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幹部の死亡が相次ぐ国際テロ組織のすう勢とその脅威

はじめに

2022年は、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)(注1)と「アルカイダ」(注2)の両組織の最高指導者が共に死亡したとされる(注3)初めての年になった。

米国が主導してきた国際テロ対策の一つの節目となった2021年のアフガニスタンからの駐留米軍等の撤退に続き、2022年には、駐留フランス軍がマリから撤退し、国際テロ対策は“現地での対策”から“遠隔地からの対策”を中心とするものへと変容してきている。加えて、国際秩序の根幹を揺るがすロシアによるウクライナ侵略等から、現在の国際社会は、“国家対テロ組織”から“国家対国家”へと、安全保障で重視する対象を移しつつある。こうした中にあっても、我が国を含め、世界全体のテロ情勢に影響を及ぼしてきたISILと「アルカイダ」の最高指導者を始めとする幹部が相次いで死亡したとされることは、各国の国際テロ対策の成果とも言える。

しかしながら、ISILや「アルカイダ」は、最高指導者が死亡したとされるにもかかわらず、生き残りを図りながら依然各地でテロを続発させている。駐留米軍等が撤退したアフガニスタンでは、実権を掌握した「タリバン」(注4)が自組織の治安維持能力の高さを主張する一方で、駐留米軍等の直接的な圧力がなくなったことや、「タリバン」による「統治」に混乱が生じている実態から、これらに乗じ、活発に活動するテロ組織も存在する。また、アフリカには、政情不安を抱える国もあり、駐留フランス軍が撤退したマリでは、テロ組織が活発に活動する中で、民間人の犠牲も多発しており、サハラ以南においてテロ組織が勢力を伸長している状況がうかがわれる。さらに、インターネット等の技術の進歩は、社会生活に様々な恩恵をもたらしている一方、サイバー空間においては、テロ組織による宣伝活動に加え、テロ組織支持者らがグループを形成する動きもあるなど、技術の進歩がテロ組織の活動を下支えしている形になっている。

このように、国際テロを取り巻く環境が変化する中で、各国の現地における直接的な影響力の減少、政情不安等による治安の隙、技術の進歩に合わせた活動空間や手法の多様化等、テロ組織にとっては、活動範囲を拡大し得る状況が新たに生まれている。

そこで、本特集においては、「幹部の死亡が相次ぐ国際テロ組織のすう勢とその脅威」と題し、ISIL及び「アルカイダ」の関連動向の概要を中心としつつ、以下の順に取りまとめていくこととする。

まず、ISIL及び「アルカイダ」の最高指導者を含む幹部の殺害状況等について、次に、これらを受けた両組織による呼び掛けや関連組織の動向について記載する。続いて、各組織の最高指導者が死亡したとされるにもかかわらず、関連組織が活発に活動するアフガニスタン及びアフリカを取り上げる。さらに、テロ組織そのものとは別の存在として、サイバー空間において自律的に活動するなど、テロ組織の活動を下支えするテロ組織支持グループの活動状況の概要を記載する。最後に、テロ組織のすう勢等を記載することとする。

1 相次いだ幹部の死亡

2022年において、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は2月と10月に、「アルカイダ」は7月に、それぞれ最高指導者が死亡したとされる。そのほか、ISILは同広報担当が、「アルカイダ」は同関連組織「アル・シャバーブ」(注5)の次期最高指導者と目されていた人物が、それぞれ殺害されるなど、幹部の死亡が相次いだ。

なお、最高指導者の死亡をめぐり、ISILはそれぞれの死亡を認めて新たな最高指導者を発表した一方、「アルカイダ」は最高指導者の生死自体に言及しないままとなっており、それぞれの組織で対応が異なった。

(1) 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)

ア 最高指導者の死亡

アブ・イブラヒムが自爆したとされる建物(写真提供:UPI/アフロ)

アブ・イブラヒムが自爆したとされる建物(写真提供:UPI/アフロ)

アブ・イブラヒム(写真提供:AFP=時事)

アブ・イブラヒム(写真提供:AFP=時事)

米国のバイデン大統領は、2022年2月3日、アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クラシ(右写真)が、シリア北西部・イドリブ県アテメでの米軍特殊部隊による急襲作戦時に自爆して死亡したと発表した。

その後、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は、同年3月9日に同人の死亡を認めるとともに、新最高指導者としてアブ・アル・ハッサン・アル・ハシミ・アル・クラシの就任を発表したが、同年11月30日、同最高指導者が死亡したと発表し(注6)、新最高指導者としてアブ・アル・フセイン・アル・フセイニ・アル・クラシの就任を発表した(注7)

イ その他幹部の死亡

ISILは、上記2022年3月9日の声明で、広報担当アブ・ハムザ・アル・クラシの死亡も認めた。同人は、シリア北部・アレッポ県で空爆により死亡したとされる(注8)

(2) 「アルカイダ」

ア 最高指導者の死亡

米国中央情報局(CIA)が公開したザワヒリが滞在していたとされる建物模型(写真提供:ロイター/アフロ)

米国中央情報局(CIA)が公開したザワヒリが滞在していたとされる建物模型(写真提供:ロイター/アフロ)

ザワヒリ(「アルカイダ」が公開した映像)

ザワヒリ(「アルカイダ」が公開した映像)

「アルカイダ」は、自派と協調する「タリバン」が2021年8月にアフガニスタンの実権を掌握して以降、「(活動上の)大きな自由を享受している」とも指摘されていたところ(注9)、実際に声明等の発出件数を増加させていた。

 そのような中、米国は、2022年8月、アフガニスタン首都カブールで同年7月31日に実施した空爆により、隠れ家のバルコニーにいた「アルカイダ」最高指導者アイマン・アル・ザワヒリ(前頁写真)を殺害したと発表した。

イ ザワヒリ殺害発表をめぐる動向

ザワヒリ殺害を発表するバイデン大統領(写真提供:CNP/時事通信フォト)

ザワヒリ殺害を発表するバイデン大統領(写真提供:CNP/時事通信フォト)

ザワヒリ殺害発表をめぐっては、アフガニスタン国内メディアが、2022年7月31日にカブールで発生した爆発は空爆によるものとの指摘がある旨伝える中(注10)、アフガニスタンの実権を掌握する「タリバン」は、当初、同爆発について、「ロケット弾が空家に着弾した」、「死傷者はなかった」などと主張して空爆自体を否定していたが、その後一転して同爆発が米国による空爆によるものであったと発表し、「国際原則」等に反するとして米国を批判した。

一方、米国は、カブールで実施した空爆でザワヒリを殺害したと発表し、「タリバン」が「ザワヒリを受け入れ保護」し、米国との合意に反したとして、「タリバン」を批判した。

「タリバン」は、米国の発表を受け、「ザワヒリのカブール来訪及び滞在に関する情報を持っていない」、「(本件は)調査中である」として、ザワヒリの生死に言及しないまま、米国の空爆実行を批判した(米国による殺害発表前後の「タリバン」及び米国の動向については下表(当庁作成)参照)。なお、「タリバン」は、その調査結果を発表していない(2023年1月31日現在)。

年 月 概 要
7月31日  アフガニスタン国内メディアは、カブールで爆発が発生したとし、①同爆発が米国のドローンによる空爆であったとの指摘があること、及び②「タリバン」の「内務省」が空爆を否定し、「ロケット弾が民家に着弾した。空家であったため、死傷者はなかった」と発表したことについて報道
8月1日  「タリバン」のザビーフッラー広報担当は、米国による空爆が行われたとし、「国際原則」等に反すると米国を批判する声明を発出。
 米国のバイデン大統領は、スピーチで、「米国は、カブールで空爆を成功させ、「アルカイダ」最高指導者ザワヒリを殺害した」と発表(注11)
 米国国務省は、ブリンケン長官名で「アイマン・アル・ザワヒリの死」と題したプレスリリースを発出し、「「タリバン」は、「アルカイダ」の最高指導者をカブールで受け入れ保護した」などと「タリバン」を批判(注12)
 米国ホワイトハウスは、「米国の対テロ作戦の背景に関する政府高官による記者会見」で、同空爆の詳細について発表(注13)
8月4日  「タリバン」のザビーフッラー広報担当は、「米国のバイデン大統領の主張に関する「アフガニスタン・イスラム首長国」(注14)の声明」と題した声明を発出し、「ザワヒリのカブール来訪及び滞在に関する情報を持っていない」、「米国が我が国の領土を侵略し、全ての「国際原則」に違反したという事実を改めて強く非難する」などと主張
8月25日  「タリバン」のザビーフッラー広報担当は、記者会見で、「ザワヒリが標的とされたとされる事件については調査中で完了後に結果を発表する。遺体は発見されていない。(空爆で)当該地域は破壊され、何も残っていない」と発言
9月7日  「タリバン」のムッタキ「外相代行」は、記者会見で、「米国は(ザワヒリ殺害の)証拠を提出しておらず、(我々の)調査も完了していない」と発言

ウ 関連組織幹部の死亡

アブドゥッラーヒ・ナディール(出典:ソマリア情報文化観光省)

アブドゥッラーヒ・ナディール(出典:ソマリア情報文化観光省)

ソマリア政府は、2022年10月、同国軍と米軍の共同作戦により、ソマリアやケニア等で活動する「アルカイダ」関連組織「アル・シャバーブ」の共同設立者の一人であるアブドゥッラーヒ・ナディール(右写真)を殺害したと発表した。同人は、「アル・シャバーブ」最高指導者アハマド・ディリエの後継者と目され、同組織内においてメディア部門を統括していたほか、大きな宗教的役割を果たしていたとされる(注15)

2 最高指導者の死亡を受けた動向

最高指導者が死亡したとされる事態に対し、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)と「アルカイダ」は、それぞれ異なる対応を見せた。ISILは、新最高指導者の就任発表時、関連組織等に対して新最高指導者への忠誠を求め、その忠誠表明の映像等を発出して組織内の結束を維持しようとする動きを見せた。一方、「アルカイダ」は、最高指導者の生死そのものに言及しないまま、引き続き宣伝活動を継続している(注16)

このように最高指導者が死亡したとされる中にあっても、ISIL及び「アルカイダ」並びに各関連組織の活動への影響は限定的とされている(注17)。ISILについては、指導部が最高指導者等の殺害に対する報復を呼び掛け、関連組織がこれに呼応したことで、同呼び掛け期間中にテロの発生件数が増加したものの、それ以外の期間においては、関連組織が拠点を置く、又は支配する地域の当局を主な攻撃対象としたテロを従前どおり実行した。また、「アルカイダ」関連組織は、最高指導者の生死に言及しないまま、従前どおりのテロを実行した。

ISIL及び「アルカイダ」は、それぞれの最高指導者が死亡したとされた後もそれまでと同様に活動を継続する中で、支持者等に向け、自派の活動の宣伝及び正当性の主張を主目的として、SNSを介した宣伝活動に注力している(注18)

(1) 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)

ア 忠誠の表明等で自派の結束を維持

忠誠を表明するシリアのISILメンバー(2022年12月2日ISIL発出)

忠誠を表明するシリアのISILメンバー(2022年12月2日ISIL発出)

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は、それぞれ最高指導者の死亡に合わせて2022年3月及び11月に新最高指導者を発表した際、自派メンバーに対し、服従のあかしとして新最高指導者への忠誠表明を求めた。その後、ISILは、自組織及び関連組織のメンバーが忠誠を誓う様子を写した画像及び映像を都度公開し、各地で活動する関連組織の存在と自らの旗の下で組織の結束が維持されていることを誇示した(下表参照)(注19)

ISIL関連の組織等の忠誠表明出状況

ISILは、このように忠誠表明を関連組織に対して求めつつ、「叱咤(た)激励」を行っている。ISILが2022年9月13日に発出した声明では、「東アジア、フィリピン、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、バングラデシュ及びパキスタンのイスラム教徒」を「敵と戦う決意も勇気も足りない」とし、これらの地域の活動状況(注20)について不満を示しつつ、「少数派でないのに何を恐れているのか」、「信仰に立ち返り、ジハードに身を投じよ。そうすれば善を得られよう」と呼び掛けた。

イ 最高指導者の死亡に対する報復の呼び掛け

ISILは、2022年3月、最高指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クラシ及び広報担当アブ・ハムザ・アル・クラシが死亡したことを認め、4月17日、同日から約2週間、「2人の師のための報復攻勢」と題する作戦を実行するよう呼び掛けた。

忠誠を表明するシリアのISILメンバー(2022年12月2日ISIL発出)

この呼び掛けに呼応する形で、イラク及びシリアのISILのみならず、同関連組織でアフガニスタン等で活動する「ホラサン州」、ナイジェリア等で活動する「西アフリカ州」、エジプトで活動する「シナイ州」によるテロがそれぞれ一時的に増加した(右グラフ参照)(注21)

一方、アブ・アル・ハッサン・アル・ハシミ・アル・クラシ死亡(2022年10月)に関しては、2023年1月31日現在、報復の呼び掛けは確認されていない。

(2) 「アルカイダ」

ア 最高指導者の生死を明らかにせず宣伝活動を継続

2022年8月の米国による最高指導者アイマン・アル・ザワヒリ殺害発表以降、「アルカイダ」及び同関連組織による同人の生死への言及や報復を呼び掛ける声明等の発出は確認されておらず、また、最高指導者の交代にも言及しないまま(注22)となっている。

このような中、「アルカイダ」は、2022年8月25日、米国によるザワヒリ殺害発表後初となる声明(注23)を発出した。また、同年9月12日には、ザワヒリが登場する声明も発出したが、同声明は、以前から発出されてきたシリーズ(タイトル「世紀の取引かそれとも世紀をまたぐ十字軍か」(注24))の一つであった。なお、同声明では、同一シリーズの前回声明(同年7月13日)でザワヒリの氏名に付けられていた、生者を意味する「アッラーが彼をお護りくださいますように(may Allah protect him)」の文言が消滅していた(次頁参照)。また、死者を意味する「アッラーが哀れんでくれますように」の文言も付されず、「アルカイダ」は、その後もザワヒリの生死に言及しないまま、ザワヒリが登場するものも含め、声明等の発出を継続している(注25)(注26)

【may Allah protect him】と記載

イ 関連組織等による継続するテロ

「アルカイダ」関連組織等は、米国によるザワヒリ殺害発表以降もそれまでと変わらず各地で活動している中、特にアフリカにおいて、「アル・シャバーブ」等によるテロが継続されている(下表(当庁作成)参照)。

【ザワヒリ殺害発表以降発生したアフリカにおける「アルカイダ」関連組織等による主なテロ】

月 日 組織名 概 要
8月21日 ソマリア 「アル・シャバーブ」  首都モガディシュでホテルを襲撃(少なくとも21人死亡、117人負傷)
9月12日 イエメン 「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)(注27)  南部で治安部隊を襲撃(21人死亡、7人負傷)
10月14日 マリ 「マシナ旅団」(注28)  中部で乗り合いバスを即席爆発装置(IED)で攻撃(乗客少なくとも10人死亡、38人負傷)
10月29日 ソマリア 「アル・シャバーブ」  モガディシュの教育省前で車両を爆破(少なくとも100人死亡、300人負傷)
11月28日 ソマリア 「アル・シャバーブ」  モガディシュで大統領官邸に近接するホテルを襲撃(少なくとも15人死亡)

3 アフガニスタン情勢の影響

「タリバン」が、2021年8月にアフガニスタンで実権を掌握したことを受け、当初危惧され

た外国人戦闘員(FTF)(注29)のアフガニスタンへの目立った流入は見られていないとされている(注30)ものの、「タリバン」によるアフガニスタン掌握は多くのテロ組織に影響を与えており、特に、アフガニスタン等で活動する「ホラサン州」及び「アルカイダ」には大きな影響を与えた形になっている。

(1) 「ホラサン州」の活発な活動

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は、「タリバン」の復権について、2021年8月に発行したアラビア語週刊誌「アル・ナバア」第300号で、「十字軍(米国)とドーハの背教者(「タリバン」)間の「和平合意」で規定されたことが履行されているだけ」、「(ISILによって)もたらされるものが勝利であり、他のものは幻想にすぎない」などとし、「タリバン」の復権を「勝利」とみなさず、自派こそが唯一の正当な存在であることを主張した。

「ホラサン州」名によるテロ主張件数
テロが発生したパキスタン北西部のシーア派モスク(写真提供:ロイター/アフロ)

テロが発生したパキスタン北西部のシーア派モスク(写真提供:ロイター/アフロ)

アフガニスタンでは、同国を拠点とする「ホラサン州」が、以前から「タリバン」を「背教者」として敵視し、「タリバン」によるアフガニスタンの実権掌握後も「タリバン」に対する攻撃を相次いで実行している。「タリバン」が自ら運営している「政権」の国際承認を希求する中、「ホラサン州」は、テロの実行件数を増加させるとともに(右グラフ参照)、2022年に入り、「タリバン」による「アフガニスタンの土地から他国への脅威はない」との主張に反する形で、アフガニスタン国内からウズベキスタンやタジキスタンへのロケット弾を発射したと主張したほか、カブールでは、ロシア、パキスタン及び中国の権益を標的としたテロを実行した。加えて、アフガニスタン国内でシーア派やシーク教徒等に対するテロを繰り返し実行したほか、パキスタンでもシーア派を標的としたテロを実行しており、国内のみならず、アフガニスタン発の国際テロの脅威を強める可能性も指摘されている(注31)

「ホラサン州」は米国の撤退によって生まれた安全保障上の空白を利用し、その影響力を強化して新兵を獲得することで、「タリバン」の支配を弱体化させることに注力してきたとされる(注32)。また、「ホラサン州」による攻撃は、「タリバン」による「統治」が続く限り継続される可能性が高いと指摘されている(注33)

(2) 「アルカイダ」の宣伝活動

「タリバン」によるアフガニスタンの実権掌握以降における「アルカイダ」による主なシリーズものの出発状況

「アルカイダ」によるテロの実行は、近年確認されていない。しかし、「アルカイダ」は、「タリバン」によるアフガニスタンの実権掌握により、「大きな自由を享受している」と指摘されており(注34)、一時減少傾向にあった声明等の発出件数を、「タリバン」復権後に増加に転じさせた。また、「アルカイダ」は、米国による最高指導者アイマン・アル・ザワヒリ殺害発表後も声明等の発出を継続しているだけでなく、その発出頻度も増やしており(注35)、アフガニスタンで「アルカイダ」が実際に活動上の自由を享受していることがうかがわれる(注36)

「タリバン」復権後、「アルカイダ」は、ザワヒリが登場するシリーズものの声明(「世紀の取引きかそれとも世紀をまたぐ十字軍か」(注37)、「共にアッラーに向かって」(注38))の発出を増加させている(右表参照)。一方で、その内容については「平凡なメッセージ」である旨の指摘もある(注39)

こうした中で、「アルカイダ」は、アフガニスタンで「タリバン」と協調しており、アフガニスタン国外でテロを実行した場合、「アフガニスタンの土地から他国への脅威はない」などとする「タリバン」の主張に反した形になり、「タリバン」が国際社会からの批判を受けるなど、その立場を不利にさせるリスクがある。そのため、「アルカイダ」がテロを実行する可能性は低いとされており(注40)、声明等でも、直接的な攻撃の呼び掛けを抑制しているとされる(注41)。例えば、「アルカイダ」は、2022年11月20日、開催中のFIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップカタール2022に関する声明を発出したが、テロの実行ではなく同大会へのボイコットを呼び掛けるにとどまった。

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4 テロ組織のアフリカへの関心

 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)及び「アルカイダ」は、それぞれ最高指導者が死亡したとされるが、アフリカで活動する各関連組織は、サハラ以南において、従来からの氏族・部族間の対立に加え、クーデター(注42)等、政情不安に起因する緊張を利用して活発に活動している。2022年8月に駐留フランス軍が撤退したマリでは、複数のテロ組織が治安当局等へのテロを継続しているほか、テロ組織同士も衝突している。こうした中で、ISIL及び「アルカイダ」の指導部は、アフリカにおける自派の活動への期待等、アフリカへの関心の高さを示し、活発に活動するアフリカの関連組織による勢力拡大を援護することで、それぞれの最高指導者が死亡したとされる中でも、指導部の影響力を維持していること、及び自派の活動が拡大していることを誇示している。

(1) 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)

ア アフリカに関連した宣伝活動の内容

ISILによるアフリカへの移住呼び掛け(アラビア語週刊誌「アル・ナバア」(2022年6月16日ISIL発出))

ISILによるアフリカへの移住呼び掛け(アラビア語週刊誌「アル・ナバア」(2022年6月16日ISIL発出))

アフリカのISIL関連組織メンバーを激励するシリアのISILメンバー(2022年6月23日ISIL発出)

アフリカのISIL関連組織メンバーを激励するシリアのISILメンバー(2022年6月23日ISIL発出)

 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は、2020年頃からアフリカの関連組織の活動をアラビア語週刊誌「アル・ナバア」で頻繁に取り上げたり、広報担当による声明で称賛したりしてきた。その後もアフリカで自派勢力が活発に活動する中、2022年6月に入り、ISILは、「アル・ナバア」で、「今日アフリカの地で見ていることは、かつてイラクやシリアで見てきたことと同一である」とし、アフリカを「ジハード」の適地と位置付け、イスラム教徒に対してアフリカに移住して「ジハード」を実行するよう初めて呼び掛けたほか、「イラク州」及び「シャーム州」(シリア)のメンバーがアフリカの関連組織のメンバーを激励するビデオ映像を初めて公開した。また、同年9月発出の声明においても、「全ての「州」の戦士よ、アフリカの兄弟の所業をしっかりと見て模範とせよ」と呼び掛けており、アフリカの関連組織への期待を示した。

イ アフリカにおける関連組織の動向

 ISIL関連組織はアフリカで活発に活動しており、2022年には、ISILが犯行を主張した関連組織によるテロ件数のうち、2014年6月の「イスラム国」の「建国」宣言以来初めて、アフリカでの件数がイラク及びシリアの件数を上回った。また、ISILが主張したテロの死傷者数についても、アフリカがイラク及びシリアの合計死傷者数の2倍以上となった(注43)。これは、主にイラク及びシリアのISIL関連組織の活動が減退している一方で、アフリカにおけるISIL関連組織の活動が着実に伸長していることが要因の一つとなっている。

 アフリカでは、従来から「ソマリア州」、「リビア州」、「シナイ州」(エジプト)、「西アフリカ州」(ナイジェリア等)及び「中央アフリカ州」(コンゴ民主共和国)が活動してきたが、2022年に入り、既存の「州」から分離する形で3月に「サヘル州」(「西アフリカ州」から分離)、5月に「モザンビーク州」(「中央アフリカ州」から分離)が新設されるなど、ISILが関連組織の数を増加させている。

 また、ISILは、これまでも複数回、刑務所襲撃によるISILメンバーの解放を呼び掛けており、これに応じる形で、「西アフリカ州」が2022年7月、ナイジェリア首都アブジャ近郊の刑務所を襲撃し、800人以上を脱走させた(注44)。さらに、「中央アフリカ州」が同年8月、コンゴ民主共和国東部・ブテンボの刑務所を襲撃し、約800人を脱走させた。こうした動きに対して、ISILは、両刑務所襲撃を「戦果」として、今後も刑務所を標的にすると主張した。刑務所襲撃は、①作戦遂行を「成果」として宣伝することで能力の高さの誇示、②高度な訓練を受けたメンバーの解放による戦力強化、③脱獄者の勧誘による新戦力の強化等が期待できること等から、組織の活動に利益をもたらすとされ(注45)、ISILにとって重要な戦略になっている。

(2) 「アルカイダ」

ア アフリカに関連した宣伝活動の内容

 「アルカイダ」は、従前から機関誌「ワン・ウンマ」で「アル・シャバーブ」の活動に言及してきたが、米国による最高指導者アイマン・アル・ザワヒリ殺害発表後の2022年8月に発行された同誌(アラビア語版第7号)で、その表紙にアフリカ大陸を図示するとともに、その社説において、「アル・シャバーブ」を取り上げ、「ソマリア首都モガディシュを手中に収めるのは時間の問題である」、「ムジャヒディンの若者たち(「アル・シャバーブ」)は、「アフガニスタン・イスラム首長国」のような運命をたどるであろう」などと主張し、「アル・シャバーブ」の活動を称賛するとともに、期待を示した。

 さらに、「アルカイダ」は、2022年12月、機関誌「ワン・ウンマ」(英語版第5号)を発行し、アフリカ大陸を再度図示するなど、「アル・シャバーブ」への期待を改めて示した。

イ アフリカにおける関連組織の動向

 アフリカにおけるテロ件数は、ソマリア及びサヘル地域での割合が非常に高くなっているとされ(注46)、それぞれの国及び地域で活発な活動を続けているのが、「アル・シャバーブ」と「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM)(注47)傘下組織「イスラム・ムスリムの支援団」(JNIM)(注48)となっている。

テロが発生した教育省前(写真提供:ゲッティ=共同)

テロが発生した教育省前(写真提供:ゲッティ=共同)

 「アル・シャバーブ」は、2022年8月にソマリアのハッサン・モハムド大統領が「アル・シャバーブ」掃討を目的とした全面戦争を宣言してテロ掃討作戦を強化して以降、ソマリアで治安部隊との戦闘を急増させている。こうした中で、「アル・シャバーブ」は、同年10月にモガディシュの教育省前で、少なくとも100人が死亡、300人が負傷する大規模な爆破テロを実行したほか、同年11月には、大統領官邸に近接するホテルを襲撃し、少なくとも15人が死亡するなど、警備が厳重な地域でのテロを実行し、テロ実行能力の高さを誇示している。

 また、JNIMは、治安当局を主な標的とするテロ活動を行いつつ、マリ北東部から南方のブルキナファソ等まで徐々に活動範囲を拡大させている。マリでは、同国首都バマコに迫る勢いを見せてきた中、2022年7月には、JNIM傘下組織「マシナ旅団」が、バマコ近郊にある同国最大のカティ軍事基地に対し、車両を用いた自爆及び歩兵部隊による攻撃を組み合わせた複合テロを実行した。同基地には、ゴイタ暫定大統領の住居が所在するとされており(注49)、首都近郊で警備が厳重な軍事基地に対するテロが行われたことにより、JNIMのテロ実行能力の高さが示されるとともに、バマコ市内におけるテロ発生リスクも現実味を帯びた形になった。

(3) マリにおけるテロ組織間の衝突

 2022年8月15日に駐留フランス軍の完全撤退が発表されたマリでは、治安当局に対するテロが継続し、民間人も多数死亡している。

 また、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)関連組織「サヘル州」と「アルカイダ」系組織「イスラム・ムスリムの支援団」(JNIM)が、互いにマリ北部で活発に活動している結果、両組織間での衝突が複数回発生している。両組織は、それぞれが相手組織のメンバーを多数殺害したと主張しており、例えば、2022年12月にマリ北東部で衝突した際には、「サヘル州」はJNIMメンバーを100人以上殺害したと主張し、JNIMは「サヘル州」メンバーを70人以上殺害したと主張した。

 こうした状況の中、グテーレス国連事務総長は、2023年1月、マリの状況について、「暴力事件のレベルと頻度が依然として非常に高い」、「テロ組織による民間人に対する攻撃、テロ組織間での影響力をめぐる戦い、地域の民兵による暴力的な活動が、身も凍るような日常になっている」との見方を示した。マリ北部における両組織間の衝突は今後も引き続き発生すると予想されている一方で、マリ当局による取締りを逃れるため、テロ組織メンバーが北部から南部に移動しており、組織にとっての「新たな聖域」が北部以外に生まれつつある。

5 テロ組織支持者らによるサイバー空間における活動

(1) サイバー空間で活動するテロ組織支持グループ

 サイバー空間では、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)や「アルカイダ」を始めとするテロ組織の思想に共感しつつ、自律的に宣伝活動等を行うテロ組織支持者らが存在しており、フェイスブックやインスタグラムを運営する「Meta」は、2022年7月から同年9月までの間に、テロに関連したコンテンツとして、フェイスブックで約1,670万件、インスタグラムで約220万件を削除するなどの対策措置を講じたと発表した(注50)

 サイバー空間に存在するこのようなテロ組織支持者らの中には、個人又はグループで、SNS等でISILの主張や「アルカイダ」の主張を発信する者もおり、中には、我が国について、「米国の足をなめる」などと言及する事例も確認されている(次頁表参照)。

(2) 各種手法の指南

 テロ組織支持者らの中には、自らが支持するテロ組織の思想に沿った独自のオンライン誌等を発出するなどして、テロ手法を始めとする各種の手法を指南するものも確認されている。

 具体的な例として、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の主張を発信するグループ「アル・サクリ・ミリタリー・ファウンデーション」は、テロ実行に向けた武器の製造方法に特化したオンライン誌を発行しており、2022年7月にはサプレッサー(注51)の製造方法、同年10月には、圧力鍋爆弾に使用する火薬の製造方法についてそれぞれ指南する記事を掲載した。また、欧米諸国に対して経済的打撃を与えるための有効手段の一つとして、現金自動預払機(ATM)の破壊を例示し、具体的な手法について指南する投稿もあった。

 さらに、「アルカイダ」の主張を発信するグループ「アン・ヌスラ・メディア・ファウンデーション」は、2022年12月、シリアで活動する戦闘員であるとする者へのインタビュー記事を公開した上で、シリアで活動する戦闘員への資金提供を呼び掛けつつ、ビットコインの送金用QRコードを掲載するなど、暗号資産を用いた資金提供方法について指南した。

(3) テロ組織支持者らが及ぼす影響

 テロ組織支持者らは、テロ組織による発出内容を複数の言語に翻訳したり、テロ組織への資金提供を始めとする支援活動の呼び掛けを行ったりするなど、テロ組織の活動を支援している。また、これらのテロ組織支持者らが行う各種の宣伝活動に感化された者によるテロの発生も懸念されている(注52)

サイバー空間で活動する主なテロ組織指示グループの事例

おわりに ~テロ組織等は今後も様々な環境に適応しながら活動を継続~

 本稿で触れてきた「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は前身組織時代を含め設立から20年近くが経過し、「アルカイダ」は設立後約35年が経過する。この間、ISILは「カリフ国家」の「建国」と広大な支配地を獲得し、「アルカイダ」は米国本土への大規模テロを実行するなど最盛期を迎えたこともあるが、米国等による大規模な対テロ作戦を受け、支配地の喪失等、その勢力を減退させてきた。アフガニスタンからの駐留米軍等の撤退を始めとする各国のテロ対策の変化や、ロシアによるウクライナ侵略に伴う安全保障環境の変容に見られるように、国際情勢が変化する中にあっても、ISILや「アルカイダ」が再び最盛期のような勢力を取り戻すことはできておらず、2022年には両組織の最高指導者が共にテロ対策により死亡したとされる。

 しかしながら、ISILや「アルカイダ」は、組織の解体には至らず、最高指導者死亡の影響も限定的とされる(注53)中で、治安上の空白や隙に乗じて活動を続けており、各地でテロの脅威が存続している。

 具体的には、ISILが組織全体の結束強化に向けた動きや宣伝活動等を継続する一方、「アルカイダ」もアフガニスタンを活動の拠点として宣伝活動等を展開し、さらに、ISIL及び「アルカイダ」の関連組織がテロを実行している状況にある。特に、アフガニスタンについては、ISIL関連組織「ホラサン州」が活発に活動しており、ISILにとって「成果」を主張できる地域になっており、また、「アルカイダ」にとっても、「タリバン」の庇(ひ)護の下、「活動上の自由を享受」できる地域になっている。加えて、これらの組織にとって活動上の重要性が高まっているアフリカにおいても、テロ組織が勢力を伸長している状況がうかがわれる。

 また、我々の社会活動や日常生活をより便利なものとする技術の進歩や普及は、テロ組織等にも恩恵を与える側面があり(注54)、例えば、インターネットの普及によって、多くの人々が容易にISIL及び「アルカイダ」並びにこれらの関連組織による宣伝活動に触れることができるなど、国籍や年齢を問わずに誰でもテロ組織の過激で独善的な思想に触れることができるようになっている。このような宣伝活動の中でも、特に支持者らによる活動が活発に展開されていることから、その実態や影響力の把握は困難となっており、一部で投稿の削除等の措置が講じられているものの、その活動状況が収まる気配はない。

 最高指導者や幹部の死亡がテロ組織等に与える影響が限定的とされる中、これらの組織は、様々な環境に適応しながら活動を続けていく状況となっている。

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