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平成17年版犯罪白書のあらまし 〈第4編〉 特集―少年非行

〈第4編〉 特集―少年非行

 少年非行の動向
 (1)  少年刑法犯
   ア  検挙人員の推移第4図参照
   少年刑法犯検挙人員(触法少年の補導人員を含む。以下同じ。)は,昭和61年以降10歳以上20歳未満の少年人口が減少傾向にあることを反映して減少し,平成7年には20万人を下回り,その後は,おおむね20万人前後で推移し,16年は19万3,076人(前年比5.2%減)となった。
 同検挙人員の人口比(10歳以上20歳未満の少年人口10万人当たりの検挙人員の比率をいう。)は,8年以降上昇傾向にあり,16年は,1,505.9(前年比47.0ポイント低下)と,少年非行のピークである昭和50年代後半ころに次いで高い水準にある。
 一般刑法犯検挙人員中の少年の比率は,近年は成人検挙人員の増加に伴って低下を続けており,16年は37.9%(前年比3.5ポイント低下)となった。
   イ  年齢層別動向
   平成16年における少年一般刑法犯検挙(補導)人員の年齢層別人口比(各年齢層(触法少年は10歳以上14歳未満)の人口1,000人当たりの検挙(補導)人員の比率をいう。)は,年少少年が20.9,中間少年が20.2,年長少年が10.1,触法少年が4.2であった。
   ウ  外国人の犯罪少年の動向
   平成16年における来日外国人犯罪少年の検察庁からの家庭裁判所送致人員は,1,236人であり,国籍等別では,ブラジルが36.6%と最も多い。
   エ  罪名別動向
   平成16年における少年一般刑法犯検挙人員は,男女とも各年齢層において,窃盗が最も多く,次いで,横領であり,この2つで,男子の約80%,女子の約90%を占めている。男女とも,おおむね年齢層が低いほど窃盗の比率が高く,女子の方が男子よりも窃盗の占める比率が高い。
 殺人は,近年はおおむね100人前後で推移し,16年は62人(前年比35.4%減)であった。
 強盗は,平成8年以降1,000人を超え,15年には1,800人とピークに達し,16年は1,301人(前年比27.7%減)であったが,なお高い水準にある。

 (2)  少年特別法犯
   少年特別法犯(交通関係4法令違反を除く。)の送致人員は,昭和58年のピークの後,おおむね減少傾向にあり,平成16年は6,272人(前年比7.4%減)となった。罪名別では,毒物及び劇物取締法違反(2,581人)が最も多い。

 (3)  触法少年
   触法少年の一般刑法犯補導人員は,昭和56年のピークの後,減少傾向にあったが,平成11年以降は2万~2万2,000人台を横ばいで推移し,16年は2万191人(前年比6.3%減)であった。
 殺人の補導人員は5人(前年比2人増),強盗の補導人員は28人(同1人減)であった。

 (4)  虞犯少年
   平成16年における虞犯の家庭裁判所終局処理人員は,923人(前年比4.4%増)であり,女子の比率は,55.7%であった。

 非行少年の質的分析
   法務総合研究所では,最近の非行少年の質的分析を行うため,非行少年に対する意識調査(以下「非行少年調査」という。),非行少年の保護者に対する意識調査(以下「保護者調査」という。)及び少年院教官に対する最近の非行少年に関する認識についての調査(以下「少年院教官調査」という。)を実施した。その結果を踏まえた最近の非行少年の処遇上の留意点は,次のとおりである。
 (1)  人の痛みに対する共感性を育てる処遇
   日々,非行少年と行動を共にし,その改善・更生に取り組んでいる少年院教官の60%以上が,最近,非行少年の抱える問題の中身が変化していると感じ,教官の70%以上が,その変化によって非行少年の処遇が困難になっていると感じていた。そして,多くの教官が処遇において最も困難になったと感じていたのは,「人に対する思いやりや人の痛みに対する理解力・想像力に欠ける」,「自分の感情をうまくコントロールできない」といった非行少年の感情・情緒に関連する資質面の問題であった。
 他方,近年,被害者やその親族の心情等について一層の配慮を行うことが求められており,加害者である少年が自らの犯罪と向き合い,犯した罪の大きさや被害者の心情等を認識し,被害者に誠意をもって対応していくよう指導を一層充実させることが要請されている。
 こうした最近の非行少年の資質面での問題や社会からの要請を考慮すると,加害者である少年が事件を悔い,反省し,償うためには,人の痛みに対する共感性を育てる処遇を強化する必要がある。そのためには,基本的な生活の安定や考える力を養う訓練を積み重ねた上で,人に対する信頼感や思いやり等の暖かい心を回復させるために,自分たちの非行やこれに関連する自らの体験,感情等を見つめ直させ,加害者として人に与えてきた痛みについて考えさせること等に重点を置いた系統的な処遇プログラムを展開していく必要がある。それによって,誠意をもって被害者と向き合い,謝罪等の適切な対応を行うことが可能となろう。
 矯正・更生保護の処遇の現場では,被害者の視点を取り入れた教育等の充実強化が従来にも増して強調され,非行の反省をさせるだけではなく,社会の中で様々な人たちと対話でき,共に生きていけるように,豊かな共感性や自らを振り返る力を育てることを重視し,その上で,被害者の痛みに共感させために,ロールレタリング等の教育・処遇を展開している。

 (2)  集団場面を活用した処遇
   非行少年調査では,非行少年の友人関係に対する満足度は,総務庁及び内閣府が実施した世界青年意識調査の対象者(18歳から24歳までの男女。以下「一般青年」という。)と比較して低く,非行少年の方が交友面での不適応を感じやすいことがうかがわれる。少年院教官調査でも,「対人関係を円滑に結ぶスキルが身に付いていない」,「周りの誘いを断れない」,「心から信頼し合える関係を持てない」など,最近の非行少年の交友関係面での不適応感の原因となる問題が多く指摘されていた。
 非行少年の中では,こうした不適応感を積極的に解消するのではなく,人に追従したり,自らの責任を回避して,不適応感から目を背けようとする傾向が強まっているように思われる。甘えの通用する身近な家族や友人関係といった狭い人間関係内にとどまって,互いに傷つけることを避けようとする傾向を強めているのではないかと考えることもできる。しかし,このような状態にとどまる限り,将来の目標達成に向けて努力しようとする向上心は生じないであろうし,社会の中で責任ある役割を果たし,自分の居場所を自らの力で確保していくことも難しいであろう。
 こうした非行少年に対しては,集団場面を活用した処遇が有効と考えられる。そこでは,大人が一方通行的に少年を指導するのではなく,少年同士が共通の目標に向け,集団的に行動する中で,互いに価値観,感情をぶつけ合いながら,切磋琢磨し,成長していくことが重視される。少年同士の交流の機会を多く持たせ,多様なかかわり合いを実際に体験させることが彼らの成長を促すことになると思われる。その過程で,自律性や責任感,向上心等を身に付けさせることが重要であり,こうした教育・処遇によって,社会の一員としての足場が築かれ,不良仲間,不良集団等からスムーズに離脱することが期待される。

 (3)  保護者の自発的対応を促す働き掛け
   非行少年調査では,非行少年の家庭生活に対する満足度は一般青年と比較して低く,非行少年の方が家庭内の不適応を感じやすいことがうかがわれた。保護者調査においても,子供にその場その場で口うるさく指導はするが,子供に好きなようにさせてきたと認識している保護者の比率が高かった。少年院教官調査でも,保護者について,「子供の行動に対する責任感がない」,「子供の言いなりになっている」,「子供の行動に無関心である」と指摘する回答の比率が高く,指導力に問題のある非行少年の保護者が「増えた」と認識している少年院教官が80%を超えていた。
 非行少年の父親と母親との間にも多くの点で認識に相違が認められた。父親の方が子育てに対する関心の乏しさが問題であったと認識している比率が高かったのに対し,母親の方は,夫婦間の意見の不一致,過干渉が問題であったと認識している比率が高かった。子供の将来や親子関係についても,父親の方が今後を楽観的に見ているのに対し,母親の方は,指導の行き詰まりや親自身の変化の必要性を感じている比率が高かった。
 非行少年の更生のための保護者の自発的対応を促す働き掛けにおいては,こうした父母の認識の違いを自ら確認させることがその第一歩になると考えられる。その上で,子供の立ち直りのために何が必要かを共に考えさせていく必要がある。これまでの子育てを父母ともに客観的に振り返らせ,子供との感情交流の場を設けること等によって,親の側の自発的な変化を促していくことが重要である。

 非行少年の処遇
 (1)  少年事件の検察及び裁判
   ア  検察
   平成16年における犯罪少年の検察庁新規受理人員は,24万1,610人(少年の比率11.2%)であり,その内訳は,刑法犯18万8,332人(同14.8%),特別法犯5万3,278人(同6.0%)であった。
 家庭裁判所が検察官に送致したいわゆる逆送事件の同年における検察庁処理人員は,6,560人であり,このうち6,407人が起訴されている。
   イ  少年審判第4表参照
   平成16年における家庭裁判所の少年保護事件の終局処理人員は,一般保護事件(業過及び危険運転致死傷(以下「業過等」という。)を除く。以下同じ。)が14万3,940人,業過等事件が3万8,841人,道路交通保護事件が5万155人であった。
 一般保護事件(虞犯を除く。)の終局処理人員の内訳は,審判不開始74.2%,保護観察11.9%,不処分9.7%,少年院送致3.3%,年齢超過による検察官送致0.4%,刑事処分相当の検察官送致0.3%であった。
   ウ  刑事裁判
   平成16年の通常第一審(地方・簡易裁判所)における少年の有罪人員は,259人であり,このうち,無期懲役は1人,有期懲役・禁錮は256人であり,有期刑は,不定期刑が93人,定期刑が163人(うち執行猶予161人)であった。
   エ  改正少年法の運用
   16歳未満の少年で,平成16年までに刑事処分相当として検察官送致とされたもの(道交違反を除く。)は,3人であり,このうち2人は,起訴後に地方裁判所から家庭裁判所に移送され,保護処分(少年院送致)とされた。
 犯行時(平成13年4月以降)16歳以上の少年が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件について,16年までに家庭裁判所において終局処理(年齢超過による検察官送致決定を除く。)がされた少年は,合計294人(検察官送致後,地方裁判所から移送されて再係属した時の少年10人を除く。)であり,このうち178人(60.5%)が検察官送致とされている。検察官送致の比率は,殺人(既遂)が57.1%,傷害致死が55.4%,強盗致死が69.8%,危険運転致死が92.3%であった。
 16年までの一般保護事件の終局処理人員のうち,119人について裁定合議決定がされた。また,84人について検察官関与決定がされ,このうち21人について国選付添人が選任された。
 16年までの少年保護事件の終局処理人員のうち,196人について,4週間を超える観護措置期間の更新決定がされた。
 同年までに,5人について検察官から抗告受理の申立てがあり,このうち3人について抗告審で原決定が取り消された。
 同年までに,被害者等の申出により,2,138人が非行事実に係る事件記録の閲覧・謄写を認められ,606人について意見の聴取がされ,2,394人について審判結果等の通知がされた。

 (2)  少年鑑別所における鑑別
   ア  入所状況第5図参照
   少年鑑別所新入所人員は,平成8年以降増加傾向にあったが,16年は2万1,031人(前年比8.8%減)であった。
   イ  課題と取組
   近年,凶悪・特異な非行を行ったにもかかわらず,非行に至る過程や動機の解明が難しい少年が増加しており,従来にも増して資質鑑別体制の充実・強化が求められている。また,自己の意思,感情等を言葉で適切に表現することができないなど表現能力に問題のある少年が多く見受けられることから,少年にとって回答しやすく,かつ,その個性や特徴を的確に把握できる心理検査がますます必要となっている。
 少年鑑別所は,少年非行に関する専門的知識及び経験を地域社会に還元し,地域の青少年相談センターとしての役割を果たすため,一般鑑別業務を更に推進していく必要がある。

 (3)  少年院における処遇
   ア  新入院者数第6図参照
   少年院新入院者は,近年はおおむね4,000~5,000人台で推移し,平成16年は5,300人(前年比9.0%減)であった。
 16年の新入院者は,処遇区分の別では,長期処遇が66.4%,一般短期処遇が32.0%,特修短期処遇が1.6%であり,少年院の種類の別では,中等少年院が83.9%,初等少年院が11.6%,医療少年院が2.6%,特別少年院が1.9%であった。
   イ  出院者の状況
   平成16年の出院者5,771人のうち5,436人が仮退院によって出院している。
 仮退院者の平均在院期間は,一般短期処遇では149日,特修短期処遇では83日,長期処遇では384日であった。
 8年から12年までの出院者で,5年内に再入院した者の比率は,約16%であり,出院(複数回入院した者の場合にはその最終の出院)から5年内に刑務所に入所(初入受刑者としての入所の場合に限る。)した者の比率は,約9~12%であった。
   ウ  課題と取組
    (ア )被害者の視点を取り入れた教育の充実・強化
 平成9年に,生活訓練課程G3を新設し,同課程では,非行の重大性を深く認識させ,罪の意識の覚せいを図ること,被害者及びその家族等に謝罪する意識をかん養すること等を目標として教育を行っている。そして,同課程の新設を機に,その他の多くの少年院でも,被害者の苦痛や心情に対する理解を深めさせるために従来から実施してきた様々な指導を,被害者の視点を取り入れた教育として体系的に実施するようになったほか,犯罪被害者又はその支援者等による講演等を実施したり,福祉や医療の専門家に命と心の相談員を委嘱し,命の大切さを理解させ,思いやりの心を育てるための指導を実施している。今後も,これらの施策を拡充しつつ,プログラムの質的向上を図り,在院者に,被害者及びその家族の置かれた状況や具体的な被害の大きさについての実感を持たせ,謝罪の決意を具体的に行動で表すことができるよう,指導を行っていく必要がある。
    (イ )保護者への働き掛けの強化
 少年院では,保護者が面会のために来院した機会や保護者会等を活用して,在院者の矯正教育及び円滑な社会復帰に向けた協力を要請するなどの保護者に対する働き掛けを行っているほか,保護者会では,在院者に対して実施している矯正教育の内容や施設内での生活の概況を説明するとともに,在院者,保護者及び教官の三者面談により,在院者の家族関係等の調整や出院後の進路等が話し合われている。今後も,保護者会等を通じ,例えば,交友関係の整理,就労先の確保等について,少年院の側から保護者に問題提起するなど,在院者の矯正教育及び出院後の更生に積極的に保護者をかかわらせるための方法に一層の工夫を重ね,更なる充実を図っていく必要がある。

 (4)  少年受刑者の処遇
   平成16年の少年新受刑者は,84人(前年比23.5%増)であった。
 16歳未満の少年受刑者は,いない。

 (5)  少年の更生保護
   ア  保護観察対象者の動向第7図参照
   少年の保護観察新規受理人員は,近年,交通短期保護観察少年の減少に伴って減少傾向にあり,平成16年は4万6,253人(前年比7.1%減)であった。このうち,個別処遇を行う保護観察処分少年は2万2,257人(同6.4%減),少年院仮退院者は5,436人(同2.7%減)であった。
   イ  保護観察終了事由
   平成16年における保護観察終了人員の終了事由は,保護観察処分少年では,保護観察の解除が75.7%であり,少年院仮退院者では,退院が19.0%,期間満了が64.2%,戻し収容・保護処分取消しが16.5%であった。
   ウ  課題と取組
    (ア )被害者等を視野に入れた処遇の充実
 保護観察処遇においては,これまでも,事案に応じて,被害者やその遺族を視野に入れた処遇を実施してきたが,今後,対象者に被害者等の受けた痛みを理解させ,罪の意識を覚せいさせるための指導を行い,積極的な謝罪や被害弁償を促すような取組をより重視していくことが課題である。
    (イ )社会参加活動の充実
 保護観察処遇においては,福祉施設における介護・奉仕活動,公園清掃等の環境美化活動等に対象者を参加させ,対象者の社会性を育み,社会適応能力を向上させることに努めている。平成16年度における社会参加活動の実施回数は463回,実施場所数は310か所,対象者参加人数は1,594人(保護者177人を含む。)であった。今後,この活動をより多様で意義あるものにしていくことが,保護観察処遇における重要な課題であり,保護観察所においては,保護司会,更生保護女性会,BBS会等の更生保護関係団体の協力を得ながら,活動先や活動内容の充実を目指している。
    (ウ )就労指導・支援の充実
 平成16年における少年の保護観察終了人員について,無職者では,保護処分取消し等により終了した者の比率(48.8%)が際立って高く,また,保護観察中の再非行・再犯により再処分を受けた者の比率(54.3%)も著しく高い。対象者の再非行・再犯を防止し,その改善更生を促すためには,より一層の就労指導・支援の充実が必要であり,今後は,対象者の雇用に積極的に協力する協力雇用主を更に確保し,公共職業安定所等の関係機関との連携を進めるなど,様々な施策を充実させることがますます重要である。
    (エ )保護者に対する働き掛け
 少年の保護観察処遇を効果的に実施するためには,保護者との協力が重要であり,今後,保護者に対し更に有効な働き掛けを行い,対象者の監護に関する責任の自覚を促すことが大切である。

 (6)  児童自立支援施設における自立支援
   平成15年10月1日現在における児童自立支援施設の在所児童は,1,714人であり,在所児童(同年2月1日現在)の入所経路は,「児童相談所の措置により家庭から」が65.3%を占め,「家庭裁判所の審判により保護処分として送致」は,17.0%であった。

 少年法改正後の重大事犯少年の実態と処遇
 (1)  重大事犯少年の実態
   法務総合研究所では,改正少年法施行後の重大事犯(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件をいう。以下同じ。)を犯した少年(以下「重大事犯少年」という。)の実態と処遇を把握するため,犯行時14歳以上の少年で,平成13年4月以降に犯した重大事犯により,少年鑑別所に観護措置により入所し,16年3月までに家庭裁判所の終局処理決定により退所した278人(男子256人,女子22人)を対象に特別調査を実施した。
 調査対象者の非行名は,傷害致死178人,殺人49人,強盗致死29人,危険運転致死20人,保護責任者遺棄致死2人であり,分析に当たっては,これらを,一般事犯と交通事犯に分け,交通事犯を「交通型」とし,一般事犯のうち,少年と被害者が親族関係にあるもの(交際相手の実子を死亡させたものを含む。)を「家族型」とし,それ以外の一般事犯を,共犯の有無により,「集団型」と「単独型」の非行類型に分けて検討した
   ア  集団型の特徴
   集団型の少年は,重大事犯少年のほぼ4分の3を占める。学校では成績が振るわず,仕事も長続きせず,遊び中心に過ごしていた者が多く,暴力によって自分の強さを殊更に誇示し,憂さ晴らしをしようとした結果,重大事犯につながった。少年たちは,学校にも職場にも地域社会にも所属意識がなく,同じような不良仲間あるいは年長の不良者との結び付きを強め,共に行動することで不適応感を解消したり,強さを持とうとしたことがうかがわれる。
   イ  単独型の特徴
   単独型の少年は,他の非行類型と比較して最も人数が少なかった。資質の上で大きな問題を抱えている者が目立ち,早期から粗暴傾向が顕著で資質面の問題性がそのまま重大事犯につながった者,異性との感情のもつれに直面し,適切な対応を取れず,激情に任せた行動に出た結果として被害者を死亡させた者等が見られた。さらに,動機とその結果の重大性が余りに不釣り合いな事例,動機そのものが不可解で精神面での障害が疑われる事例等が含まれていた。
   ウ  家族型の特徴
   家族型の少年は,様々な家庭内の問題を複合的に抱えていた。そして,家庭内の問題が凝縮された形で重大事犯へと発展している。父親が被害者である事件は,優位な立場にある父親に暴力で対抗した結果,重大事犯に至った事例等が見られた。他方,母親が被害者である事件は,母親の側には目立った問題が認められず,少年の側に精神面での障害等の問題が認められる事例等が見られた。また,嬰児殺の女子では,家庭内で手のかからない子としての立場を守ろうとして,親にも妊娠の事実を告げず,出産の発覚を恐れて我が子の殺害に至る事例等が見られた。
   エ  交通型の特徴
   交通型の少年は,他の非行類型の少年と比較して犯行時年齢が高く,家庭内の問題,生活上の問題の少ない少年が比較的多かった。通常の家庭環境の下で,目立った非行もなく,一応,職業に就き,社会人としての生活を送っていたが,交通規範面での問題から車両運転の際に重大な結果を引き起こすに至った事例等が見られた。

 (2)  重大事犯少年の裁判
   家庭裁判所の審判結果は,調査対象者278人のうち,4人が年齢超過による検察官送致,138人(49.6%)が刑事処分相当による検察官送致,136人(48.9%)が保護処分とされていた。調査対象者のうち,犯行時16歳以上で,審判時20歳未満の原則逆送少年236人について見ると,135人(57.2%)が検察官送致とされ,残る101人(42.8%)が保護処分とされていた。
 これら原則逆送少年について,非行類型別に審判結果を見ると,交通型は,ほとんどが検察官送致とされていた。集団型は,主導者であったかどうか,被害者にどの程度の致命傷となる暴力を振るったかなどの様々な要因が,決定に影響を及ぼしていたことがうかがわれた。他方,家族型は,被害者である父親に多量の飲酒や暴力などの問題がある事例,少年に精神面での障害が認められる事例,女子による嬰児殺の事例等が多く含まれ,保護処分とされる比率が高くなっていることがうかがわれた。単独型でも精神面での障害が認められる事例等が保護処分とされていた。
 検察官送致とされた原則逆送少年139人(年齢超過による4人を含む。)は,地方裁判所に起訴され(殺人22人,承諾殺人1人,強盗致死16人,傷害致死82人,危険運転致死18人),平成17年8月31日までに,第一審で133人が終局裁判を受けた。このうち,裁判時少年であった108人の裁判結果は,無期懲役が5人,10年以上の定期刑が4人,不定期刑が86人,執行猶予付き定期刑が3人,家庭裁判所への移送が10人であった。

 (3)  重大事犯少年に対する処遇
   ア  少年院
   少年院においては,個々の少年の必要度等を勘案して個別的処遇計画が立案され,処遇が行われていた。被害者の視点を取り入れた教育や保護者に対する働き掛けのために多くの手法が組み合わされて実施されていた。また,処遇に困難を伴った事例を見ると,資質面での問題が大きな者,家族のサポートが容易に得られない者が含まれており,これらに対し,精神医療面での手当,家族関係の調整等,少年の問題性に応じた手厚い働き掛けが行われていた。
   イ  刑務所
   刑務所においても,少年院と同様に,少年受刑者に対して個別的処遇計画が立案され,これに基づく処遇が行われていた。刑務所での処遇期間は,少年院よりも長い場合が多く,その中で職業訓練等,出所後の職業生活に直結した処遇が行われていた。
   ウ  保護観察
   保護観察所では,矯正施設で処遇されている段階から,少年が抱える問題の解消のため,施設と連携をとって,引受人の引受意思を積極化させるための働き掛けを始め,引受人から釈放後の就労や就学,生計の見通しについて聴取するなど帰住予定地の環境調整に当たっていた。
 保護観察の段階にあっては,個々の対象者の問題に応じて定められる遵守事項に沿って,分類処遇や類型別処遇が活用されていた。また,被害者等調査,被害者を視野に入れた指導・助言等が実施されていた。

 おわりに
 平成16年版犯罪白書で指摘したように,国民の価値観や生活様式の多様化,家族的結合や地域社会の連帯意識の希薄化等から,社会それ自体の有する犯罪抑止機能が多くの点で低下し,かつての「平穏な時代」から現在の「犯罪多発社会」へと我が国の社会がこの30年間に大きく変化してきている。
 青少年を取り巻く環境も大きく変化し,消費社会化,情報化等の急速な進行により,青少年も消費社会の一員として大人社会に否応なしに組み込まれ,物質的な欲求充足への刺激・誘惑を強く受けている。また,経済環境の激しい変動の下,非正規雇用や転職の増加等,労働面における多様化及び流動化が進んでいる。
 こうした我が国社会の変化は,かつて非行抑止機能として働いた我が国固有の社会的・文化的特質を変容させ,青少年の社会的な自立の遅れ等の新たな問題を生じさせた。これに加え,社会の耳目を集める少年による特異な凶悪犯罪が散見されること等から,少年非行に対する国民の不安感が広がってきているように思われる。
 少年非行は,家庭,学校,地域社会等の問題が複雑に絡み合って生じている。自分の都合や願望ばかりを子供に押し付けようとする保護者,少年を利用し,犯罪に引き込もうとする大人が存在することも社会の現実である。非行少年の多くが学業の不振やいじめに遭うなどして学校生活から早期にドロップアウトし,地域社会にも溶け込めないまま,同じような境遇の仲間と結び付きを強めて非行に走っていることがうかがわれ,学校にも地域社会にも所属意識を持てないでいることの問題は大きいものと思われる。
 このように,少年非行が家庭,学校,地域社会等の在り方の問題の反映であることを,まず大人自身が直視し,反省しなければならない。それとともに,少年に社会の中で所属意識を持たせることによって,非行を食い止める手段を考えていかなければならない。少年非行の防止及び非行少年の更生は,刑事司法の枠内での取組だけで全うできるものではない。非行少年は,刑事司法の中で更生の機会を与えられるが,これは更生への第一歩であり,いずれは,家庭や地域社会に戻り,自らの努力で非行から立ち直り,自立していかなければならない。過去の非行を反省し,地域社会の中に新しい居場所を見いだして立ち直ろうとする少年を地域社会の中に積極的に受け入れていく必要がある。そして,少年に対して,地域の人々と共に生きていこうとする意欲を持たせ,それを持続させていくことは,大人たちの重要な役割であり,責任でもある。そのために,非行少年処遇の専門機関だけではなく,関係諸機関・団体が有機的に連携し,地域社会と協働して総合的な非行対策を推進する必要があるものと考える。



● 目次
 
○ 〈はじめに〉
○ 〈第1編〉犯罪の動向
○ 〈第2編〉犯罪者の処遇
○ 〈第3編〉犯罪被害者の救済
○ 〈第4編〉特集-少年非行