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刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会 (第341回)議事要旨

1 日時
  令和6年1月18日(木)14:00
 
2 審査件数
検討会付議件数 審査結果
処理案相当  再調査相当 処理案不相当
17件 17件 0件 0件
 
3 意見その他
  発信書の一部を抹消された措置の取消しを求める再審査の申請について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、2名の委員(以下「委員➀」、「委員➁」とそれぞれ記載する。)から、以下のとおり意見が付された。
(1)委員➀から付された意見
   本件刑務所において信書の一部を抹消した措置は適法である。もっとも、本件の審理等を通じて、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)の下における受刑者の処遇に関する情報が施設外に伝達される仕組みの在り方に関して問題意識を持ったので、ここに参考意見として記載する。
   第1に、本件信書の抹消部分に記載されていた受刑者の病死案件に関しては、担当職員・診断医ではない他の受刑者にとっては正確な経緯を知り得ないのであるから、伝聞や憶測に基づく内容が記載に混入することは排除されず、このようなケースにあっては、信書から他の受刑者に対する処遇上の疑義に関する記載が抹消等されることがあり、信書を通じて他の受刑者の処遇に関する情報を施設外の者に受刑者が伝えることは一般的に困難であると言わざるを得ない。このことは、本案件の審議を通じても確認された。ちなみに、本件の病死案件においては、本件刑務所の視察委員会に対して、適宜、情報の提供がされたとのことであるが、仮に視察委員会に対する報告に不備・不適切な内容があった場合には、視察委員会の活動が制約を受けるおそれがある。
   そこで、第2に、一般に、刑事施設における処遇について当該処遇を受けた者以外の被収容者が疑問をもった場合に、当該被収容者が施設外の第三者にその情報を提供し、調査さらには是正を求める手段があるか、当該手段が十分なものかに関して検討が必要となる。
このような手段としては、弁護士会に対する情報提供があるものの、提供情報に対する対応が弁護士会の義務とされている訳ではなく、提供情報へのリアクションは当該弁護士会のイニシアチブに多分に左右されるものといえる。かつ、最判平成20年4月15日最判民集62巻5号1005頁は、弁護士会内に設置された人権擁護委員会が刑務所内における処遇上の疑義につき、当該処遇を受けた者以外の被収容者に旧監獄法の下において面会を求めたのに対し、施設の長がこれを拒否したため面会を求めた弁護士が国家賠償請求訴訟を提起した事案に関して、旧監獄法の規定は当該面会に係る利益を弁護士の固有の利益として保護する趣旨のものではないとの判断を示している。そして、本判決の調査官解説(最高裁判所判例解説民事篇平成20年度228頁以下)は、この判断は法111条2項の定める受刑者との面会についても妥当するとの見解を示している。委員はこの点に関する最高裁判所の判断の当否については立場を留保するものの、刑事施設内の処遇事案について当該処遇を受けた者以外の被収容者と弁護士との面会に関しては、このような判断のあることも踏まえる必要があろう。
   さらに言えば、刑事収容施設が閉鎖的な性格の施設である点に照らすならば、弁護士会に対する情報提供のルートのほかにも、刑事収容施設においては被収容者に係る処遇上の問題を疑われる事案について、当該処遇を受けた者以外の被収容者が外部に対して情報を提供し、調査・是正を求める仕組みは複数設けられていることが強く望まれる。
   この点、第3に、法は、被収容者本人が収容施設における処遇上の不服を申し立てる手段に関して、正規の手段としての審査の申請、事実の申告、さらに、苦情の申出を用意しており、これらの仕組みは刑事施設に収容された者の人権救済の手段として重要な位置付けを有している。もっとも、これらの制度はあくまでも被収容者が当該手続を利用することを前提としており、かつ、被収容者が疾病、精神・身体等の障害のためにこれらの手段を利用できない状態にあり得ることは想定されていなかったものと推察される。刑事施設外の事案における不服申立てであれば、本人の法定代理人等が本人に代わって権利を行使し、あるいは、他の様々な手段を講じて本人の救済を図ることは可能といえようが、閉鎖的な刑事施設においてはこのような代替的なルートが十全に機能することは期待できない。
   以上の点からは、重篤な疾病にかかり、あるいは、精神・身体の障害等の理由から法に保障された権利救済を行使できないため重大な処遇上の問題が生じたケース、あるいは生じたか否かが問題となったケースのあることが確認された以上は、これらの者についての法の救済の在り方についてしかるべき組織において検討の加えられることを強く望みたい。また、このような検討には当然のことながら時間を要する点に照らせば、重篤な疾病あるいは精神・身体の障害のために本人が法に定める手段を利用できない場合に限って、他の被収容者による不服申立て、苦情を受け付ける事実上の運用をされることが望まれる(前記の要件を満たした申立て、苦情であるか否かは、法務省の担当部局において適切に判断されれば足りるであろう)。
(2)委員➁から付された意見
   本件の発信書の一部抹消については、少なくとも不当であると考える。
   本件は、本件刑務所において感染症にり患した申請人が病棟の部屋に収容されていた際、やはり同感染症により病棟の近くの部屋に収容されていた他の受刑者が救急搬送され、外部病院で死亡したケースについて、申請人が、この事案は低体温症による凍死であると考え、その認識を外部の団体に信書を発信して伝えようとした本件記述部分について、一部抹消の措置がとられたものである。
   一部抹消の理由について法務省意見は、本件記述部分が事実と異なる記述であると認められ、これを認知した第三者が同所に対して不当な圧力を加えようとするおそれが高まることとなり、それにより同所の適正な職務の執行に支障を生ずるおそれがあり、同所の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあったとする。
   しかし、診療録を見ても、本件において死亡に至る経過と死因についての不明確性は否めない。他方、本件は12月末の寒冷地にある刑務所における事案であり、同じ病棟にいた申請人が厳しい寒さを訴えているところ、本件当時感染症対策のため空調設備は使用されておらず、廊下のストーブによる寒冷対策がとられていたものの、室温についての記録はないとのことである。そして、死亡した受刑者は感染症へのり患によって体力が相当に衰弱していたと思われ、加えて低温の環境に置かれれば、体力がさらに消耗して病状を悪化させた可能性は否定できないのではないかと思われる。したがって、申請人が「凍死」であると断定している記述部分は別としても、申請人が「低体温症による凍死」だと考えたという限りでは、低温の環境と死亡との関連性に関する指摘として、「事実と異なる記述」と断定することはできないのではないかと思料する。
そして、そのような申請人の認識が外部の団体に伝えられることが、申請人の認識を認知した第三者が当該刑務所に対して「不当な圧力を加えようとするおそれが高まる」という繋がりは、かなり抽象的なもので具体性に乏しく、一概にそのように言えるかは疑問であるし、よしんば、低温による死亡が疑われる事案があると一受刑者が訴えていることが社会的に伝えられたとしても、刑務所側としてはそれに対して把握している範囲での事実をもって説明すればよいことである。
   よって、本件の発信書については、申請人が死因を低体温症による凍死だと断定している部分を除き、その抹消は、本件事案の具体的内容に照らし、また、刑事施設運営の透明性の確保の要請からも、少なくとも不当であると考えるものである。
   なお、平成15年の行刑改革会議提言において、行刑運営の透明性の確保、行刑運営を市民の目に触れさせることによる国民の理解の重要性が説かれ、その中で死亡事案の公表の必要性が特に指摘されていたところである。