刑事施設の被収容者の不服審査に関する調査検討会 (第374回)議事要旨
1 日時令和8年5月14日(木)14:00
2 審査件数
| 検討会付議件数 | 審査結果 | ||
| 処理案相当 | 再調査相当 | 処理案不相当 | |
| 15件 | 15件 | 0件 | 0件 |
3 意見その他
有形力の行使及び保護室収容を違法又は不当とする事実の申告について、「法務省意見相当」との結論に至ったが、2名の委員から、以下のとおり意見が付された。
本件は、12日間の保護室収容が解除された翌日に入浴とひげそりを指示された申告人が、入浴場で自ら脱衣して浴室に入ったものの、入浴もひげそりも拒否したことから、その場で職員によるひげそりを実施することとなり、抵抗して浴室の床に倒れ込んだ申告人の頭部や四肢等を、職員5人で把持して抵抗を抑止した上で、ひげそりを実施したものである。
刑事収容施設法60条1項は、「受刑者には、法務省令で定めるところにより、調髪及びひげそりを行わせる。」と定めており、受刑者に調髪及びひげそりを義務付けているが、受刑者が自らこれを行わない場合に、職員が有形力を行使して強制的に実施すること(直接強制)を明示的に許容する規定とはなっていない。この点、直接強制が許容される場合があるとしても、ひげそりを拒否して抵抗する者に対する直接強制は負傷のリスクが高い上、もとより有形力の行使は必要最小限にとどめられるべきであるから、ひげそりの直接強制は、ひげそりを義務付ける法60条1項の趣旨目的に照らして、有形力を行使してまでも行うべき強い必要性があり、かつその態様が相当である場合に限定して許容されると言うべきである。
そして、法60条1項の趣旨目的は、衛生の保持のほか(法60条1項は「第6節 保健衛生及び医療」に置かれた規定であり、衛生の保持が主たる目的であることは明らかである)、作業時等の安全の確保や、反社会的集団を象徴するような容貌を許すことによる矯正処遇の効果の阻害を防ぐことにあると解されているところ(同法逐条解説)、本件において、ひげそりが実施されなかった期間は15日間にとどまっており、映像記録を見る限り、ひげが著しく伸びているわけでもなく、反社会的な特殊な容貌といったものがうかがえるわけでもない。本件では、ひげそり前の状態を撮影した写真等が存在せず、正確なひげの状態は把握できないが、少なくとも、直ちにひげそりを実施しなければ衛生や安全が脅かされたり矯正処遇の効果が阻害されるような実情はなく、有形力を行使してまでひげそりを行うべき必要性があったとは言えない。
また、申告人は全裸の状態のまま、浴室の床に全身を押しつけられる状態でひげそりを強行されたが、全裸の状態での有形力の行使は、本人の自尊心を著しく傷つけ、個人の尊厳を損なうものであるから、必要やむを得ない場合にのみ例外的に許容されるというべきであるところ、ひげそりの実施において、全裸である必要性は通常見いだし難く、本件においても全裸をやむなしとする事情は見当たらない。加えて、申告人が倒れ込んだ浴室の床はタイル張りで、申告人の頭部のすぐ近くに水道の蛇口等の突起物もあり、申告人や職員がけがをしかねない状況であった(申告人は、本件直後に左肘と左膝の痛みを訴えており、翌日の観察では同部位付近に発赤が認められている。)。このような本件におけるひげそりの直接強制は、その態様において著しく相当性を欠くものである。
以上のとおり、本件申告人に対して行われたひげそりの直接強制は、その必要性を認め難く、かつ明らかに相当性を欠くものであるから、違法な有形力の行使と言わざるを得ない。
なお、申告人は、15日前の入浴の機会には自らひげそりを実施しており、その後、ひげそりが行われなかったのは、12日間の長期にわたり保護室に収容され、その間入浴やひげそりの機会が与えられなかったからであって、申告人がひげそりを拒否し続けたからではない。また、申告人は、長年にわたり覚醒剤の自己使用で施設入所を繰り返し、本件施設では拘禁反応が見られており、本件当日も、入浴場で自ら脱衣して全裸にまでなったにもかかわらず、浴槽や洗面器が汚いなどと述べてかたくなに入浴もひげそりも拒否する奇異な行動をとっている(浴場は前日に清掃がなされ、その後誰も使用していない清潔な状態だった。)。本件前日の精神科医師の診察結果も踏まえれば、本件当日の申告人は、精神的に相当に不安定な状態にあったことがうかがわれる。このような、本件当日までの経過や、申告人の特性を踏まえればなおさら、申告人の精神状態が落ち着くのを待ち、改めて入浴とひげそりの機会を設けるべきであったと思われる。
本件を踏まえ、法務省矯正局から全国の刑事施設を対象に、ひげそりの直接強制に関し、比例原則に基づく運用の注意喚起や実施要領の見直しを含めた運用改善の指導を内容とする文書が発出されたとの報告を受けており、再発防止に向けた取組がなされたことは前向きに評価し得る。今後の改善を期待する。

