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記者が行く! ~IPPFコロキウムが日本で開催~
本年10月7日から10日までの間、国際刑事矯正財団(International Penal and Penitentiary Foundation: IPPF)コロキウムが国連アジア極東犯罪防止研修所(アジ研)のある東京都昭島市で開催されました。このコロキウムについて、アジ研の担当者に話を聞きました。
記 者IPPFとはどのような組織なのでしょうか?
担当者IPPFの沿革をたどると、その起源は刑務所改革に関する勧告を行うこと等を目的として、1872年に設立された国際監獄会議(International Prison Commission (IPC))まで遡ります。1951年に国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)にその役割を引き継いでからは、犯罪防止・刑事司法に関する研究、出版などを引き続き担う組織として活動し、活動の中核となるのが2、3年に一度世界各地で行うコロキウム(専門家会合)であり、犯罪防止・刑事司法が抱える課題についてIPPF会員の間で議論を深めています。IPPF会員は、資格を持つ国から法曹、研究者、矯正保護当局の3名の選出を原則とし、日本はアジアで唯一の主要委員会(Principal Committee)の会員資格を有しています。
記 者なぜ日本で行われたのでしょうか?
担当者日本が2021年にホストした京都コングレスの成果として策定を主導した「再犯防止国連準則(京都モデルストラテジー)」にIPPFが高い関心を寄せ、同準則が本年5月の国連犯罪防止刑事司法委員会(CCPCJ)で採択されたこのタイミングで、「再犯防止国連準則を活用した再犯防止の促進」をテーマとした開催となりました。
日本は1890年の第4回国際監獄会議(IPC)に初めて参加して以降、IPC及びIPPFの活動に参画してきました。日本が国連への加盟を果たす前にもかかわらず、1955年の第1回コングレスに参加できたのは、長年にわたり、IPC及びIPPFの活動に参画してきたおかげでもあります。
また、アジ研が、1990年に国連で採択された非拘禁措置に関する国連最低基準規則(東京ルールズ)を起草した際にもIPPFから多くの知見をいただき、1998年にはそのアジ研が、前の所在地である東京都府中市においてIPPFコロキウムをホストするなど、国連の犯罪防止・刑事司法プログラム・ネットワーク機関(PNI)たるアジ研との連携が続く中での今回の開催となりました。
記 者どのようなことが行われたのでしょうか?
担当者IPPFコロキウムは、基調講演、施設見学、サブテーマに関する議論で構成され、最後に提言が作成されました。開会式では、ホスト国を代表して、高村正大法務副大臣(当時)が挨拶を行いました(挨拶の様子はフォトニュース(https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho06_01336.html)も御覧ください。)。
高村副大臣(当時)による開会挨拶
開会式における集合写真
基調講演では、スティーブン・シュート氏(IPPF理事長・英国サセックス大学教授)、ベネディクト・ホフマン氏(国連薬物・犯罪事務所(UNODC)アジア大洋州地域事務所副代表)に加えて、アジ研の山内由光所長が登壇しました。
シュート理事長は、IPPFの沿革、京都モデルストラテジーのポイントなどを概観した後、英国における性犯罪者処遇プログラムから得られた示唆について概説を行いました。1992年から英国の刑事施設で行われていた性犯罪者処遇プログラム(SOTP)を受講した者の再犯率が統計的に高かったことが明らかになったことにより、2017年にプログラムをリニューアルしたという教訓から、プログラムを無批判に使用し続けた弊害や、効果検証が再犯防止には必要なことなどを述べました。
シュート理事長の基調講演
ホフマン副代表は、京都モデルストラテジーの策定経緯や意義、各戦略について概説を行いました。ホフマン副代表の概説に先立って、UNODC本部のジョー・ディデインアマン会議支援部長からビデオメッセージが上映され、モデルストラテジーは世界中のさまざまな国々や他の組織の実践、政策、専門的知識、意見を結集する厳密なプロセスの一環として策定されたことなどが伝えられました。
ホフマン副代表の基調講演
山内所長は、2021年の京都コングレスの際にアジ研が実施した再犯防止をテーマとしたワークショップが京都モデルストラテジーの土台になっていることに触れ、同ワークショップを実施したPNIとして、国際研修や二国間支援などのアジ研のプログラムを通じて、日本の保護司制度などをはじめとする好事例の共有などにより、モデルストラテジーの普及に努めていくという力強いメッセージを発しました。
山内所長の基調講演
サブテーマは、京都モデルストラテジーに掲げられた柱のうち、「矯正施設における更生及び社会復帰支援」、「社会内での更生及び非拘禁措置」、「連携、地域の関与、能力構築及び持続可能性」の3つが設定され、それぞれのテーマについて、ホスト国たる日本の取組を矯正局、保護局、保護司の代表にお話しいただいた後、課題や好事例などについて議論を深めました。議論に資するよう、喜連川社会復帰促進センター及び更生保護施設ステップ押上の見学も行いました。これらの議論や施設見学を経て、最終的にコロキウムの成果としての提言がまとまりました。
施設見学の様子(喜連川社会復帰促進センター)
施設見学の様子(更生保護施設ステップ押上)
討議の様子
コロキウムの提言について教えてください。
担当者提言は、コロキウムの成果として再犯防止を推進するためにIPPFが提案する行動について記されており、全部で46項目ありますので、その中からいくつか御紹介します。
- 再犯防止は法務・内務当局のみの責務でないことを認識し、政府全体で取り組むべきこと
- 被収容者に対する個別化された教育・処遇プログラムを行うこと
- 刑事施設が地域社会に融合し、地域のサービスとも連結していること
- 刑事施設において、緑地や自然とのかかわりの必要性を考慮すること
- 更生、社会復帰のための介入は、当事者の積極的参加を確保するように努めること
- ダイバージョンや社会内処遇を実施する際には組織横断的対応を最大限確保し、NGO、ピアサポート、市民社会、地域ボランティア、民間セクターとの連携に努めること
- 犯罪をした者を許す文化の醸成やセカンドチャンスの認識を促進すること
これらの提言は基本的に京都モデルストラテジーに即したものですが、その取りまとめの過程を通じ、IPPF会員である法曹、研究者、矯正保護当局などの識者において、モデルストラテジーの意義を認識してもらうとともに、IPPF会員自身が所属する学術機関や専門機関において、その普及や研究、実践にまい進していくことなどが確認されました。提言の議論の中では、官民連携による刑務所運営、社会内処遇における更生保護ボランティアとの協働など、関係機関の視察等を通した日本の取組に対する多くの賞賛の声があり、これらの要素も提言に盛り込まれております。特に、グリーンプリズンや保護司制度に触発された「許しの文化」(犯罪をした者を許し、地域で受け入れる社会)など、モデルストラテジーにはない、日本で行ったコロキウムを経た独自の提言も盛り込まれています。
アジ研においては、これらの知見も参照しつつ、来年4月にアブダビで開催される第15回コングレスに向けた準備を進めるとともに、京都モデルストラテジーの更なる普及に取り組んでいきます。本コロキウムの開催に当たり、お世話になりました皆さま方に心より感謝申し上げます。
