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刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会 (第336回)議事要旨

1 日時
  令和5年9月21日(木)14:00
 
2 審査件数
検討会付議件数 審査結果
処理案相当  再調査相当 処理案不相当
14件 12件 2件 0件
 
3 意見その他
(1)書籍等の閲覧を禁止された措置の取消しを求める再審査の申請について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から、以下のとおり意見が付された。
   本件書籍の閲覧禁止の措置は、少なくとも不当であると考える。
   一般に、書籍等の閲覧の制限は、表現の自由ないし知る権利という基本的人権の優越的な性格に照らし、刑事施設の規律・秩序の維持、受刑者の改善・更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合に、必要かつ合理的な範囲に限って許されると考えるべきものである(最高裁大法廷昭和58年6月22日判決、最高裁平成18年3月23日判決参照)。
   本件書籍は、確かに、暴力団組織間の抗争、暴力団員の動向、暴力団組織が関わった事件等の内容が詳細に掲載されたものであり、一般論として、その矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがないわけではないであろう。
   しかし、本件書籍は、暴力団の実態、暴力団員の人間像等を事実に即して記述する姿勢で書かれたものといえ、ノンフィクション作家として著名な著者の50年にわたる取材・執筆活動を集成した内容のもので、広く流通して一般市民に提供されているものである。このような性格の書籍を閲覧する自由は、知る権利の一環として受刑者に対しても可能な限り保障されなければならない。そして申請人は、覚醒剤取締法違反を繰り返してきた者ではあるが、暴力団関係はないとのことであり、これらの事情を総合して考えれば、本件書籍については、これを閲覧させることが、受刑者の改善・更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるとまではいい難いものと思料する。
(2)障害手当金を支給しない措置の取消しを求める再審査の申請について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、3名の委員(以下「『委員➀』、『委員➁』、『委員➂』とそれぞれ記載する。)から、以下のとおり意見が付された。
  ア 委員➀から付された意見
    本件において、障害手当金を支給しないとした理由が「申請におけるばね指の原因は不明」とされた点に関連して、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)100条の手当金(以下「手当金」という。)の支給手続及び支給に係る不服申立ての手続については、制度運用の改善が検討される必要があるものと考える。
まず、手当金の支給申請の手続に関しては政省令・規則において定めはなく、支給基準について行政規則のレベルにおいて規定があるにとどまる。法100条の手当金は、刑事施設内での作業に起因する死亡・障害に対し支払われるものであり、労働基準法第8章に規定される災害補償(以下「災害補償」という。)に対応する制度である。このことは、法100条3項が手当金の支給額に関して災害補償を参酌して算出した額と定めていることからも明らかである。したがって、刑事施設内での作業に従事した者が作業に起因して被った災害に対して法が保障する手当金の給付を求める請求権に関し、支給手続に係る法規性のある規律のない状態はそもそも適切なものとはいえない。
    次に、行政法規において、法律上の権利として規律されている各種の社会保障給付の支給申請に際しては、医師(指定医)の診断書の添付を求めた上で、専門家による医学的判定を行うと定めることが一般的である(障害者の福祉に関する各種の諸法律を参照)。そして、この点は、一般の事業場における災害の補償においても同様である。この点に関し、刑事施設においては、法62条1項において刑事施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。以下「刑事施設の医師等」という。)による診療(栄養補給の処置を含む。以下同じ。)を行い、その他必要な医療上の措置を執るものとする、と規定していることから、受刑者から手当金の支給申請がされた場合において、まずは、刑事施設の医師等に、障害の有無、障害と作業との間の因果関係の有無について診断をさせ、これに基づいて判断を行うことは、法に反した運用とはいえない。しかしながら、刑事施設内での作業と受刑者の生活が刑事施設内という一般の作業場と労働者の住居よりも閉鎖性の高い空間で行われる一方において、手当金の支給に際しては、障害のあることに関して医学的な判定が必要とされ、障害と作業との間に因果関係があることに「高度の蓋然性があること」が必要されることから、手当金の支給に関する判断権者である刑事施設の長と受刑者との間に判断の相違がある場合においては、以下に述べるような形で、受刑者に対して専門的な医学的判定を求める権利を行使する機会が保障されるべきである。
すなわち、まず、手当金の支給に係る処分に関する判断を行う段階において、刑事施設の医師等が障害の有無、障害と作業との間の因果関係の有無について、明確な判断を下すことができず、より専門的な判断が必要であると認められるときには、当該障害に関する医療を専門とする、刑事施設外の医師等の診断を刑事施設の長の職権によって受けさせることが望ましく、上記の措置を実施しないとするときには、法63条による指名医による診療の制度が適用されるものとして(法63条1項の定める「刑事施設に収容される前にその医師等のよる診療を受けていたことその他の事情」の文言中の「その他の事情」に該当するものとして)、当該制度の存在を受刑者に教示して、自弁によって当該医師の診療を受けるか否かを判断する機会を受刑者に付与することが必要である(前者の措置を実施する必要性の有無に関しては、手当金の支給申請に関する経緯や、障害の有無、障害と作業との間の因果関係の有無に関する医学的判断の難易度、刑事施設の医師等の専門性や専門的な判断を受ける必要性等、諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきである。また、後者の措置は上記の条件の下に確実に実施される必要がある)。なお、障害が認められず、あるいは、障害と作業との間に因果関係のないことが、医学的に明らかな場合にまで、これらの措置を実施する必要はない。
    次に、受刑者による手当金の支給申請に拒否処分がされ、受刑者が当該処分を不服として不服を申し立てようとするときにおいては、法63条による指名医による診療の制度の存在を受刑者に教示し、自弁によって当該医師の診療を受け、障害の有無、障害と作業との間の因果関係の有無に関する診断書の交付を受けるか否かを判断する機会を受刑者に与えられなければならない(処分の段階において刑事施設外の専門の医師等による判断がされている場合を除く)。災害補償の処分に係る審査請求の手続において、一般の労働者には処分庁の医学的な判断を争うために必要な、自己に有利な証拠・資料を収集し、手続において主張する権利が付与されていることに照らしても、上記の判断の機会は付与されるべきである(もちろん、自弁による施設外の医師等の診療と診断所の交付を求めるか否かは受刑者の自由な判断に委ねられる)。
    以上の手続は、手当金の支給権が法律上の権利として保障される上で必須のものと考えられることから、手当金の支給を規律する法100条の下位規定としての法規性ある規律において規定することが検討されるべきである。また、このような措置が実施されるまでの間、法務省は、手当金の支給に関する取扱い要領において、上記の取扱いを明示し、各施設における運用の改善を促すことを検討すべきである。
  イ 委員➁から付された意見
    本件においては「長期間の溶接作業に従事したことによって、ばね指症になった」として障害手当金の支給を申請したところ、作業との因果関係が認められないとのことで申請を却下されたことに対して、この判断は不当であり、同措置の取消しを求めたものである。
    検討会審議において問題となった点は、「ばね指症」の正確な医学的診断が行われたか否かの点がある。
申請者は平成22年より指の痛みを訴え始めたとされているが、カルテ上にそれに関わる記載が認められるのは平成23年頃に「指痛」との記載があるのみであり、これに対して炎症を抑え、痛みを緩和する軟膏の処方がなされている。しかし、この指痛の原因、程度、患者への説明等に関する記載が全くなく、本申請案件との因果関係を探る資料にはなり得ない程の情報不足となっている。平成26年頃のカルテ記載においては指の動きの異常に対して、「マッサージしている、ガンバレ」との記載であり、病態の原因を調査する意向、指示が読み取れない。また同年には両手甲サポーターの申請も行っており、申請者が指の不具合を長期間気にしている可能性がある。
    これらの経過がある上で、令和3年に「長期間溶接作業に従事したことによりばね指症になった」として障害手当金の申請を行っているが、申請人のばね指症につき、その原因は不明であるとの所見が示されたとされているが、カルテ上、ばね指症と医師が診断した形跡は、令和2年頃記載の欄に、「右中指ばね指」との診断が記されている。とすれば、10年前からの訴えの結果、この症状が出ていることにもなり、「申請人のばね指症につき、その原因は不明である。」との言葉との整合性が成り立たず、矛盾が生じる可能性がある。そもそも、この間、指の痛みに関して、度々の訴えがあるのにも関わらず、X線撮影や整形外科専門医による精査がなされておらず、きちんとばね指症との因果関係を調査したくでもできない不備が存在している。したがって、本案件に関しては、そもそもの根底となる根拠に問題があり、判断の正当・不当を審議する以前に、それらを検討する基本的資料の欠如があるといわなければならない。「ばね指」は一般的には、その前段階として「腱鞘炎」があり、それが進行した結果、ばね指状態になっていくものであり、時間的経過を考慮すると平成22年頃からの痛みや違和感が、もし本当にばね指になっていたとすると、そこに繋がる病態であった可能性も出てくる。したがって、因果関係に関して重要な経過途中での精査が必要であったケースであり、「因果関係はない」ともいえないかもしれないが、いかんせん、検査、精査の結果がないので何とも判断できなくなっているのが本件の実態であると言える。
    今回の問題が生じた一因として、医療体制の不備、医療者のプロ意識の低調が見て取られる。カルテの記載は極めて雑と言わざるを得ず、現在の医学教育におけるカルテ記載の重要性に関する意識が見受けられない(カルテは病名記載だけの記録紙ではない。その判断を行った診断経過、根拠、検査データ等の詳細な記載が求められる重要な公文書である)。また、必要に応じて、専門医による精査を求めるべきであるがその形跡も見られない。令和3年頃の障害手当等支給・不支給判定表における「傷病名」の欄には「右手中指のばね指症(本人の申し立てによる主訴名)」とされており、「障害手当金等支給・不支給判定表」における記載上の注意事項として「傷病名欄については、診察の結果に基づく傷病名を記載すること」との指示からも逸脱したものと言わざるを得ない。その背景で医師が所見として「因果関係は明らかではない」と記載することは、きちんとした診察、検査をなさずには記載できないものであると指摘せざるを得ない。
    以上、当該刑事施設の医療対応及び医療体制に大きな疑問と不信感を残す内容があり、猛省と、今後の真摯な状況と意識の改善を求めるものである。
  ウ 委員➂から付された意見
  (ア)本件申請人のばね指症の発症が刑務作業による災害といえるかの判断自体の問題ではないが、本件において、手指の痛みやばね指を訴えていた申請人にアーク溶接作業を続けさせたことの適否について、刑務所における受刑者の基本的な権利の保護の問題として、その健康や安全への配慮義務の観点から疑問を提示しておきたい。
  (イ)本件において、申請人は、3回にわたってアーク溶接作業に従事している。すなわち、(1)1回目が約11か月間、(2)2回目が、1回目終了から約1年8か月後の時点から約1年8か月間、(3)3回目が、2回目終了から約4年5か月後の時点から約3か月間である。
     その間、申請人は、(1)の作業開始から1か月余の時点で指痛を申し出てその後しばらく消炎鎮痛剤の処方を受けた。また、(2)の作業開始から約1年2か月後の時点で「両手甲サポーター使用許可願」の願箋を提出し、ばね指による右手中指から手甲にかけての痛みとしびれがあり毎夜痛みで起きてしまう等と訴え、その使用許可願書には職員が、「バネ指については申告あり。痛みはあるものの作業可」、「手の症状について慎重に診察の上判断願います」との記入をしており、その約40日後に医師の診察がなされ、カルテ上に右手中指にロックがかかるとの訴えが記載されているものの、カルテ上医師による経過観察等の明示の指示は読み取れない。さらに(3)の作業が終了してから約半年後に、ばね指の訴えに対して「右中指ばね指、拘縮しないように可動域訓練指導」との医師の診断記録がある。
  (ウ)以上の経過からすると、まず、申請人は(1)の期間の初期に指痛を訴えてはいるが、カルテ上はその時期は「指痛」のみであり、記録上申請人本人から明確に「ばね指」の訴えがなされたのは上記(2)の期間中の「両手甲サポーター使用許可願」の時点であるとみられ、しかも毎夜痛みで起きてしまうとの訴えがある。そして、同時点で刑務所職員もばね指の申告があり痛みはあるものの作業は可能との判断を示しているから、少なくともアーク溶接作業を行うことがばね指ないし右中指痛に影響を及ぼす可能性については認識していたと考えられる。そしてその時点で、刑務所職員としても「慎重に診察の上判断」の必要性を指摘していたのであるが、それから約40日後の医師の診断は上記のとおり不明瞭で、そのまま漫然とアーク溶接作業を継続させているように思われる。
アーク溶接作業は、トーチを用いる場合でもスイッチの操作は人差し指で行うのが通常であるから、中指に過重な負担がかかりばね指の原因になるとは考えにくいというのが法務省意見であるが、仮にアーク溶接作業が本件ばね指発症の原因ではないとしても、同作業を続けることはトーチ等を握持して中指にも力を加え続けることにはなるから、症状を悪化させ又は回復を妨げる要因になることは十分に考えられる。
     そして、刑務作業によって健康を害すること、悪化させること、あるいは回復を妨げることは、刑務所の安全配慮義務として、本来避けるべきものと考えなければならない。そうすると、申請人がばね指によるものとして毎夜起きてしまうほどの痛みを訴えた上記の時点で、仮に申請人がアーク溶接作業を行い、あるいは継続することに同意し、よしんばそれを望んだとしても、作業をさせる刑務所側としては、アーク溶接作業を続けさせるべきではなかったのではないかとの疑問を払拭することができない。
また、上記(3)の3回目のアーク溶接作業の開始は、2回目の作業終了から4年5か月が経過してからのことであり、医師の「右中指ばね指」との診断の半年も前にその作業は終了しているため、この3回目の作業従事への指示を安全配慮義務との関係でどう評価すべきかは、資料不足で判断が困難であるが、(3)の開始時点で申請人のばね指症状が明確であったのだとすれば、やはりその作業指示には疑問が残る。
     なお、使用者等が業務遂行のための場所・施設・器具等の設置管理又はその指示の下に遂行する業務の管理に当たって、労働者等の生命・健康等を危険から保護するように配慮すべき安全配慮義務は、刑務所の作業にも適用されるべきものと考えられる(前橋地裁平成25年12月13日判決、奈良地裁令和2年3月10日判決等)。