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刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会 (第330回)議事要旨

1 日時
  令和5年6月8日(木)14:00
 
2 審査件数
検討会付議件数 審査結果
処理案相当  再調査相当 処理案不相当
22件 20件 2件 0件
 
3 意見その他
(1)書籍等の閲覧を禁止された措置の取消しを求める再審査の申請について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付された。
   本件書籍の閲覧禁止の処分は、少なくとも不当であると考える。
   一般に、書籍等の閲覧の制限は、表現の自由ないし知る権利という基本的人権の優越的な性格に照らし、刑事施設の規律・秩序の維持、受刑者の改善・更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合に、必要かつ合理的な範囲に限って許されると考えるべきものである(最高裁大法廷昭和58年6月22日判決、最高裁平成18年3月23日判決参照)。
   そして、本件書籍は、女性看護師4人の共犯による保険金目的の衝撃的な連続殺人事件を追ったドキュメントであり、丹念な調査によって数奇な事件の真相に迫ろうとしたものといえる。著者は一般に知られたノンフィクションライターであり、一般に流通し、社会的評価に耐え得る内容を持ったこのような著作物については、受刑者に対しても、これを閲覧する自由は、知る権利の一環としてできるだけ広く保障されるべきものである。
   他方、本件書籍中には、刑事施設の被収容者同士の不正連絡の事実やその方法が具体的に記述され、一般論としては、被収容者に同様の反則行為を誘発する等、その規律・秩序の維持に支障を及ぼすおそれがないわけではない。また、本件申請人についての人格上の問題や規範意識の低さなど、その性向、行状等の具体的事情の下で、矯正処遇の適切な実施への影響も合わせて検討すべきものではある。
   しかしその上でなお、申請人が本件書籍を閲覧することによって、具体的に不正連絡等の反則行為が誘発され、当該刑事施設の規律・秩序の維持や申請人の改善・更生に放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるとまでいうことは困難だと考える。
(2)保護室への収容を違法又は不当とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、委員全員から以下のとおり意見が付された。
 ア 本件の保護室収容は、午後9時過ぎから翌日にかけてのものであるが、本件事実の申告及び再申告の理由は、基本的に、保護室収容自体というよりも、保護室収容中の寒さである。
 イ 申告人は、前年中から職員に対する他害行為事案や自殺企図事案を繰り返していたことから、厳重な視察が必要な対象であったところ、本件保護室収容の約2か月前の保護室収容期間中にも出血を伴う自傷行為が2度あり、2度目は多量の出血を生じた等の経緯があった。そこで、本件保護室収容指揮をした監督当直者は、収容当初、自傷行為等防止のため、申告人にシャツ及びパンツのみを貸与し、また、布団についても白色のものを用意して、最初に掛布団1枚と枕1個、次いで敷布団1枚を追加したものの、それ以上に衣類や毛布等を貸与することなく、エアコンにより室温調節を行うこととした。なお、申告人にシャツ及びパンツ以外の衣類が貸与されたのは、翌日の午前8時前である。
   そして、本件保護室の暖房は、保護室棟全体の空調設備が継続的に稼働していたほか、保護室ごとのエアコンがあり、これは本件でその都度対応職員が操作をしていたようであり、他方、床暖房は使用していなかった。そして、本件保護室の当夜の室温記録は、おおむね21~22度前後で、高いときで25.4度のことがあった。
申告人は、保護室収容直後に寒さを訴えていたものの、午前2時頃までは睡眠をとっていたようであるが、午前2時過ぎから4時過ぎまで、間を置いて4回にわたり、繰り返し職員に寒さを訴え、職員はその都度エアコンの操作をするなどして対応しているが、「寒い」「凍え死にそうだ」などという申告人の訴えは、保護室動静視察記録簿や保護室の監視カメラの映像によって、特段誇張等のない正当なものであったと認められる。
 ウ そこで、本件における申告人の保護室収容中の温度管理、衣類・布団の貸与等の処遇が適切であったかどうかであるが、確かに、申告人のこれまでの自傷他害の行動の経緯、特に本件のわずか2か月前の保護室内での多量の出血を伴う自傷行為の経過に照らせば、監督当直者がシャツ及びパンツ以外の衣類を与えず、また、白色の布団を用意して敷布団・掛布団各1枚を貸与し、保護室内の室温を管理することで対処しようとしたことは、基本的には妥当であったと考えられる。そして、その方針に従って、夜間に対応した職員も申告人の訴えに応じて、当該保護室のエアコンのスイッチ又は温度調節の操作により対応していたことが認められる。その基本的な対応方針は是認すべきものであり、またその方針に従った対処ないし努力も一応なされているので、この処遇について、全体として違法又は不当であるとの事実の確認をすべきものとまで判断することはできない。
   しかし他方、その具体的処遇の内容、特に保護室内の温度管理については、適切ないし十分なものであったとはいえないと考えられる。もともと、シャツ及びパンツのみの被収容者について、室温21度という設定が適正なものであったかは疑問もあるほか、本件では、仮にそれが低温やけどを慮った対処だったとしても床暖房が全く使用されず、敷布団1枚があっても床への接地面の温度は、室温として記録された温度よりも相当に低かった可能性が高い。そして、夜間に繰り返された本件保護室用のエアコンの電源の点滅ないし温度調節等の操作の内容についても、記録上明確でない。したがって、エアコンによる室温管理及び床暖房の使用については、配慮すべき余地が相当にあったと考えられ、申告人に過大な身体的・精神的苦痛を与えたであろうことは否定できないと思われる。
   よって、委員4名(全員)による意見を付するものである。