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タイ

タイ深南部(ナラティワート県、ヤラ県及びパッタニ県の全部並びにソンクラー県の一部)は、20世紀初頭までパッタニ王国のイスラム指導者の統治下にあったことから、住民の多くがマレー系のイスラム教徒で占められており、分離主義運動が続いてきた。1940年代にマレーシアへの併合を要求する政治運動が拡大し、1960年代に入り、独立国家「パッタニ王国」の樹立を標ぼうする「パッタニ統一解放機構」(PULO)(注54)、「パッタニ・マレー民族革命戦線」(BRN)(注55)等の分離主義武装組織が設立され、深南部各地でタイ当局に対する武装闘争が展開されてきた。

2000年頃には、同地域での分離主義武装組織による暴力事件が減少したが、2004年以降、再び警察や国軍関連施設のほか、地元住民に対する襲撃等が増加した。

タイ深南部の分離主義武装組織は、タイ政府との和平交渉(注56)を行う一方で、イスラム教徒が多数を占める同地域において、治安当局に加え、国家権力の象徴とみなす公立学校及び教師を主な攻撃対象としてきた。また、同国中部や北部においても、空港、ホテル、複合商業施設等の商業及び観光施設を攻撃対象としてきた。

こうした分離主義武装組織の活動や組織実態には不明な点が多いが、深南部では、近年も治安当局や民兵組織に加え、学校、送電設備等に対する襲撃や爆発が発生しており(注57)、2019年11月には、分離主義武装組織がヤラ県にある検問所2か所を襲撃して自警団員や民間人ら15人が死亡し、2021年2月には、ナラティワート県の国軍キャンプに対する襲撃により兵士2人が死亡、1人が負傷している。2022年8月には、深南部のコンビニエンスストア等17か所以上で同時多発的に爆発や放火が発生し、BRNが犯行を主張した(注58)。また、2022年11月の首都バンコクにおけるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の開催前後には、深南部各地で、ガソリンスタンド、治安当局等を標的にした即席爆発装置(IED)等の爆発が相次いだ(注59)

このような活動を続けるタイ深南部の分離主義武装組織をめぐっては、国際テロ組織による浸透が懸念されており(注60)、2022年1月には、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)との関連がうかがわれるグループが、深南部における国軍兵士に対する襲撃を報じたり、プラユット首相の殺害を予告したりする動画を発出した。

一方、分離主義武装組織との関係は明確ではないが、深南部以外の地域でも爆発が発生している。2015年4月に発生した南部・スラターニー県サムイ島のショッピングセンターにおける自動車爆弾の爆発(7人負傷)では、パッタニ県出身者らが指名手配された。また、2016年8月に発生したホアヒン、プーケットを含む中部及び南部各地における爆発及び放火(タイ人4人死亡、欧州人観光客ら35人負傷)では、前述のサムイ島の事件で指名手配中の者に加え、分離主義運動に関係してきた深南部出身者らが逮捕又は指名手配された。2019年8月には、東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議が開催されていたバンコクで、5か所に仕掛けられた小型爆弾計9個が爆発した。

このほか、2015年8月にはバンコク中心部のエラワン廟(びょう)付近の交差点で爆弾が爆発し、外国人観光客を含む20人が死亡、邦人1人を含む120人以上が負傷した。当局は、中国・新疆(きょう)ウイグル自治区出身者2人を逮捕、起訴し、犯行動機について、人身取引犯罪の摘発に対する報復との見方を示したが、一方では、爆発発生の前月に多数のウイグル族が中国に送還されたことが犯行と関係しているとの見方も伝えられている(注61)

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