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刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会 (第337回)議事要旨

1 日時
  令和5年10月26日(木)14:00
 
2 審査件数
検討会付議件数 審査結果
処理案相当  再調査相当 処理案不相当
13件 13件 0件 0件

3 意見その他
(1)信書の発信方法を制限した措置の取消しを求める再審査の申請について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付された。
   矯正管区長の裁決書には、処分庁の主張の項においても、裁決書の理由の項においても、本件の「電報発信願」に関し、信書の発受を電報による方法によって行う際の要件とされる「緊急の必要がある場合」に該当しないことの実質的な理由が文面上具体的には記載されていない。例えば、理由の項においては、「申請人から提出された願箋に記載の発信理由からすれば・・・具体的な理由があるとは認められ」ない、とされているにとどまる。
   この点につき、調査検討会に提示された記録によれば、処分庁が本件の「電報発信願」の願箋に対してこれを認めなかった実質的な根拠は、同願箋に記載された理由が「発送された手紙は全て細工されている」とするものであって、このような事実はないと処分庁が判断した点にあったことが認められる。
   この点、処分に対する不服申立てを棄却する裁決書には、いかなる事実に基づいていかなる理由によって処分庁が当該処分を行ったか、そして、当該処分が適法であると判断されることの根拠を文面上明確に示すべきものとされていることから、本件処分は適法とされるものの、裁決書の理由に関しては、今後、前記趣旨を踏まえて判断の具体的な根拠を示す運用が望まれる。
(2)有形力の行使を違法とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付され、2名の委員が賛同した。
   本件有形力の行使及び手錠の使用の適否・当否についての意見ではないが、頭部保護具(以下「ヘッドギア」という。)について法令による定めのないことに関して、意見を述べておくこととする。
   現行法令上、ヘッドギアについては、刑務官の職務執行に関する訓令32条3項(3)に、拘束衣を使用する場合には「原則として、頭部保護具(ヘッドギア)を装着させること。」との規定があるのみで、その制式、使用方法、使用上の留意事項等の規定はなく、「刑務官必携」における職務上の心得を含め、全て事実上の運用に委ねられている。
   たしかに、ヘッドギアの装着・使用の主な目的は、被収容者の自傷行為等からその頭部を保護することにあるのは、そのとおりであろう。しかし、ヘッドギアについても、その使用により被収容者に危害を生ずるおそれや、身体に対する拘束という側面も、一概に否定できないのではないかと思われる。
   刑事施設で用いられているヘッドギアは、統一規格のものを特注して用意しているとのことであるが、頭部に密着してあごベルト等で締めて固定されるから、その緊度によって、過度の圧迫や擦過傷等が生ずるおそれがあり、使用方法を誤ればその危険が一層高くなる。現に本件の申告人の首や耳の周辺の発赤、特に左耳の後部の擦り傷様のものは、ヘッドギアの装着によって生じた可能性が高いとみられる。また、この統一規格のヘッドギアは、あごベルト等で締めた上施錠をするようになっており、刑事施設職員の判断と指示によって強制的に装着されて被収容者が取り外せないものであるから、拘束性がないとはいえない。そしてその使用は、法77条1項にいう「(被収容者の)行為を制止し、その被収容者を拘束し、その他その行為を抑止するために必要な措置」としてなされることが多いであろうから、やはり基本的に、被収容者を抑制するための措置の一環であると考えられるのである。
   以上のような点から、ヘッドギアについても、事実上の運用に委ねるのではなく、法令、少なくとも訓令ないし依命通達に規定を設け、その制式、使用目的、使用方法、留意事項等を定めるべきではないかと考えるものである。
(3)有形力の行使及び保護室への収容を違法又は不当とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付された。
   本件の保護室への収容の適否、当否については、判断を留保する。
   保護室については、旧監獄法時代には法律上の規定がなく、「保護房」と称され、その濫用事例が度々問題になっていた。行刑改革会議提言(平成15年12月22日行刑改革会議)においても、「保護房への収容は、受刑者の心身に与える影響が大きいことから、その運用については、特に慎重な取扱いが求められていたところであるが、一連の名古屋刑務所事案を契機として、保護房への収容及び収容後の取扱いに適切さを欠く事例が散見されることが顕在化するに至った」として、「保護房収容の適正さを確保するため、収容の要件及び手続等については、明確に法定すべきであり、その要件の認定については厳格に行うように努めるべきである。」とされたところである。そして、『逐条解説刑事収容施設法(第3版)』(361頁)においても、「被収容者の精神状態が著しく不安定であって、手がつけられないような場合に限る趣旨で、「刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるとき」と規定されたものである」と解説されている。なお、「行刑改革会議提言についての日弁連の意見」(平成16年2月1日日本弁護士連合会)は、「保護房収容者の多くは精神疾患に罹患していることや精神が不安定になっているものが多いことから、これに対しては、保安的対応ではなく、対話に基づく医療的対応を基本とする方向に実務を改善すべきである」と述べている。
   このような立法事実や立法趣旨に照らすと、事実の再申告がなされる事案の中に、保護室収容要件該当性に疑問があり、安易に収容指示がなされているのではないかと思われる事案に、まま遭遇する。本件の申告人に対する保護室収容の近接した2つの事案とも、統括が居室に駆け付けたときは居室中央に座っていて大声はやんでおり、表情が険しいことなどから精神状態が著しく不安定であると判断したというものであり、客観的に「手がつけられないような状態」とは言いにくい。ただ、申告人が静穏阻害等の反則行為を非常に頻繁に繰り返している実情があることなどを勘案する必要はあろうかと思われ、本件保護室収容の適否、当否についての意見は留保するものである。
   しかし、上記立法趣旨がなおざりにされ、安易な保護室収容がなされる傾向がないかどうか、個別の検討を怠らないことの必要性を改めて指摘しておきたい。
(4)保護室への収容を違法又は不当とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から以下のとおり意見が付され、2名の委員が賛同した。
   本件事実再申告書の中には、保護室収容中、吐血しているのにそのまま放置されて「みてもくれなかった」という訴えがある。
   この点、当該刑務所作成の記録によると、保護室収容当日の深夜、血を吐いた、気持ちが悪い、腹が痛い等の訴えがあり、床に血のような跡があり、職員が与えたティッシュで申告人が床に付着した血を拭く等のことがあり、また、その後約2時間後にも血を吐いたとの訴えがあって、床に唾液に混じった血が落ちており、職員が与えたティッシュで申告人が床を拭く等のことが繰り返されている。ところが、これに対する医務職員による確認や診察等は行われていない。
   たしかに、申告人が吐血したのが深夜のことで医務職員がおらず、その時点で医務上の対処がなされなかった事情は理解できるし、本件の保護室収容はその後8日間続いたが、その間に申告人から吐血に関する訴えはなかったようであるから、結果として医務上の対処は不要であったと言えそうである。しかし、上記のように本件の吐血は一定の時間繰り返されていて、申告人からは腹痛等体調不良の訴えもされていたのであるから、少なくとも翌朝には、医務職員による診察その他の措置がなされてしかるべきであったと思われる。それは、本件保護室収容及びその継続の必要性を左右するものではないが、受刑者の健康の保持にとって必要な措置であるとともに(法56条、62条1項)、刑務所側にとっても対応の不備との無用な疑問の発生を防ぐためにも、本件において採るべき対応であったのではないかと思われるのである。