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憲法の意義

Q62 「憲法の意義」を教える際の留意点

Q 「憲法の意義」を教える際に留意すべきことは何ですか。

 ⇒ 『報告書』94ページ(第1、3「憲法の意義」学習の内容とその理解)

A  日本国憲法をはじめとする立憲主義憲法は、みんなで自由で公正な社会を築き、支えることを目指すものであるといってよいでしょう。
 「自由で公正な社会」とは、多様な生き方を求める人々が、お互いの生き方や考え方を尊重しながら、共に協力して生きていくことができる社会をいいます。そこでは、社会全体の幸福の実現が目指され、一人ひとりの人間が、自分の権利を主張することができるとともに、他人の権利も尊重しなければなりません。また、「自由で公正な社会」は、誰かに任せておけば自然にできあがるものではなく、一人ひとりが社会の運営に参加し、常に努力し続けることで実現・維持できるものです。したがって、各人は、自由で公正な社会の担い手として、公共的なことがらに参加する責任感を身に付ける必要があります。
 日本国憲法は、このような自由で公正な社会を築き、支えていく上で重要な国家と個人、あるいは個人相互の基本的な在り方を、国民自身が定めたものであり、本来、私たちにとって身近でなければならないものです。
 しかし、生徒の中には、憲法というものを、自分たちの生活には縁遠く、また、国家が自分たちを一方的に縛るものであると思っているものも多く、憲法に対する理解を深める必要があります。このような生徒の憲法に対する意識をどのようにしたら変えることができるかが、この授業のポイントです。

Q63 「憲法の意義」と中学生

Q 「憲法の意義」を考えることは生徒にとって難しすぎないですか。

A  憲法は国家の基本法ですから、その意義を考えるというと、とても難しいことのように聞こえます。しかし、中学生の段階では、はじめから、「国家とは何か」、「憲法の本質は何か」といった難しい問題設定をする必要はありません。国家も人間社会のひとつなのですから、まずは、生徒にとって身近な社会や集団を素材にしながら、「多様な生き方をする人々が、ともに協力をして生きていく社会を築くためには、どのような配慮をして、どのようなルールを定めておく必要があるか」を問い、そうした検討を踏まえて、国家という人間社会における憲法の意義を考えさせることが重要ではないでしょうか。
 この教材例は、このような立場から、生徒に憲法の意義を考える機会を与えるに当たって、難しい内容をいかにわかりやすく授業するかを工夫したものです。もっとも、これはあくまでひとつの例であり、各学校で工夫を重ね、よりよいものを作りあげていくことが期待されます。

Q64 「憲法の意義」の授業時間

Q この単元を3時間で教えるのは無理ではないですか。

A  この単元を3時間扱いにしたのは、今までの憲法に関する授業計画を前提に、新たに時間を設けるとしたならば、最大3時間が限度ではないかという判断をしたためであり、「今までの授業」に工夫を加えるなどすれば、さらに数時間を取ることもできるでしょう。ただし、この授業案で示されている例(たとえば「みんなで決めるべきこと、みんなで決めてはならないこと」で示されている13個の例)すべてを取り上げる必要は全くなく、学校や生徒に応じた扱いをされるとよいでしょう。

Q65 単元の目標(1)の趣旨

Q 「憲法の意義」の単元の目標(1)は、どのような趣旨ですか

 ⇒ 『報告書』95ページ(第2、2単元の目標)

A  本教材は、「憲法の意義」の単元の目標(1)として、「日本国憲法の基本的な考え方や政治の仕組みに対する関心を高め、それを意欲的に追究させる」としています。
 生徒にとって、憲法の意義を考えるときに最も身近な題材となるのは日本国憲法ですが、日本国憲法について十分な関心がなければ、憲法一般の意義についての理解も深まりにくいものと考えられます。逆に、憲法一般の意義について理解ができれば、日本国憲法の意義についても理解が深まるでしょう。こうしたことから、本教材は、生徒たちが、近代憲法一般に共通する原理について実感として理解することを目指しています。

Q66 単元の目標(2)の趣旨

Q 「憲法の意義」の単元の目標(2)は、どのような趣旨ですか。

 ⇒ 『報告書』95ページ(第2、2単元の目標)

A  本教材は、「憲法の意義」の単元の目標(2)として、「民主主義と立憲主義という、現代の民主政治の基本概念を、身近で具体的な例をもとに考えさせ、基本的人権の尊重と政治の仕組みを主な内容としている憲法の意義を理解させる」としています。
 憲法の意義を理解することは、自由で公正な社会の担い手として必要不可欠なことですが、その理解は憲法の条文を記憶するだけでは身に付かないものです。身近な例をもとに体験型の学習をすることで、憲法の意義を実感として理解することが期待されます。

Q67 単元の目標(3)の趣旨

Q 「憲法の意義」の単元の目標(3)は、どのような趣旨ですか。

 ⇒ 『報告書』95ページ(第2、2単元の目標)

A  本教材は、「憲法の意義」の単元の目標(3)として、「自分の考えを持ち、論理的に意見を述べ、討論し、合意を形成することができる能力を育成する」こととしています。
 実社会では、実生活上遭遇する正解のない問題について、合理的で建設的な議論を積み重ねて、最も正しいと考えられる結論へとたどり着くことが求められています。このような能力を身に付けるためには、議論することの経験が重要ですが、憲法の意義については、多種多様な意見があり得ますので、これについて討論することは、議論をして解決策を模索する大切なトレーニングとなります。

Q68 「憲法の意義」でいう「憲法」と日本国憲法

Q 「憲法の意義」でいう「憲法」は、「日本国憲法」のことではないのですか。

A  ここでいう「憲法」は日本国憲法を含む近代立憲主義憲法一般を指します。本単元の目標は、日本国憲法を含む近代憲法とは一般にどのようなものかということについての理解を深め、こうした理解を通じて日本国憲法の特色を確認していくことにあります。
 現代社会においては、インターネットやゲーム機器の発達等により、子どもたちの対人コミュニケーション能力を高める機会が目立って減少しています。人と人との触れ合いの場が減り、話し合って物事を決める経験も少なくなりました。このような状況では、自分以外の人が、自分と同じく大切な存在であるということを実感する機会も失われているという指摘があります。
 人はみなかけがえのない大切な存在であること、実社会ではものごとは話し合いで決められていくこと、多数決でも奪ってはならない大切なものがあることといった、人間社会の根本にあるものを、生徒に実感として理解してもらうためには、憲法の意義を学ぶことが有用です。憲法は、このような人間社会の根本にあるものを定める基本的な法だからです。
 学校という場で、憲法の意義を理解することによって、生徒たちに個人の尊厳と民主主義の精神をしっかりと身に付けさせることが、いま何より必要であると思われます。

Q69 近代憲法の意義について考える授業の必要性

Q 日本国憲法の学習を離れて、近代憲法の意義について考える授業は今まであまり行われてこなかったものと思われますが、なぜこれが必要なのでしょうか。

 ⇒ 『報告書』93ページ(第1、1法教育における「憲法の意義」の学習の必要性)

A  日本国憲法に関する学習は、従来から行われてきたところですが、日本国憲法の持つ意義や重要性を根本から理解するために、従来の取組みをさらに進めたのが本教材です。
 より具体的に説明しますと、法教育の目標のひとつは、生徒が自らの生活と社会の向上のために政治に参加する意欲を持つとともに、基本的人権を保障し、政治権力の在り方を定めたものである憲法の意義についての理解を持つことにあります。しかし、日本国憲法の条文や構成を記憶することではこうした意欲や理解を深めることは困難です。そこで、本単元は、憲法とは、民主主義と立憲主義の考え方を基礎として、基本的人権の尊重と政治のしくみを主な内容とする基本的な法であること、そして、民主主義のもと、国民一人ひとりが主権者であることの意味を考え、理解することにより、生徒たちが上記のような意欲や理解を持つことを目指しています。

Q70 「憲法」の意味を生徒に説明する工夫

Q 本教材で対象としている「憲法」の意味を生徒に分かりやすく説明する工夫にはどのようなものがありますか。

 ⇒ 『報告書』94ページ(第1、3「憲法の意義」学習の内容とその理解)

A  近代憲法は、民主主義と立憲主義の考えをもとに成り立っていますが、いずれも生徒にとっては簡単に理解できる概念ではありません。本教材では、民主主義を「国の政治のあり方(みんなのこと)はみんなで決めること」とし、立憲主義を「みんなで決めるべきこと、みんなで決めてはならないことを明らかにすること」とするなど、平易な言葉で言い換えてあります。憲法とは何かを生徒に理解させるとき、「みんなで決めてよいこと、いけないこと」に関することがらである基本的人権の尊重と、「みんなで決める仕組み」である統治機構について定めたものであると説明するとよいでしょう。

Q71 「権力」や「権利」ということばを生徒に説明する工夫

Q 「権力」とか「権利」ということばを生徒に分かりやすく説明する工夫としては、どのようなものがありますか。

 ⇒ 『報告書』97ページ(第3、(1)第一時「国の政治の在り方は誰が決めるべきか」)

A  権力と権利は、似たような言葉であるにもかかわらず、まったく異なる意味を持っており、その正確な理解は必ずしも容易ではありません。他方で、憲法の意義を考える上で、これらの言葉の正確な理解は必要不可欠です。
 ひとつの説明の工夫としては、英語に置き換えることが考えられます。権力はPowerであり、「人を(その意思に反してでも)強制させる力」という意味が語感から感じられますし、権利の原語であるRightには、「正しい要求・主張」という意味を含むことが分かるのではないでしょうか。
 なお、憲法の領域では、国家がその支配のために行使する力を総体として「国家権力」あるいは「統治権」、法が各国家機関に対して行使することを認めている力を「権限」あるいは「権能」といい、国民等が国家に対して要求・主張を行うための法的な根拠を「権利」ということが多いようです。

Q72 「基本的人権」や「統治機構」ということばを生徒に説明する工夫

Q 「基本的人権」や「統治機構」ということばを生徒に分かりやすく説明する工夫にはどのようなものがありますか。

A  憲法とは何を定めたものかという問いに対しては、一般的にいえば、「基本的人権の尊重と統治機構を定めたものである」と答えることができます。しかし、「基本的人権」、「統治機構」といった用語は、生徒にとって理解しにくく、また、教える教師にとっても説明しにくいところです。「基本的人権」を「人にとって基本的な人権」、「統治機構」を「統治のしくみ」などといった言い換えですませてしまうと、結局意味が伝わりにくいままになってしまいます。
 「基本的人権」は、その尊重の前提にある「個人の尊厳」ということばを中心に据えて、「個人が一人の人間として尊厳を持って生きるために、他人が(たとえ多数決によっても)侵してはならない基本的な権利」であり、「統治機構」は、「基本的人権を守りながら『みんなで決める』という民主主義の考えを実行していくための制度としての、国会・内閣・裁判所などからなる国の政治のしくみ」というように説明する必要があるでしょう。

Q73 「民主主義」と「国民主権」の違い

Q 「民主主義」と「国民主権」はどう違うのですか。

A  「民主主義」と「国民主権」は、ほぼ同様のことを意味しており、中学生に対する説明の際には、互換性のあることばとして使っても特に問題はありません。参考までに、一応の説明をしておくと、以下のようにいうことができます。
 民主主義ということばは、様々な場面で使うことができる多義的なものですが、一般的には、国や地方の政治の在り方は、その構成員である国民や住民全体が主導して決めなければならないと考える主義・主張だということができます。これに対して、国民主権ということばは、「主権=国の政治の在り方を最終的に決定する力」が国民に属することを指すということができるでしょう。
 「主権」ということばは、元来、「最高性」を示すものであったことから、国の最高法規である憲法を定める力を意味するものと理解され、「国民主権」とは、憲法を定める権力あるいは権威が国民にあることを示すものとして用いられることが多いようです。それに対して、「民主主義」は日常の政治に国民や住民が参加することを含めて広く用いられます。

1 第一時

Q74 第一時の「導入」部分のポイント

Q 第一時の「導入」部分のポイントは何ですか。

 ⇒ 『報告書』97ページ(第3、(1)第一時「国の政治の在り方は誰が決めるべきか」)

A  この授業のねらいは、国の政治の在り方はみんなで決めるべきであることを生徒に実感させることにありますが、生徒が生活する中で政治とのつながりを感じることは少なく、実生活で何が政治にかかわるものかを意識することも少ないというのが現実でしょう。したがって、導入部分では、政治と生活の関連の深さを生徒が実感できるようにすることが大切です。
 具体的には、政治と関連していそうだと漠然と感じられるものを考えさせたり、生徒にとって身近なものを例として、それと政治の関連を説明するとよいでしょう。身近で政治に関係しているものとしては、たとえば、義務教育では教科書が無料で配布されていることや、電気・ガスなどの公共料金の決定方法、住居建物の高さ・階層に関する規制等があげられます。

Q75 歴史上ある特定の人が国の政治の在り方を決められた理由について問う目的

Q 第一時の「展開」部分には、「かつて、どこの国においても、国の政治のあり方は『ある特定の人』が決めていたが、どうして彼らは国の政治の在り方を決めることができたのでしょうか」とありますが、このような問いかけをするねらいは何でしょうか。

 ⇒ 『報告書』97ページ(第3、(1)第一時「国の政治の在り方は誰が決めるべきか」)

A  この授業は、民主主義、国民主権の重要性を生徒に実感として理解させることを目指しています。特に国民主権の意義を考える際には、君主主権との対比の中で、「主権」とは何かを理解していくことが効果的だと考えられます(民主主義と国民主権との関係については、Q73参照)。ここでは、「ある特定の人」が政治を独占することができたのはなぜかということを生徒に考えさせ、その特定の人が権力と権威を持っていたからということを理解させることをねらっています。もっとも、「権力」や「権威」という言葉自体、生徒にはなじみが薄いですから、最終的には教師からその意味を提示しなければならない場合が多いものと考えられます。
 この授業の後半では、このような理解を前提に、こうした権力や権威がなぜ国民の手に移されていったのかを学習していくことになります。

Q76 「ある特定の人」と歴史上の具体的人物

Q 第一時の「展開」部分の指導上の留意点に、「『ある特定の人』という言葉の意味は漠然としたままにしておく」とありますが、歴史上の具体的人物を例にとった方がイメージしやすくありませんか。

A  たしかに、授業を行う際には、「ある特定の人」とせず、歴史上の具体的人物を例にとって説明したほうが、生徒にとってイメージしやすいというメリットがあります。しかし、具体的な人物を例にとった場合、その時代においては有能な君主による政治が求められていたという場合もあり、民主主義の意義を考えるにあたって、生徒に無用の混乱を起こさせる危険があるほか、時代背景を抜きにして歴史上の人物の政治的判断を評価すること自体が難しいという側面もあります。こうしたことを踏まえ、本教材例では、歴史上の人物を例にとらないこととしています。
 実際の授業においては、国王や貴族、日本史でいえば、摂政・関白、将軍等による政治を一般的にイメージさせるとよいのではないでしょうか。

Q77 「ある特定の人」の政治が望ましくないと理解させるための工夫

Q 第一時の「展開」部分で、「ある特定の人」の政治が望ましくないことを生徒に理解させるのに、どのような工夫が考えられますか。そもそも「ある特定の人」の政治がよいかどうかを考えさせることは、道徳や特別活動の授業で行うべきことであり、社会科の授業で扱うべきことではないのではないでしょうか。

A  「ある特定の人」による政治は、どうしても不合理なものになってしまいがちであることを、授業のなかで指名した生徒の作ったルールから、生徒たち自身で導き出せるよう手助けしていくことが重要です。
 そのためには、生徒たちに検討の視点を提供していく必要がありますが、たとえば、「ある特定の人」だけで決めてしまうという決定方法に問題はないか、特定の人だけが利益を享受し、特定の人だけが損害をこうむる結果にならないか、本来利害関係があるはずの人たちの意見を聞くことができていないと、ルールの決定にあたって必要な情報が十分に集められないのではないか、そもそも教師が特定の生徒にルールを作らせていること自体が不合理な特別扱いではないか、などの視点を、歴史的に世襲制が生み出してきた問題点などと絡めながら、適宜指摘していくとよいでしょう。
 このように説明すると、社会科というより、道徳や特別活動の授業で扱うべきではないかとの疑問もあるところです。
 道徳では「主として集団や社会とのかかわりに関すること」、特別活動では「個人及び社会の一員としての在り方」を学ぶこととされていますから、これらの授業であつかってみることも十分可能であり、そのような考え方を否定するものではありません。

Q78 政治の在り方はみんなで決めるべきだと生徒に納得させる工夫

Q 第一時の「展開」部分で、生徒から、国の政治の在り方をみんなで決めることは現実には不可能ではないかという指摘があることも予想されますが、それでも政治の在り方はみんなで決めるべきだと生徒に納得させる工夫にはどのようなものがありますか。

A  国の政治の在り方を実際にみんなで決めることは不可能です。これは、たとえば、国政に関する事項すべてについて、国民が議論し多数決で決めることは現実的でないこと、子どもなど十分な判断能力のない者が国政に関与することは適当ではないことなどを考えても明らかです。
 しかし、ある特定の人が決めた場合の不都合を考えれば、国の政治の基本的な在り方については、できるだけ多くの国民によって議論を行い、その判断に基づいて決定したほうがよいということを、憲法の基本原則として理解させることが、何よりもまず重要です。その上で、現実に国民が直接参加して決定を行うことに様々な限界がある以上、特定の人による決定に委ねる必要があるけれども、その場合であっても、その決定は、基本的に、国民の代表者によって行われる必要があるということを説明しなければなりません。
 本教材では、時間の関係から代表民主制の問題については直接取り扱っていませんが、生徒からこのような指摘があるのなら、生徒の理解の程度等に応じて、代表民主制の問題について議論を進めることも考えられます。

Q79 「みんなで物事を決めていくには、何が必要でしょうか」という問いについて、生徒が答えやすくするための工夫

Q 第一時の「まとめ」部分で、「みんなで物事を決めていくには、何が必要でしょうか」という問いかけがありますが、生徒たちが答えやすいようにする工夫にはどのようなものがありますか。

 ⇒ 『報告書』97ページ(第3、(1)第一時「国の政治の在り方は誰が決めるべきか」)

A  ここでは、「みんなで物事を決める」というのは、漠然とした「みんな」がそれ自体として意志を持って物事を決めるのではなく、それぞれの個人が意見交換をしつつ、自分以外の人たちのことも考えながら、個人の集まりとして最終的な意志決定をすることを意味しています。本教材は、このことを教えるに際して、生徒が次の4つのことを理解できるようにすることを重視しています。
 (1) 「みんな」と一概にいっても、実は、一人ひとり意見が違うこと。
 (2) 「自分」とは異なる意見や利害を持つ「他人」を尊重する必要があること。
 (3) そうした「自分」と「他人」が一緒に政治の在り方を決めていくには、お互いに意見や利害を明確に主張し、議論しなくてはならないこと。
 (4) 「自分」のこととともに「他人」のことを考えて決めるということが、「みんなで決める」ということであること。
 これらの4つのポイントを教える際には、できるだけ身近な例を示しながら、生徒からの意見をうまく引き出すことが求められます。「憲法の意義」に実際に取り組んでいるクラスでは、第二時の「展開」部分で示されている事例で、「みんなで決めるべきこと」と考えられるもの(例えば、キャンプファイヤーでのクラスの出し物)を取り上げて、それに即して生徒の意見を引き出すようにするとよいと報告されています。

2 第二時

Q80 多数決の意義を説明する工夫

Q 第二時の「導入」部分で、集団の意志決定方法として多数決が最善であることをどのようにして説明するとよいでしょうか。

 ⇒ 『報告書』98ページ(第3、(2)第二時「みんなで決めるべきこと、みんなで決めてはならないこと」)

A  集団の意志決定方法としては、多数決のほかに、くじ、あみだくじ、じゃんけん、全員一致等があり、クラスでの決定を例にとっても、日常的に多数決以外の方法を用いて意志決定をすることがあります。
 しかし、例えば、キャンプファイヤーでのクラスの出し物など、クラス全体が取り組むべきことがらについて、くじ等の偶然に委ねられた方法で意志決定を行うのが不適切であることはいうまでもありません。
 他方、集団全体が取り組むべきことがらについて、最も忠実に集団の構成員の意志を反映できる方法は全員一致での決定です。しかし、ひとりでも反対する者がいる場合には集団としての意志決定ができないため、迅速かつ効率的に合理的な決定を行うには必ずしも適さない面があります。クラスの出し物について、ほかの全員がまとまっているのに、ひとりだけの反対で決定ができない場合等を例示するとよいでしょう。
 このような説明をすれば、集団の構成員の多くの意志を反映し、かつ、迅速で効率的な決定を行うためには、一般に多数決が最も適していることの理解が得られるのではないでしょうか。

Q81 第二時の「展開」部分での留意点

Q 第二時の「展開」部分で注意すべきことには、どのようなことがありますか。

 ⇒ 『報告書』98ページ(第3、(2)第二時「みんなで決めるべきこと、みんなで決めてはならないこと」)

A  「展開」部分では、クラスにおける意志決定という、生徒にとって身近なことがらを例にとって、多数決という方法はどのような場合には適当で(=みんなで決めるべきこと)、どのような場合に不適当なのか(個人の尊厳を否定するもの、少数の特定の集団が不当に不利益を被ることなど=みんなで決めるべきではないこと)を考え、民主主義と立憲主義の意義・関係を実感として理解することをねらっています。
 もっとも、生徒にとって身近な事例として、ワークシートにはAからGまでの7つの例を挙げていますが、これをすべて取り扱っていたのでは時間が足りなくなり、かえって消化不良になるおそれがあります。民主主義と立憲主義の意義・関係を理解するという観点から必要と思われる例をいくつか用いることで足りるでしょう。また、実感として理解するという観点からは、取り扱う事例も、ワークシートに挙げられたものである必要はなく、そのクラスにとってより身近に感じることのできる例にするとよいでしょう。
 その他、ワークシートの各事例についての検討の視点については、教材例の「指導上の留意点」をご参照ください。

Q82 クラスの問題と政治の在り方の問題

Q 第二時の「展開」部分で、クラスでの意志決定について考えた後、「まとめ」の部分で国の政治レベルでの決定を考えることになっていますが、クラスの問題と国の政治の在り方の問題を同様に考えてよいのでしょうか。

A  国の意志決定も集団としての意志決定ですから、その方法としては多数決が最善である点ではクラスにおける場合と同様です。この点に着目して、本教材では、「展開」の部分でクラスの意志決定を扱ってから、「まとめ」で国レベルの意志決定へと移ることとし、民主主義と立憲主義が生徒にとって身近に感じられるように工夫しています。
 しかし、クラスと違って、国という非常に大きな集団においては、国民の直接の投票による多数決で意志決定を行うことは現実には不可能ですし、それが適当でない場合が多いと思われます。日本国憲法でも、国民によって選ばれた議員によって構成される国会が、国権の最高機関として、原則として多数決で意志決定をしているところです。
 このようなことから、本教材例でも、「みんなによって選ばれた代表者が多数決で決めるべきことと、多数決で決めてはならないものを考えさせる」とされています。

3 第三時

Q83 第三時の「展開」部分での留意点

Q 第三時の「展開」部分で留意すべき点は、どのようなことですか。

 ⇒ 『報告書』99ページ(第3、(3)第三時「憲法とは何か」)

A  「展開」の部分では、一般に近代憲法とはどのようなものかを、第一・二時の学習事項と関連させながら説明していき、その後、日本国憲法も一般的な憲法の意義を踏まえた構造になっていることを確認します。
 本教材では、民主主義、個人の尊厳、基本的人権の尊重、立法権・行政権・司法権、国民主権、立憲主義といった概念を憲法の一般的な特徴としてあげています。この点で留意すべきなのは、これらの言葉が日本国憲法の理念としても用いられているため、一般的な憲法の説明ではなく、つい日本国憲法の説明になってしまいがちなことです。「日本国憲法はこのように定めています」と説明するだけでは、結局、第一・二時間目で学習したことを十分に生かせないことになりやすいので、注意したいところです。
 この点、「展開」部分の授業を進める上では、次のように整理しておくと便利です。(1)まず、第一・二時での学習を踏まえ、「みんなが幸せに生きていくために最低限決めておくべきことは何か」ということを軸として、民主主義や個人の尊厳等の概念が、みんながともに生きることを保障するために存在していることを確認し、憲法とはみんながともに生きていくために、国の在り方について基本的なルールを定めるものだということの理解を促します。(2)その後、条文などを確認しながら、日本国憲法も、みんながともに生きていけるよう、国の在り方について基本的なルールを定めたものであることを確認します。
 このように整理すると、生徒にとっても、自らが主権者であるということを正確に認識した上で、憲法の重要性を実感として理解しやすいのではないでしょうか。

Q84 「みんなで決める仕組み」と三権分立との関係を説明する工夫

Q 第三時の「展開」部分で、「みんなで決める仕組み(=統治機構)」と、立法・行政・司法の三権の分立との関係を説明する工夫には、どのようなものがありますか。

 ⇒ 『報告書』99ページ(第3、(3)第三時「憲法とは何か」)

A  本教材では、基本的人権の尊重という概念を、「みんなで決めてはいけないこと」と言い換え、統治機構という概念を、みんなで決めてよいことについて、これを決める「仕組み」だと言い換えています。
 さらに、第二時までの学習事項との関連で憲法が統治機構を定めていることを説明する工夫としては、「国の政治の在り方をみんなで決め、それを実行し、それらが正しく行われているかを判断する」仕組みであると説明することが考えられます。このように説明しておくと、三権分立についても、立法とは「決めて良いことを誰がどのように決めるか」、行政とは「決めたことを、誰がどのように実行するか」、司法とは「決めて良いことと決めてはいけないこととの区別が守られているか、決められたことが適切に実行されているかを、誰がどのように判断するのか」ということであるという説明にスムーズにつなげることができるのではないでしょうか。

Q85 日本国憲法が近代憲法の意義を踏まえた仕組みになっていることを確認する工夫

Q 第三時の「展開」部分で、日本国憲法が一般的な近代憲法の意義を踏まえた仕組みになっていることを確認する工夫として、どのようなものがありますか。

 ⇒ 『報告書』101ページ「資料日本国憲法(抜粋)」

A  本教材では、生徒に、自分が主権者であることの正確な認識を持たせ、実感として日本国憲法の重要性を理解させるため、一般的な近代憲法の意義を理解した上で、日本国憲法もこれを踏まえた仕組みになっていることを確認することとしています。
 その確認の方法として、本教材は、日本国憲法の三原則(国民主権、基本的人権の尊重、平和主義)を前提に、日本国憲法はどのような章立てで構成されているかを生徒に予想させ、確認するという手法を採用しています。
 資料1にあるとおり、章立てから見ると、日本国憲法が一般的な憲法の意義を踏まえていることが明らかになるでしょう。第一章「天皇」からは、象徴天皇制とその裏返しとしての国民主権を定めていることがわかります。第二章「戦争の放棄」は、平和主義という原則を採用したことを示しています。第三章「国民の権利及び義務」からは、基本的人権の尊重を謳いあげていることがわかります。第四章から第八章までは、三権分立を基本とする統治機構を規定していることを明らかにしています。

Q86 憲法第10章「最高法規」を確認する趣旨

Q 第三時の「まとめ」部分で、憲法第10章「最高法規」を確認する趣旨はどのようなものですか。

 ⇒ 『報告書』101ページ「資料日本国憲法(抜粋)」

A  日本国憲法第10章「最高法規」を単元の最後に確認するのは、この章が、日本国憲法の意義を最も端的に定めているからであり、その条文の内容をこの単元とのかかわりで理解させるのが非常に有意義だと考えられるからです。
 条文の概要としては、次の3つにまとめられます。
 (1) この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利であること
 (2) この憲法は、国の最高法規であり、どのような法律も、これに反してはいけないものであること
 (3) この憲法を守る義務は、天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員(=国の政治を行う権力者)にあること
 これらの条文の重要性を説明する工夫については、Q87~89を参照してください。

Q87 日本国憲法の定める基本的人権の永久不可侵性の意義について説明する工夫

Q 憲法第10章に関して、「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である」ことの重要性を説明するに当たって、どのような工夫をしたらよいでしょうか。

A  この単元では、基本的人権を「みんなで決めてはならないこと」としてとらえてきましたが、歴史的にはつい最近に至るまで、「みんな」でさえ決めてはならないことを、少数の権力者がほしいままに決めてきました。近代の憲法は、こうした専政を廃し、「みんな」でさえ決めてはならないことの範囲を広げる努力を続けてきました。
 日本国憲法は、近代憲法の意義を踏まえ、人類が長年をかけてようやく獲得した基本的人権を守り続けなければならないという強い意志を、この条文で表明しているのです。
 この条文を確認することで、「一般的な憲法の意義」と「日本国憲法の意義」の関係を、より明確に理解することができるのではないでしょうか。

Q88 日本国憲法の最高法規性の意義について説明する工夫

Q 憲法第10章に関して、「この憲法は、国の最高法規であり、どのような法律も、これに反してはいけないものである」ことの重要性を説明するに当たって、どのような工夫をしたらよいでしょうか。

A  この単元では、個人の尊厳を守り、みんなが幸せに生きていけるための最低限のルールとしての憲法の意義を考えてきました。このような憲法の意義は、逆からみれば、国はこのような基本的なルールに反するような法律などを作ることができないということにほかなりません。
 この条文は、こうした理解のもとに、憲法が国の最高法規であることを明らかにしていると説明すれば、生徒も憲法の意義をさらに確認できるでしょう。

Q89 公務員の憲法尊重擁護義務を理解させる意義

Q 憲法第10章に関して、「この憲法を守る義務は、天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員(=国の政治を行う権力者)にある」ことを理解することは、どのような意味があるのですか。

A  法教育のひとつのねらいは、法は単に国民を規制するだけのものではなく、国民の生活をより豊かにするものであることを生徒に実感として理解させることにあります。
 この単元の学習により、憲法は国民を一方的に縛るものではなく、国民の権利を守るために国の権力を縛るものであることの理解は得られたのではないかと思われますが、日本国憲法がこのことに関して特に規定を置いていることを確認することにより、さらに正確な理解が期待できます。