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刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会(第297回)議事要旨

1 日時
  令和3年6月24日(木)14:00
 
2 審査件数
検討会付議件数 審査結果
処理案相当  再調査相当 処理案不相当
13件 13件 0件 0件
 
3 意見その他
(1)指定日外発信及び発信申請通数を制限する措置の取消し求める再審査の申請について,「法務省意見相当」との結論に至ったが,1名の委員から以下のとおり意見が付された。
 申請人は入所時健康診断において,パーソナリティ障害と診断されているところ,医学的に,パーソナリティ障害とは,認知や感情,行動や対人関係のパターンが一般的な人とは著しく異なり,そこから様々な苦しみや社会活動の問題が生じている状態をいい,A群と呼ばれる妄想型パーソナリティ障害,統合失調質パーソナリティ障害,統合失調型パーソナリティ障害,B群に分類される境界型パーソナリティ障害,自己愛性パーソナリティ障害,反社会性パーソナリティ障害,演技性パーソナリティ障害,C群に分類される依存性パーソナリティ障害,強迫性パーソナリティ障害,回避性パーソナリティ障害の3つの群に分類されると認識する。
 A群においては奇妙で風変わりな行動をとることが特徴とされており,他人を疑ったり不審に思ったり危害を加えられることや裏切りを恐れ,非社交的で他人への関心が希薄といった状況が生じやすい。B群においては演技的・感情的で移り気な特性を有し,感情や対人関係が不安定であり,衝動コントロールが困難とされる場合もある。C群の場合,不安で内向的特性,他人への極端な依存行動が観察されるとされる。
 パーソナリティ障害の診断は,特徴的な症状が長期間にわたって様々な場面において確認され,他の精神障害や薬物使用などでそれが説明出来ないときに,「パーソナリティ障害」と診断されるのが通常と思われる。原因については,発達期にあたる子供の頃に苦しい体験や辛い体験をしたこと,子育てを受ける環境が不受分であったことなどがあげられるが,明らかになっているわけではない。また,薬物依存やアルコール依存等の他の精神障害を発症する原因になる場合がしばしばあるとされている。
 このような医学的背景の中で,本申請人はどの様なパーソナリティ障害と診断されたのか,本申請人における薬物依存は従前に「パーソナリティ障害」があってそれが原因で薬物依存に至ったと判断されているのか,今後の精神性におけるフォローとして「パーソナリティ障害」の診断への対応が適切と判断した場合,実際のフォローと整合性がとれているのか等が本申請人の適切な矯正指導に重要な情報となり得ると考えられる。
 「パーソナリティ障害」を診断とする場合,患者と医師間の協力関係における必要性が高まる。心理療法,薬物療法においてもどのタイプのパーソナリティ障害なのかによって対応が異なると考えられる。さらに本申請者の場合,長期間に及び薬物濫用が観察され,これらの結果の高次脳機能障害を考える必要はないのか(パーソナリティ障害との鑑別)も重要なポイントになるのではと考えられる。
 こういった精神医学的背景,状態の把握,実態に関して,入所時の精神的健康診断に加えて現状の状態に対する専門の精神科医師らによる精査がなされているか,あるいはその必要性の是非について,十分な検討の必要性があるのではないかと感じる案件と考える。
 申請者の収容施設における異常な言動,行動,違反事例が繰り返され,これに対する処遇も頻繁に繰り返される状況は申請人にとっても施設における担当者にとっても常にストレスフルなことであろうと思われ,本申請人の高次脳機能の実態把握,適切な治療の再構築を含め,戦略的矯正アプローチを再度整えることも必要な事例ではないかと考える。
  加えて,本申請人の刑期終了も迫っており,出所後の再犯防止,矯正と社会復帰の観点からも重要かつ必要な課題と感じる。
(2)有形力の行使を違法又は不当とする事実の申告について「法務省意見相当」(有形力の行使に違法又は不当な点は認められない。)との結論に至ったが,1名の委員から以下のとおり意見が付された。
 本件については,本件の有形力の行使は,少なくとも不当なものであると考える。法60条1項は,「受刑者には,法務省令で定めるところにより,調髪及びひげそりを行わせる。」とあり,規則26条4項は,「受刑者が調髪又はひげそりを行わないことを希望する場合において,その宗教,・・・その他の事情を考慮して相当と認めるときは,調髪又はひげそりを行わせないものとする。」と規定している。また,法務省は受刑者がひげそりを行うことを拒否する場合においては,必要かつ相当と認められる程度及び範囲を超えない限り,一定の有形力を行使できると説明する。
 これらの規定は,「その宗教,・・・その他の事情を考慮して相当と認めるとき」以外は,受刑者に調髪・ひげそりを義務付けるものではある。したがって,その違反に対して反則行為として懲罰を与えることも否定されまい。しかしこれら条項は,それ以上に,職員が有形力を行使して調髪・ひげそりを強制すること(直接強制)まで認めたものとは解し難いと考える。
法60条の規定は,刑事施設の長が調髪・ひげそりの結果を実現させる権限や責務を規定するものとはなっていないし,直接強制を認める場合に通常規定される合理性及び均衡性に関する規定もない。そして法の委任を受けた規則26条4項は,諸事情を考慮して調髪・ひげそりを行わせないことも規定している。また,調髪・ひげそりは,バリカンや(電気)カミソリなどの道具を使用し,その強制的実施が身体に傷害を及ぼす危険を否定できない性格のものであることも,考慮されるべきである。
 また,申告人が調髪・ひげそりの実施に抵抗し「職員の職務の執行を妨げ」たので,法77条1項による措置として有形力の行使をして調髪・ひげそりを強制しようとしたものと説明しようとしても,ある目的を実現しようとする職務の執行行為への抵抗に対して,同条項の適用として目的実現のための有形力の行使を認めるならば,およそあらゆる職務執行について直接強制を認める結果となってしまい,そのような解釈適用は許されないと考える。また,調髪・ひげそりの拒否の継続によって,医療衛生上の問題が生ずるような場合には,医療上の措置(法60条・62条)として調髪・ひげそりを直接に強制することは否定されない。
 本件について,結果的には,申告人の抵抗によって調髪・ひげそりの目的実現ができないまま,申告人に対する職員の有形力の行使としての制止(両腕や頭部の握持など)が解かれた。しかし,その有形力の行使は,相当強度のものとしてなされている。また,申告人の調髪・ひげそりがされていない期間はまだ3か月に満たず,職員らがそれまでに繰り返し調髪・ひげそりの実施を説得していた経過があったとしても,パーソナリティ障害その他かなり重篤な精神疾患を有するとみられ,しかも保護室収容が繰り返されて極めて不安定な精神状態にあったと推測されるこの時点において,あえて申告人に対して調髪・ひげそりを強制しようとする合理性があったのか,非常に疑わしい。本件については,結果的に,調髪・ひげそりの強制を中止し,それ以上の有形力の行使を抑制したことに鑑み,違法な有形力の行使とまでの判断は差し控えるが,上記の本件における個別の事情に即して検討すれば,少なくとも不当な有形力の行使であったと言わざるを得ない。