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ウズベキスタン倒産法注釈書プロジェクトの概要

 このページでは,国際協力部が独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力して,ウズベキスタン共和国最高経済裁判所をカウンターパートとして実施したJICA技術協力プロジェクトである「ウズベキスタン倒産法注釈書プロジェクト」の概要について紹介します。

その1 プロジェクト開始までの経緯


グリ・アミール廟(サマルカンド)
 ウズベキスタンは,旧ソ連邦の崩壊に伴い,1991年に独立を果たし,独立後は市場経済体制への移行を進めています。
 法務省法務総合研究所では,ウズベキスタンの市場経済移行支援のため,独立行政法人国際協力機構(以下「JICA」といいます。)と協力し,ODA事業の一環として,2002年度から,ウズベキスタンの法律専門家を対象として,「経済取引を促進する法制度」をメインテーマとした研修を,日本において実施してきました。
 ところで,旧ソ連時代には,企業は全て国営企業であり,私企業や企業の倒産という概念はなく,倒産法も制定されていませんでした。
 しかし,旧ソ連邦からの独立後,市場経済化の一環として国営企業の私有化が開始され,企業の破綻処理の必要性が生じ,1994年にウズベキスタン共和国倒産法が制定されたのです。

ウズベキスタン最高経済裁判所
 倒産法が制定されたのが比較的最近であることなどから,倒産処理実務の取扱いが統一されていない,倒産法の条文と実務の運用にそごがある,適切な倒産手続が選択されないなどの問題が発生しています。
 その理由の一つには,倒産法に関して,未だ実務家の参考になる文献が存在していないということがあり,倒産処理実務を所掌しているウズベキスタン共和国最高経済裁判所から日本に対し,倒産法に関する書籍の作成支援の要請がなされたのです。
 そこで,法務総合研究所では,JICAと協力して,ウズベキスタン側とどのような書籍の作成を支援するかを協議した結果,倒産法の注釈書の作成を支援することとしました。
 このような経緯で「ウズベキスタン倒産法注釈書プロジェクト」(実施期間は2005年8月から2007年9月まで)が始まりました。

その2 注釈書発刊までの過程


膝を突き合わせての協議
 倒産法注釈書の作成支援を実施するとした場合,単に日本側が注釈書の発刊資金を援助して支援を行う形態から,日本側で全て倒産法注釈書の草案を作成し,それをウズベキスタン側に引き渡すような支援の形態までが考えられます。
 本プロジェクトの実施に際しては,ウズベキスタン側と日本側とでそれぞれワーキンググループを形成し,ウズベキスタン側が作成した注釈書草案に対して日本側がコメントを提出し,ウズベキスタン側はそのコメントに基づき注釈書草案を改訂し,この作業を繰り返し行うという共同作業形態を採ることとしました。
 ウズベキスタン側のメンバーは,倒産事件を担当する経済裁判所の裁判官や,倒産事件を管轄する国家機関(非独占化・競争及び企業活動支援国家委員会)の倒産法関係業務の担当者等です。
 日本側メンバーは,日本の倒産法を専門とする法学者・弁護士やロシア法の専門家等でした。
 さらに,日本側では,ウズベキスタンに弁護士をJICA長期専門家として派遣し,現地において,注釈書の作成指導や,注釈書完成後の普及活動等に当たりました。

完成した注釈書
 ウズベキスタン側と日本側は,2004年10月から2006年11月までのおよそ2年間にわたり,日本で8回,ウズベキスタンで4回,合計12回にもわたり,注釈書草案の内容についての直接協議を実施しました。
 およそ2か月に1回は,日本又はウズベキスタンのいずれかで,双方のワーキンググループが直接協議を行ったことになります。
 そして,2007年3月にウズベキスタン倒産法注釈書のロシア語版が完成し,ウズベク語版・日本語版(2007年9月)と英語版(2008年3月)が発刊されました。
 この倒産法注釈書は,ウズベキスタンにおいて倒産処理実務に携わる専門家や,大学等の学術機関,あるいは周辺諸国等に対して,日本側の資金援助により無償で配布されたのです。
 また,倒産法注釈書については,電子データの形で,関係機関のウェブサイトからダウンロードできます。

その3 日本が支援した内容


日本側コメント例
 その2で前述したとおり,本プロジェクトにおいては,ウズベキスタン側が作成した注釈書草案に対して日本側がコメントを提出することにより,改訂を進めるという形態の支援を実施することとしました。
 しかし,ウズベキスタン側から提出された注釈書草案を見てみると,各条文の立法趣旨等,注釈書として記載が必要と思われる事項の記述がなかったり,あるいは,他の条文に記載すべき解説を適切でない条文に記載しているという例が散見されたのです。
 また,協議を進めるうちに,日本側とウズベキスタン側とで,注釈書に対して有しているイメージが異なることが明らかになってきました。
 ウズベキスタン側がイメージする注釈書とは,実際に実務において問題となっている点について,注釈書執筆者が相当と考える見解を記載することにより,実務の運用を統一するという,いわばマニュアル的なものであり,実際に実務で問題になっていない事項や,実務で発生していない事項についての条文の解釈は記載する必要がないし,記載すべきでもないというものでした。
 しかし,日本側としては,注釈書の役割は,まさしくそのような事項についての条文の解釈を説明することにあると考え,ウズベキスタン側に対し,そのようなスタンスに立って,コメントを提出したのです。

一言一句,細かくチェックしていきます。
 ウズベキスタン側が作成した注釈書草案には,このような問題点があったので,日本側が提出するコメントは,記載の順序など形式面に関するコメントから,条文の立法趣旨や解釈についての記述を提案したり,相互に矛盾する解説の修正を求めるような実質面に関するコメントまで,非常に多岐にわたるものになりました。
 日本側は,ウズベキスタン倒産法はもちろんのこと,ウズベキスタン経済訴訟法等の関連法令や,ロシア倒産法の条文・注釈書も読み込んだ上で,コメント作成作業に臨みました。
 また,日本側は,注釈書の構成についても,種々の提案を行いました。
 例えば,ウズベキスタンにおいては,この注釈書が倒産法に関する初めての本格的な文献となることから,大学等において倒産法の教科書としても使用できるように,注釈書に,各章ごとの解説や手続の流れを図示することを提案し,これらの提案はこの注釈書に反映されました。
 このような取組は,ウズベキスタンにおいては,これまであまり行われていなかったものであり,新たな試みとして評価することができると思います。
 本プロジェクトにおいては,このように日本側が相当な準備と種々の工夫を行い,また,ウズベキスタン側に様々な提案を行いつつ,ウズベキスタン側との共同作業を実施してきたのです。
 日本側は,本プロジェクトで,ウズベキスタン側に対し,注釈書作成のためのノウハウや,条文解釈のための手法等を提供してきました。
 このような日本側が提供した知見が,今後,ウズベキスタンにおいて注釈書が作成される際の参考にされることが望まれます。
 また,本プロジェクトにおける協議を通じて,ウズベキスタン共和国倒産法の立法上の問題点が明らかになった点もあるので,将来的には,このような問題点も解決されることが望まれます。

その4 注釈書の普及活動,注釈書英語版の発刊


タシケント市での注釈書発刊プレゼンテーション
 以上のような経緯を経て,ウズベキスタン倒産法注釈書が発刊されましたが,ただ注釈書を作成・発刊しただけでは,現在のウズベキスタンが抱える倒産処理実務に関する問題点が解決されるわけではなく,この注釈書を実際に活用して,ウズベキスタンにおける倒産処理実務の改善に向けた取組が行われなければなりません。
 本プロジェクトでは,倒産法注釈書発刊後,ウズベキスタンにおける倒産処理実務の問題点を解決するための取組として,「注釈書の普及活動」を実施しました。
 本プロジェクトを通じて,ウズベキスタンにおいては,そもそも倒産法という法律自体が一般にはあまり知られていないことが判明しました。
 しかし,債権者や債務者が倒産法や倒産制度を知らなければ,企業が破綻した場合に,適切な清算処理が採られないことにつながり,また,適切な措置を施せば再建できるはずの企業も,そのきっかけを失うこととなります。
 このようなことから,本プロジェクトでは,この倒産法注釈書の発刊を一つの契機として,倒産法や倒産制度そのものを一般に広く知ってもらうために,注釈書を無償で配布して学術機関や図書館等に備え付けたり,あるいは注釈書の電子データを誰でも入手できるようにしています。
 また,注釈書発刊後,ウズベキスタン各地において,倒産法注釈書の発刊を広報し,注釈書の活用の促進を図り,倒産制度への理解を深めてもらうためのセミナーも開催しました。

ウズベキスタン側メンバーと
 本プロジェクトは2007年9月に終了しましたが,その後も,この注釈書が引き続き活用され,ウズベキスタンにおける倒産処理実務の改善に寄与することが望まれます。
 なお,本プロジェクトやウズベキスタン倒産法について更に詳しく知りたい方は,法務省ウェブサイトの国際協力部業務紹介ページに倒産法注釈書の電子データを掲載しているほか,法務総合研究所報「ICD NEWS」「法整備支援に学ぶ-外から見直した日本の法制度-」に本プロジェクトの紹介記事を掲載しておりますので,どうぞ御参照ください。

この記事に関する問い合わせ先

〒553-0003
大阪市福島区福島1-1-60大阪中之島合同庁舎
法務省法務総合研究所国際協力部
TEL 06-4796-2153
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