再犯防止推進白書ロゴ

第1節 地方公共団体との連携強化等

3 地方公共団体との連携の強化

(1)犯罪をした者等の支援等に必要な情報の提供【施策番号109】

 法務省は、地方公共団体が犯罪をした者等の支援を円滑に実施できるよう、矯正施設及び保護観察所において、地方公共団体の求めに応じ、当該団体が犯罪をした者等の支援等を行うために必要な情報について、個人情報等の取扱いに十分配慮しつつ、適切に提供している。

 例えば、大阪府や福岡県においては、条例により一定の性犯罪者に住所の届出義務を課し、それを通じて性犯罪者の存在を把握した上で、性犯罪者に対する社会復帰支援等を行うという再犯防止の取組が進められており、法務省としても、それらの府県が、条例で定める対象者であることを確認できるようにするため、情報提供を始めとする必要な協力を行っている。

 また、検察庁においては、入口支援を実施するに当たり、犯罪をした者等の再犯防止を実現するため、関係機関等と十分なコミュニケーションを図りつつ、関係機関等に対し、適切な情報提供を行うこととしている。

 さらに、矯正局では、2022年(令和4年)9月から、今後、再犯防止を一層推進していくに当たっては、矯正施設が被収容者に関する情報を適切かつ効果的に関係機関等との間で共有していくことが極めて重要であるとし、関係機関等への適切な情報提供を積極的に行うこととしている。

 なお、「性犯罪・性暴力対策の更なる強化の方針」(令和5年3月30日性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議決定)においても、上記の大阪府や福岡県における事例を踏まえ、刑事施設及び保護観察所において、必要な体制ができた地方公共団体に対し、引き続き、出所者に関する情報を含め、必要な情報提供を行うこととされている。

(2)犯罪をした者等の支援に関する知見等の提供・共有【施策番号110】

 法務省は、2018年度(平成30年度)及び2019年度(令和元年度)、再犯防止の取組における国及び市町村間のネットワークの構築等を目的として、市町村の施策担当者を対象に市町村再犯防止等推進会議を開催するとともに、都道府県の施策担当者を対象に、再犯防止の取組等の情報共有を目的とした都道府県再犯防止等推進会議を開催した。

 2020年度(令和2年度)については、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、市町村再犯防止等推進会議は中止、都道府県再犯防止等推進会議はオンラインによる開催とした。

 2021年度(令和3年度)以降も、市町村再犯防止等推進会議は中止したが、同会議の登録団体には、「ブロック協議会」(【施策番号105】参照)への参加を案内した。また、都道府県再犯防止等推進会議については、「全国会議」(【施策番号105】参照)に名称を変更し、2020年度(令和2年度)に引き続きオンラインにて実施した。

 また、性犯罪をした者の再犯防止のためには、刑事司法手続終了後も地域社会において支援を継続することが重要であるところ、地方公共団体においては、そうしたノウハウを十分に持ち合わせていない実情があることに鑑み、2023年(令和5年)3月、地方公共団体等が地域社会で活用可能な性犯罪をした者に対する再犯防止のガイドラインを作成し、都道府県及び指定都市に配布した※6

 また、職員を地方公共団体、司法関係団体等が開催する研修やシンポジウム等に講師として派遣するなどし、地方公共団体の職員や犯罪をした者等の支援を行う関係者等に対して、法務省における取組や支援に関する知見等を提供している。

 加えて、法務総合研究所において、毎年、犯罪白書や研究部報告として、犯罪をした者等に関する調査研究等の成果を取りまとめ、公表している(【施策番号4787100】参照)。

(3)国・地方協働による施策の推進【施策番号111】

 法務省は、国と地方公共団体が連携して施策の推進を図るため、2018年度(平成30年度)から、2020年度(令和2年度)までを事業期間として、地域再犯防止推進モデル事業を実施してきた(【施策番号105】参照)。また、国と地方公共団体において、総合的かつ効果的な再犯防止施策の実施を推進するため、再犯防止啓発月間である7月に合わせて再犯防止広報・啓発ポスター等を作成し、2017年(平成29年)以降、全国の都道府県警察本部、都道府県及び市町村等に送付の上、ポスター掲示等による広報・啓発活動への協力を依頼している(【施策番号101】参照)。

 市町村における再犯の防止等に関する取組として、2018年(平成30年)6月、矯正施設所在自治体会議の趣旨に賛同し、設立発起人となった29の市町の首長を構成員とする矯正施設所在自治体会議設立発起人会議が開催され、2019年(令和元年)6月には、90の市町村の首長を会員として、矯正施設所在自治体会議の設立総会が開催された(2023年(令和5年)4月時点で100の市町村が参加)。2022年度(令和4年度)は新型コロナウイルス感染症対策のため、総会は書面開催とされたものの、全国7ブロックにおいて、対面又はオンライン形式での地域部会が開催されるなど、新型コロナウイルス感染症の拡大状況下においても実施可能な取組が実施された。

 さらに、2023年(令和5年)3月に閣議決定された第二次再犯防止推進計画には、再犯防止分野において国、都道府県及び市区町村が担う具体的役割(資7-111-1参照)が明記された。国と地方公共団体はそれぞれ、この役割を踏まえ、相互に連携しながら再犯の防止等に向けた取組を推進していくこととなる。

資7-111-1 第二次再犯防止推進計画に明記された国・都道府県・市区町村の役割
資7-111-1 第二次再犯防止推進計画に明記された国・都道府県・市区町村の役割

(4)国の施策に対する理解・協力の促進【施策番号112】

 法務省は、2018年度(平成30年度)以降、毎年、各種会議(【施策番号105110】参照)や、広報・啓発イベント(【施策番号101】参照)等を開催し、国の施策について地方公共団体に周知を図り、必要な協力が得られるよう働き掛けを行っている。

 警察庁は都道府県警察に対し、文部科学省は各都道府県・指定都市教育委員会等に対し、厚生労働省は各都道府県等の民生主管部局や各都道府県労働局に対し、それぞれ文書や会議等を通じて、推進計画について周知するとともに、計画に基づく施策の実施について協力等を依頼している。

Column11 静岡市における再犯防止の取組

静岡市保健福祉長寿局健康福祉部福祉総務課

 基礎自治体である市区町村には、再犯防止の推進においてどのような役割が求められているのでしょうか。2023年(令和5年)3月に策定された国の第二次再犯防止推進計画では、市区町村の役割として次の記述があります。

 「保健医療・福祉等の各種行政サービスを必要とする犯罪をした者等(中略)が、地域住民の一員として地域で安定して生活できるよう、地域住民に最も身近な基礎自治体として、適切にサービスを提供するよう努める。」、「立ち直りを決意した人を受け入れていくことができる地域社会づくりを担うことが期待されている。」

 静岡市では、2021年度(令和3年度)から「付添い支援」と「伴走型支援」の2つの支援策を展開していますが、これら支援策がまさに基礎自治体として求められていることであると実感しています。

 一つ目の「付添い支援」は、満期出所や起訴猶予処分、保護観察が付かない刑の全部の執行猶予判決を受けて釈放された方等を対象に、市民ボランティアが行政等の窓口での手続に付き添い、支援を必要とする方を適切な支援制度に結び付けようとするものです。

 静岡市としては、様々なサービスをそれぞれの窓口で提供していますが、出所や釈放直後の人は、「釈放されても転入や健康保険等の市役所の手続ができず、福祉サービスを受けられない。」、「市役所で必要な手続をしようとしても、一人では10分、15分の待ち時間に耐えられず手続が完了できない。」といった課題があり、これらのサービスにたどり着くことができず、再び犯罪に手を染めてしまうことがあります。このような福祉的ケアが必要な対象者を確実に支援に結び付ける事業が「付添い支援」です。静岡市では、静岡地方検察庁を始めとした関係機関から事前に対象者情報を提供いただき、「よりそい支援員」の愛称で呼ばれる市民ボランティアが当該機関と市役所とを結び付け、各行政機関との間の切れ目のない支援を提供しています。

 また、「よりそい支援員」は、その名前のとおり対象者に寄り添った支援を行います。サービスを提供する側の市職員は、申請書の記入を求めたり、サービス提供の決定をしたりと、どうしても対象者と対峙する「相手」となってしまうことがあります。一方で、「よりそい支援員」は、隣で優しく声をかけ、緊張をほぐし、和やかな雰囲気を作るなど、対象者にとって心理的に「味方」となることができる存在であると感じています。現在は、市に3つある行政区からそれぞれ3人ずつ、合計9人の保護司の方に「よりそい支援員」として御協力をいただいていますが、窓口でのスムーズな手続になくてはならない存在であると実感しています。

 二つ目の「伴走型支援」は、対象者に対し、面談、電話連絡、訪問等で1か月に1、2回程度、対象者から生活の様子を聴いたり、何か困ったことがないかと相談に乗ったりすることで、小さなつまずきなども見逃さず、必要に応じて支援につないでいくものです。

 出所や釈放直後の人が新しく仕事を見つけたとしても、その仕事が長続きするとは限りません。実際に、「伴走型支援」の対象者の中には、一度仕事が見つかったものの結局断ってしまったり、諸事情から仕事ができる状況ではなくなってしまったりした人がいます。このようなつまずきが、対象者にとって再び罪を犯すきっかけになってしまわないよう、長期にわたり対象者自身を受け入れ、伴走することを目的とした支援を実施しています。

 事業を開始した2021年度(令和3年度)当初、「付添い支援」は手探り状態でした。「伴走型支援」についても思うように利用が進まないなどの課題がありましたが、いずれもこの2年間の取組の中で少しずつ軌道に乗ってきたように感じます。

 事業の実現に当たっては、静岡市再犯防止推進協議会の委員である国や民間協力者の方に大変な御尽力をいただきました。犯罪を抑止し、安全に安心して暮らせる地域社会の実現のために、基礎自治体としてできることは限られているのかもしれません。しかしながら、基礎自治体だからこそできることがあるとも感じています。引き続き、関係機関等と連携を図り、より一層の切れ目のない支援を実現していきたいと考えています。

よりそい支援員による付添い支援の様子
  1. ※6 性犯罪の再犯防止に向けた地域ガイドライン~再犯防止プログラムの活用~
    https://www.moj.go.jp/hisho/saihanboushi/hisho04_00091.html性犯罪の再犯防止に向けた地域ガイドライン~再犯防止プログラムの活用~のqr