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刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会 (第332回)議事要旨

1 日時
  令和5年7月13日(木)14:00
 
2 審査件数
検討会付議件数 審査結果
処理案相当  再調査相当 処理案不相当
11件 11件 0件 0件
 
3 意見その他
  
有形力の行使を違法とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、4名の委員(以下「『委員➀
』、『委員➁』、『委員➂』、『委員➃』」とそれぞれ記載する。)から、以下のとおり意見が付された。
(1)委員➀から付された意見
   本件は、違法な有形力の行使であると考える。
  ア 本件は、(1)転室のため職員が申告人を連行中、申告人が急にしゃがみ込んで動こうとしなかったため、監督当直者において申告人が職員の職務の執行を妨げる場合に該当すると判断し、職員によって申告人の身体をつかむなどの有形力を行使して申告人を車椅子に乗せて転室先居室に連行し、(2)同居室に入室後、身体検査をしようとしたところ、申告人が身体に力を入れて動こうとせず、監督当直者において職務の執行を妨げていると判断し、職員をして有形力を用いて脱衣をさせ、身体検査を実施した上で衣類を着用させたという事案である。
    これに対して申告人は、(1)転室のための連行中、パニック発作を起こして意識を失っていたにもかかわらず、無理やり車椅子に乗せられて転室先居室に運ばれ、(2)意識を失ったままの状態で、身体検査のために服を着替えさせられたが、その際脚部に2本の傷を負わされたもので、いずれも違法な有形力の行使であるとして事実の申告をしたものである。
  イ そこで検討するに、まず、本件当日の診療記録には、「転室時過換気様症状を呈していたとのこと」とあり、申告人は「上記症状時の記憶がないと述べ」との記載があり、また、本件携帯用ビデオカメラ映像を見ても、少なくとも申告人を転室先居室に入室させようと職員が申告人を車椅子から抱え上げた時点では、申告人が過換気様症状に陥っていたことが見て取れる。しかも、申告人は本件申告以前の約半年の間にも相当回数過換気様症状を発症していたとのことであり、申告人の関係記録にもパニック障害の既往や現症の本人による申告の記載がある。加えて、本件当日の未明に申告人が自殺企図に及び、精神的に緊張ないし不安が強い状況にあったと推測される。このような諸事情からすれば、本件当時、申告人は実際に過換気様症状に陥っていたと考えられ、それは申告人の詐病とはいえないと考えられる。
    そして関係記録によれば、職員が元の居室から転室先居室に連行を開始した後、申告人が急に歩行をやめて廊下付近にしゃがみ込んだため、職員が申告人をつかむなどして立たせて車椅子に乗せて連行を再開したが、その際も申告人は両腕で顔を覆って上体を前に倒したため、車椅子から落ちないように職員が把持するような状況にあり、その後も申告人は、車椅子のステップから両足を下ろしてしまったり、車椅子からずり落ちそうになり、職員が滑落防止のため申告人の両足をつかんだりして連行を続けるなどのことがあった上、連行開始約10分後に転室先居室近くで職員らが申告人を車椅子から抱え上げて同室に入室させたという(以上、上記(1)関係)。 
    さらに、転室先居室の畳の上に申告人を寝かせた後、監督当直者は申告人の身体検査を指示したが、申告人は身体を硬直させて動かない状態にあり、職員らが申告人の衣服を脱がせ、身体検査を行い、その時点で申告人に負傷等がないと報告され、その後職員らが、なおも身体を硬直させたままの申告人に衣服を着用させ、退室したという。そして翌日、申告人から左脚にけがをしたとの訴えがあり、職員が確認したところ、左脚膝下付近に2本の擦過痕が認められ、写真撮影が行われている(以上、上記(2)関係)。
  ウ 上記の経過からすれば、関係職員は、本来、申告人がこれまで過換気様症状を繰り返し発症していたこと、当日自殺企図に及んでいること等の情報を共有し、又は共有し得たものであり、申告人がしゃがみ込んで自力で車椅子に乗ろうとしない時点で、その健康状態の異常に気付くことも期待し得たと考えられ、また遅くとも申告人が車椅子からずり落ちそうになった時点では、心身の異常を疑い、そのための対処を検討すべきであったと考えられる。したがってまた、申告人のそのような心身の状況と態度について、これを「職員の職務の執行を妨げ」た場合に該当すると判断して有形力の行使をし、またこれを繰り返して継続したことは、誤りであったというべきである。
    まして、申告人を転室先居室に運び込む時点では、申告人の身体の硬直は明らかであったから、職員らは申告人の健康上の異常を認識することが容易であったはずであり、医療上の措置こそ要請されるべきところであった。これを、申告人が身体に力を入れて身体検査を妨害していると判断したというのは、ビデオ映像の申告人の様子からしても極めて不自然であり、そのまま実力によって衣服の着脱をして身体検査を実施したことは、重大な誤りであったというべきものと考える。そして、身体検査のために衣服を脱がせたときには申告人に負傷はなかったとしても、衣服を着せるに際して上記擦過傷が生じた可能性は否定されない。
  エ よって、本件における有形力の行使については、上記(1)については少なくとも申告人が車椅子からずり落ちそうになった時点以降、(2)についてはその当初から、その行使要件があるとした判断は誤りであったといわざるを得ず、法77条1項の規定に基づいて合理的に必要と判断される限度を逸脱した、違法なものであったと判断せざるを得ない。
    なお、本件においては、監督当直者その他の職員において、申告人が健康状態に異常を生じていたとの認識がなかったと考えられないわけではないが、職員らは容易にそのような認識を持つべき、又は少なくとも健康の異常を疑うべき立場にあったといわなければならない。そしてそのような状況下にあって関係職員としてなすべきなのは、申告人が職務を妨げていると決め付けて有形力を行使する前に、まずはその健康状態に注意を払い、医療上の対応の必要性を検討すべきことであったのではないかと考える。
そして、事実の申告の制度は、被収容者の救済を図るとともに、被収容者に対する適切な処遇を確保するためのものであり、再発の防止を図ることもその大きな目的である。本件において、関係職員の認識不足ないし判断の過誤があったとすれば、そのような誤りを今後犯さないための対策が、本件を通して検討されるべきものである。
  オ 付言するに、本件は土曜日で通常は医療職員が不在であるところ、本件当日は准看護師が他の受刑者への対応のため出勤していたとのことであり、当該准看護師は、申告人の転室先居室の監視カメラ映像を見て申告人が過呼吸の状態にあることの疑いを持ったとのことである。そうだとすれば、まず、監督当直者らとしては、上記のように申告人の健康上の異常を認識することが容易であったのであるから(少なくとも異常を疑うべき状態にあったのであるから)、まずは准看護師に連絡して申告人の健康状態についての判断を求めるべきであった。また、当該准看護師においても、少なくとも転室先居室での申告人の過呼吸様症状を疑ったならば、医療職員としてまずはその場に直ちに赴いて、健康状態を把握し、関係職員に必要な対処を指示すべきものであったが、それもなされなかった。そして関係職員らは、身体検査の後も意識を失って身体を硬直させたままの申告人を居室に放置して立ち去ったのであり、准看護師が申告人のバイタル・チェックを行ったのは約3時間後のことであった。これらは、有形力の行使の問題ではないが、刑事施設の職員ないし医療職員として、被収容者の健康への配慮を余りにも欠いた対応であったことを、指摘せざるを得ない。
(2)委員➁から付された意見
   本件は、居室の変更に伴う移動の際に、申告人が通路途中でしゃがみ込み、車椅子が用意され、収容する予定の居室に移動し、新しい居室において身体検査のために衣服の着脱等がなされた。この際に、足に擦過傷を生じたので、違法な有形力が加えられたとする申告人の主張を審査するものである。本件に関しては、新しい居室へ移動する途中、しゃがみ込むところからのビデオ映像があり、これを十分に観察、解析する中で疑問、議論が生じ、検討会において慎重な議論が生じた案件である。
   まず、問題点の一つ目は、居室移動となった原因が、本件事案の前夜に申告人が自殺企図と思われる行動をし、それが発端となって(監視が行き届く)新しい居室に移動となった点であるが、自殺企図と思われる行動が認められてから、新しい居室に移動する手続きまでに、数時間の時間ロスがあり、本来は速やかに対処すべき対応に明らかな遅れがある点である。この点に関しては、問題意識の弛緩があり、十分に反省すべき遂行意識の低下が認められる。
   問題点の二つ目は、新しい居室への移動時の対応、及び新しい居室に入ってからの申告人の様子に対する対応の是非である。ビデオ映像からは、移動の途中に申告人がしゃがみ込むところが映っており、これを刑務官側としては「移動に対する反抗行動」と捉え、車椅子を用意して強制的移動を開始している。そして新しい居室内に申告人が運び込まれてから、衣服の着脱を行い、身体検査を行っているが、この際に申告人は激しい過呼吸を起こしており、過呼吸によって生じた急激な呼吸性アルカローシスが原因と思われる両上肢先端の手首や指の痙攣、硬直(テタニー)症状が生じていることが明らかに観察される。この症状を確認の上で、その前の状況をビデオ映像にて詳細に観察すると、車椅子で移動中にも、恐らくは意識の低下による身体の保持の困難が原因の車椅子からのズレ落ち(わざとの行動ではない)や、既にこの時点においても両上肢先端の手首や指の痙攣、硬直(テタニー)症状も観察された。
   しかし、これらの状況は、刑務官側からは申告人の「反抗、抵抗」と捉えられ(感じられ)、したがって今回の措置は法77条に基づく対応であり、申告人の訴えは成立せず、刑務官側に違法、不当はないという判断である。申告人が移動途中でしゃがみ込んだのは、一連の症状、様子から、恐らくは詐病ではなく、本当に体調不良があったと判断するのが妥当と思われる。しかし、最初の段階でそれを完全に判断せよと言うことはいささか難しい点があり、これをもって違法、不当とすることは難しいと考える。次に、移動途中、あるいは新しい居室に移動してからの刑務官側の行動であるが、「過換気症候群を発症している」とは判断されておらず、したがって申告人の行動を「反抗、抵抗」と判断した上の行動であり、故意に行っていることとは言えない。
   しかし、申告人が過去にも過呼吸を生じたりしている事象が数回あり、その状況は組織全体として把握しておくべきことであり、その情報共有がなされていれば、単純に「反抗、抵抗」とだけ考えずに、体調に関しての「配慮」がなされなければならない事象である。この配慮が見受けられず、非常に遺憾に感じる次第である。さらに、当日、他の受刑者の医療的対応の為に准看護師が出勤中で、本件の様子を別室のモニター映像で確認しており、過呼吸を起こしているのかもしれないとの疑問を呈したとの状況も説明されたが、であるならば、なぜ駆けつけなかったのかという疑問が生じる。医師よりこのような過呼吸の状況が起こった時は落ち着いてからvital等を確認せよとの説明がなされたということであるが、それは治療的対応の話であり、医療職にあるものにとって、近くで疑問を感じる事象が生じた時には現場に駆けつけて様子を見ることは鉄則的規範と言える。この鉄則が行われなかったことに関しては反論の余地も許されてはいけないことと感じる。したがって、厳しく言えば、反抗、抵抗とだけの判断ではなく、体調不良の問題はないか、という他の検討も加える「余裕」、「配慮」は強く求められるべきであり、結果論から言えば(違法、不当とまでは言わずとも)著しく「不適切」であった言うべき案件である。
   本件に対する判断を「違法、不当」と言うことは、若干難しいと判断するが、組織全体の情報共有や、非常時等における対応の緊張感の欠如が多々見られ、結果としては不適切な対応、配慮に欠けた対応といわざるを得ないと考えるのである。過呼吸症候群は、基本的には大事に至らないケースが多く、自然に落ち着くことも多い状況と考えられるが、しかし、その病態が生じた時点においては、本来適切な対応が求められるべきである。したがって、本件については「大事に至らなくてよかった」という感想が生じるのである。
   なお、本件が生じた刑務所においては数百名の受刑者が収容されているとのことであるが、それだけの人数を収容している組織において、土曜日及び日曜日において常勤の医療関係者(看護師、准看護師等)がおらず、自宅待機のオンコール体制で対応しているということであるが、これは全国の刑務所等にも言えることであるが、特殊な施設でもあり、当然、心身の健康管理にはある意味常に意識を払う必要もあり、そのためにも1名でも常勤、常駐の医療関係者(看護師、准看護師等)がいる環境を構築することは重要な課題であると指摘したい。そのような体制は、一般刑務官にとっても望まれているものではないかと推測する。国としての課題と思われるが、十分に検討すべき課題であることを指摘したい。
(3)委員➂から付された意見
   本件は、申告人によれば、意識がないにもかかわらず、無理矢理車椅子に乗せて運ばれ、服を着替えさせられる際に、足に2本の傷を負わされたというものである。
   携帯用ビデオカメラ映像をみると、車椅子移動時に申告人が車椅子から崩れ落ちそうになっている際、居室に入室して申告人を着替えさせている際において、体調の変調がみられる申告人に対する職員の対応は、直前に自殺企図行為を行い、過去に度重なる過呼吸の既往歴のある申告人に対する対応として、まずは申告人の体調について配慮をすべきであるにもかかわらず、申告人の体調不調に対する気遣いを示さず、看護師や医務への連絡も行わず、淡々と職務を行っている対応は人権意識への配慮に欠けた対応といわざるを得ず、申告人の行為が法77条(制止等の措置)の要件に該当するとも思われない。ただ、申告人の主張のように申告人の足にある傷が直ちに、職員の着替え時の行為に起因するということもできない。
   したがって、違法とはいえないまでも、その背景には先般の名古屋刑務所職員による暴行事件にみられる受刑者への人権意識の欠如と相通じるものがあり、法務省においては受刑者の人権の取扱いに関するこの種の問題を軽々に扱うことなく真摯に向き合ってほしい。
(4)委員➃から付された意見
   本件について法務大臣意見相当であるが、配慮や改善が必要である。申告人は転室の際に、一度は自力歩行にて転室を試みるが、その数分後に過換気症候群を発症し、身体が硬直をするなどの状態に陥っており、最終的には意識障害を発症している状況下での強制的な連行へと変動したものであることが映像でうかがうことができる。
   本件は違法な有形力の行使とまでは言えないが、受刑者がこのような発作や身体の状況に陥った際は、施設職員は習慣化された職務上の連行であったとしても、受刑者に対する人権意識や配慮を持ち、その状況の把握と処置に努めるべきである。申告人の保安上の留意事項から考えると、申告人は約20年前より自殺企 図等を繰り返していることや、矯正施設入所中も多種多様な方法で自傷行為や自殺企図をしていること、また規律違反の反復や好訴者でもあることから、申告人の真相(善悪の境界)が分かりづらい。したがって、今後の施設入所中は常態的にカメラ室への収容が好ましく、その中で職員は本人とのコミュニケーションを図り、受刑生活の改善指導と出所後の生活設計等に努めていただきたいと思う。
   本件は過換気症候群の発症時の有形力の行使との申告であるが、意識を失っている申告人がこと細かく連行時の状況を記憶していることや、過去の受刑生活を鑑みると、本件申告に対して信憑性を感じられない部分もある。しかしながら、映像を見ると過換気症候群を発症している事実があるとも思える。
   したがって、施設職員はこのような状況になった場合は、詐病や抵抗と思いつつも、日頃より受刑者の人権に対して配慮をし、確認や対応をしなければならないと思える。