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平成16年版犯罪白書のあらまし <第5編> 特集-犯罪者の処遇

<第5編> 特集-犯罪者の処遇

 はじめに
   かつての「平穏な時代」と対比させつつ,近年の「犯罪多発社会」における成人犯罪者処遇の現状を明らかにし,その課題を探るとともに,今後の議論に資するための資料を提供することとした。
 その際,現在と比較するための基点として,一般刑法犯認知件数及び発生率が戦後最低を記録したことなどを考慮し,昭和48年を選択した。

 成人矯正の動向と課題
 (1)  過剰収容の深刻化
   ア  過剰収容の現状図表9参照
   既決の年末収容人員は,平成7年からの増加が顕著となり,15年には,43年ぶりに6万人を超えて6万1,534人となった。また,既決の収容率は,資料上,これを把握し得る昭和47年以降,長らく100%以下で推移していたが,平成12年に初めて100%を超え,15年には116.6%となった。最近における既決の収容状態は,過去30年ないし40年で最も厳しい状況にあるといえる。

   イ  過剰収容に対応するための工夫
   各行刑施設では,雑居房に2段ベッドを設置して定員(通常6名)を1ないし2名超えて収容する措置をとったり,独居房に2名を収容するいわゆる「2名独居」を実施するなどしている。また,倉庫,教室,集会室等を改修・模様替えして,居房として利用することも少なくない。そのほか,混雑に伴う受刑者のストレス軽減策,動作時間の運用の柔軟化など,いわゆるソフト面でも様々な工夫が行われている。

   ウ  過剰収容のもたらす問題
   過剰収容は,(1)受刑者の居住環境,(2)行刑施設の管理運営,(3)適切な矯正処遇の実施という面で看過しがたい支障を生じさせている。例えば,収容率と殺傷・暴行による懲罰事案の発生率の推移を見ると,両者は良く似たカーブを描いており(図表10参照),過密な環境が,受刑者自身にストレスをもたらすとともに,管理上の支障を生じさせる危険性を示している。

   エ  過剰収容が生じた背景
   刑務所人口は基本的に犯罪情勢と裁判所の量刑に左右される。
 この点につき,既決の年末収容人員と各種の犯罪指標の推移を見ると,昭和末期から平成初期にかけては治安が安定し,収容人員も低い水準であったが,その後犯罪情勢が悪化し,また,検察ないし裁判において,公判請求相当又は実刑相当と判断される事案が増加しており,このことが近年の収容人員の増加につながっていると考えられる。
 次に,昭和48年以降における裁判所の量刑の動向を概観すると,刑期が長期化する傾向が見られ,その分だけ行刑施設に対する負担が大きくなっているといえる。
 ただし,刑期の長期化は,すべての罪種で一様に生じているわけではなく,例えば,窃盗のように長期化傾向があるとはいえないものがある一方,強盗などは,近年における事件の増加と悪質化を背景に,実刑になる人員が増加し,また,刑も重くなっていることがうかがわれる。そのほか,被害者の生命・身体に危害を加える罪については,より的確に被害者に配慮すべきだとの観点から刑期が長期化している状況がうかがわれる。
 他方,非営利目的による覚せい剤使用の罪については,覚せい剤の乱用が鎮静化しないことなどを背景とする刑期の長期化傾向が指摘できる。
 このように,近年における有罪人員の増加と刑期の長期化傾向には,相応の理由と背景があり,それは,犯罪の増加と悪質化といった犯罪情勢や,犯罪被害者の声などに対して,刑事司法がこたえていることを示している。
 ただ,犯罪者処遇の場面においては,それが過剰収容という結果となって現れてくるのであり,その意味において,行刑施設の現状は,「犯罪多発社会における過剰収容」ともいうべき状況にある。

 (2)  受刑者の質的変化
   ア  新受刑者の動向図表11参照
   新受刑者数は,平成5年以降増加傾向にあり,15年は3万1,355人(前年比3.6%増)であった。
 その特質を見ると,(1)高齢化傾向,(2)女子比の上昇傾向,(3)外国人の増加と国籍の多様化などが認められる。(4)近年における新受刑者の罪名は,窃盗と覚せい剤取締法違反が多く,また,昭和48年と比べると,覚せい剤取締法違反の増加が顕著である。(5)刑期については,昭和48年当時と比べて,全体に長期化傾向が見られる。(6)入所度数については,近年,初入者比率が上昇する傾向にあり,平成15年においては51.9%であった。

   イ  高齢受刑者図表12参照
   高齢(60歳以上)の新受刑者・年末在所受刑者ともに,大きく増加している。昭和48年年末には613人(1.6%)であった高齢受刑者は,平成15年末には6,683人(11.0%)に増加した。この比率は,フランス(3.6%),ドイツ(2.6%),英国(2.8%),米国(55歳以上が3.1%)と比較して最も高い。

   ウ  外国人受刑者図表13参照
   F級(日本人と異なる処遇を要する外国人)の新受刑者は,平成4年ころから増加傾向が表われ,9年以降,毎年過去最多を更新している。15年は1,584人で,新受刑者3万1,355人の5.1%を占めている。また,同年年末における在所受刑者6万851人のうち,3,010人(4.9%)がF級受刑者であった。
 平成15年におけるF級新受刑者の国籍等は40以上,同年年末に在所するF級受刑者の国籍等は70以上の国・地域に及んでおり,多様化が著しい。同年のF級新受刑者の国籍等を多い順に挙げると,(1)中国779人(49.2%),(2)ブラジル138人(8.7%),(3)イラン136人(8.6%),(4)ベトナム108人(6.8%),(5)韓国・朝鮮100人(6.3%)であった。
 F級受刑者との言語の壁を克服する方策の一つとして,府中・大阪各刑務所に国際対策室が設置されているほか,平成16年5月現在,22施設において日本語の教育が実施されている。そのほか,居房,日常生活,宗教,食事などについて,民族・風俗習慣等を考慮した舎房及び工場の指定,食事内容・食事時間の変更その他,F級受刑者の特性に応じた処遇が行われている。

   エ  覚せい剤受刑者図表14参照
   覚せい剤取締法違反による新受刑者数は,昭和40年代後半から急増し,54年以降は一貫して5,000人を超えている。平成15年は6,774人で,新受刑者全体の21.6%を占めている。また,同年年末現在,受刑者総数の24.8%(1万5,098人)を覚せい剤受刑者が占めている。
 平成8年以降に出所した覚せい剤受刑者の5年内再入率は,満期出所者が59.0ないし64.0%,仮出獄者が45.3ないし46.7%となっていて,それ以外の受刑者の5年内再入率(満期出所者はおおむね54%前後,仮出獄者は33%前後)と比較して高い。また,覚せい剤受刑者の覚せい剤取締法違反による再入状況を見ると,出所後2年目及び3年目の再入が多く,出所後3年目までが再犯の危険性の高い期間であるといえる。
 現在,多くの刑務所で,処遇類型別指導の一環として,覚せい剤乱用防止教育が行われている。平成15年度における実施状況を見ると,68施設において覚せい剤乱用防止教育が実施されており,参加人数は3,562人であった。

 成人矯正の課題とこれに対する取組
 (1)  過剰収容対策
   ア  施設増設による収容能力の増強
   法務省では,施設を増設して収容能力を拡充するための予算措置を講じており,これにより,平成16年度末には既決・未決を併せた収容定員が現在の約7万8,000人となる予定である。また,PFI手法を活用して新刑務所を整備する準備を進めているところである。

   イ  人的体制の整備・充実
   過剰収容に伴う負担によって,職員が余裕を失えば,受刑者に対する処遇水準の低下につながるおそれがある。平成16年5月末日現在において,医療刑務所と拘置所を除く63の行刑施設における工場担当職員の1人当たりの最大受持ち受刑者数を見ると,80人以上の施設が13あり,最も多い受持ち受刑者数は123人であった。
 このような状況に照らすと,過剰収容状態を改善するに当たっては,施設を整備するだけでなく,人的体制を充実させる必要があり,法務省では,刑務官の確保,民間活力の導入,業務の合理化等を適切に組み合わせることにより,これを進めていくこととしている。

 (2)  PFI手法を活用した新設刑務所の整備・運営
   法務省では,PFI手法を活用して,山口県美祢市に初犯受刑者男女各500人を収容する刑務所である社会復帰促進センター(仮称)を新設し,平成19年4月から収容を開始することを予定している。
 これは,緊縮財政下において,刑務所という治安インフラを効率的かつ効果的に整備するとともに,「民間にできることは民間に」という構造改革の基本方針に従い,雇用創出や経済効果をもたらすことをもねらいとしている。また,官民協働運営による透明性の向上,地域との共生という観点から,「国民に理解され,支えられる刑務所」という行刑改革の理念を実現していく意味をも持っている。

 (3)  刑務作業と矯正処遇の調和
   刑務作業は,懲役刑の要素であると同時に,改善更生・社会復帰に向けた処遇方策としても積極的な意義を有している。また,所内秩序の維持,納税者の負担軽減など,行刑施設の運営上も一定の役割を果たしている。
 しかしながら,過剰収容に伴って就業人員が増加する一方,景気の影響によって受注が落ち込んでおり,近年,作業の量と質の確保が課題となっている。
 以上のほか,行刑改革会議からは,「1日8時間という作業時間を一律に確保しようとする余り,処遇内容の硬直化を招いているから,より柔軟な刑務作業の在り方を検討すべきである。」との提言がなされており,法務省では,平成16年4月から,一部の行刑施設において,刑務作業時間を短縮して,その時間を作業以外の教育的処遇等に充てる施策の試行を開始している。

 (4)  受刑者の特性に応じた処遇の推進
   ア  分類処遇・累進処遇の見直し
   行刑改革会議からは,(1)受刑者の分類とこれに基づく収容の在り方を抜本的に検討するとともに,(2)累進処遇制度を廃止して,新たな報奨制度を設けるべきことが提言されている。これらは,受刑者処遇の基本的制度の根本的見直しを求めるものであって,監獄法などの基本法令の改正と密接にかかわり,今後の課題である。

   イ  処遇類型別指導
   処遇類型別指導は,罪名,犯罪の原因となった性行等に着目して,同じ類型に属する受刑者をグループに編成して指導を行うものであり,覚せい剤乱用防止教育,「被害者の視点を取り入れた教育」,高齢受刑者指導などが,近年活発に実施されている。

   ウ  職業訓練
   職業訓練は,適格者を選抜した上で,刑務作業の一形態として実施されており,個々の受刑者の特性に応じた処遇としても位置付けられる。職業訓練を実施するためには,機械設備の導入,専門技官の配置,訓練場所の確保などが必要となるため,過剰収容下で新規科目を開講することは容易でないが,その重要性を考えると,過剰収容下でも実施可能で,就職に有利となる種目の開拓が必要である。また,累犯者の受講機会の拡大も検討課題である。

 (5)  外国人受刑者の移送の推進
   各行刑施設では,F級受刑者の処遇に積極的に取り組んでいるものの,実際には様々な困難があり,業務上の負担も大きい。また,日本語を十分に理解しない外国人に,受刑の意義を正しく理解させ,改善更生を図ることには限界がある。そこで,F級受刑者を中心とする外国人受刑者について,受刑生活上の困難を除去し,改善更生及び円滑な社会復帰を促すための新たな施策として,国際受刑者移送制度が導入されている。
 我が国においては,いわゆる欧州評議会受刑者移送条約及び国際受刑者移送法に基づいて,受入移送及び送出移送が実施されるが,中国を始めとするアジア諸国が同条約に加入していないことから,当面,移送の対象となる人員は限られている。
 平成15年12月に犯罪対策閣僚会議が策定した「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」においては,「中国との間において,領事関係国際約束の締結に目途が立った段階で,受刑者移送に関する国際約束について協議を開始する。それに当たり,欧州評議会受刑者移送条約への中国の加入についても協議する。」とされており,法務省においては,今後の協議に向けて,中国の受刑者移送制度と刑事司法制度全般に係る調査・研究を開始している。

 (6)  覚せい剤受刑者の処遇
   現在,新受刑者の約5分の1,年末在所受刑者の約4分の1は覚せい剤受刑者によって占められており,しかも,その大半は末端乱用者であると推測される。覚せい剤受刑者は,その他の受刑者と比べて再入率が高く,特に出所後の3年間が再犯の危険性の高い期間であることから,いかにしてこの期間における再犯を抑止するかが課題となる。
 現在,覚せい剤受刑者は,刑務作業に従事する傍ら,各行刑施設における覚せい剤乱用防止教育に参加しているが,法務省では,薬物乱用防止5か年戦略及び行刑改革会議提言において,更なる処遇の向上を求められたことなどを受け,平成16年4月から6月にかけて,薬物依存者の治療に関する専門機関や薬物依存者の回復支援に取り組む民間自助団体などの参加も得て「薬物事犯受刑者処遇研究会」を開催した。法務省においては,同研究会において表明された意見を踏まえ,「薬物乱用依存離脱支援プログラム(仮称)」を取りまとめた上で,各施設で実施することを予定しており,現在,同プログラムの作成作業中である。
 なお,法務総合研究所は,国連アジア極東犯罪防止研修所と共同で,平成15年から16年にかけて,薬物乱用問題に悩むアジア諸国を対象に「アジア地域における薬物乱用の動向と効果的な薬物乱用者処遇対策」に関する調査研究を実施している。これによると,香港,韓国,マレーシア,シンガポール及びタイにおいては,規制薬物の供給にかかわる行為については,死刑を含む厳しい処罰で臨む一方,乱用者(特に乱用歴の浅い者)については,処罰よりも治療・教育を重視した処遇を強制的に実施する手続が用意されている。

 施設内処遇から社会内処遇への架け橋-その推移
   施設内処遇から社会内処遇への円滑な移行を図るための制度として,仮出獄,環境調整,釈放前指導などがあり,また,満期釈放者の社会復帰を助ける制度として更生緊急保護がある。
 (1)  仮出獄率図表15参照
   仮出獄率は,仮出獄の適正かつ積極的な運用の施策実施が始まった昭和59年以降,おおむね55~58%台で安定しており,平成15年は,56.0%であった。
 仮出獄率を主な罪名について見ると,交通事故事犯がほとんどを占める業過が80.5%と高く,そのほかは,強盗74.6%,強姦73.0%,殺人60.3%,窃盗56.0%,覚せい剤取締法違反62.8%,道路交通法違反41.8%,銃刀法違反39.0%等であった(いずれも平成15年)。

 (2)  刑の執行率
   仮出獄者の刑の執行率の平均は,最近10年間の通算で82.2%である。これを主な罪名について見ると,殺人80.9%,強盗78.8%,窃盗83.2%,強姦80.6%,業過76.7%,銃刀法違反84.6%,覚せい剤取締法違反83.5%,道路交通法違反83.5%であった。
 初入・再入別では,再入者の方が執行率が高く,刑期層別では,刑期が長い層の方が高い。

 (3)  仮出獄者の再入状況
   出所受刑者のどれくらいの者が再入したかを見ると,満期釈放者では5年内再入率が56ないし59%前後であるのに対し,仮出獄者では37%前後であり,20%程度の大きな開きがある。また,再入率の高い窃盗と覚せい剤取締法違反を除くと,満期釈放者では,5年内再入率が5割前後であるのに対し,仮出獄者では22ないし23%となっている。

 (4)  無期刑受刑者の仮出獄
   無期刑受刑者の仮出獄許可人員は長期的に減少しており,また,仮出獄を許可された者の在所期間も長くなっている。昭和50年代までは,毎年おおむね50人以上が仮出獄許可を受け,また,昭和期には半数以上が在所16年以内であったのに対し,最近5年間における許可人員は,年平均9.2人であり,また,そのうち9割近くが在所20年を超えている。

 保護観察処遇の動向と課題
   社会内処遇は,対象者の改善更生を図り,再犯を防止することによって,社会の安全を守ることを目的としているが,施設内処遇と異なり,社会内の様々な要因や刺激の影響を受ける環境の下で実施されるところに特色がある。
 我が国における社会内処遇の根幹をなすのは,保護観察制度であり,専門的知識を有する約1,000人の保護観察官と地域に根ざした民間篤志家である約5万人の保護司との官民協働によって実施されている。

 (1)  成人の保護観察対象者の増加と質的変化
   ア  保護観察対象者の動向図表16参照
   仮出獄新規受理人員(仮出獄に係る保護観察新規受理人員)は,平成8年以降増加傾向にあり,15年は1万5,784人であった。保護観察付き執行猶予新規受理人員(保護観察付き執行猶予に係る保護観察新規受理人員)は,元年以降4,000人ないし5,000人台で推移し,15年は5,371人であった。

   イ  高齢の保護観察対象者
   保護観察対象者についても高齢化が進んでいる。平成15年における60歳以上の仮出獄新規受理人員は1,088人(6.9%),保護観察付き執行猶予新規受理人員は341人(6.3%)であった。

   ウ  覚せい剤対象者
   平成15年における覚せい剤取締法違反による仮出獄新規受理人員は4,025人(25.5%),保護観察付き執行猶予新規受理人員は623人(11.6%)であった。女子の仮出獄者は,約半数が覚せい剤取締法違反による者で占められている。

   エ  長期刑仮出獄者
   無期刑仮出獄者は,長期的に減少しており,平成15年は16人であった。長期有期刑(執行刑期8年以上)の仮出獄者は,おおむね年100人から180人の範囲内で推移し,15年においては122人であった。
 最近10年間に仮出獄を許可された無期刑受刑者の平均在所期間は256.8月であり,長期有期刑受刑者では112.2月であった。また,無期刑仮出獄許可人員の罪名は,強盗致死傷が最も多く(65.2%),次いで,殺人(33.0%)となっており,長期有期刑仮出獄許可人員では,殺人(68.0%)が最も多い。
 長期刑仮出獄者は,資質面の問題性,一般的な社会経験の不足,家族との折り合いの悪化,高齢化等の問題を有することから,保護観察の実施に当たって特段の配慮が必要であり,中間処遇制度(仮出獄後の一定期間更生保護施設に帰住させ,社会適応訓練を中心とした処遇を集中的に行うもの)などが導入されている。
 中間処遇の実施率は,最近10年間の通算で,無期刑仮出獄者87.6%,長期有期刑仮出獄者87.0%であった。

 (2)  社会内処遇の担い手の変化
   ア  保護司
   保護司は,犯罪者及び非行少年の改善更生を助けることなどを使命とし,法務大臣の委嘱を受けて活動するボランティアである。その職務の中心となるのは,犯罪者及び非行少年に対する保護観察である。
 近年における保護司のプロフィールの変化としては,女性保護司の増加と高齢化がある。昭和28年には7.2%だった女性保護司の比率は,平成16年には24.9%に上昇した。また,昭和28年には53.2歳だった平均年齢は,平成16年には63.3歳に上昇しており,若手保護司の確保が課題となっている。

   イ  特別調査-保護司の活動実態と意識
   保護司の活動実態と意識を明らかにするため,法務総合研究所では,平成16年2月から5月にかけて,保護司3,000人に対するアンケート調査を実施した(回答者数2,260人,回答率75.3%。)。
 保護司特別調査においては,(1)保護司が,主として自宅を処遇の場として「来訪」によって対象者と面接していること,(2)対象者を理解し,受け入れる姿勢を大切にし,社会内で対象者との接触を維持していくために努力していること,(3)他の様々なボランティア活動を並行させ,地域に根ざした活動を行っていること,(4)秘密保持を重視する一方,保護司の役割を理解してほしいと願っていること,(5)「社会の役に立ちたい」「対象者の更生に寄与したい」という社会貢献を重視する気持ちが保護司の精神的基盤となっていることなどの結果が得られた。

   ウ  更生保護施設
   更生保護施設は,保護観察対象者や更生緊急保護の対象者等を収容し,宿泊所の供与,医療や就職の援助,社会生活に必要な生活指導等を行う施設である。現在,全国に101ある更生保護施設は,すべて法務大臣の認可を受けた民間の更生保護法人によって運営されている。更生保護施設の職員の平均年齢は60.3歳,1施設当たりの平均人数は5.8人である。
 近年における収容動向の特徴として,入所者の在所期間が長期化する傾向にあること,被保護者の種類別では,保護観察対象者の比率が大幅に上昇していることなどがある。
 また,更生保護施設は,単に宿泊場所や食事を提供する場から積極的に社会生活に適応させるための処遇を行う施設へと変貌を遂げようとしており,そのための処遇強化に向けて,SST(社会生活技能訓練)や酒害・薬害教育等の取組を行っている。

 (3)  保護観察処遇の課題とこれに対する取組
   ア  分類処遇・類型別処遇の充実化
   個々の対象者にふさわしい効果的な処遇を実施するための制度として,分類処遇と類型別処遇がある。法務省では,犯罪情勢等の変化を受け,類型別処遇制度を全面的に見直して,平成15年4月から実施しているほか,分類処遇制度についても,現在,見直しを行っている。

   イ  覚せい剤対象者の自発的意思に基づく簡易尿検査の導入
   覚せい剤事犯者は同種再犯に至る危険性が高い上,保護観察処遇は,受刑中と異なり,その気になれば覚せい剤を入手し得る環境の中で実施されることから,いかにして覚せい剤に対する本人の渇望を克服させるかが課題となる。そこで,平成16年4月から,覚せい剤事犯の仮出獄者を対象に,その自主的な断薬努力を支援することを目的として,本人の自発的意思に基づく簡易尿検査を活用した処遇が導入されている。

   ウ  民間協力の確保
   我が国の保護観察処遇は,保護観察官と保護司による官民協働によって実施される点に特徴がある。保護司制度を将来にわたって有効に機能させていくためには,適任者を幅広い層から確保していく必要があるが,近年,家族構成の変化や地域共同体の連帯意識の希薄化を背景に,適任者の確保が困難になりつつあるといわれており,今後は,保護司の待遇見直しを含めた新任保護司の確保策の検討が重要な課題になってくると予想される。

 おわりに
 犯罪者の改善更生・社会復帰を目指した処遇を行うことは重要な治安対策であるが,効果的な処遇を行うためには,国民の支持と理解を得ることが不可欠であり,また,人的・物的な基盤整備も必要であろう。「治安再生に役立つ犯罪者の処遇」,「国民に開かれた犯罪者の処遇」,「犯罪者処遇のための基盤整備」を,他の分野における各種施策及び社会全体による様々な取組と連動させることができれば,「世界一安全な国,日本」を復活させるための大きな力となるはずである。



● 目次
 
○ <はじめに>
○ <第1編> 平成15年の犯罪の動向
○ <第2編> 犯罪者の処遇
○ <第3編> 犯罪被害者の救済
○ <第4編> 少年非行の動向と非行少年の処遇
○ <第5編> 特集-犯罪者の処遇