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パキスタンで活動するバルーチ系過激組織の動向

バルーチ系過激組織によるテロ発生件数及び死者数

パキスタン南西部・バルチスタン州を拠点とし、同州の「独立」を目的に活動する「バルチスタン解放軍」(BLA)(注1)は、2018年、他のバルーチ(注2)系過激組織と共に、連合体「バルーチ・ラージ・アージョイ・サンガル」(BRAS)(注3)を組織し、パキスタン当局を主要な標的としたテロを繰り返している。こうした動きの中で、パキスタン当局が取締りを続けた結果、バルーチ系過激組織によるテロ発生件数及び死者数は、近年減少傾向を示していたが、2021年にはいずれも増加に転じた(右グラフ参照)。その背景としては、バルーチ系過激組織が2021年8月の「タリバン」(注4)によるアフガニスタンの実権掌握に触発され、活動を活発化させたこと等が指摘されている(注5)

【中国権益を標的としたテロの実行】

2022年4月のBLAによる「孔子学院」付近での自爆テロ現場(写真提供:ロイター/アフロ)

2022年4月のBLAによる「孔子学院」付近での自爆テロ現場(写真提供:ロイター/アフロ)

中国が、2015年、「一帯一路」構想の一環として、パキスタンのインフラ開発等を支援する大規模プロジェクト「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)を本格的に開始したことを受け、バルーチ系過激組織は、CPECを中国による「資源の占領」(注6)と位置付け、中国権益を標的としたテロを実行してきた(注7)

BLAは、2022年4月、パキスタン南部・シンド州都カラチに所在する「孔子学院」付近で自爆テロを実行し、中国人3人を含む4人を殺害した。BLAは犯行声明の中で、「孔子学院は、中国の経済的、文化的、政治的拡張主義の象徴」、「(今回のテロは)中国権益が直接的にも間接的にもバルチスタンへ進出することを断じて受け入れられないことを示すメッセージである」などと主張するとともに、実行犯を「バルーチ人で初となる女性の殉教者」と称賛した。

【攻撃手法の多様化】

BLAが「バルーチ人初の女性殉教者」によるテロの実行を主張したことに加え、BRASが、2022年8月、「対空砲を使用して、パキスタン当局のヘリコプターを撃墜し、搭乗員6人を殺害した」と主張したように、2022年に入って、バルーチ系過激組織の攻撃が多様化していると指摘されている(注8)

【中国以外の外国権益に対する反発】

バルチスタン州においてテロを継続するバルーチ系過激組織は、同州チャガイ郡に所在するレコ・ディク銅金鉱床(注9)の開発をめぐり、カナダを拠点とする国際資源開発企業がパキスタン政府及びバルチスタン州政府との交渉を続けてきた動きに反応した。

具体的には、BRASは、2022年3月、「レコ・ディク銅金鉱床の開発から手を引け」と題する声明を発出し、「カナダ企業は、バルチスタン州を占領するパキスタン政府と不当な条件で契約を結ぼうとしている」、「BRASは、バルチスタン州の資源を守るために、カナダ企業の施設、従業員、警備員、その他あらゆる関係先を標的とする。また、いかなる対抗措置も辞さない」と主張した。

その後、パキスタン政府等は、2022年12月、カナダ企業との間でレコ・ディク銅金鉱床の採掘プロジェクト推進に関する合意に達した。同合意を受け、バルーチ系過激組織は「占領者が資源を奪っている」と主張するなど、中国以外の外国権益に対しても反発を示している。

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