検索

検索

×閉じる

私法と消費者保護

Q30 「私法と消費者保護」を学ぶ必要性

Q なぜ「私法と消費者保護」を学ぶ必要があるのですか。

 ⇒ 『報告書』12ページ(第3、1、(1)自由で公正な社会を支える「法」的な考え方を育てること)、73ページ(第1、1法教育における「私法と消費者保護」の学習の必要性)

A  例えば、コンビニエンスストアーでおにぎりを買う、学校に行くためにバスに乗る、インターネットオークションに参加する、これらの経済活動は全て契約に基づいています。普段意識してはいませんが、私たちの生活は、契約に囲まれていると言っても過言ではありません。
 このような私たちの経済活動など個人と個人の関係を規律する法律を、「私法」と呼んでいます(他方、国家と個人との関係を規律する法律は、「公法」と呼ばれています)。
 私法は、私たちの日々の生活に密接に関わりますので、その私法の基本的な考え方を学ぶ単元として、「私法と消費者保護」の教材が作られました。

Q31 技術・家庭科の家庭分野で行われる「消費者保護」との連携

Q 「私法と消費者保護」の学習を技術・家庭科の家庭分野で行われる「消費者保護」の学習と連携するとは、たとえばどのようなことですか。

A  学習指導要領の解説では、家庭分野の学習内容「B 家族と家庭生活、(4) 家庭生活と消費」において、「家庭生活における消費の重要性に気付かせ、販売方法の特徴や消費者保護に関する学習を通して、物資やサービスの適切な選択、購入及び活用ができるようにするとともに、環境に配慮した消費生活が工夫できるようにすることをねらいとしている。」とされています。しかし、消費生活の基盤となる私法についての理解があってこそ、実感として消費の重要性を認識することができると考えられます。
 そこで、公民的分野「(2) 国民生活と経済、イ 国民生活と福祉」の学習内容である消費者保護行政の学習部分と合わせ、自分の生活が市場や環境に与える影響について考え、消費者として生活に必要な物資・サービスを適正・適切に選択していく主体的な態度を育成する授業を、家庭科教諭といわゆるTT(ティームティーチング)で行うという工夫が考えられます。

Q32 生徒に身に付けさせたい知識や能力

Q 「私法と消費者保護」の授業によってどのような知識や能力を身に付けさせることをねらっているのですか。

 ⇒ 『報告書』13ページ(第3、1、(2)法教育で取り扱うべき主たる内容イ)、19ページ(第3、3、(2)四つの教材のねらいと趣旨(2))

A  法教育では、法が単に国民を規制するだけのものではなく、生活をより豊かにするものであること、法が多様な人々と共生するための相互尊重のルールであることなどの法の基本的な意義を踏まえ、法が日常生活において身近なものであることを理解して、日常生活においても十分な法知識をもって行動し、法を主体的に利用できる力をつけていく必要があります。
 そこで、本教材では、私たちが日常生活において日々接する契約問題を題材として、市民社会における契約の自由と責任、私的自治の原則(⇒Q49参照)といった基本的原則を理解させるとともに、企業活動や消費者保護などの諸問題が、法の理念である自由や公正と深く関わっていることを認識させていくことをねらっています。

Q33 単元のねらい

Q 「私法と消費者保護」の単元のねらいは何ですか。

 ⇒ 『報告書』20ページ(第3、3、(2)四つの教材のねらいと趣旨(2))、77ページ(第2、2単元の目標)

A  本単元が設定された趣旨は、個人と個人の関係を規律する「私法」の分野について、法教育の目指すところに従って、学習機会の充実を図ろうとするところにあります。
 ひとくちに私法といっても、例えば、商売をする上でのルールを定める商法や土地や建物の貸し借りのルールを定める借地借家法など、多種多様な法律があります。法教育は、これらの法律の細かな条文や知識を取り扱うのではなく、自由で公正な社会を支えるために必要なものの考え方を身につけるための教育であり、私人と私人の法律関係の基礎となる対等な個人の契約(=約束)を題材に、私的自治(⇒Q49参照)や契約自由の原則(⇒Q45参照)といった私法の基本的な考え方を身につけることを目指しています。

Q34 単元の目標(1)の趣旨

Q 「私法と消費者保護」の単元の目標(1)は、どのような趣旨ですか。

 ⇒ 『報告書』74ページ(第2、2単元の目標)

A  本教材は、「私法と消費者保護」の単元の目標(1)として、「身近な経済活動に対する関心を高めるとともに、具体的な事例を通じて、契約成立の要件や、いったん成立した契約が例外的に解消できる場合について理解させる。」としています。
 私法や民法という言葉は難しく感じますが、その中身は、多くの人々が共に生きているこの社会で、お互いが幸せに暮らすために必要だとみんなが受けいれた決まりです。そこで、誰でも毎日行なっている契約の場面を通じて、生徒に法を身近に感じてもらうとともに、契約が成立するというのはどういうことか、いったん成立した契約が例外的に解消できる場合とはどのようなものかについての理解を深めていきます。

Q35 単元の目標(2)の趣旨

Q 「私法と消費者保護」の単元の目標(2)は、どのような趣旨ですか。

 ⇒ 『報告書』74ページ(第2、2単元の目標)

A  本教材は、「私法と消費者保護」の単元の目標(2)として、「契約は、対等な個人の自由な意思に基づいて結ばれ、その結果、法律上の権利と義務が発生することを理解させる。」としています。
 身近に行っている契約を題材として、契約は、個人同士が自由に結ぶものであることを理解し、自由な意思に基づいて自ら行った約束だからこそ、法律上もこれを守らなければならないということを実感として理解することをねらっています。

Q36 単元の目標(3)の趣旨

Q 「私法と消費者保護」の単元の目標(3)は、どのような趣旨ですか。

 ⇒ 『報告書』74ページ(第2、2単元の目標)

A  本教材は、「私法と消費者保護」の単元の目標(3)として、「消費者が不利な条件のもとで契約を結んだ場合、後に契約を解消できる仕組みをつくるなど、国や地方公共団体が消費者を保護するための施策を実施していることを理解させる。」としています。
 法は対等な個人を前提として私法関係を規律していますが、現実の社会に目を向けると、常に対等な個人の間で経済取引が行われているとは限りません。たとえば、この「私法と消費者保護」の授業を例に取れば、一般の消費者と事業を営む人との間には、商品に対する情報の質や量、さらには交渉力に格段の差があることは歴然としています。この場合、消費者に一定の保護を与えることなく、前述の対等な個人を前提とする私法の基本的な考え方をそのまま適用すると、かえって不平等、不公正な結果になってしまいます。そこで、この場合に法は消費者保護の施策を用意しているのですが、このことを学ぶことによって、実質的に自由で公正な社会を実現するために法がどのように機能しているのかを理解させていきます。

Q37 他の題材で授業を行う場合の留意点

Q この教材で紹介されている以外の題材で「私法と消費者保護」の授業を行いたいのですが、題材を選ぶ際に、どのようなことに留意すればよいでしょうか。

A  「私法と消費者保護」に関する授業を行う際には、社会科公民的分野や技術・家庭科の家庭分野における消費者保護の学習題材を利用することも可能です。
 しかし、消費者保護の学習においては、だまされた場合の対症療法的な視点で事例が扱われている場合もあり、これをそのまま法教育で用いることについては、注意が必要です。私法は、社会生活を営むうえでお互いが幸せに暮らすために必要だとみんなが受けいれた決まりとして、「自由な意思で行った約束は守らなければならない」という原則を置いています。消費者保護について学習する際には、私法の原則を十分に確認した上で、その原則を覆してでも消費者を守る必要があるかどうかを検討するという視点で扱うことに留意してください。

Q38 それぞれのプランの特徴

Q それぞれのプランの特徴は何ですか。

A  第1プラン「私的自治の原則」は、選択教科や総合的な学習の時間で取り扱う発展的な学習計画です。契約の解消事例について弁護士などの法律専門家を外部講師として招へいし、消費活動におけるもめごとを通して、法が多様な人々と共生するための相互尊重のルールであること、みんなで暮らす社会には自由に対し責任があること、契約をするかどうかの意思決定をするときに、正しい情報や十分なチャンスが与えられない特別な場合はどうするかということを、より深く理解させる学習計画になっています。これに対し、第2プラン「経済活動と消費者保護」は、教師が説明する部分を減らし、生徒自身が多くの事例を比較検討する中で理解していくことをより重視した学習計画となっています。

Q39 授業時間の短縮方法

Q 「私法と消費者保護」の授業時間を短縮することはできませんか。

A  本単元の2つの授業プランは、いずれも3時間で学習することを予定した学習計画ですが、外部講師を招へいするのが難しい場合や時間的な余裕がない場合には、第2プラン「経済活動と消費者保護」を選択した上、次のように構成すれば、2時間に短縮することもできると思われます。多くの事例を疑似体験し比較するのではなく、与えられた事例について、契約成立の要件などの考え方を学習していく計画です。

短縮2時間版

1時間目 売買契約書を作成するにあたり、教師が、商品をたとえば「時計」のように特定した上で、契約成立の要件を考えさせる。契約した内容に、予測できなかったことがおこったとき、契約が解消できるかできないか、またその理由を考える。契約は原則として守らなければならないが、例外的に解消できる場合があることを理解する。
2時間目 消費者契約法違反の事例を通し、消費者が不利な条件の中で契約させられた場合は、国や地方公共団体に消費者を保護する役割があることを学ぶ。

Q40 第1プランを選択する際の留意点

Q 第1プランを選択する際、特に留意すべきことは何ですか。

A  第1プランでは、外部講師として法律実務家などを招くこととされています。生徒が考えた個々の売買契約の内容にそって、契約成立の要件を満たしているか、また、契約時と違う状況になったとき、契約内容が客観的に有効かどうか外部講師の方にアドバイスしてもらうと、さらに正確な理解が得られることも期待できます。なお、外部講師を招く場合、授業の進行について十分な打ち合わせをすることが大切です。教師の考える授業プランの中で外部講師がどのような役割を果たすのかを明確にした上で、外部講師に対して生徒の学習状況や理解の程度について十分な説明をすることによって、より効果的な指導をお願いできると思われます。

Q41 法律実務家を外部講師として招く方法

Q 「法律実務家などを外部講師として招き」とありますが、どこに相談すれば実務家を呼ぶことができるのですか。

A  民事上のトラブルを扱う法律実務家として、弁護士や司法書士などが存在します。「私法と消費者保護」に関して外部講師として弁護士や司法書士を招へいするには、お近くの弁護士会や司法書士会に相談するとよいでしょう。インターネット等を用いて連絡をとることもできます。

1 第一時

Q42 契約成立の要件

Q 契約成立の要件とはどのようなことですか。

 ⇒ 『報告書』90ページ「ワークシート4」

A  「契約成立の要件」などというと、いかにも難しいことのように見えますが、実生活に即して考えてみると、決して難しいことではありません。例えば150円のジュースを買うのも売買契約です。これは「このジュースを150円で売りたい」という売り手の意思と、「このジュースを150円で買いたい」という買い手の意思が合致することで成り立っています。
 これをより一般化して言えば、契約成立の要件とは、売買なら「何をいくらで売る・買うという、当事者双方の意思が合致すること」ということになります。

Q43 生徒に売買契約書を書かせる目的

Q 第一時の「展開」部分で、生徒に売買契約書を書かせるねらいは何ですか。

A  コンビニエンスストアーでおにぎりを買う、学校に行くためにバスに乗る、インターネットオークションに参加するなどの、生徒が日常行っているような経済活動でも、すべて契約に基づいています。しかし、それが契約であるということを知っている人は必ずしも多くありません。その原因には様々なものが考えられますが、一般的なイメージとして、「契約」という言葉は、企業間の取引や不動産取引など、契約書を作成することが慣習上当然とされるような大規模な経済活動の場合にのみ使われ、日常生活には縁遠いものと考えられている点にも一因を求めることができるでしょう。
 そこで、本教材では、契約を身近に感じさせるため、発想を転換して、日常生活で行っているような契約について契約書を作成してみるという体験を通じて、契約は、書面の作成の有無にかかわらず、身近に必ず存在しているということを生徒に感じさせることをねらっています。
 また、契約書を作成するための話し合いを通じて、生徒は、当事者が合意する限り、契約には自由に条件等を付けることが可能であることを実感として理解し、契約内容を主体的かつ具体的に検討するようになります。
 さらに、契約書を作成し、書面として残しておくことで、様々な契約条件を考えさせた後に、契約の成立に必要な内容(成立要件)、後日の紛争を回避するために決めておくことが望ましい内容、決めても決めなくてもどちらでも良い内容等、契約内容にも様々な要素があることの検証を可能にして、契約時に決めておくべき事項が何かを意識させることが出来ます。

Q44 契約書を作成する一般的意義の説明方法

Q 契約書を作成する一般的意義について、どのように説明すればよいでしょうか。

A  一般に、契約は口頭での約束でも成立しますが、慣習的に、企業間の取引や不動産取引など、重要な契約については契約書を作成するのが通常です。
 口頭での契約に比べて、書面による契約には次のような特徴があります。
 まず、契約の内容を詳細に決めることができるという点です。口頭でのやりとりは、人間の記憶には限界があることもあり、多数の細かい事項について決めることに適していません。
 次に、契約の内容を明確にすることができるという点です。口頭でのやりとりでは、後日認識に食い違いが出ることもありますし、「言った」「言わない」の不毛な争いを生じさせることもあります。しかし、書面で契約をすれば、当事者の認識を共通にしつつ、書面に書かれたこと以外は契約の内容に含まれないことを明らかにすることができます。
 また、上記の点にも関連しますが、契約書は当事者の意思を明確に残すので、後で言いがかりをつけて契約を守らないというような当事者の身勝手な行動を許さないという意味で、後日の紛争を回避することができます。
 さらに、契約について争いが生じ、例えば裁判の場に紛争が持ち込まれたような場合、契約書があれば、重要で直接的な証拠として、裁判所の判断に重大な影響を及ぼすことになります。これに対して、口頭での約束の場合、「言った」「言わない」の争いに陥って、結局、「言ったという証拠がない」と判断される可能性が高くなってしまいます。

Q45 契約自由の原則の意義

Q 契約自由の原則とは何ですか。

A  契約を結ぶにあたっては、契約するかどうか、誰と契約するか、契約内容をどのようにするか、書面をつくるかどうかなどについて決定することになりますが、これらは契約を結ぼうとする当事者の自由であって法律で制約されないという原則を、契約自由の原則といいます。

Q46 契約自由の原則と法律

Q 契約自由の原則からすると、法律が必要となる場面は限定的だと思うのですが、どんなときに法律が必要になるのですか。

A  契約を結ぶか否か、内容をどのようにするかなどは、当事者が自由に決めることができます。そして、当事者は、その意思に基づいて契約を結ぶからこそ、責任を持って契約を果たす場合がほとんどで、法律が必要となるような場面が生じることは多くはありません。私たちが日常生活の中で契約を多用しているにもかかわらず、法律を使う必要を感じないのは、この点にも理由があります。
 しかし、契約を結んだ当事者の一方が契約を果たさず、契約内容についてもめごとが生じた場合には、法律によってもめごとを解決することになります。

Q47 契約解消の例外性

Q 「契約に伴う責任」といいますが、消費者保護の授業で教えられているように、都合の悪いことが起これば、契約は解消できるのではないのですか。

A  契約は、成立してしまうと、当事者のいずれかの都合で解消することは、原則としてできません。これは、私たちが社会常識として持っている、「約束は守らなければならない」ということと同じであり、法律用語上「契約に伴う責任」と呼んでいます。
 消費者保護の授業でも、まずこの原則を確認する必要がありますが、これを確認することなく消費者保護関連法についての説明が行われることもしばしばあるようですから、注意したいところです。

Q48 契約に伴う責任を理解させる工夫

Q 「契約に伴う責任」について理解させる工夫としてはどのようなものがありますか。

A  契約は原則として守らなければならない(=契約に伴う責任)ということを理解させるための説明としては、次のようなものが考えられます。
 契約を締結しようとする際には、その契約内容に同意するのもしないのも選択の自由は自らにありますが(契約自由の原則⇒Q45参照)、選択の自由がある中で、あえて自ら選択して結んだ契約は、当然守らなければなりません(契約を守らなければならないことは、「契約の拘束力」と呼ばれています)。
 具体的に説明するならば、例えば、ある人が、チョコレートの売買で、100円、200円、300円の3種類のチョコレートの中から、300円のものを買うという契約を結んだが、その後、「300円は高い」と感じ、契約を解消したいと考えた場合を考えてみましょう。この人は、チョコレートを買わないという選択肢も、100円のチョコレートを買うという選択肢もあったにもかかわらず、自分の意思で契約を結んだのですから、自分の行動に責任をとって300円を支払うのが当然であり、契約を解消できない、という具合に説明することになるでしょう。
 もっとも、契約を締結するときに、何らかの事情で自由に意思決定をすることができなかった場合など、契約を守らせることが不当な場合も例外的に存在します。本単元でも、第二時以降において、例外的に契約を解消できる場合について、学習することとなっています。

Q49 私的自治の原則の意義

Q 私的自治の原則とは何ですか。

A  私的自治の原則は、個人と個人との間で生ずる問題については国家が干渉すべきでなく、それぞれの個人の意思を尊重して、その自由な判断・決定にまかせるべきだというものです。契約自由の原則も、個人と個人の間で結ばれる契約については、国家が干渉せず、それぞれの個人の意思を尊重するというものですから、私的自治の原則とほぼ同じことを意味しています。

2 第二時

Q50 当事者が契約に従いたくないと主張する場合の考え方

Q 契約の当事者の一方が、契約に従いたくないと主張する場合についての考え方を教えるにあたり、どのような点に留意すればよいでしょうか。

 ⇒ 『報告書』86ページ「考える視点シート」、90ページ「ワークシート4」

A  契約の当事者が、いったん契約を結んだ後に契約を守りたくなくなる理由には、単にお金がないからというものから、相手にだまされていたことが発覚したからなど、様々なものがあり得ます。しかし、契約は原則として守らなければならないものであり、実際に契約を解消できる場合は限定されています。
 「考える視点シート」は、この原則・例外の関係を平易に説明することができるように工夫されたものです。契約は約束であり、原則として守らなければならないことを確認した上で、どのような場合に契約を解消することが認められるかを生徒に考えさせることが大切です。

Q51 ハプニングカードを使って指導する際の留意点

Q ハプニングカードを使って指導を行うに当たり、どのようなことに留意すべきですか。

A  ハプニングカードについて、正解を求めることだけにとらわれるのは望ましくありません。結論の正当さを求めるのも重要ですが、なぜそのような結論を出すのかについて、生徒たちが十分に議論できるように指導することが望まれます。大切なのは、生徒たちが様々な意見を戦わせながら、一般常識に外れない結論へたどり着こうとする過程を通じて、自由で公正な社会を支えるものの考え方を、自らの力で身に付けることです。

Q52 「契約が解消できる場合」の考え方

Q 授業では、契約が解消できる場合とできない場合を「考える視点シート」を使って検討していきますが、「契約が解消できる場合」についての考え方は、どのように整理すればよいでしょうか。

A  本教材では、いったん成立した契約を反故にできる場合の総称として「契約の解消」という言葉を使っていますが、(1)契約を結ぶときの当事者の意思に問題があった場合と、(2)契約を結ぶ際には当事者の意思に問題はなかったが、その後の事情により問題が生じた場合に分けることができます。
 ハプニングカードCは(1)に、Dは(2)に、Eは(1)に当たると考えられます。詳しい説明はQ55以下を参照してください。

Q53 ハプニングカードA・Bについて説明する工夫

Q ハプニングカードA・Bについて分かりやすく説明する工夫にはどのようなものがありますか。

A  ハプニングカードAは、「同じ物を他店では新品で安く売っていたので契約を解消したい」というものであり、カードBは、「うちに帰ったらお母さんが同じ物を買ってくれていた。2つはいらないので契約を解消したい」というものです。
 結論から言えば、カードA・Bの場合は、契約を解消できないと考えられます。
 いずれの場合でも、いったん約束をした以上、自分の一方的な都合だけで契約は解消できません。自分が自由に選択できる状況のなかでその商品を選ぶ判断をしたのだから(契約自由の原則)、約束したものは守らなくてはいけない(契約の拘束力)のです。
 これらのことをわかりやすく図示しているのが、ワークシート4です。
 まず、「私」とA君との間では、○○を××円で売る・買うという意思が合致しており、契約は成立しています。そして、「私」の都合によって一方的にやめることを認めてしまうと、契約をしても解消されるかもしれないという不安から信頼関係を形成できなくなり、私たちが暮らす社会全体でものの売り買いができなくなりかねません。したがって、この契約は解消できないと考えるのが適当だと思われます。

Q54 ハプニングカードA・Bに関してよくある質問

Q ハプニングカードA・Bに関して、生徒からどのような質問が出ることが予想されますか。それに対してはどのように説明するとよいでしょうか。

A  実際に本教材を使って授業をしたクラスでは、次の2つの質問がされることが多いようですが、それに対する説明としては、それぞれ以下のものが考えられます。

問1  実際の社会生活ではレシートを持っていけば店が返品に応じてくれますが、それはなぜですか。
説明  それは、民法の原則ではなく、店の顧客獲得の経営戦略です。

問2  契約条件に○日以内なら返品可と書いてある場合は返品に応じてくれますが、それはなぜですか。
説明  予想されるトラブルの対応策をお互いに確認し条件として書いたもので、この確認があれば○日以内なら返品できます。

Q55 ハプニングカードCについて説明する工夫

Q ハプニングカードCについて説明する際の工夫として、どのようなものが考えられますか。

A  契約がいったん成立すると、どちらかの一方的な都合で契約を解消することはできません(⇒Q48参照)。自由な意思決定に基づいて契約を結んだのですから、その決定に責任を持たなければならないからです。
 反対に、契約は成立したものの、自由な意思決定に基づいていない場合には、契約を解消できます。
 ハプニングカードCの事案は、A君から騙されて偽物のバッグを買うとの意思決定をしたのですから、その意思決定は真に自由なものとは言えず、契約を解消することができる、と説明することができます。

Q56 ハプニングカードDについて説明する工夫

Q ハプニングカードDについて説明する際の工夫として、どのようなものが考えられますか。

A  自由な意思決定に基づいて契約を結ぶと、その契約を守らなければならなくなります。
 しかしながら、例えば、ある文庫本の売買契約を結んだ本屋さんが代金を払ってくれないお客さんに対しても本を渡さなければならないとなると、本屋さんには酷な結果になります。また、逆に、お客さんが注文した本を本屋さんが渡してくれないのに代金を払わなければいけないとなるとお客さんには酷な結果となります。
 そこで、契約を結んだ一方の当事者が、契約どおりの約束を守らなかった場合(これを債務不履行といいます)に、もう一方の当事者に契約を解消させて契約の拘束力からの開放を認めることが必要になります。
 このような説明をすると、ハプニングカードDでは、A君が約束を守ってくれないので、「私」は、解除によって契約を解消することができるということが理解しやすいものと思われます。
 なお、当事者双方の合意によって契約を解消することもできます。当事者双方が契約をやめることを欲している場合にまで契約を続ける必要はないからです。

3 第三時

Q57 映画出演契約や野球選手の契約の性質

Q 映画出演契約や野球選手の契約について、これは能力を買うという売買契約ですか、それとも雇用契約ですか。

A  法教育は、自由で公正な社会の担い手として必要なものの考え方を身に付けることを主眼としており、法律の条文や制度に関する知識を教えようとするものではありません。売買契約か雇用契約かといった、ある契約が法律上どのように位置付けられるかという問題は、どちらかというと知識に属するものであり、教える必要はありませんが、一応の説明をしておきます。
 売買契約とは、物資(物)の引渡しとそれに対する対価(お金)の支払いを内容とする契約です。
 雇用契約とは、労働力の提供とそれに対する対価(お金)の支払いを内容とするものです。
 映画の出演や野球選手の契約は、物の提供ではないので、売買契約ではありません。映画出演契約や野球選手の契約は、労働力の提供として雇用契約だと考えられます。

Q58 中学校段階で参考になる消費者保護に関する法律

Q 消費者を保護する法律がたくさんありますが、中学校段階でどの法律にふれるべきですか。

A  消費者保護に関する法律には様々なものがありますが、中学校段階では、消費者保護基本法、消費者契約法及び消費者基本法の3つが参考になります(⇒Q59~61参照)。

Q59 消費者保護基本法の意義

Q 消費者保護基本法とは、どのような法律ですか。

A  消費者保護基本法は、昭和43年に成立した法律です。
 その内容は、消費者保護のために国や地方公共団体が行うべきことの大枠を示したものですが、消費者を支援する法を実施する機関である国民生活センターや消費生活センターが実際に機能することにもつながっていきました。
 消費者保護基本法は、平成16年の法改正により、内容が改められるとともに、「消費者基本法」に改題しました(⇒Q61参照)。

Q60 消費者契約法の意義

Q ハプニングカードEに関して触れられている消費者契約法とは、どのような法律ですか。

A  消費者契約法は、平成13年に成立した法律です。
 ハプニングカードEの事例のように、消費者と事業者との間には、情報の質や量並びに交渉力について格段の格差があります。そこで、消費者契約法は、消費者に不利な契約内容や不当な経緯で契約締結に至った場合に、消費者が契約を解消できることを認めて、実質的に事業者と対等な立場に置くよう図ったものです。

Q61 消費者基本法の意義

Q 消費者基本法とは、どのような法律ですか。

A  消費者基本法は、消費者保護基本法(⇒Q59参照)を改題し、平成16年に成立した法律です。
 消費者保護基本法では、消費者は「保護」の対象とされましたが、消費者が自由かつ主体的に経済活動を行うためには、単に保護の客体と捉えるのではなく、主体的な当事者として取引にかかわることが出来るような仕組みが必要になります。そこで、消費者と事業者との間には情報の質や量並びに交渉力について格段の格差があることを認めたうえで、消費者にとって実質的に自由で公正な取引社会を実現するために、国や地方公共団体の責務やそのとるべき施策の基本的な事項を定めたのが、消費者基本法です。