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オーストラリア

(1) テロ関連動向

「ジェマー・イスラミア」(JI),「アルカイダ」等の海外のテロ組織は,2002年頃までに,オーストラリアでの拠点設置に関心を示し,「アルカイダ」訓練キャンプを訪れた経験を有する同国居住者等を通じて活動していたとされる。2003年には,フランス人イスラム改宗者及びオーストラリア市民権を持つパキスタン人が逮捕され,その際,カシミール地方を拠点とする「ラシュカレ・タイバ」(LeT)が,オーストラリア人要員の獲得や訓練のみならず,同国軍施設等を標的としたテロを計画していたことが明らかになった(注43)。2005年には,アルジェリア生まれの移民ら12人(このうち7人に有罪判決)が,海外のテロ組織からの支援や指示を受けずに,オーストラリア国内の原子力関連施設やハワード首相(当時)等を標的としたテロを計画したとして摘発された(注44)。また,2009年8月には,南東部・シドニーの陸軍基地を狙ったテロを計画したとして,オーストラリア当局がレバノン系及びソマリア系オーストラリア人5人を逮捕,うち3人に対して禁錮18年の判決を下した。なお,無罪を言い渡された2人のうち1人は,2017年6月,南東部・ビクトリア州メルボルンで人質を取って立て籠もるなどの事件を実行した。「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)が「イスラム国」の「建国」を宣言した2014年頃以降,オーストラリアから多数の者が同組織に参加したとされ(注45),その一部が同国でのテロを扇動してきたほか,ISILの機関誌も,同国でのテロを呼び掛けてきた(注46)。こうした中,同国では,小規模なグループや個人によるテロ,摘発事案等が相次いで発生しており,同国政府は,2014年9月~2018年12月の間,対テロ作戦でテロ計画15件を阻止したが,テロ7件が発生したと発表した。同国におけるテロ関連事案の大半は,ISIL支持者とされる者が実行したものであった。2020年10月,同国治安情報機関(ASIO)が発表した年間レポートでは,同機関が扱う案件のうち約3分の1が極右主義者によるものとされており,ISIL関連テロと同様に極右主義関連テロの脅威が高まっている(注47)

〈オーストラリアで発生した主なテロ関連事案(2016年以降)〉

年月日 場所 概要
16. 4.24 南東部・シドニー郊外オーバーン アンザック・デーの式典を狙ったテロを計画したなどとして,ISIL戦闘員と連絡していたとされる少年が逮捕
16. 9.10 シドニー郊外ミント ISILの影響を受けたとされる男が犬の散歩中の男性を刺傷
16.12.22 南東部・ビクトリア州メルボルン クリスマス当日に駅や聖堂での爆弾テロを計画したとして,ISILの影響を受けたとされる男5人が逮捕
17. 2.28 南東部・ニューサウスウェールズ州ヤング ISILにミサイル等の兵器に関する技術提供を準備したとして,男が逮捕。国内でのテロを計画していたことは確認されず
17. 6. 5 ビクトリア州メルボルン 男が高級宿泊施設に侵入し,男性職員を殺害,女性を人質に取って立て籠もり。約2時間後に犯人射殺。ISILと関連を有する「アーマク通信」が「イスラム国」戦闘員の犯行と主張
17. 7.29 シドニー 飛行中の航空機を標的としたテロを摘発したとして男4人が逮捕(注48)(レバノンでも共犯者の男が逮捕)。容疑者らは,ISIL司令官からトルコ経由で送られてきた爆発物を使用した手製爆弾をエティハド航空の航空機に持ち込もうとしたほか,別途,公共交通機関等の密閉された空間で化学物質を散布しようとしたとの疑いで逮捕
17.11.27 メルボルン 大みそかに広場での自動小銃を使ったテロを計画したとして,男が逮捕
18. 2. 9 メルボルン郊外ミル・パーク ISILの影響を受けていたバングラデシュ人女性留学生が,大家の男性を刺傷。なお,事件後,同人の妹もバングラデシュで警察官を刺傷して逮捕
18.11. 9 メルボルン中心部のバーク・ストリート ソマリア出身の男が,現場に乗り付けたピックアップトラックに火を放って炎上させた後,刃物で通行人を切りつけ,1人が死亡,2人が負傷。「アーマク通信」が「イスラム国」戦闘員の犯行と主張
19.7.2 シドニー 警察署,国防軍施設,外交使節,裁判所,教会等を標的としたテロを計画したとして,ISILの影響を受けていたとされる男3人が逮捕
19.12.4 シドニー テロを計画していたとして,ISILの影響を受けていたとされる男が逮捕
20.6.19 シドニー 銃器の不法取引を行っていたほか,ISILへの支援を計画していたとして,オーストラリア国籍の男3人が逮捕
20.12.9 ニューサウスウェールズ州オルベリー 極右思想に傾倒したとされる男が,国内においてテロを計画したとして逮捕
20.12.17 東部・クイーンズランド州ブリスベン ISILの影響を受け,過去にテロ組織への合流を試みて逮捕された男が,警察官をナイフで脅した際,同警察官によって射殺。その後,事件現場付近で,同男が殺害したとみられる夫婦の遺体が発見

(2) 今後の展望

オーストラリアでは,ISIL関連のテロや摘発事案が相次いでおり,今後もISIL等のイスラム過激思想に影響を受けたテロの発生が懸念されるほか,同国人230人が戦闘を目的としてシリア及びイラクに渡航したとされるところ,残存する戦闘員らが引き続きテロの脅威を及ぼすことが懸念される。また,近年,極右過激主義者によるテロの脅威の高まりが指摘されており,その動向に注意する必要がある。

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