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米国

イラク軍によるクウェート侵攻に伴う湾岸戦争の勃発を受け、米国が、1990年、サウジアラビアに米軍基地を設置したことに対し、オサマ・ビン・ラディンらは、イスラム教の聖地を擁するアラビア半島に異教徒の国の軍隊が駐留することはアッラーへの「冒とく」であるとして、米国への反発を強めていった。また、1993年2月に北東部・ニューヨークで発生した世界貿易センタービル爆破事件(6人が死亡、1,000人以上が負傷)を首謀したパキスタン人ラムジ・ユセフ(注1)は、ニューヨーク・タイムズに送付した犯行声明で、米国に対し、イスラエルに対する支援の全面停止、イスラエルとの外交関係の断絶及び中東諸国に対する一切の干渉の停止を要求するなど(注2)、国際テロ組織が対米テロを志向する背景の一つに米国の中東政策への不満があることが示された。

また、ビン・ラディンらは、1996年に「二聖モスクの地を占領する米国に対するジハード宣言」(対米ジハード宣言)を発出して米国を最大の攻撃対象と位置付け、1998年2月、「ユダヤ・十字軍に対するジハードのための世界イスラム戦線」の設立を宣言し、米国人等の殺害を正当化した上で、同年8月のケニア及びタンザニアの米国大使館に対する同時多発テロ等、海外の米国権益に対して大規模なテロを繰り返した。

2001年9月に「アルカイダ」による米国同時多発テロ事件(邦人24人を含む約3,000人が死亡)が発生すると、米国政府は、同年10月、「アルカイダ」が拠点を築いていたアフガニスタンを攻撃するなど、各国政府と協力しつつテロ対策を推し進めた。

しかしながら、「アルカイダ」関係者等が対米テロを企図する事案はその後も続き、2001年12月に、パリ発マイアミ行きのアメリカン航空機内で、靴底に隠して持ち込んだ爆弾(四硝酸ペンタエリスリット(PETN)等で構成)を爆発させようとした事案のほか、2009年12月、「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)から訓練及び指示を受けた者が、オランダ発デトロイト行きの航空機を爆発させようとした容疑で逮捕された。さらに、2010年5月には、「パキスタン・タリバン運動」(TTP)から訓練及び資金支援を受けた者が、ニューヨークのタイムズスクエア付近で自動車爆弾を爆発させようとした容疑で逮捕された。

2011年以降、2013年4月に発生したボストンマラソン爆弾テロ事件、2015年12月に西部・カリフォルニア州サンバーナディーノで発生した障害者支援施設襲撃事件、2016年6月に南部・フロリダ州オーランドで発生したナイトクラブ銃乱射事件、2017年10月にニューヨーク中心部で発生した車両突入事件等、イスラム過激主義に起因するものの、「アルカイダ」、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)等のテロ組織と直接的な関係を有しない者によるテロが続発した。こうした中、2019年12月に南部・フロリダ州のペンサコラ海軍基地で発生したサウジアラビア軍士官による銃撃事件では、同士官がAQAPメンバーと連絡を取っていたことが明らかになった。また、2020年5月、南部・テキサス州のコーパスクリスティ海軍基地で、AQAP支持者のシリア人による襲撃事件が発生したほか、同年12月には、米国司法省が、米国同時多発テロ事件と同様のハイジャックテロを計画していたとして「アル・シャバーブ」の要員であるケニア人を起訴したと発表した。2021年1月には、中東におけるISILによる米軍兵士の襲撃及び殺害の支援を企図したとして、米軍上等兵が逮捕されるなど、テロ組織との関連が指摘される事件の発生も続いた。

また、近年、人種差別事案や大統領選挙等の様々な事象に関連して極右過激組織と指摘される組織が活発に活動しており、2021年1月、首都ワシントンD.C.で、これらの組織と関わりのある者らが連邦議会議事堂を襲撃し、一時占拠する事件が発生した。連邦捜査局(FBI)は、同年3月、同事件について、「国内テロ」の一形態であると発表した(注3)。このような中、2022年11月の中間選挙前には、過激な思想を有する者による政治家、治安機関等への襲撃事件も発生した(注4)

近年、米国で発生した主なテロ事件関連事案は下表(当庁作成)のとおりである。

【主なテロ関連事案(2020年以降)】

発生日 場 所 概 要
20. 3.19 ミネソタ州  パキスタン人が、ISILに参加するためシリアへの渡航を試み、同組織に対する物的支援未遂容疑で逮捕
20. 5.21 テキサス州  シリア人が、海軍基地の入場ゲートで発砲(1人負傷)
20. 7.22 アリゾナ州  米国人が、「アルカイダ」に参加するためシリアへの渡航を試み、同組織に対する物的支援未遂容疑で逮捕
20. 9.21 頃 テキサス州及びテネシー州  米国人2人が、ホワイトハウス等に対する爆弾テロを計画し、ISILに対する物的支援容疑で逮捕
20.12. 7 オハイオ州  米国人が、ISILに対する物的支援未遂容疑及びシナゴーグに対する攻撃を計画したとして逮捕
21. 1.19 ニューヨーク州  米国人が、中東におけるISILによる米軍兵士の襲撃及び殺害支援を企図したとして逮捕
21. 2.23 フロリダ州  米国人が、ISILに参加するためシリアへの渡航を試み、同組織に対する物的支援未遂容疑で逮捕
21. 3.31 ニュージャージー州  米国人の夫婦が、ISILに参加するためイエメンへの渡航を試み、同組織に対する物的支援未遂容疑で逮捕
21. 5.28 ワシントン州  米国人が、ISILに参加するため中東への渡航を試み、同組織に対する物的支援未遂容疑で逮捕
21.10. 2 バージニア州  カナダ人が、ISILの出版物翻訳等に従事したとして、同組織に対する物的支援容疑で起訴
21.12.20 ケンタッキー州  米国とボスニア・ヘルツェゴビナの二重国籍を有する男が、ISILによる軍事訓練への参加及び同組織に対する物的支援未遂容疑で逮捕
22. 1.15 テキサス州  英国人が、ユダヤ教礼拝堂で聖職者を含む4人を人質に取り、収監された者の釈放を要求
22.12.31 ニューヨーク州  米国人が、カウントダウンイベントを警備していた警察官を襲撃(3人負傷)

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