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インド

米国国務省によると、インドでは、インド側カシミール(注27)や中部・チャッティスガル州、中部・ジャールカンド州を中心に多数のテロが発生しているところ(注28)、テロの実行主体別では、極左過激組織「インド共産党毛沢東主義派」(CPI-M)(注29)が最大の割合であり、次いで、「ラシュカレ・タイバ」(LeT)(注30)、「ムハンマド軍」(JiM)(注31)、「ヒズブル・ムジャヒディン」(HM)(注32)等のイスラム過激組織となっている(注33)

主体別に見た最近の動向については次のとおりである。

(1) 極左過激組織

1967年、インド東部・西ベンガル州ナクサルバリで、暴力革命を通じた社会変革を目指す極左過激組織の一部が武装蜂起した。これを機に、極左過激組織の活動は、西ベンガル州周辺のビハール州やオリッサ州のみならず、北部・ウッタル・プラデシュ州や南部・アンドラ・プラデシュ州にも広がったが、治安情勢の悪化等の中で、1975年に非常事態宣言が出されたことで、一旦収束した。

1977年に非常事態宣言が解除されると、極左過激組織は息を吹き返し、議会闘争路線に転換するものも一部出現したが、暴力革命路線を基軸として活動を続け、2004年9月には、有力組織であった「人民戦争グループ」(PWG)(注34)と「毛沢東主義・共産主義センター」(MCC)(注35)が統合し、「インド共産党毛沢東主義派」(CPI-M)が設立された。CPI-Mは、インドで貧富の差が拡大するに従って貧困層を取り込む形で勢力を拡大し、東部及び中部を拠点に、治安当局への襲撃や警察に協力したとみなす民間人の殺害などの事件を頻発させてきた。こうした動きに対し、インド政府は、2006年、CPI-Mを始めとするナクサライト(注36)について、インド国内で安全保障上最大の脅威であるとの認識を示した。

近年、CPI-Mは、指導部幹部を含むメンバーが治安当局による掃討作戦で拘束される事案が相次いでいることから、勢力を減退しつつあるが、依然として、インド東部及び中部を中心に活動を続けており、CPI-Mによる治安当局、民間人等に対するテロも続発している。

近年、インドで発生したCPI-M等の極左過激組織に関連した主なテロは下表(当庁作成)のとおりである。

【極左過激組織による主なテロ(2020年以降)】

年月日 場 所 概 要
20. 3.21 中部・チャッティスガル州 スクマ  CPI-Mのメンバー数百人が、治安当局のパトロール部隊を待ち伏せし、襲撃(17人死亡)
21. 4. 4 チャッティスガル州 ビジャプール  CPI-Mが、インド治安当局を襲撃(22人死亡)
21. 5.30 東部・オリッサ州 マルカンギリ  CPI-Mが、地元の森林当局関連施設に放火
21. 8.20 チャッティスガル州 ナラヤンプール  CPI-Mが、国境警備当局を襲撃(2人死亡)
22. 6.21 オリッサ州 ヌアパダ  CPI-Mが、インド治安当局を襲撃(3人死亡)
22.12.15 チャッティスガル州 ダンテワダ  CPI-Mが、警察に協力したとみなした民間人1人を殺害

(2) イスラム過激組織

1989 年のソ連軍のアフガニスタン撤退完了後、同国においてソ連軍との戦闘に参加していたパキスタンの「ムジャヒディン」の一部が、帰属をめぐる対立が続いていたカシミール地 方へ移動した。こうした勢力が、インド側カシミールのパキスタンへの併合を主張しつつ、インド北部を中心に活発に活動する中、首都ニューデリーにおいて、過激組織「ラシュカレ・タイバ」(LeT)及び「ムハンマド軍」(JiM)が国会議事堂襲撃事件(2001 年12 月)を引き起こした。また、2006 年7 月のムンバイ列車同時爆弾テロ事件(180 人以上が死亡、800 人以上が負傷)の発生以降、インド各地においてこれらの過激組織によるテロが相次いだ。2007 年11 月には、北部・ウッタル・プラデシュ州で、「インディアン・ムジャヒディン」(IM)(注37) による連続爆弾テロが発生し、2008 年11 月には、LeT とのつながりがあるとみられる(注38) 武装集団によるムンバイ同時多発テロ事件(邦人1 人を含む約160 人が死亡、邦人1 人を含む約240 人が負傷)が発生した。このほか、2011 年9 月に北部・デリーの高等裁判所前で発生した爆弾テロでは、「ハルカトゥル・ジハーデ・イスラミ」(HUJI)(注39) 及びIM がそれぞれ犯行声明を発出した。

近年に入り、これらの過激組織が活動を続ける中で、「アルカイダ」を支持する「アンサール・ガズワトゥル・ヒンドゥ」(AGH)(注40) が設立されたほか、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の関連組織として「ヒンド州」(注41) も設立され、テロや宣伝活動が行われている(注42)

このほか、バングラデシュと国境を接する西ベンガル州等のインド東部では、バングラデシュの過激組織「ジャマートゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ」(JMB)(注43) に関連した活動が見られ、JMB メンバーとされる者ら(注44) が逮捕されている。また、インド北東部・アッサム州では、2022 年3 月以降、バングラデシュの過激組織「アンサール・アル・イスラム」 (AAI)(注45) のメンバーとされる者ら(注46)が相次いで逮捕される中、被逮捕者の供述等から、AAIがアッサム州に活動拠点を構築するため、同州内の若者に過激思想を扶植していたことが明らかになった。

近年、インドで発生したイスラム過激組織に関連した主なテロ関連事案は下表(当庁作成)のとおりである。

【イスラム過激組織による主なテロ関連事案(2020年以降)】

年月日 場 所 概 要
20. 4. 7 インド側カシミール アナントナグ  ISIL関連組織「ヒンド州」が、治安当局に手りゅう弾を投てき(2人死亡)
20. 7.13 中西部・マハーラーシュトラ州 プネ  ISILのために活動し、「一匹狼」型テロを計画したとして、女が逮捕
20. 8.18 南部・カルナタカ州 ベンガルール  ISILのためのレーダー誘導ミサイルシステムの開発を計画したとして、男が逮捕
20. 9.19 南部・ケララ州 エルナクラム、東部・西ベンガル州 ムルシダバード  インド海軍施設を含むインド国内の重要施設に対するテロを計画したとして、「アルカイダ」メンバーらで構成されるグループが摘発
20.10. 3 北部・デリー  テロを計画したとして、AGHメンバーらで構成されるグループが摘発
20.10.29 インド側カシミール クルガム  「レジスタンス戦線」(TRF)(注47)が与党のインド人民党の車両を襲撃(3人死亡)
21. 4. 9 北西部・ハリヤナ州 ヨピ  「ヒンド州」が、農作物に放火と主張(アラビア語週刊誌「アル・ナバア」第282号)
21. 6.22 インド側カシミール スリナガル  TRFが、地元の治安当局幹部を射殺(1人死亡)
21. 7.11 北部・ウッタル・プラデシュ州 ラクナウ  重要施設、記念施設、い集場所等におけるテロを計画したとして、AGHメンバーとされる(注48)男2人が逮捕
21.10.11 インド側カシミール プーンチ  「反ファシスト人民解放戦線」(PAFF)(注49)が、治安当局を襲撃(5 人死亡)
21.11.17 カルナタカ州 ベンガルール  ISILのためのリクルート活動を行い、若者をトルコ経由でシリアへ送り出したとして、男が逮捕
22. 3. 4 北東部・アッサム州 バルペタ  AAIのためのリクルート活動を行い、若者を過激化させたとして、AAIメンバーとされる(注50)男5人が逮捕
22.07.12 スリナガル  「ヒンド州」が、治安当局を襲撃し、4人を死傷させたと主張
22.08.06 首都ニューデリー  ISILのために活動し、シリアに送金したとして、男が逮捕

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