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アフガニスタン

アフガニスタンは、1978年に成立した共産党政権が、伝統的な部族社会の秩序やイスラム教の思想と真っ向から対立したことから、反政府勢力が次々と勃興し、政情が不安定化した。その後、共産党政権による鎮圧が困難と判断したソ連は、1979年12月、アフガニスタンへの侵攻を開始した。

これに対し、反政府武装勢力が、「ムジャヒディン」(「ジハード戦士」の意)を自称してソ連に対する「ジハード」を開始した、いわゆる「アフガニスタン紛争」(注1)が勃発した。これに呼応した数万人に上る外国人が、アラブ諸国等から「ジハード」の名の下に同紛争に義勇兵として参加した。こうした義勇兵の中には、後に「アルカイダ」を設立するオサマ・ビン・ラディンや「イラクのアルカイダ」(現「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL))を設立するアブ・ムサブ・アル・ザルカウィらが含まれていた。

ソ連が1989年2月にアフガニスタンから撤退した後、「ムジャヒディン」各派は、1992年4月に共産党政権を崩壊に追い込んで政権を樹立したが、政権の主体であったタジク人(イラン系)がウズベク人(トルコ系)、ハザラ人(モンゴル系)等の武装勢力とそれぞれ交戦を始めたほか、パシュトゥン人(イラン系)各派も軍閥化して内紛を繰り返したこと等から、武装勢力や軍閥が割拠する内戦状態となった。

その後、1998年に「タリバン」(注2)がアフガニスタンの大部分を支配したことで内戦状態は収束したものの、「タリバン政権」も、2001年の米国同時多発テロ事件の発生を契機とする米国等の軍事作戦によって崩壊した。同年12月には、国際社会の支援により、アフガニスタン暫定行政機構(パシュトゥン人で王党派のハーミド・カルザイを議長に選出)や国家再建のための移行政権が発足したものの、軍閥間の武力衝突が発生したほか、2002年7月に移行政権副大統領が暗殺され、さらに、2003年9月にカルザイ移行政権大統領に対する暗殺未遂事件が発生するなど、不安定な治安情勢が続いた。

2004年10月、アフガニスタン・イスラム共和国が発足すると、大統領に就任したハーミド・カルザイは、民族融和を掲げてタジク人、ウズベク人等の有力者を入閣させるとともに、国際社会と連携した復興を進めたが、「タリバン」による襲撃等が急増した。

2001年12月から、米国及び北大西洋条約機構(NATO)主体の国際治安支援部隊(ISAF)(注3)が治安維持活動を開始し、2010年後半には、最大規模となる13万人以上の兵力を全土に展開したが、国内の治安が安定しない中で2014年末に任務を終了した。その後、米国、NATO等は、2015年1月、1万3,000人規模でアフガニスタン治安部隊に対して訓練、助言等の支援を行う「確固たる支援任務」(Resolute Support Mission、RSM)を開始した(注4)

こうした中で、「タリバン」は、2018年7月以降、米国との直接協議を開始し、2020年2月には双方が和平プロセスについて合意した(「ドーハ合意」(注5))。同合意には、アフガニスタンからの駐留米軍撤退も含まれており、2021年4月には、米国のバイデン大統領が、同年9月11日までにアフガニスタン駐留米軍を完全撤退させると発表した。駐留米軍の撤退が進む中、「タリバン」は、各地で攻勢を強め、8月15日に首都カブールを制圧し、アフガニスタンの実権を掌握した(注6)。こうした動きに対し、「タリバン」と協調する「アルカイダ」は、同制圧を「歴史的偉業」と主張する声明を発出した。

「アルカイダ」に関しては、2022年8月1日、米国のバイデン大統領が、7月31日にカブールで「アルカイダ」最高指導者アイマン・アル・ザワヒリを空爆により殺害したと発表した。「タリバン」と敵対関係にあるISIL関連組織「ホラサン州」は、2017年以降、アフガニスタン及びパキスタンでテロを実行しており、駐留米軍による掃討作戦強化等により、活動地域がアフガニスタン東部及びカブールに限定されるようになった。しかし、2021年8月の「タリバン」による実権掌握以降、「タリバン」への攻撃やシーア派住民等へのテロを増加させ、活動も全土で確認されるようになったと指摘されている (注7)。また、「ホラサン州」は、2022年、カブールで、ロシア大使館付近での自爆テロ、パキスタン大使館への銃撃、中国人が頻繁に利用するとされるホテル (注8)への襲撃といった外国権益へのテロも実行した(注9)

「タリバン」は、アフガニスタンの実権掌握後、「他の組織が他国を攻撃するためにアフガニスタンの領土を使用することを許さない」などと主張しているが、多数のテロ組織がアフガンスタン国内で活動している旨指摘されている(注10)。「タリバン」内の勢力である「ハッカーニ・ネットワーク」(HQN)(注11)については、複数のメンバーが、「アルカイダ」最高指導者ザワヒリ殺害後に、その家族を殺害現場となった住居から別の場所に移動させたとされる(注12)など、「アルカイダ」との関係を維持している状況がうかがわれる。

こうした状況から、「アルカイダ」は「長期的」、「ホラサン州」は「短中期的」な脅威とされている(注13)

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