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はじめに

1  新司法試験実施に係る研究調査会設置の経緯

 司法制度改革審議会意見書(平成13年6月12日)は,21世紀の司法を支えるにふさわしい質・量ともに豊かな法曹を養成することについて,現行の司法試験とこれまでの大学における法学教育の改善のみによっては限界があるとして,「司法試験という『点』のみによる選抜ではなく,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成制度を新たに整備することが不可欠である」とし,その中核を成すものとして,「法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院」を設けることを提言するとともに,司法試験を,「法科大学院の教育内容を踏まえた新たなものに切り替えるべきである」と提言している。
 こうした提言を受けて,司法制度改革推進本部の法曹養成検討会等において検討が行われ,平成14年秋の第155回国会において,司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律及び法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律が可決成立し,平成16年4月から法科大学院が開設されるとともに,平成17年12月1日から施行される改正後の司法試験法(以下「改正司法試験法」という。)に基づく司法試験(以下「新司法試験」という。)が,平成18年から実施されることとなった。
 改正司法試験法は,第1条第3項において,新司法試験を「法科大学院課程における教育及び司法修習生の修習との有機的連携の下に行うものとする。」と定め,新司法試験が,法科大学院における教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度の一画として位置付けられるものであることを明示した。
 そして,新司法試験の試験方法等については,試験が短答式及び論文式による筆記の方法により行われること(同法第2条第1項),合格者の判定は,短答式試験の合格に必要な成績を得た者につき,短答式試験及び論文式試験の成績を総合して行うこと(同条第2項),短答式試験及び論文式試験の試験科目(同法第3条第1項,第2項)など,大枠について改正司法試験法が規定しているものの,試験日程,出題形式を始めとする試験の具体的実施内容に関する事項の大部分は,平成16年1月に設置される司法試験委員会の検討に委ねられている。
 しかし,平成16年4月には新たな法曹養成制度の中核とされる法科大学院が開校されることから,これら新司法試験の具体的実施内容に関する事項は,試験場の確保等実施準備の面からだけでなく,受験者への情報提供,法科大学院教育との連携の観点からも,平成16年1月の司法試験委員会設置後,速やかに決定されることが望ましい。特に,制度の変革期にあって,将来の法曹となるべき人々に対して,できるだけ早期に新司法試験の具体的実施内容に関する情報を提供し,新制度への不安を取り除くことが重要であって,同委員会の設置を待って初めて検討を開始するというのでは遅きに失する。
 そこで,司法試験管理委員会は,平成15年2月4日,司法試験管理委員会の下に,新司法試験実施に係る研究調査会(以下「当研究調査会」という。)を設置し,改正司法試験法に基づき行われる新司法試験の実施に関する事項について研究調査を行うことを決定した。

2  これまでの検討経過

 当研究調査会の下には,「新司法試験の在り方検討グループ」(以下「在り方検討グループ」という。)及び「新司法試験の科目別検討ワーキンググループ」(以下「科目別ワーキンググループ」という。)が置かれ,在り方検討グループにおいては,新司法試験の理念と具体的実施の中間を埋めるものとしての,新司法試験実施の在り方に関する研究調査を行うものとされ,科目別ワーキンググループにおいては,試験科目の範囲,出題形式・解答形式,試験時間,問題数等の新司法試験の具体的実施内容に関する研究調査を行うものとされた(平成15年2月19日付け司法試験管理委員会決定「新司法試験の在り方検討グループ等の設置について」)。なお,科目別ワーキンググループは,公法系科目,民事系科目及び刑事系科目別に,公法系ワーキンググループ,民事系ワーキングループ及び刑事系ワーキンググループの各ワーキンググループに分かれて検討を行った。
 在り方検討グループ及び科目別ワーキンググループは,平成15年2月19日の第1回全体会議後,相互に意見交換を行いつつ,精力的に研究調査を行い,在り方検討グループ及び科目別ワーキンググループの会合は,同年2月以降合計44回に及んだ。
 まず,在り方検討グループにおいては,3月24日の第1回会合以後,司法制度改革推進本部の改正司法試験法担当者からのヒアリング(第3回会合)や法科大学院関係者からのヒアリング(第4回会合)を行いつつ,試験時期,試験日程等の新司法試験の基本的枠組み,出題の在り方,評価の在り方などについての検討を行った。
 一方,科目別ワーキングループにおいては,公法系科目,民事系科目及び刑事系科目の各ワーキンググループごとに,出題・解答形式,採点方法等についての具体的な検討を集中的に行い,さらに,民事系ワーキンググループでは,民法,商法及び民事訴訟法の法律単位グループごとの検討も行った。科目別ワーキンググループの会合は,民事系の法律単位グループの会合を含めると,2月以降36回に及んだ。
 在り方検討グループと科目別ワーキンググループとは,対等な関係で,相互に問題意識を共有しつつ検討を行うものとされ,3回にわたり,論点の整理や検討状況について情報交換を行うとともに,その内容についての意見交換を行った。
 当研究調査会は,これらの研究調査の結果を踏まえ,7月28日の全体会議において,中間報告を取りまとめるに至った。

3  中間報告の目的

 上記のとおり,当研究調査会においては,平成15年2月19日の第1回全体会議以来,在り方検討グループ及び科目別ワーキンググループの各グループで,極めて精力的に研究調査を進めてきたが,検討に当たっては,「司法制度改革推進計画」(平成14年3月閣議決定)において,「法曹養成に特化した教育を行う法科大学院を中核とし,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた新たな法曹養成制度を整備する」とされ,新司法試験の受験者が法科大学院修了者又はこれと同等の学識等を有する予備試験合格者であることなどを受け,新司法試験の出題方針等について,平成16年4月に開校する法科大学院における教育との連携等に十分意を用いたアプローチを試みている。
 その一例を挙げると,新司法試験の論文式試験については,公法系科目,民事系科目及び刑事系科目では,比較的長文の具体的な事例に基づく問題を中心として出題し,十分な時間をかけて解答させることにより,法律実務家としての理論的かつ実践的な能力の判定に意を用いることとするなど,知識を暗記するだけの学習方法では対応できないような出題を検討している。
 当研究調査会としての最終的な報告は,設置期限である本年12月までに行うことを予定しているが,現在,当研究調査会の任務とされている研究調査事項について一通りの検討を終えたことから,その結果を踏まえ,新司法試験実施の在り方についての基本的な方向性,具体的実施内容のイメージなどを中間報告として取りまとめ,公表することにより,広く忌憚のない意見,要望等を求めることとした。
 なお,選択科目の選定は平成16年1月に設置される司法試験委員会において最終的に検討されるものであり,現段階では,選択科目が定まっていないので,本報告における選択科目に関する検討は,出題の在り方等試験全体としての実施の枠組みを検討する上で必要な範囲にとどめている。