検索

検索

×閉じる

ヘイトスピーチがもたらすもの

 全国で新型コロナウイルス感染症の感染者数が再び増加しています。法務省人権擁護局では,感染者やその家族の方などに対する差別・偏見の解消に向けた取組を行ってきました。感染者等に対する差別・偏見は,その標的とされた人たちの人格を傷付けるものであって決して許されないものであるのは当然のことです。
 一方で,このような行為は,差別・偏見の標的とされた人たちに及ぼす被害を超えて,社会全体に悪い影響をもたらすものでもあります。新型コロナウイルス感染症の感染者の名前や勤務先がインターネットでさらされたり,その人格を否定するような誹謗中傷がなされている中で,もし自分や家族に感染の疑いが生じたらどうしますか。自分たちも同じような被害を受けることを恐れて,医師の診察や検査を受けることや職場・学校を休むことを躊躇したり,想定される感染経路を申告できなかったりする人が出てくるかもしれません。その結果,更なる感染の拡大につながるおそれもあります。
 このように,差別・偏見の解消に向けた取組というのは,その被害者だけの問題ではなく,社会全体,私たち全ての問題でもあります。これは,ヘイトスピーチについても同様です。
 ヘイトスピーチは,それを見聞きした方に対して悲しみや恐怖,絶望感などを抱かせるものですが,同時に,社会の分断を生むものでもあります。
ヘイトスピーチ解消法の前文では,本邦外出身者に対する不当な差別的言動はこれらの方に多大な苦痛を強いるとともに,「地域社会に深刻な亀裂を生じさせている」ということを指摘しています。また,グテーレス国連事務総長も,昨年5月に公表された国連の「ヘイトスピーチに関する戦略と行動計画」(United Nations Strategy and Plan of Action on Hate Speech)の前文で,「ヘイトスピーチは民主主義の価値,社会の安定と平和に対する脅威である。」と指摘しており,やはりヘイトスピーチが社会全体を脅かす問題であると位置付けています。
 自分と異なる属性を有する人たちを排斥しようとする差別意識は,「個人の尊厳」を掲げる日本国憲法の理念とも相反するものであり,このような意識が横行すれば,いずれは,私たちの社会そのものが人に冷たい社会になってしまうことになります。ヘイトスピーチの標的とされた方だけではなく,私たち全員が,この問題の当事者として「ヘイトスピーチ,許さない。」という意識を持つことが必要です。


国連「ヘイトスピーチに関する戦略と行動計画」
https://www.un.org/en/genocideprevention/documents/advising-and-mobilizing/Action_plan_on_hate_speech_EN.pdf