そういうものも当然テストの中身に入ってくるべきだと思いますよね。これは非常に参考になる論文だと思うんです。

【磯村委員】御意見に全く異論があるわけではないのですが,他方で法律学を勉強するときに基本的なパーツを正確に押さえているというのは,やはり非常に重要であって,例えば,能力の制限や意思表示の瑕疵(かし)というのはどういうものであるか,要件・効果は何かを正確に理解していれば,応用的な問題も,そうした基本的パーツを組み合わせて考えることができる。基本的な知識や理解が単なる暗記になってはいけないんですが,試験で問える知識の質というときに,やはりそういう基本的なところを押さえているかどうかということは重要であって,そういうものがなければ,それらを組み合わせて推論を行うという基礎を欠くことになります。法律を全く知らない人も一定の事例を与えれば,自分はこう考えるといくらでも言えるわけですが,それがなぜそうなるかということを説得的に説明できるかが,法律家とそうでない人の決定的な違いであって,そういう意味で基本的な概念や制度を正確に覚え,理解するということの重要性をそれなりに強調する必要性もあるのではないかと思います。

【釜田委員】この前の御議論でも,インタビューのことをおっしゃいましたよね,あれは大事ではないかと。今は口述の試験があるわけですが,今回の改革では,そういうことはロースクールで鍛えられるであろうということですから,試験の形としてはなくなるということになって,確かに今おっしゃられたようなことは,またぐるっと回ってロースクール,あるいは,もっとそれ以前の教育の課程全部が絡むような面もございますね。ロースクールに入るまでに既にそういう資質が備わっている,幾分そのようなものに対してロースクール教育をやって鍛えていくことかなと。なんか全部ぐるぐる回ってそこにつながっていく感じを受けるのですが,今回の司法制度改革のロースクールでの教育を厳格にやって,その完成品を対象にして試験をするのだとおっしゃっているわけですから,今のことが全部つながってきて養成校の方でも責任が非常に重いなということも感じるのですが。
 現行の司法試験ではずっと数を増やしてきたわけですが,その中で研修所の先生方の方で,この間ずっと受け入れてこられた修習生の方に対する何か印象,感想というか,先ほど修習に耐える能力ということをおっしゃいましたが,現行の試験制度の下では何か問題が出てきているようなところがあるわけでしょうか。

【鈴木委員】やはり多くの教官が言いますのは,正解志向であるとか,殊に司法試験塾のマニュアルというか,教科書というのでしょうか,あれしか読んでなくて,先ほどお話に出ていた基本書なんか読んではいないと。基本書というのは試験に出ないことを含めて体系的に書いてあり,ですから応用が利くわけですけれども,塾のテキストは必ずしもそうではないと。こういうことについてはこういう答えであると。そういう意味で正解志向というものが非常に強くなっているというふうに一般にはそう考えています。
 私はまだ修習生を教えだして1年ちょっとなものですから,以前との比較というものがちょっとできないのですが,昔と比較すると,やはり自分でものを考えないなと。早く答えを教えてくれというような傾向が強いのかなという気がします。ただ,それが今の司法試験の問題なのか,教育一般の問題なのか,社会一般の問題なのか,そこのところはちょっと私としては,何とも言いかねるところですが。

【釜田委員】いろいろな意見をお出しいただきありがとうございました。短答式に関しまして,いろいろ論点としてお挙げいただきました部分につきまして,何か御意見ございましたらちょうだいしたいと思いますが。

【宮川委員】先ほどからの議論をまとめてみますと,短答式の出題の在り方として,主として知識を問うと,その知識というのは,基礎的な,基本的な知識であって,法準則の背景にあるもの,法原理の背景にあるものについての理解を含めてですね,裾野の広い知識を問うと,そういう意味では,今の短答式の試験よりは,もっと問題は素直で基礎的で平易なものになっていくというそういうイメージで良いのでしょうか。今までは,憲法,民法,刑法のこの三つ,60問でしたけれども,それに行政法,両訴訟法,商法が入るわけですから,範囲はすごく広がるわけです。ですから今までとは違って,問題が出しやすくなるということはあるわけですよね。結局,今と比較すれば,平易な問題を多数問出すことが可能であり,そういう方向とする,ということでしょうか。
 ただ毎年,毎年,問題を作っていくわけですので,1年に各科目で作れる問題数には限りがあるのではないでしょうか。私は20問ぐらいが限度ではないかと思いますけれども,そのようなことを目安にしながら総計していくと,総数で100問から120問ぐらい,ですから今の2倍近い,そういうような数の問題を作ることは可能でしょう。ただ,人間にはスピード型と熟慮型がありますから,スピードを競わせるようなやり方,つまり短時間で大量の問題を与えて,解答させるということではまずいかなと。ある程度ゆとりを持った時間を与えて,解かしていくと,そういうイメージなんでしょうか。

【釜田委員】これはどうでしょうか。

【鈴木委員】私も問題の数としては,100ないしもうちょっとと,トータルでですね。ある程度数が必要だろうと思いますが,ただ,形式自体を今より簡素化と言いますか簡易化すれば,トータルの時間がどうなるかということは,私まだ判断しかねるところです。先ほどから話していた現在の短答式で,あれを解くには時間が掛かるだろうという気がするのですが,ああいう形式ではなくて,法的推論能力というものを含ませるという面でも,問題形式としては,簡単にすると。そうであれば問題数が多くなってもトータルで今の60問が120問になったから当然倍掛かるということにはならないのではないかなという気がいたします。

【磯村委員】個人的な経験ですが,私が受験した当時は,90問で3時間であったと記憶しているのですが,時間が不足するということはあまりなかったように思います。現在の問題は,一問一問最後まで読んで内容を理解するのに時間が掛かるのではないでしょうか。
 もう一つは,出題の仕方なんですが,これはあまり議論されていないのですが,従来の短答式試験は,六法を使わないということを当然の前提として考えていたのですが,それがそうでなければならないかどうかも議論の対象としていいのではないのかと思います。つまり条文の文言そのものよりも,その内容を正確に理解しているかどうかを問うということであれば六法を使うこともあり得るように思います。知識重視が行き過ぎると,例えば,商法などで改正規定を正確に覚えているかどうかで差がつく可能性もありますが,それだと,本当に個々の知識だけを問うということになりかねないという気がいたします。

【釜田委員】今,六法を使用してとの意見,非常に具体的なやり方に入っているわけですが,そういうことを含めていかがでしょうか。

【小津委員】短答式の問題数,あるいは今の六法の問題というのは,短答式試験の在り方を考える上での手掛かりとなりますので,ここで話が出ております実態,今議論されておりますイメージについては,私も賛成なんですけれども,この場で問題の数を決めてしまっていいかということになりますとまた別問題でありますので,ある程度ここで議論をして,また科目別の先生方と議論をするというのがいいと思います。

【磯村委員】もう一つは,これも同じように議論していただく問題提起ですが,例えば,問題をたくさんプールして,その中から出題するというような発想でもいいのか,過去問は繰り返しては出さないということであるとすると,毎年新しい問題を作らなければいけないという大変さがあるわけですが,各基本科目について基本的なことが理解できていればいいのだということであれば,同じような問題が何回出されても正しく解答できればそれでいいのだという考え方もあり得るように思います。

【柏木委員】先ほどの六法全書の問題は,実際に法律の仕事をやっていますと必ず六法全書を使うわけで,しかも六法全書は常に手元にある訳ですから,六法全書を使った上での基本的な理解ができているかどうかを試すべきではないかなと思いますけれども。

【中川委員】それと,あれはどうなんですかね。実務と法律の架け橋をやるのだということを言っていますよね,法科大学院で。だから短答式のレベルでそのいわゆる実務的理解がどれくらいできたかということは試す必要があるのかないのかですね。

【柏木委員】実務的とはどういう意味なのですかね。なにが「実務的」なのかはよく分からない面があります。

【中川委員】だからローヤリングとかやるというわけでしょう,例えば。

【柏木委員】ローヤリングのことですか,実務的というのは。

【磯村委員】私が考えましたのは,例えば,従来ですと民法なら民法だけの問題を出すことになっていたわけですが,民法の事例を問う問題の中で証明責任や主張責任の問題を含めて,理論と実務を架橋する法科大学院教育の中で当然扱われるべき内容についても当然問うことができるという程度のイメージで,模擬裁判とかローヤリングとか,そういうところまで広げる趣旨ではありませんでした。

【鈴木委員】磯村委員のおっしゃった意味であれば,まだ話が出ていませんが,短答の融合をどうするかということではないでしょうか。

【磯村委員】それに近いですね。

【鈴木委員】融合すれば独りでに実務的な問題になってくるのではないかなと。もう一つは,知識の内容としても,実務家になる以上は,我々の立場からということになるのかもしれませんけれども,判例通説というものをきっちり押さえて欲しいというところがあって,そういう意味で,実務的というところがあるのかなという気がしますが。

【中川委員】出題の仕方も,例えば,法概念そのものを問うということもあるでしょうし,事象を与えて,その事象に含まれている最も基本的な問題は何かという逆的,何と言いますか,逆さまにしたやり方もあるでしょうし,その辺は起こる問題ではないですか。

【柏木委員】何か実務的というのは,ちょっとミスリーディングだなという気がしています。おっしゃるとおり,融合的な問題というのは全く問題ないと思うんですが,ローヤリングの問題は短答式では無理だろうと思います。

【中川委員】無理ですね。それは私もそう思います。

【宮川委員】ただ,従来法学部で教えてなかったようなことで,磯村委員がおっしゃったことと関連しますが,民法の問題であるケースを与えて,簡単な事例を与えて,これでもし訴訟を起こすとすれば訴訟物は何でしょうかと,原告としては何と何を主張立証しなければいけないでしょうかと,そのような問題を出すとすればそれは実務的な問題ということになるんでしょう。

【柏木委員】実務の定義がそういう定義だったら私は全く問題はないんですけれども,大いに賛成なんですけれども,ちょっと実務的という意味がよく分からなかったものですから,むしろそういうことでしたら融合的問題と言った方がいいのかなという気がしないでもないのですけれども。

【中川委員】実務的,何というか,実務を含めた問題ということなんですかね。

【磯村委員】例えば一定の事実関係が示されていて,弁護士としてこれを訴訟で争う場合に,その考えられる請求権は何かというような作題で,1から4の請求権まではあり得て,5の請求権は示された事実から全く導けないということであるとすると,それは実務的問題という見方はできるのではないかと思うのですけれども。したがって,それほど厳密に考えていたのではないのですが,少なくとも従来の理論的,学識的な知識というよりは,もう少し実践的なところにつながるような基礎的問題というイメージです。

【宮川委員】弁護士らしく行動するとしたらどういう答えになるのかという。

【磯村委員】例えばそういうことですね。

(4)  次回の予定
【釜田委員】ありがとうございました。そろそろ予定の時間が近づいておりますので,今日いろいろとお出しいただきましたことは,今度の各グループの委員の方々との会合の場でももう少し相互に深まってくるかと思いますので,今日は一応短答式につきましては,ここら辺りにさせていただきたいと存じます。
 次回でございますが,次回の7日は,先ほど予定させていただきましたように,最初に推進本部から御説明をいただくと,それをめぐっての意見交換をさせていただきました後で,論文式の問題について中心に御意見をちょうだいしたいと思います。

【宮川委員】短答式に関連して当在り方検討グループで議論しなければいけないと思うことが,まだいくつか残っていると思いますが,それらは科目別のグループの方々との意見交換をした後で検討するということでよろしいですか。

【釜田委員】そうですね,そうなると思います。それでよろしゅうございますか。そういうことでもう一度そういう場を持つということにさせていただきます。

( 論点メモの取扱いについては,協議の結果,庶務担当において,各委員から提出された論点に絞った形で整理し直すこととされ,改めて本検討グループの会合に諮った上で,次回以降の議事録に添付することとされた。)

【釜田委員】お忙しいところ長時間にわたりましてありがとうございました。これで閉じさせていただきます。次回5月7日は早朝になりますが,10時から御予定いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。ありがとうございました。