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刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会 (第328回)議事要旨

1 日時
  令和5年4月20日(木)14:00
 
2 審査件数
検討会付議件数 審査結果
処理案相当  再調査相当 処理案不相当
20件 20件 0件 0件
 
3 意見その他
(1)書籍等の閲覧を禁止された措置の取消しを求める再審査の申請について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付された。
   本件書籍の閲覧禁止の処分は、違法又は少なくとも不当であると考える。
本件書籍は、暴力団担当刑事の捜査記録に基づき、暴力団と芸能界、スポーツ界、経済界等との関係を、担当刑事の視点から描いたドキュメントであり、暴力団の実態についての批判的な出版物であって、著者も一般に知られたノンフィクションライターである。そして、一般に流通し、社会的評価に耐えうる内容を持ったこのような著作物については、受刑者に対しても、これを閲覧する自由は、知る権利の一環としてできるだけ広く保障されるべきものである。
   もちろん、書籍等の閲覧の許否を判断するに当たっては、当該受刑者の性向、行状等の具体的事情の下で、その改善、更生など矯正処遇の適切な実施への影響を検討すべきものであり、申請人は覚醒剤事犯等を繰り返してきた者であって、覚醒剤等の薬物と暴力団との関連を考慮すべきものではある。しかし、書籍等の閲覧の制限は、受刑者の改善、更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合に、必要かつ合理的な範囲に限って許されるものであり(最高裁大法廷昭和58年6月22日判決、最高裁平成18年3月23日判決参照)、上記のような本件書籍の性格・内容をも含めた具体的事情の下では、本件についてそのような蓋然性・必要性・合理性を認めるべき根拠は不明であり、その閲覧の禁止は、表現の自由ないし知る権利という基本的人権の優越的性格からして、違法又は少なくとも不当であると考える。
   なお、このような一般に流通し、社会的評価に耐えうる書籍等については、これを当該受刑者から遮断するのではなく、そのような一般的な情報に接した場合に、当該受刑者が受けることがあるべき悪影響を自らコントロールできる資質を身につけさせるような矯正処遇が肝要なのではないかと思われる。刑務所の中でだけ無菌状態に置いても、そのような資質を体得しなければ、社会に復帰してもたちまちその悪影響に染まることになるのではないかと思われるのである。
(2)発信書を禁止された措置の取消しを求める再審査の申請について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付された。
   本件については判断を留保し、平成19年5月30日付け矯正局長依命通達「被収容者の外部交通に関する訓令の運用について」記29「外部交通の確保が目的であると認められる養子縁組への対応について」の内容及び運用について、疑問を呈示しておく。
   まず、同通達においては、養子縁組が「専ら外部交通を得る目的などのためにされたものであり、養親子としての情を深めたりするという目的意識はなく、あるいは極めて希薄である場合など、法令における外部交通に関する各種規制を潜脱するためと認められる場合」には、民法上無効と認定できなくても、刑事収容施設法128条の「親族」としての外部交通を認めない運用もあり得るとされているところであるが、同法その他の法律によってそのような取扱いが認められているわけではなく、かつ、「親族」の範囲は民法上一義的に明確なのであるから、通達による解釈・運用という形でこのような取扱いを続けている状態には、基本的な疑問を禁じ得ない。必要ならば法令上の整備がなされるべきものと思われ、また、それが無用なトラブルの防止に資するように思われる。また、同通達が「養親子としての情を深めたりするという目的意識」を脱法か否かの基本的な判断基準としていることについても疑問がある。もともと民法上の養子縁組及びその社会一般における運用においても、例えば相続関係を生じさせるためなど、「養親子としての情を深める」ことが制度目的とは必ずしもいい難いし、養子縁組の要件とされているわけでもない。だから、その目的意識の有無をメルクマールに、被収容者の養子縁組が脱法的なものかどうかを判断するという判断基準自体に疑問が生じる。本件においても、旧姓に戻ると過去の非行歴などが分かって就業先を探すのに支障があるため姓を変えるということが、養子縁組の一つの動機として排斥されるべきかどうか、疑問の余地があろう。
(3)保護室への収容を違法とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付された。
   本件における申告人に対する催涙スプレーの使用については、違法との判断までは控えるが、不当な有形力の行使と考える。また、第327回調査検討会で意見を述べたとおり、催涙スプレーの使用基準の策定を検討されたい。
   本件は、保護室収容中の申告人が食器口から手を出して食器口の閉扉を妨げ、それを止めるようにとの監督当直者の指示に従わなかったため、催涙スプレーを使用する旨予告した後、食器口から催涙スプレーを噴射した、というものであるが、ビデオカメラ映像で確認したところによると、催涙スプレーの使用を予告した後ほとんど間を置かずスプレーを噴射しており、保護室扉を開扉して手を出すのを止めさせるなど、他の手段方法を試みることもしていない。
   催涙スプレーは、法77条1項の被収容者の行為を抑止するため必要な措置を執る場合の警備用具の一つとして規則36条に規定されているものであるが、どういう場合にこれを用いるべきかの使用基準らしきものは、関係訓令等を含めて見当たらない。しかし、催涙スプレーは、少なくとも使用した相手の身体に生理的変化としての侵襲(傷害)を与えるものであり、その使用は慎重になされるべきものであると考える。したがってその使用は、十分な説得はもちろん、他に可能な抑止措置等を試みてもその抑止が困難であるなど、比例原則に基づき、より侵襲の少ない方法を試みた上で使用されるべきものであろう。
   ところが本件における催涙スプレーの上記のような使用は、かかる比例原則に適合しない不当なものであったといわざるを得ない。安易な催涙スプレーの使用は戒めるべきである。