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イラン

イランは、2011年3月のシリアにおける反政府運動の発生や2014年1月のイラクにおける「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)による攻勢以降、両国政府や親イラン武装勢力等を支援し(注47)、両国への関与を深めていった。近年は、イスラム革命防衛隊(IRGC)(注48)が「軍事顧問団」等として、両国に要員を派遣しつつ拠点を構築するなど、関与を深めてきた。

(1) アラブ地域

イランでは、アラブ人の多くが、南西部・フーゼスターン州に居住している。同州では、「アフワーズ解放機構」(ALO)(注49)等アラブ人武装組織が、石油や天然ガス関連のインフラ施設等に対するテロを実行し、2015年4月には、同州で、武装集団が警察官を襲撃する事件が発生した。

(2) クルド地域

イラン北西部及び西部のイラク国境地域では、トルコのクルド分離主義組織「クルド労働者党」(PKK)(注50)と緊密な関係を有する武装組織「ペジャーク」(PJAK)(注51)が、2011年7月から9月にかけて、イラン治安当局に対するテロを続発させた。

その後、クルド系組織によるイラン治安当局に対する襲撃事件の発生は低調となっていたが、2016年中頃には、イラン西部の国境沿い等で、両者の衝突が頻発したほか(注52)、2017年11月には、イラン治安当局とPJAKが交戦し、治安当局者8人が死亡した。

(3) バルーチ地域

イランの少数民族バルーチ人の大多数は、南東部・シスタン・バルチスタン州に居住している。バルーチ人の大半がスンニ派であり、独自の民族・部族的アイデンティティを有し、隣国のパキスタン及びアフガニスタンに住むバルーチ人と同じ言語及び文化を共有している。同州では、麻薬生産の増大や密輸の横行等によって、密輸に関わる武装組織が増加し、治安当局との衝突を頻発させてきた。

同地域では、バルーチ人武装組織「ジュンダラ」(注53)が、バルーチ人及びスンニ派の権利擁護を訴え、2010年7月、イラン当局による最高指導者処刑の報復として、イスラム革命防衛隊(IRGC)関連行事を標的とした自爆テロを実行(27人死亡)したほか、同年12月、シーア派宗教行事に関連した集会を標的とした自爆テロ(少なくとも38人死亡)などを実行してきた。

また、「ハラカト・アンサール・イラン」(HAI)(注54)、「ジャイシュ・アル・アドル」(JAA)(注55)等のバルーチ人武装組織が、「ジュンダラ」の元メンバーを吸収するなどして新たに設立され、同地域において、治安当局やシーア派宗教施設等を標的としたテロを実行してきた。こうしたところ、2015年2月、HAIと他のバルーチ人武装組織とが合併して設立された「アンサール・アル・フルカン」(AF)(注56)は、イラン政府との戦いを決意した旨の声明を発出し、2018年

12月には、シスタン・バルチスタン州チャーバハールの警察署付近で自動車爆弾による自爆テロを実行するなどした。

(4) その他

首都テヘランでは、2009年6月、イマーム・ホメイニ廟(びょう)で犯行主体不明の自爆テロ(2人が負傷)が発生した。2016年6月には、イラン情報省が、テヘラン等で計画されていた複数の爆弾テロ計画を阻止し、関係者を逮捕するとともに、武器・爆弾を押収したと発表した。

また、同国の核開発に関連する事件も発生しており、2010年1月及び10月、核物理学を専攻する大学教授が爆弾テロで死亡したほか、2012年1月には、テヘラン北部でウラン濃縮に関与していた核科学者が爆弾テロで死亡した。2020年7月には、中部・ナタンズのウラン濃縮施設で大規模な爆発が発生し、11月には、同国における核開発の中心人物がテヘラン近郊で殺害された。

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)に関しては、2015年及び2016年、ISILに関連する複数の組織やテロ計画が摘発された(注57)。2017年6月には、テヘランの国会事務所建物内及びイマーム・ホメイニ廟(びょう)周辺で、複数の武装集団による銃撃事件や自爆テロが発生し、ISILが犯行声明を発出した。このほか、ISILは、2018年9月にフ-ゼスターン州アフワーズで発生した軍事パレード銃撃事件、2022年10月に南部・ファールス州シーラーズで発生したシャー・チェラーグ廟(びょう)銃撃事件についても、犯行声明を発出している。

他方、「アルカイダ」について、イラン政府は、同国における同組織メンバーの存在を否定しているものの、2020年8月には、テヘランにおいて、同組織ナンバー2のアブドゥッラー・アフメド・アブドゥッラーとその娘がイスラエルの工作員により殺害されたとされる(注58)ほか、米国が殺害した旨発表した最高指導者アイマン・アル・ザワヒリの後継者とされるサイフ・アル・アデルらがイラン国内に滞在しているとされる(注59)。また、「アルカイダ」は、シーア派が権力を掌握するイランについて、攻撃対象として名指ししていないが、過去にザワヒリが、「イスラムの敵(米国)への協力者」として言及したことがある。

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