【京都コングレス便り(第3回)】京都コングレスの開催意義

はじめに

 2020年4月20日(月)から27日(月)までの間,京都市にある国立京都国際会館において,国連犯罪防止刑事司法会議(通称「コングレス」)が開催される。コングレスは,5年に1度開催される国連の犯罪防止・刑事司法分野における最大の会議である。

国際社会にとっての開催意義

 コングレスは様々な意義を有しているが,ここでは,犯罪防止・刑事司法の分野における(1)幅広い関係者による情報共有・意見交換の場としての意義と,(2)国連の政策の大綱を決定する場としての意義を取り上げることとし,それぞれにつきコングレスの歴史を振り返りながら説明させていただく。
 

幅広い関係者による情報共有・意見交換の場としての意義

ア 沿革
  コングレスの起源は,1846年に第1回が開催された国際監獄会議に遡る[1]。同会議は,官民を合わせた専門家会合の色彩を色濃くしていたとされ,1950年の第12回会議を最後に,国連の会議として引き継がれることが決定され,1955年,ジュネーブにおいて,同会議を継承する形で第1回コングレスが開催された[2]。コングレスは,専門家会合の性格の強い会議を継承した経緯から,国連の会議と再構成された後も,第2回(1960年。ロンドン)から第5回(1975年。ジュネーブ)までの4回は,本会議では政府代表にのみ投票権が与えられたものの,分科会においては非政府組織(NGO)や個人参加者にも投票権が与えられるなど,引き続き学術的色彩を多分に帯びた,国連の会議としてはユニークな特徴を有していた[3]。

イ 現在の形
 その後,コングレスは,1991年の国連総会決議により,正式プログラムとして行動指向(action-oriented)の研究ワークショップの創設が決定され,第9回(1995年)のカイロコングレスから,正式プログラムが全体会合及び委員会(ワークショップ)の二階建てとなり,全体会合においては政府代表等によるステートメントが,委員会においては実務的・専門的な論点についての議論がそれぞれ行われることになった[4]。併せて,上記決議では,パネルディスカッション形式の附属会合の開催が決定された。これにより,正式プログラムである全体会合・委員会と,附属会合の3つが同時並行で進行するという,今日まで続くコングレスのフレームワークが完成した。直近の第13回(2015年)のドーハコングレスでは,ホスト国の発表によると,主にNGO,研究団体,民間企業により100を超える附属会合が開催されている。
 このように,コングレスは,政府代表のみならずNGOや個人専門家にも参加資格を与え,国連の会議としては稀に見る幅広い参加者を対象に,犯罪防止・刑事司法分野における最新の情報共有や意見交換を行う場となっている。

国連の政策の大綱を決定する場としての意義

 続いて,国連の政策の大綱を決定する場としてのコングレスの意義について説明する。この点については,現在の形となるまでに大きく3つの変革を経ているため,その経緯に即して説明する。

ア 専門家会合から政府間会合へ
 既に説明したとおり,第1回からしばらくは専門家会合の色彩の強かったコングレスであったが,第6回(1980年)のカラカスコングレスを境に,専門家会合から政府間会合へと明確に位置付けられることとなった。
 既に述べたとおり,第5回(1975年)のジュネーブコングレスまでは,分科会においては,政府代表のみならずNGOや個人参加者にも投票権が与えられていた。しかしながら,第6回(1980年)のカラカスコングレスでは,全体会合・分科会を問わず加盟国の政府代表にのみ投票権があるとされ,その他の参加者はオブザーバーと位置付けられることとなった[5]。この改変と合わせて,カラカスコングレスからは,会期中に決議が採択されることとなった。同コングレスでは16本の決議が,その後の第7回(1985年)のミラノコングレスでは32本の決議が,第8回(1990年)のハバナコングレスでは47本の決議がそれぞれ採択されている。
 これにより,コングレスの性格は,他の国連会議と同様,政策決定を行う政府間会合へと変貌したとされている[6]。

イ 政策決定機関から諮問機関へ
 その後,第2の動きとして,第9回(1995年)のカイロコングレスを境に,コングレスが政策決定機関から諮問機関と再定義されることとなった。
 第6回から決議の採択を通じて国連の犯罪防止分野の政策決定に影響を及ぼしていたコングレスであったが,採択される決議の数が次第に増加し,採択された決議の実施が大きな課題として取り上げられることとなった[7]。数次にわたる議論の結果,1991年の国連総会決議により,新たに,国連の犯罪防止・刑事司法分野における政策決定機関として犯罪防止刑事司法委員会(通称「コミッション」)が創設されるとともに,コングレスは,コミッションの「諮問機関」と再定義されることとなった[8]。以後,コミッションは,毎年,通常会期を春に開催し,犯罪防止・刑事司法分野における決議を採択している一方,コングレスは,コミッションの諮問機関となり,決議を採択することはなくなった。
 併せて,上記の1991年の国連総会決議では,コングレスにおいて,実務的なワークショップを開催することが決定された。その結果,既に述べたとおり,第9回(1995年)コングレスからは,全体会合に加えて,ワークショップと附属会合が開催されることとなった。これにより,コングレスの政府間会議としての性格がそれまでよりもかなり薄れ,専門家・学者の会議・研究集会のような色彩を持つことになったと指摘されている[9]。

ウ 政策の大綱を決定する機関へ
 このような曲折を経て,第9回は再び専門家会合としての色彩が強い会議となったコングレスであったが,その後さらなる改革が行われ,第10回からは,政策決定機関ではないにせよ,事実上,国連の犯罪防止・刑事司法分野の政策の大綱を決定する機関となるに至った[10]。
 すなわち,第10回(2000年)のウィーンコングレスから,政治宣言を採択してコミッションに提出することが決定され,さらに,政治宣言の実効性を確保するために上級会合(ハイレベルセグメント)が創設され,加盟国から,首脳,閣僚,司法長官・検事総長などのハイレベルが参加することとなった[11]。これにより,コングレスは,ハイレベルの参加を得て政治宣言を採択することとなったが,他方で,コミッションは,(その諮問機関である)コングレスの議論を参考に政策決定を行う権能は保ちつつも,実際上は,コングレスの参加国より遙かに少ない40カ国の委員国により構成されること,参加者のレベルもコングレスに及ばないことなどから,事実上,コングレスが,コミッションにおける政策の大綱について強い影響を及ぼすこととなった[12]。以後,コングレスにおいて採択される政治宣言はより包括的になってゆき,コングレスにおいて,国連の犯罪防止・刑事司法分野における政策の大綱が決定され,コミッションは,その政策の具体化が行うという形での事実上の役割分担が定着していく[13]。実際に,採択された政治宣言は,国連総会において承認され,毎年のコミッションでは,政治宣言の着実な実施を各国に求める決議(コングレスフォローアップ決議)の採択が慣行化している[14]。また,毎年のコミッションにおける個別決議案の交渉過程では,直近のコングレスの政治宣言が参照され,これをベースに交渉が進むことが多くなっている。特に,加盟国間に意見の隔たりのある決議については,直近の政治宣言の枠内で妥協案が形成されることも多い。
 このように,国連の犯罪防止・刑事司法分野における政策決定機関はあくまでコミッションであり,コングレスはその諮問機関であるとの1991年の国連総会決議の建前は維持しつつも,事実上,コングレスは,コミッションを超えるハイレベルの参加及び包括的な政治宣言の採択を通じ,次のコングレスまでの5年間の国連の犯罪防止・刑事司法における政策の大綱を決定する場として機能するようになっている。
  以上のとおり,コングレスは,第1回から今日に至るまで一貫して,幅広い関係者による情報共有・意見交換の場としての意義を有するとともに,第10回からは,ハイレベルの参集と包括的な政治宣言を採択することを通じ,国連の犯罪防止分野における政策の大綱を決定する場としての意義を有している。

我が国にとっての開催意義

 続いて,コングレスを自国開催することの我が国にとっての意義について述べさせていただきたい。この点についても様々な考え方があると思われるが,次の4つの意義を指摘したい。
 

国際社会におけるリーダーシップ

 1つ目の意義は,我が国が,国際貢献や国際社会でリーダーシップを果たすことである。
 我が国は,国連の犯罪防止・刑事司法分野を担当する国連薬物犯罪事務所に対し,多額の金銭的貢献を行い,その活動を財政面で支えている。金額ベースでは,我が国は,ここ数年,国別では,実質的にみて米国に次ぐ2番目となっている[15]。また,国連アジア極東犯罪防止研修所における国際研修を通じて,技術支援面でも国連の活動に貢献している。
 このような我が国が,コングレスの議長国として,国際社会における情報共有・意見交換を促進し,かつ,京都宣言をとりまとめて政策の大綱の決定にリーダーシップと責任を果たすことには,それ自体,大きな意義があると思われる。
 

国際的議論の把握

  2つ目の意義は,我が国の政府及び民間の刑事司法関係者にとって,国際的な議論を知るよい機会となることである。
 京都コングレスでは,今日の国際社会の重要な課題が議論され,関連する各国の取組が紹介される。我が国の刑事司法実務家にとって,それぞれが日々取り組んでいる実務的課題について,国際的な議論や他国の取組を知ることには大きな意義があると思われる。我が国は,これまでも,コングレスに毎回政府代表を派遣してきたが,今回は,我が国の多くの刑事司法実務家,民間関係者にとって,京都で開催される地の利を生かし,世界各国の刑事司法実務家による議論を直接見聞できる貴重な機会である。
 

自国の刑事政策・刑事司法制度の客観的認識

 3つ目の意義は,京都コングレスが,日本の刑事司法実務家にとって,自らの刑事司法制度,刑事政策を客観的に見つめ直す機会となることである。
 他国の取組や国際的な議論を把握することは,単に他を知ることに留まらず,自らの刑事司法制度や刑事政策を相対的に捉え直すことにつながる。もとより,刑事司法制度や刑事政策は,各国に固有の社会的・歴史的背景の上に成り立っているものであるから,単純に制度や政策を比較することはできないが,コングレスを通じて,自国に固有な点と他国との共通点を峻別しつつ,他国の制度や取組に関する知見を深めることができれば,自国の制度や取組を相対的に捉え直すことにつながるのではないだろうか。
 このように,京都コングレスが,我が国の刑事司法実務家や民間関係者にとって,我が国の制度や施策について客観的に見つめ直す一つの契機となれば,それ自体我が国にとって大きな意義となるであろう。
 

我が国の刑事政策・刑事司法制度の国際発信

 最後に,4つ目の意義として,京都コングレスが,我が国の刑事司法制度や刑事政策,治安状況を各国に発信する機会となること挙げたい。各国は,ホスト国日本の刑事司法制度や刑事政策,世界的に見ても特に安全といわれている治安状況などに興味をもっている。この機会に,我が国における法の支配の浸透や法の支配に対する国民の信頼,他国に比して相対的に低い犯罪発生率などにつき,それを取り巻く我が国の歴史的・社会的背景とともに,それが我が国固有の要素に基づくものなのか,社会・文化を超えて普遍的に他国にも妥当し得る要素に基づくものなのかといった客観的な観点からの考察も加えつつ,国際社会に示すことができれば,ともすれば断片的知識に基づき誤解されかねない我が国の刑事司法・刑事政策に対する他国の理解を得る良い機会となるだろう。併せて,途上国に対して,我が国の刑事司法・刑事政策の歩みが参考となるならば,我が国及び国際社会の双方にとって,日本でコングレスを開催する一つの意義となるのでないだろうか。

むすび

 以上のとおり,京都コングレスは,国際社会にとって,政府機関から民間までの幅広い参加者による犯罪防止・刑事司法分野における最新の情報共有・意見交換として,そして,国連の同分野における中期的な政策の大綱を決定する場として重要な意義のある会議である。

 50年前の第4回(1970年)の京都コングレスとはその性格や意義を変化させてきたコングレスであるが,再び,このような会議を我が国において開催することは,国際社会はもとより,我が国の刑事司法実務家,民間関係者にとっても大きな意義をもつ会議といえる。京都コングレスの成功とは,これらの意義を一つでも多く,一人でも多くの参加者が実感することにあると思う。
  


[1] 田宮裕「第8回国連犯罪防止会議の概観」ジュリスト972号69頁(1991)
[2]第5会期国連総会決議415号(v)
[3] 浦田啓一「犯罪防止・刑事司法分野における国連の活動」法律のひろば48巻9号12頁(1995)
[4] 第46会期国連総会決議152号
[5] 上記田宮72頁
[6] 同上
[7] 上記浦田12頁
[8] 第46会期国連総会決議152号
[9] 日野正晴「第九回国連犯罪防止会議の概観」ジュリスト1077号63頁(1995)
[10] 上記日野62頁
[11] 第53会期国連総会決議110号,第54会期国連総会決議125号,千田恵介「『犯罪と司法に関するウィーン宣言』の意義と犯罪防止・刑事司法分野における国際社会の取組み」法律のひろば53巻12号14頁(2000)
[12] 上記浦田16頁
[13]  上記浦田17頁
[14]  直近の第13回コングレスの政治宣言の履行を求めるフォローアップ決議については,第71会期国連総会決議206号,第72会期国連総会決議192号,及び第73会期国連総会決議184号がある。
[15]  UNODC「2017年拠出リスト(List of Pledge 2017)」(UNODCウェブサイト参照。)によると,2017年のUNODCへの任意拠出国は,1位がコロンビア(約105百万米ドル),2位が米国(約72百万米ドル),3位がEU(約65百万米ドル),4位が日本(約25百万ドル)となっている。1位のコロンビアの拠出は,UNODCの自国内における活動に対するものであることから,この点を勘案すると,日本は,国際貢献の観点からは,国別では,米国に次いで2位となる。