フロントページ > 国際テロリズム要覧について>地域別テロ情勢 > パキスタン

パキスタン

 パキスタンのナワズ・シャリフ首相(当時)は、1997年5月、「タリバン」(注14)がアフガニスタンで樹立した「アフガニスタン・イスラム首長国」を政府承認したが、その後、パルヴェズ・ムシャラフ首相(当時)は、2001年の米国同時多発テロ事件後、同事件を実行した「アルカイダ」の最高指導者オサマ・ビン・ラディン(注15)(当時)をかくまっているとして「タリバン」への批判が国際的に高まったため、同承認を取り消し、米国が主導する「テロとの闘い」に参加することを決定した。これに対し、パキスタン北西部を拠点に活動していた「タリバン」の支持勢力は、同国政府に反発してテロを多発させた。2007年7月には、政府施設への襲撃を試みるなどした「タリバン」系神学生らが、首都イスラマバードの「ラル・マスジド」(赤のモスク)を占拠するなどし、同年12月には、パキスタンの「タリバン」支持勢力が連合体として「パキスタン・タリバン運動」(TTP)を設立した。

2013年5月に再び首相に就任したナワズ・シャリフ首相(当時)は、2014年2月、TTPとの和平交渉を開始したが、同年6月、TTPが南部・シンド州都カラチのジンナー国際空港を襲撃したことで、和平交渉が頓挫した。パキスタン軍は、TTP等が拠点を置く北西部・連邦直轄部族地域(当時、現カイバル・パクトゥンクワ(KP)州)北ワジリスタン地区での掃討作戦を開始し、多くのTTPメンバーを殺害したものの、TTPは各地で襲撃等のテロを続けた。

 こうした中、TTPは、2021年8月の「タリバン」によるアフガニスタン首都カブール制圧を受け、改めて「タリバン」に忠誠を誓うなどした。しかし、TTPは、部族単位等を基礎とした武装組織の連合体であるため、内部対立を繰り返した経緯があり(注16)、歴代の最高指導者が死亡し、その後任が選出されるたびに、分派の設立が相次いだ。

 2018年6月にTTPの最高指導者に就任したヌール・ワリ・メスードは、テロを頻発させる一方で、内部統制及び求心力の回復に取り組み、2020年7月以降、新たに10以上の過激組織がヌール・ワリ・メスードに忠誠を誓ったとされる(注17)

 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)関連組織については、2019年5月、バルチスタン州都クエッタ近郊のマストゥング地区での警察官殺害後、初めて「パキスタン州」 (注18)名による犯行声明が発出された。「パキスタン州」は、2020年1月にクエッタ近郊のモスクで自爆テロを実行したほか、2021年1月にはバルチスタン州でシーア派のハザラ人炭鉱労働者11人を殺害し、2022年3月には、同州シビ地区のスタジアム付近で自爆テロを実行した。また、アフガニスタンを主な拠点とする「ホラサン州」がパキスタン北西部でも活動しており、2022年3月、KP州のシーア派モスクで自爆テロを実行した。このように、パキスタン国内でのISILによる犯行声明は、「パキスタン州」名又は「ホラサン州」名で発出されている(注19)

 バルチスタン州等に多く住むバルーチ人を主体としたバルーチ系過激組織については、パキスタンからの「独立」を活動目的とする「バルチスタン解放軍」(BLA)(注20)等が、治安当局、同州政府、インフラ等を標的としたテロを繰り返しており、近年、中国が「一帯一路」構想の一環として開始したパキスタンのインフラ開発等を支援する大規模プロジェクト「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)を「資源の占領」などと位置付けて非難している。2020年7月には、BLA等バルーチ系過激組織の連合体「バルーチ・ラージ・アージョイ・サンガル」(BRAS)(注21)が、シンド州の「独立」を目指す「シンド革命軍」(SRA)との共闘を発表し、CPECに対する敵意を明言した。こうした状況の中、2022年4月には、BLAが、シンド州都カラチに所在する「孔子学院」付近で自爆テロを実行し、中国のパキスタン進出を批判する犯行声明を発出した(注22)

 こうした中、2022年のパキスタンにおけるテロ発生件数は262件で、前年比で約27%増(前年207件)となり、2年連続で増加した(注23)。TTPは、パキスタン治安当局、政府機関等に対してテロを継続する旨主張し(注24)、また、バルーチ系過激組織がパキスタン治安当局に加え外国権益を標的とする旨主張するなど(注25)、同国におけるテロの増加傾向は今後も続くとの指摘がある(注26)

 近年、パキスタンで発生したバルーチ系過激組織による中国権益に対する主なテロは下表(当庁作成)のとおりである。

【バルーチ系過激組織による中国権益に対する主なテロ(2020年以降)】

年月日 場 所 概 要
20. 6.29 カラチ  BLAが、証券取引所を襲撃(7人死亡)
20.10.15 グワダル  BRASが、中国との投資交渉を進めていた「パキスタン石油・ガス開発公社」の車列を襲撃(15人死亡)
21. 8.20 グワダル  BLAが、中国人が乗車する車両を標的とした自爆テロを実行(2人死亡)
22. 4.26 カラチ  BLAが、「孔子学院」付近で自爆テロを実行(4人死亡)

このページの先頭へ

ADOBE READER

PDF形式のファイルをご覧いただくには、アドビシステムズ社から無償配布されているAdobe Readerプラグインが必要です。