オーストラリア
オーストラリアでは、「アルカイダ」、「ジェマー・イスラミア」(JI)(注62)等の国外のテロ組織が、2002年頃までに、同国での拠点設置に関心を示し、「アルカイダ」の訓練キャンプを訪れた経験を有する同国居住者等を通じてネットワークを広げていた。
2005年には、アルジェリア生まれの移民ら12人が、オーストラリア国内の原子力関連施設やハワード首相(当時)等を標的としたテロを計画したとして逮捕されたほか、2009年8月には、南東部・ニューサウスウェールズ州シドニーの陸軍基地を狙ったテロを計画したとして、レバノン系やソマリア系のオーストラリア人5人が逮捕された。また、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)が「カリフ国家」の「建国」を宣言した2014年頃以降、オーストラリアから多数の者が同組織に参加したとされ(注63) 、その一部がオーストラリアでのテロを扇動してきたほか、ISILの機関誌においても、同国でのテロが呼び掛けられてきた(注64) 。こうした中で、小規模なグループや個人によるテロの実行やテロ計画の摘発事案が複数回発生した(注65) 。
2021年10月にオーストラリア保安情報機構(ASIO)が発表した年次レポートにおいて、ISILや「アルカイダ」によって及ぼされる脅威について「永続的」とし、さらに、ナイフ等容易に入手可能な武器を使用する「一匹狼」型テロ(注66) が今後も継続する可能性がある旨の指摘がなされている(注67) 。
また、極右過激主義に関連したテロの脅威も指摘されており、同レポートでは、ASIOが扱う案件のうち、「民族主義及び人種差別主義に基づく暴力的過激主義者」によるものが半数に達したとされている(注68) 。こうした中で、同国政府は、同年8月に極右過激主義組織としては初めて、「ゾンネンクリーク・ディビジョン」(SKD)(注69) をテロ組織に指定し、同年12月には、「ザ・ベース」(注70) を、2022年2月には、「国家社会主義同盟」(NSO)をテロ組織に指定した(注71) 。
なお、ASIOは、2022年11月、オーストラリアにおけるテロ警戒レベルについて、全体で5段階のうち上から3番目の「起こりそうである」から、上から4番目の「可能性がある」に引き下げた。
近年、オーストラリアで発生した主なテロ関連事案は下表(当庁作成)のとおりである。
【主なテロ関連事案(2020年以降)】
年月日 | 場 所 | 概 要 |
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20. 6.19 | シドニー | 銃器の不法取引を行っていたほか、ISILへの支援を計画していたとして、オーストラリア国籍の男3人が逮捕 |
20.12. 9 | ニューサウスウェールズ州オルベリー | 極右過激思想に傾倒した男が、国内においてテロを計画したとして逮捕 |
20.12.17 | 北東部・クイーンズランド州ブリスベン | ISILの影響を受け、過去にテロ組織への参加を試みて逮捕された男が、警察官をナイフで脅した際、同警察官によって射殺。その後、事件現場付近で、同男が殺害した夫婦の遺体が発見 |
21. 4. 7 | 南部・南オーストラリア州アデレード | 爆発物やその製造方法を記した指南書を所持していたとして、極右過激主義に傾倒した男2人が逮捕 |
21. 6.19 | シドニー | 即席爆発装置(IED)の製造方法を記した指南書を所持していたとして、ISILの影響を受けた男が逮捕 |
21. 9.10 | ニューサウスウェールズ州オレンジ | 3Dプリンターで銃器を製造するためのデジタル設計図を所持していたとして、極右過激主義に傾倒した男が逮捕 |
21.12.24 | ニューサウスウェールズ州サザランド | 警察官、政府職員等を標的としたテロを計画したとして、ISIL支持者の男が逮捕 |