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インドでの宗教間対立をめぐるイスラム過激組織の動向

【ヒジャブ着用禁止措置をめぐる動向】

2022年1月、インド南部・カルナタカ州の一部の学校が、ヒジャブ(注1)の着用は制服規程に反するとして、ヒジャブを着用する女子学生の教室への立入りを禁止した。その後、同州内の複数の学校が同様の禁止措置を採ったことから、これに反発する形で、インド国内の女子学生を始めとするイスラム教徒が、同州のほか、首都ニューデリーや東部・西ベンガル州に至るインド各地で抗議活動を実施した。また、ヒジャブを着用して登校するイスラム教徒の女子学生が、周囲のヒンズー教徒からの野次に対して、「アッラー・アクバル」と叫びながら対抗する様子を収めた動画がSNS上で拡散された。

こうした中、「アルカイダ」(注2)最高指導者ザワヒリは、4月の声明において、ヒンズー教徒に対抗した女子学生を称賛した。具体的には、女子学生の行動が「ヒンズー教のインドにおける民主主義の欺まん性を暴露した。」と発言した上で、「大いに感動した。」として、女子学生に宛てた詩を朗読した。また、インド等での活動拡大をもくろむ「アルカイダ」関連組織「インド亜大陸のアルカイダ」(AQIS)(注3)も、3月に発行した機関誌「インドでの戦闘の声」(2022年2月号)の中で、ヒジャブ着用禁止措置を「米国やインド、イスラエルによるイスラム共同体に対する戦い」と位置付け、イスラム教徒に対し、「アルカイダ」が主導する非イスラム教徒との戦いに参加するよう呼び掛けた。

このほか、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)(注4)関連では、3月、インド側カシミールで活動するISIL関連組織「ヒンド州」(注5)との関係が指摘(注6)されるオンライン誌「インドの声」(第25号)において、「ヒンズー教徒が女性のイスラム教徒を苦しめている。我々はヒンズー至上主義者によるこのような行為を許容しない」と主張した。

【インドの国政与党関係者による預言者ムハンマド等に関する発言をめぐる動向】

インドの国政与党であるインド人民党(BJP)の関係者が、5月に同国のテレビ番組で行ったイスラム教預言者ムハンマド等に関する発言(注7)をめぐり、中東諸国やアジア諸国でイスラム教への「冒とく」と捉えて問題視する動きが広がり、インド製品の不買運動や発言したBJP関係者への厳罰を求める抗議活動が行われた。こうした中で、アジアを始め各地のイスラム過激組織が声明を発出するなど、反発の動きを示した(下図参照)。

インドで「冒とく」事案に反対の動きを示した主なイスラム過激組織

このうち、アフガニスタン・パキスタン国境地帯を拠点とする「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は、5月に発出した声明において、「預言者を侮辱する者は報いを受けることになる」と警告した。また、AQISは、翌6月に発出した声明において、報復の実行を「イスラム教徒の義務」と位置付けた。さらに、アフガニスタンを拠点とするISIL関連組織「ホラサン州」(注8)系メディアと指摘(注9)のある「アル・アザイム」も、同月発行のオンライン誌において、「預言者の名誉を守るための唯一の手段はジハード(注10)である」と主張した。

テロが発生したシーク教寺院内(2022年6月)(写真提供:AFP=時事)

テロが発生したシーク教寺院内(2022年6月)(写真提供:AFP=時事)

このような声明の発出やオンライン誌の発行が相次ぐ中、「冒とく」に対する報復との主張がなされた襲撃等が複数回発生した。同月、アフガニスタン首都カブールでは、「ホラサン州」がシーク教寺院を襲撃し、多数のヒンズー教徒とシーク教徒らを死傷させ、また、インド西部・ラジャスタン州においても、イスラム教徒の男2人がヒンズー教徒の男性を刃物で殺害し、「預言者を冒とくする者の首を切断した」と主張した。

その後も、「アルカイダ」が8月発行の機関誌「ワン・ウンマ」(アラビア語版第7号)の中でインド関連製品のボイコット等を呼び掛け、また、ISILも9月発出の声明の中で「なぜあなた方イスラム教徒は沈黙しているのか。ヒンズー教徒は、あなた方が沈黙する様子を目にしたため、預言者を侮辱したのである」と主張するなど、イスラム過激組織の反発姿勢は続いた。

このように、インドにおける宗教間対立は、イスラム教への「冒とく」として捉えられ、イスラム過激組織による声明の発出にとどまらず、関連する事件の発生につながるケースが見られる。

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