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刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会 (第334回)議事要旨

1 日時
  令和5年8月24日(木)14:00
 
2 審査件数
検討会付議件数 審査結果
処理案相当  再調査相当 処理案不相当
11件 11件 0件 0件
 
3 意見その他
(1)書籍等の閲覧を禁止された措置の取消しを求める再審査の申請について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、2名の委員(以下「『委員➀』、『委員➁』とそれぞれ記載する。)から、以下のとおり意見が付され、委員➀の意見に対し、1名の委員が賛同した。
  ア 委員➀から付された意見
    本件において、書籍の閲覧を禁止した措置については、結論において処理案相当であるが、今後、次のような観点から閲覧禁止措置の運用について長期的な検討を加えることが望ましいと考える。
    法務省の説明によれば、書籍の閲覧禁止の実施に際しては、書籍の閲覧を認めることが矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるか否かについて、申請者の資質及び環境の調査を踏まえつつも、書籍の客観的な内容に照らして画一的・統一的に判断がなされてきたとのことである。このような運用は、全国の刑事施設における措置の平等と円滑な運用を確保する点において一定程度合理性を持つものと認められる。しかしながら、書籍の内容が暴力的な犯罪を行う集団の実態等、暴力的な内容を含むものであっても、申請者が単独室である等の場合にあっては、本人の資質及び環境、入所の経緯等に照らし、当該書籍の閲覧を申請者に認めることが本人及び他の受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれはないと認めることのできる特段の事情があるケースも想定し得る。法務省に対しては、今後導入されることとなる拘禁刑の運用等に関する議論を行うに際し、このような観点から書籍の閲覧制度の運用に改善を加える余地はないか等について検討することを望みたい。
  イ 委員➁から付された意見
    本件書籍の閲覧禁止の措置は、少なくとも不当であると考える。
    一般に、書籍等の閲覧の制限は、表現の自由ないし知る権利という基本的人権の優越的な性格に照らし、刑事施設の規律・秩序の維持、受刑者の改善・更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合に、必要かつ合理的な範囲に限って許されると考えるべきものである(最高裁大法廷昭和58年6月22日判決、最高裁平成18年3月23日判決参照)。
    本件書籍は、たしかに、暴力的な犯罪を行う集団の実態や活動状況、残虐な行動等を具体的に記述しており、申請人の受刑に係る犯罪が粗暴犯であることも考慮すれば、一般論として、その矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがないわけではないであろう。
    しかし、本件書籍は、著者の犯罪行動や結成した集団の活動を賛美しようとするものではなく、長期の服役を終えた著者が、中国残留孤児に対する差別と貧困という社会的矛盾も含めて、自分とその集団の行動と向き合い、自身の更生をめざそうという性格の著作でもあり、現に著者は、更生支援団体を発足させ、受刑者に無償で本を提供したり、受刑者を孤立させないための支援をするなどの活動を継続してきている。
    このような本件書籍の性格と著者の出所後の活動に照らせば、本件書籍は相応の社会的評価に耐え得るものであり、これを閲覧する自由は、知る権利の一環として受刑者に対しても可能な限り保障されなければならない。そして、そのような本件書籍については、これを閲覧させることが、受刑者の改善・更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるとまではいい難いものと思料する。
(2)通数外発信を不許可とした措置の取消しを求める再審査の申請について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付され、1名の委員が賛同した。
   本件において、信書の通数外での発信を不許可とした措置については、結論において処理案相当であるが、次のような観点から、法務省に対し、行政指導とともに信書を返戻する運用を改善すべき旨を全国の施設に徹底することを強く要望する。本件において、刑務所職員は、法130条第1項の規定を適用して通数外の信書の発信を求める申請人の願い出に対し、信書を発信する緊急性は認めらないとして、通数内で発信するよう行政指導するとともに信書を返戻した事実が認められる。よって、当該返戻にあっては、申請者が行政指導に従ったとしても願い出のされた信書の発信が当該刑務所において認められる余地はなかった。そして、緊急性が認められないとして信書の発信を認めなかった判断の当否に関しては不服申立てを求める権利が申請人に法令上認められているのであるから、当該返戻は申請人に法令上認められた不服申立てを求める権利の行使を事実上妨げるものであり、法に基づく権利救済制度の適切な運用を確保する観点から由々しき事態であると言わざるを得ない。本件においては、申請人が本来は審査の対象とはならない返戻行為を不服として不服申立てをたまたま申し立てたことから事実関係が明らかとなったものの、このような返戻を受けた者があえて不服申立てをすることを通常は期待できない点に照らし、このような措置が全国の施設において2度と繰り返されないよう、法務省に対し、行政指導ととともに信書を返戻する措置の運用が改善されるべきことを全国の施設に徹底するよう強く要望する。
(3)有形力の行使を違法とする事実の申告について、「法務省意見相当(有形力の行使に違法な点は認められない。)」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付され、2名の委員が賛同した。
   有形力の行使自体の是非の問題ではないが、本件は、作業用衣類や保護用衣類を脱衣させた後、申告人をシャツ及びズボン下等(以下「下着」という。)のみ着用という状態に置いたという事案である。そして本件刑務所はその当時、申告人について、居室内では下着のみの着用で過ごさせていたもので、その取扱いが約1か月間続けられたというものである。しかもそれは、看守長の指示による取扱いであり、所長による判断を経ていることの記録もないという。なお、下着のみ着用という取扱いをした理由は、申告人が自殺企図等の自傷行為を繰り返していたため保護用衣類を着用させていたところ、保護用衣類の損壊を繰り返したことからその在庫が不足しかねない事態を生じたためとのことである。
   しかし、基本的な問題として、下着だけでの日常生活を強制するのは、受刑者の人格の尊厳を傷つける人権侵害であることを指摘せざるを得ない。まして申告人は女性であり、女子刑務所の中には男性職員もいることも含め、女性の羞恥心に対する配慮を欠くものである。下着だけで過ごすことは、一般の社会生活において家族間でも、通常はばかられるものであり、受刑者であっても、そのような感覚を鈍磨させるべきではない。しかも下着だけしか着用を許さないという取扱いを、安易な手続で受刑者に強制し、1か月もの間継続させていたということは、刑務所職員らとして人権感覚が麻痺しているのではないかとの危惧を覚えざるを得ないのである。
   上記取扱いは、居室の中だけのことではあるが、居室の中も廊下から監視する構造になっており、かつ、申告人の居室にはカメラが設置されていたであろうから、モニターで常時監視されていたものである。
もちろん、そのような取扱いが客観的にやむを得ない場合に、必要最小限度の範囲で、下着で生活させることも、許容される場合があることは否定しない。しかし、申告人本人が保護用衣類の損壊を繰り返したとはいえ、保護用衣類の在庫が底を突いたということではないようであり、しかもそのような状況が1か月も継続するとは思われないから、本件のこの処遇は、必要最小限度という比例原則を逸脱していることも明らかだと思われる。
よって、本件の取扱いに関し、受刑者の人格の尊厳についての当該刑務所職員の意識のありようを再検討されるよう求めるものである。
   なお、申告人が「寒いのに私物の下着を増やしてもらえなかった」と訴えている点については、事実関係が資料上明らかでないものの、気象庁のデータによれば、下着のみ着用との上記取り扱いの終了前日の、秋の季節に入った同刑務所の地域における外気温は20.7~25.4℃であり、居室内でも下着では寒いと感じたということが必ずしも不自然ではないと思われることを付言する。