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刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会 (第314回)議事要旨

1 日時
  令和4年6月9日(木)14:00

2 審査件数
検討会付議件数 審査結果
処理案相当  再調査相当 処理案不相当
21件 21件 0件 0件
 
3 意見その他
(1)受信書の一部を抹消された措置の取消しを求める再審査の申請(2件)について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1 名の委員から以下のとおり意見が付された。
   法務省意見では、受信書の抹消に関する本件措置の理由について、いずれも、「本件記述部分には、申請人が受信することにより、その矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある情報が記載されていることが認められ、これまでの申請人の外部交通の状況、申請人の資質及び環境の調査の結果等の具体的事情から、申請人が本件記述部分を受信することにより、その矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあると認めるのが相当であるから」、というものである。
しかし、ここには一般論しか述べられておらず、それも条文をなぞった記述が繰り返されている等、本件個別事案に関する判断が全く示されていない。したがって、これによって当該措置の適法性・妥当性が申請人に理解できるものといえるかについて、すなわち審査の再申請に対する裁決に理由の記載を求めた法162条3項及び行政不服審査法50条1項4号の規定の趣旨を満たすものかについて、疑問なしとしない。少なくとも、本件記述部分には「犯罪性のある者に関する情報が記載されている」など、本件記述部分自体の問題点が示されるべきではないかと考える。
   なお、上記の問題は、本件の審査の申請に対する矯正管区長の裁決についても同様である。
(2)懲罰(閉居罰及び報奨金計算額削減の併科)の取消しを求める再審査の申請について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付された。
   法務省としては、本件再審査の申請のうち閉居罰の取消しを求める部分については、既に執行が終了しており、その取消しにより回復すべき法律上の利益がないため、却下の裁決を行う予定であるとのことである。
このように再審査の裁決の時点では執行が終了してしまっているという問題は、閉居罰については不可避的に生ずることであるが、上記のような法務省の取扱いによれば、閉居罰に関する再審査の申請の大部分が、執行の終了により法務大臣による内容の審査を受けられずに却下の対象となることになる。それはまた、懲罰の中で最も典型的なものである閉居罰のほとんどについて、調査検討会における審査が事実上及ばないことになってしまうことを意味するのであり、このような制度的取扱いの是非について、改めて検討されたい。
  ちなみに、日本弁護士連合会の2021年11月18日付け法務大臣宛勧告書は、閉居罰の執行が終了しても、制限区分・優遇区分の指定の際の評価、仮釈放審査への影響など、閉居罰を受けたことが事後に影響を及ぼす事実上の不利益が存すること等を指摘し、再審査の申請について法務大臣が実質的な審査を行って裁決をすることを求めており、その理由付けも含めて参照されるべきである。
(3)有形力の行使を違法とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付された。
  本件ひげそりのための有形力の行使の適否・当否については、判断を留保する。なお本件は、第313回調査検討会において、個別意見を付記した案件と同一の申告人についての同様の事案であり、以下の個別意見もそれに対するものと同様である。
法60条1項は、「受刑者には、法務省令で定めるところにより、調髪及びひげそりを行わせる。」と規定し、規則26条4項は、「受刑者が調髪又はひげそりを行わないことを希望する場合において、その宗教、・・・・その他の事情を考慮して相当と認めるときは、調髪又はひげそりを行わせないものとする。」と規定している。
  これらの規定は、一定の場合以外に、受刑者に調髪・ひげそりを義務付けるものではある。しかしこれらの規定は、それ以上に、職員が有形力を行使して調髪・ひげそりを強制すること(直接強制)まで認めたものとは解し難いと考える。
法60条の規定は、刑事施設の長が調髪・ひげそりの結果を実現させる権限や責務を規定するものとはなっていないし、行政法規が直接強制を認める場合に通常規定される合理性及び均衡性に関する規定もない。そして法の委任を受けた規則26条4項は、諸事情を考慮して調髪・ひげそりを行わせないことも規定している。また、調髪・ひげそりは、バリカンや(電気)カミソリなどの道具を使用し、その強制的実施が身体に傷害を及ぼす危険を否定できない性格のものであることも、考慮されるべきである。
本件法務省の意見は、法60条1項により申告人の意思に反してひげそりを行うことは適法な措置であるとし、それとは別に法77条1項を適用することにより、ひげそりの職務の執行を妨げる行為を抑止するための有形力の行使は適法であるというものである。  しかし、意思に反するひげそりの実施とその妨害の抑止行為は一体のものであり、法60条の規定の趣旨として直接強制を認めるべきでないとすれば、法77条1項によっても許容されないと解される。
もともと、調髪やひげそりは、個人の人格的自由に関わることがらであり、それゆえ、受刑者以外の被収容者については義務とされず、刑事施設はその便宜を与えることだけが規定されている(法60条4項)。
  受刑者については、特に髪型については刑務作業上の危険や特異な髪型の防止など一定の範囲で自由を制約する必要はあろうが、ひげそりについてはそのような要請も相対的に低いと思われる。なお、昼夜居室処遇の場合には、他の作業者との関係での集団的規律の必要性も乏しいであろう。
  そして本来、調髪・ひげそりが個人の人格的自由に関わるものであり、また、これを強制的に行う場合の上記危険性も併せ考えれば、実質的にも、法77条1項の適用として有形力の行使による結果の強制的実現は回避されるべきものと思われる。
もっとも、調髪・ひげそりの拒否の継続によって、医療衛生上の問題が生ずるような場合には、医療上の措置(法62条)として調髪・ひげそりを直接に強制することは是認しうる。
本件の個別事情からすると、申告人がいつから、なぜひげそりを拒否するようになったのかの経緯が、資料上明らかでない。本件のように激しく抵抗する申告人をむりやり押さえ込んでひげそりを強制する前に、その拒否的態度をコンサルティング等によって緩和する方法が採れなかったのであろうか。ビデオ録画によれば、本件でひげそりを強制的に実施中、担当職員は「危ないぞ、危ないぞ」と連呼していたが、このような危険を伴う人格的自由の抑圧措置は、他に手段方法がない真にやむを得ない場合に限定されるべきものと考える。
(4) 保護室への収容を違法とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付された。
  本件保護室への収容の是非については、意見を留保する。
  本件においては、まず、申告人が職員Aの制止にもかかわらず居室扉をたたいて騒 音を発し続けたとされているが、職員Aの非常ベル通報後統括が数名の職員とともに当該居室の前に駆け付けた後は、申告人は「統括の問い掛けに無言のまま返答しない」という状態であり、申告人が制止に従わずに大声や騒音を発していた事実は認め難く、さらに保護室への連行も抵抗なく行われている。
  そして、保護室への収容は、刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるときであることが要件とされているところ、これは、被収容者の精神状態が著しく不安定であって手が付けられないような場合に限る趣旨と解される。したがって、非常ベル通報がなされた場合であっても、統括等の刑務官が現場に臨場した時点及びその後において、なお制止に従わずに大声や騒音を発しているような状況にない場合に、上記収容要件があるといえるかは極めて疑問である。保護室への収容の被収容者の心身への影響の強さに鑑みると、非常ベル通報がなされた場合であっても、その後の状況においてなお法79条1項2号の要件が存在するかどうかを慎重に判断する運用がなされることを望むものである。
(5)保護室への収容を違法とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付された。
   本件において、2020年8月19日午後2時33分に保護室に収容された申告人は、同月21日午後4時33分、脱水症により意識を消失したことにより保護室収容中止とされているが、保護室等録画書留簿によれば、その間の室温は33.2~34.6度になっていた。これは、被収容者の生命にもかかわる状態であったと言わざるを得ず、このようなことが起こり得る保護室の処遇環境が継続されてきたということは、極めて遺憾である。当該刑事施設においては、本件後若干の改善措置がとられたとのことであるが、他にも共通の問題を抱える刑事施設も少なくないと思われ、法務省として当面の改善策を速やかに講ずるとともに、早期に抜本的な対策を講ずるよう要望するものである。
(6) 保護室への収容を違法とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、2名の委員から以下のとおり意見が付された。
  申告人に対する刑務官の対応に関する疑義に対する法務省見解に関しては、法務省見解相当と判断するが、申告人の精神状態に関する医学的対応の可能性、工夫に関して一言意見を付記しておきたい。
  申告人は12歳頃からシンナー吸引を繰り返し、成人後には覚醒剤の使用も加わり、この間、少年院送致、少年刑務所、刑務所等への送致が重なり、満期釈放後は覚醒剤等の薬物使用、逮捕、受刑といったことが現在に至るまで繰り返されている。この申告人の(書類上から推察される)シンナーや覚醒剤の長期にわたる使用は、明らかに薬物による不可逆性の脳器質障害を起こし、高次脳機能障害を引き起こしている可能性が考えられる。その結果として、人格障害が生じ、社会における適応能力が低下し、犯罪も度重なり、受刑期間においても刑務官等との間における粗暴言動、指導拒否、暴言等の繰り返しが生じ、結果として保護室収容の処置の発動が繰り返されているものと推察する。
  保護室収容により、通常の生活をしなければならないと感じるある意味事実上の「指導」が効をなすためには、指導される原因、自己の不適切行動の理解、指導の意味等をきちんと解釈し、理解する必要がある。しかし、本申告人においては、身体的問題(脳機能障害)によって、これらのことが十分に理解出来る環境にあるのか、の疑問を感じざるを得ない。受刑者の中には、このような薬物使用の副作用としての高度な脳機能障害(高次脳機能障害)を有する人々が少なからずの人数で存在することが、他の事例からも推察されることもあり、これらの受刑者を高次脳機能障害のない人々と同じ扱いで対応すること自体に、限界があるのではないかと感じる。これは受刑者だけでなく、これと対峙する刑務官等の矯正担当者にも大きなストレスと負担を与えることになり、同じトラブル発生、保護室収容、異議申立ての不毛な繰り返しがなされる(なされている)と危惧されるものである。
  こういった不可逆性の脳機能障害を有すると考えられる受刑者に対する医学的対応は極めて難しく、対照的な対応しかないのかもしれないが、「仕方がない。」として諦観し、ただ時を過ごすことは、本来の「矯正」の本質を考えた場合に、果たしてそれでよいのかという疑問が生じる。 
  一般の医療刑務所的な施設を超えた、薬物使用による高度な脳機能障害に対応する専門施設の設置が強く求められるものと感じている。簡単な問題ではないが、「仕方がない。」という言葉で終えてはいけない課題と考え、敢えて一言、意見を付記する次第である。