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インドネシア

インドネシアでは、第二次世界大戦後の独立戦争に際し、西ジャワ地域をオランダの支配下に置くとするレンヴィル協定(1948年1月)に反発したスカルマジ・マリジャン・カルトスウィルヨが、インドネシアでのイスラム国家樹立を目指して「ダルル・イスラム」(DI)(注19)を指導して主要都市バンドンを勢力下に置くとともに、1949年8月には、「インドネシア・イスラム国家」(NII)の樹立を宣言し、インドネシア政府軍との戦闘を激化させた。カルトスウィルヨの逮捕及び死刑執行(1962年)を受けてDIによるテロは終息したが、その後、アブ・バカル・バシールやアブドゥラ・スンカルらDI活動家は、1985年、マレーシアに逃亡した上で、部下をアフガニスタンの戦場やパキスタンの軍事訓練キャンプに派遣するなどし、「アルカイダ」とのネットワークを構築した。その後、バシールらは、宗教観をめぐるDI指導部との対立からDIを脱退し、1993年にマレーシアで、東南アジアでのイスラム国家樹立を掲げる「ジェマー・イスラミア」(JI)(注20)を設立した(注21)。JI指導者らは、1998年前半のスハルト大統領(当時)の政権崩壊に伴い、それまでの厳しい統制が緩和されたことから、1999年、インドネシアに帰国した。

これによって、JIは、2000年以降、インドネシアにおける活動を活発化させ、2002年10月には、同国中部・バリ島で、ナイトクラブ等を狙った連続爆弾テロ(第1次バリ事件)を実行し、邦人2人を含む202人が死亡した。また、同事件後、欧米に対する攻撃に固執して組織から離れたヌルディン・トプらが独自のグループ(通称「トプ・グループ」)を形成し、2003年から2009年、インドネシア国内の米国系ホテル、オーストラリア大使館及びバリ島の飲食店を狙った爆弾テロを続けた。その後、JIや「トプ・グループ」は当局による摘発で勢力を減退させたが、2009年には、JIの古参メンバーが、インドネシア西部・アチェ州に設置したキャンプに人員を集めて軍事訓練を開始した。この集団(通称「アチェの武装集団」)は2010年初めに摘発されたものの、一部の参加者は、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)を支持するようになり、多数のテロに関与していった。

2014年4月には、「アチェの武装集団」に関与したとして有罪判決を受け服役していた過激説教師アマン・アブドゥルラフマン(注22)が、ISIL最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディ(当時)に忠誠を誓ったほか、同年6月のISILによる「カリフ国家」の「建国」宣言後には、JIの元最高指導者バシール(注23)やインドネシア中部・中スラウェシ州ポソを拠点とする「東インドネシアのムジャヒディン」(MIT)(注24)の最高指導者サントソ(当時)らがバグダディへの忠誠を表明した。アマンは、同年8月、獄中に自らの配下を呼び寄せ、ISIL関連組織「ジャマー・アンシャルット・ダウラ」(JAD)(注25)を設立し、ISILへの参加を呼び掛けるとともに、それが不可能な場合にはインドネシア国内で「ジハード」を実行すること等を奨励した。

その後、2015年から2016年にかけて、アマンの指導を受けた後にシリアへ渡航(注26)した複数のインドネシア人ISILメンバーから指示、扇動、資金援助を受けるなどしたテロ計画が累次摘発された。2016年1月には、首都ジャカルタ中心部のショッピングモール付近で、シリアに渡航したインドネシア人ISILメンバーから提供された資金を利用してJADが実行した自爆テロ及び銃撃事件(外国人を含む4人が死亡、26人が負傷)が発生し、東南アジアでの事件で初めてISIL名の犯行声明が発出された。

2017年以降、シリアに渡航したインドネシア人ISILメンバーが関与するテロ計画はほぼ見られなくなったものの(注27)、インドネシア各地のJADメンバー等は、警察署、キリスト教会等を標的としたテロを繰り返した。特に、2018年5月に、東ジャワ州スラバヤのキリスト教会を標的とし、JADメンバーを含む一家が標的ごとに分かれて自爆テロを実行した事件については、世界的にも類例がないいわゆる「家族テロ」として注目され(注28)、その後、テロを準備した容疑のある人物に対する予備的拘束期間の延長等を内容とする改正反テロ法が成立することとなった(注29)

2020年以降、JAD関連のテロは減少しているものの、2021年3月、JADメンバーの夫婦が、中部・南スラウェシ州マカッサルのカトリック教会正門付近で自爆テロを実行したほか、2022年12月には、JAD関係者が、西部・西ジャワ州バンドンの警察署内で自爆テロを実行した。

一方、MITについては、2021年5月に中部・スラウェシ州ポソでキリスト教徒の住民を殺害するなどのテロを実行したが、治安当局は、2022年9月、MITの最後の残存メンバーを殺害したことをもって全てのMIT逃亡犯が死亡したとしてMITの掃討完了を発表し、同年12月には、MITの勢力壊滅を宣言した。

また、2003年から2009年にインドネシア国内で爆弾テロを続けていたJIについては、当局による摘発で勢力を減退させていたが、2019年6月以降、最高指導者パラ・ウィジャヤント(当時)ら重要幹部が相次いで逮捕され、供述等から、JIが組織の再生に向け、資金調達活動やリクルート活動のほか、「ジハード」の実行に向けた軍事活動に取り組んできたことが明らかになった。また、JIが、慈善団体等を隠れみのとして寄附金を集め、自組織が運営に関与するイスラム寄宿学校、高校等の教育機関を通じてリクルート活動を展開し、2012年から2018年までの間、シリアの「ヌスラ戦線」(当時)等で軍事訓練を受けさせるため、メンバーをシリアに派遣してきたことや、2020年12月には、西部・西ジャワ州の軍事訓練施設で若手メンバーに護身術、銃器使用、爆弾製造等を指導し、軍事能力の向上を図っていたことも明らかになった。こうした中で、2021年8月には、独立記念日(8月17日)に合わせてテロを計画したなどとして、国内各地でJIメンバー計50人が逮捕された。

このほか、東部・パプア州等では、分離独立を標ぼうする「西パプア民族解放軍」(TPNPB)(注30)が、国軍、警察等を標的とした襲撃を繰り返している。

インドネシアでは、2018年に改正反テロ法が成立して、ISIL関連組織の摘発が続き、MITの勢力壊滅が宣言されるなど、ISIL関連組織は打撃を受けている状況にあるものの、ISIL支持者らがSNS上でメディアグループを形成し、ISILに関連する独自の宣伝活動を行うなどしている(注31)

加えて、インドネシアにおけるテロの脅威は消滅しておらず、イスラム過激主義に関する宣伝活動が行われている状況からも、今後20年以上はこれらの状況に対処し続けていく必要性があるなどとの指摘もなされている(注32)

近年、インドネシアで発生した主なテロ関連事案は下表(当庁作成)のとおりである。

【主なテロ関連事案(2020年以降)】

年月日 場 所 概 要
20.06.01 中部・南カリマンタン州 フルスンガイ  JADメンバーの計画に従い、その指示を受けた男が、警察分署を襲撃(1人死亡)。ISILが「東アジア州」名の犯行声明を発出
20.10.22 中部・中スラウェシ州 パリギ・モウトン  MITメンバーらで構成される武装集団が、警察官を襲撃(1人負傷)。翌11月発行のISILのアラビア語週刊誌「アル・ナバア」第260号において、「東アジア州」による犯行である旨主張
20.11.13 西部・中ジャワ州 クラテン  治安当局が、JI最高指導者パラ・ウィジャヤント逮捕後に暫定指導者を務めるなど次期最高指導者候補と目されるシスワントを逮捕
20.11.27 中スラウェシ州 シギ  MITメンバーらで構成される武装集団が、キリスト教徒が居住する村落を襲撃(住民4人死亡)。ISILが「東アジア州」名の犯行声明を発出
21. 3.28 中部・南スラウェシ州 マカッサル  JADメンバーの夫婦が、カトリック教会の正門付近で自爆(日曜ミサ参加者ら20人以上負傷)
21. 3.31 首都ジャカルタ  ISIL支持者の女が、国家警察本部敷地内で警察官に向けて空気銃を発砲(被害なし)
21. 8.12~ 8.17 中ジャワ州等  独立記念日(8月17日)に合わせてテロを計画したなどとして、国内各地でJIメンバーなど計50人が逮捕
21. 9. 2 東部・西パプア州 マイブラット  TPNPBが、国軍施設を襲撃(兵士4人死亡、2人負傷)
22.01.20 西パプア州 マイブラット  TPNPBメンバーらで構成される武装集団が、橋梁の修理に従事していた国軍兵士を襲撃(兵士1人死亡、4人負傷)
22.03.26 東部・パプア州 ンドゥガ  TPNPBメンバーらで構成される武装集団が、海兵隊詰所を襲撃(兵士2人死亡、8人負傷)
22.07.16 パプア州 ンドゥガ  TPNPBメンバーらで構成される武装集団が、商品輸送中のトラックを襲撃(市民10人死亡、2人負傷)
22.09.30 中スラウェシ州 ポソ  治安当局は、9月29日にMITの最後の残存メンバーを殺害したとし、MITの掃討が完了した旨発表
22.12.07 西部・西ジャワ州 バンドン  警察署に侵入したJAD関係者の男が、自爆(警察官1人死亡、少なくとも9人負傷)
22.12.31 中スラウェシ州 ポソ  治安当局は、MITの勢力が壊滅した旨宣言

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