検索

検索

×閉じる

刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会 (第343回)議事要旨

1 日時
  令和6年3月14日(木)14:00
 
2 審査件数
検討会付議件数 審査結果
処理案相当  再調査相当 処理案不相当
33件 30件 2件 1件

3 処理案不相当案件に係る検討会の提言
(1) 提言
   刑事施設収容中の受刑者から提出された法務大臣に対する事実の申告について、当該刑事施設の職員が申告人を保護室に収容した事実について、本件保護室収容の収容期間が不当であったことを確認し、その旨を申告人に通知することが相当である。
   なお、2名の委員により、本件保護室収容を不当ではないとする少数意見が付された。
(2) 提言の理由(要旨)
     映像記録を見る限り、申告人は、階段の踊り場において職員による連行に激しく抵抗しているものの、職員を階段から突き落とそうとするような行為は認められない。申告人の抵抗の態様から、「職員の職務の執行を妨げる場合」に当たるものとして、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)第77条第1項に基づき職員が制止等の措置を執ったことは相当であるが、申告人が連行に抵抗したことが法第79条第1項第2号ロに規定する「他人に危害を加えるおそれ」に当たるとする当該刑事施設の判断は是認できない。
  この点、矯正局の説明では、申告人が職員に両腕をつかまれた状態で上半身を反らして後方に倒れ込もうとする行為は、職員が申告人の身体を支えなければ後方に転倒することが明らかであり、自身が負傷することをいとわない危険な行為であることから、少なくとも同項第1号に規定する「自身を傷つけるおそれ」に当たると認めるのが相当であるとされ、階段の踊り場において激しく抵抗していた申告人の行為が、自身が負傷する可能性のある危険な行為であったとの説明は理解できるから、当検討会としては、職員が申告人を保護室に収容したこと自体は、同号に基づくものとして、違法な点はないとの結論に至った。
   しかしながら、本件保護室収容の期間は約51時間に及んでいるところ、関係記録から、申告人が職員に反抗的な言葉を発したり大声を発したりしたことは認められるものの、約51時間もの間、自身を傷つけるおそれが継続していたとは認めがたい。
   一般的に、「自身を傷つけるおそれ」による保護室収容は、精神状態が著しく不安定な状態を脱すれば収容を中止すべきものであり、特に、自傷の態様が、い首やリストカットのようなものであれば、精神状態が安定したかどうかについて慎重な判断を要するケースがあり得るとしても、本件は、申告人が職員による連行に激しく抵抗している過程で、倒れて負傷することを防ぐために保護室に収容する必要があったとするものであるから、より早期に収容を中止すべきであったと考えられる。
  そもそも、当該刑事施設では「他人に危害を加えるおそれ」に当たると判断して保護室に収容していたのであるから、「自身を傷つけるおそれ」による収容とは視点が異なるのは当然であるが、本件保護室収容は「自身を傷つけるおそれ」に基づくものとして正当化し得るものである以上、収容中止の時期についてもこれに則して判断すべきである。そうすると、申告人は収容2日目の午後に職員に対して反抗的な言葉を発しているものの、それ以降、収容3日目の朝までの間に自傷のおそれをうかがわせる動静が記録されていないことからすれば、遅くとも収容2日目の夕方には、収容を中止すべきであったといえる。    
   加えて、本件保護室収容は、申告人が約2週間にわたって断続的に不食をしていた中での収容であり、収容中に申告人が嘔吐するような動静が認められるところ、長期間の不食から食事を再開すれば嘔吐等の症状が出ることは十分に予測でき、体力が低下している状況下で申告人が嘔吐していたことも踏まえれば、より早期に収容を中止すべきであったといえ、収容2日目の夕方以降も保護室収容を継続したことは不当であったと言わざるを得ない。
  なお、一連の過程において職員に職務上の義務違反はなかったと考えられることを申し添える。
(3)少数意見(要旨)
   本件保護室収容は、申告人の健康状態に対する配慮に欠ける対応があったことは事実であるが、違法又は不当とまではいえない。長期間の不食から食事を再開するにあたり、消化管に負担がかからないような配慮がされておらず、申告人の嘔吐症状に対する対応も十分ではないと考えるが、一方で、保護室に収容したこと及び収容期間については、申告人の本件に至るまでの動静等を考慮すると、やむを得なかったと考えられる。
 
4 意見その他
  有形力の行使を違法又は不当とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、1名の委員から、以下のとおり意見が付された。
  本件については、事実関係が不明と言わざるを得ず、意見を留保する。
  本件は、当該刑事施設(関係庁)において、申告人ほか受刑者2名(以下「A」、「B」という。)が、同施設収容棟の被収容者の物品を回収して運搬する作業を実施中、1階から2階に移動するために階段に差しかかり、A、B、申告人及びこれら3名を連行していた職員(以下「当該職員」という。)の順で階段を昇り始めた際の事案である。申告人は、当該階段の照明のスイッチを入れる旨の声掛けをした後、昇り口右側壁面にあるスイッチを押したところ、当該職員から自己の右手甲を殴られる有形力の行使を受けたと主張し、関係庁及び審査庁は、照明を点灯させる必要がないと判断した当該職員が、申告人が電気を点ける旨述べて同スイッチを押そうとしたのに対し、その前に同スイッチを右手で覆ったため、スイッチを押そうとした申告人の右手指先が当該職員の右手甲に接触したにすぎないと認定・判断している。
  そしてその後、関係庁は、申告人が本件事実の申告をした後、関係職員の報告書を徴取し、改めて申告人、A及びBに対する調査等を行った上、申告人に対し、申告人が当該職員から手をたたかれたことに関して行ったA、B等に対する言動について、懲罰を科するに至っている。なお、申告人自身は、関係庁のこれら調査に対して、当該職員に手をたたかれた等の供述を維持している。
  そこで、本件事案の事実関係及び調査については、次のような問題点があると考える。
  まず、当該職員の説明によると、申告人が電気を点ける旨述べて右手で壁のスイッチを押す前に、申告人の後方にいた当該職員がスイッチ部分を右手で覆ったとのことであるが、そのような説明と行動自体の不自然さを指摘せざるを得ない。すなわち、本件の位置関係の下でそのような先回りの行動が実際に可能だったのかということ自体疑問があるほか、申告人がスイッチを押す直前に当該職員がスイッチ部分を手で覆えば申告人の手指に触れる可能性が高く、受刑者との不要な身体的接触によるトラブルを避けるべき職員の執務の原則に反し、かつ、そのような無理な行動をとらなくても口頭のみで注意すれば十分であって、仮に申告人が点灯させてしまったとしても消し直せば良いだけのことである。ましてや、本件において、受刑者が本件階段の照明を点けることは禁じられていなかったと認められるから、当該職員が直接に身体(右手)を用いてまで申告人にスイッチを押させない行動に出る合理的な理由もなかったのである。
  さらに、上記懲罰に係るものを含む関係庁の調査の内容にも問題があると考える。本件において申告人は、電気を点ける旨述べた後スイッチを押して一旦照明が点灯したと述べているのに対し、当該職員はその前にスイッチ部分を自分が覆ったというのであるから照明は点灯していないことになるところ、一旦照明が点いたか点かなかったかは、申告人がスイッチを押した後に手の甲を殴られたのか、当該職員がスイッチ部分を手の平で覆ったためその手の甲に申告人の手指が触れたのか、どちらなのかを判断する重要な客観的事実であるのに、その点の調査確認がなされていないことを指摘せざるを得ない。また、申告人、A、B及び当該職員に当時の状況を説明させたとする資料では、受刑者らが把持していたはずの回収物品や回収容器の把持状態が考慮されておらず、その検証の仕方にも問題がある。
  以上のように、本件に関する当該職員の説明及びそれを肯定する関係庁及び審査庁の認定・判断には基本的な疑問があり、かつ、本件に関する関係庁の調査は不十分で、事実関係に不明な点が多く、本件事実の申告に係る有形力の行使の有無及び違法性を判断することが困難である。