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刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会 (第357回)議事要旨

1 日時
  令和7年2月20日(木)14:00
 
2 審査件数
検討会付議件数 審査結果
処理案相当  再調査相当 処理案不相当
13件 13件 0件 0件
 
3 意見その他
(1)有形力の行使を違法とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、5名の委員から、以下のとおり意見が付された。
 ア 4名の委員から付された意見
   本件は、職員が便座に座り続けていた申告人に対し、出室するよう繰り返し指示したが、申告人が同指示に従わなかったことから、申告人の行為が職員の職務の執行を妨げる場合に該当するとして、職員が申告人の両腕を把持したところ、申告人が尻を拭きたい旨を述べたことから、両腕の制止を解除して尻を拭かせ、その後申告人を連行したものである。
   本件において申告人に対して職員の執った措置については違法な点があったとまでは考えられない。
   しかしながら、用を済ませた後に必要な措置をする姿を他者に見られることは、通常、羞恥心を強く掻き立てるものであり、受刑者に対してもそのような事態を避ける配慮はされてしかるべきものである。よって、当日、申告人を速やかに出室させる必要があったこと、申告人の行為が業務の遂行を著しく妨げていたことを踏まえてもなお、受刑者の羞恥心を強く刺激しない形で申告人の監視等の業務を遂行することが望ましかったものと考える。
 イ 1名の委員から付された意見
   申告人は、2時間もの長い時間出室を拒み、腹痛及び大便をするという形で抵抗を続けていた。そのため、職員が職務執行のために実力を行使し、監視等の業務を遂行したことは当然妨げられないものと考える。
   なお、申告人が抵抗を止め、臀部を拭く動作に当たって、職員は一定の距離を保ち、その動作を見守る配慮もあって良いと思うものの、監視等の業務を続けたことについては、仮にこれを止めたことにより、申告人が執拗な抵抗を再度開始することや、職員による実力行使が行われた場合に真実を立証するため、適切かつやむ得ない職務執行であると考える。
(2)有形力の行使を違法とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、4名の委員から、以下のとおり意見が付された。
 ア 3名の委員から付された意見
   本件は、接着剤で頭皮に固着させるタイプのかつらを常用していた申告人(未決拘禁者)に対し、裁判への出廷時以外のかつらの着用を許可しない(かつら接着剤の使用も認めない)こととして、かつらを外して提出するよう指示し、これに申告人が応じなかったことから、職員において強制的にかつらを取り去ったものである。
   かつらについては、ファッションの一部として気軽に着け外しして着用する者もいるが、脱毛や薄毛が進行し、そのことを気に病み、これを隠すために(他者に気付かれないよう気を配りつつ)常時着用している者もおり、後者のような者にとって、かつらは、生活上必要不可欠のアイテムであり、大切な身体の一部といっても過言ではない。かつらの着用を許すかどうかの判断においては、まずもって、身体上の事情によりかつらを常用する者からかつらを奪うことが、その者の自尊心を傷つけ、羞恥心や精神的苦痛を強い続ける行為となることを十分に踏まえ、それでもなおかつらの着用を認めることができない事情があるといえるかを、個別に丁寧に考察すべきである。
   また、申告人のように、未決拘禁者の場合、本来、権利や自由の制限は必要最小限度にとどめられるべきであるから、かつらの着用の制限も、これを着用させることにより刑事施設の管理運営上看過できない支障を生じる現実的・具体的危険がある場合に限るべきであって、そのような事情がない場合には、基本的に許容する判断がなされるべきである。仮に、常時着用を認めることができないとしても、もとより、かつらを着用していること(また、それを必要とする身体の状態)自体が、その者にとって、他人に知られたくない機微な情報ともいえることから、本人の自尊心や羞恥心に十分に配慮し、出廷の場合だけでなく、弁護人や知人等との面会の場合には、基本的に着用を認めるべきであるし、着用を認める場合には、着用に支障のない着用方法にも配慮すべきである。
   この点、申告人は、入所当初から、接着剤で固着して常時使用するタイプのかつらを着用しており、身体上の事情から、かつらの常時着用を強く求めていたものであるところ、申告人の身体上の事情に照らしても、本人にとっての必要性は理解できるところである。また、申告人は、入所後約1か月を超えて常時かつらを着用していたが、その間に、かつらを利用した不正行為等は何らじゃっ起しておらず、かつらを着用させることによる現実的・具体的な弊害は生じていないし、その危険性をうかがわせる事情も生じていない。もとより、接着剤で固着したかつらは、簡単には取り外せないのであるから、かつらと頭皮の間に物を隠匿する等の行為を容易に行いうるとも考えがたい。また、入所後、申告人は、かつらを付けた状態で弁護人と接見しているが、その際にも、施設の管理運営に支障を生じさせるような問題は生じていない。これらの事情を踏まえれば、未決拘禁者であった申告人に対しては、接着剤を用いたかつらの常時着用が許容されてしかるべきであったと思われるし、少なくとも、裁判出廷時だけでなく、面会時のかつらの着用は許容すべきであり、これを認めない判断を前提にかつらを強制的に取り上げた行為を正当と評価することには疑義があると言わざるを得ない。
   加えて、申告人は、入所当初から、今後のかつらの常時着用について許可を求めていたことがうかがわれ、入所から約2週間後にはかつらの継続着用について願箋を出し、接着剤の効果が薄れてきた約1か月後にも、かつらと接着剤の使用を求める願箋を提出しているが、施設側は、頭皮の状態が確認できないなどとして、すぐには許否の判断をせず、結局、裁判出廷予定日の直前になって、出廷時のみ、接着剤を使用しない形での着用を認める旨を告げ、かつらを強制的に取り上げた経緯がある。この許否の判断において、頭皮の状態が考慮されたことは全くうかがわれず、頭皮の状態が確認できないとの申告人への説明は、実際には、判断先送りのためのその場しのぎの対応であったと考えざるを得ない。前記のとおり、かつらの着用は、その者にとって極めて重大な事項であるから、着用を求める願い出に対し、許可しない判断をするにしても、その判断に対して申告人が何らかの代替策を考えるなど、心の準備をすることができるよう、速やかに許否の判断を行って申告人に伝えるべきであり、この点においても、施設側の対応は不適切であったと言わざるを得ない。
 イ 1名の委員から付された意見
   未決拘禁者に対する拘置所内でのかつらの着用については、通常は出廷時及び面会時のみと考えることから、領置しているかつらは申告人の希望により出廷時及び面会時には着用させるべきであり、面会時にも着用させないこととしてかつらを強制的に取り上げた行為を正当と評価することには疑義があると言わざるを得ない。しかしながら、かつらの着用は原則的に物品の隠匿等の不正を考えられることから、常時脱着可能なかつらを使用させるべきであり、またボンド等を使用し長期に渡って着用するタイプのかつらを着用している者の場合、職員による脱着時の身体検査を徹底しなければならない。
   よって、今後は申告人や他のかつらを着用する入所者との間においては、取扱いについて事前に十分な対話をした上で、着用を認める方向に改善を願いたい。
(3)第349回において再調査相当とされた案件1件及び第356回において再調査相当とされた案件2件については、付議を取り下げることが了承された。