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英国

北アイルランドでは、英国からの分離を求める「暫定アイルランド共和軍」(PIRA)(注1)等の勢力と英国による統治継続を求める勢力が対立し、1970年頃からテロが頻発した。PIRAは、1990年代に入ってもテロを続発させたが、1998年4月、包括和平に合意し、2005年9月には武装解除を完了した。しかし、こうした動きに反発するPIRAの一部勢力は、1990年代後半以降、「真のIRA」(RIRA)(注2)、「継続IRA」(CIRA)(注3)等の分派組織を設立し、テロを継続した。2012年、RIRAが武装自警組織「反麻薬共和行動」等と合併し、「アイルランド共和軍」と称する新たな組織(通称「新IRA」)(注4)を設立し、2019年のロンドン物流拠点を始めとする5か所への爆発物の送付事件(3月)やロンドンデリーでのジャーナリスト殺害事件(4月)等に関与したと主張した。英国保安局(MI5)及び北アイルランド警察は、「新IRA」に対する取締りを実施し、2020年8月に幹部ら10人を逮捕したほか、2021年には、上記ジャーナリスト殺害事件に関連し、「新IRA」のメンバーを逮捕した。こうした中でも、「新IRA」による活動は継続して確認されており、2021年4月には、ロンドンデリーにおいて警察官の車両爆破未遂事件が、2022年11月には、北西部・ティロン県において警察車両爆破事件が発生した。

また、英国では、1990年代に、過激なイスラム教説教師らが、首都ロンドンのモスク等で、礼拝参加者らに対して海外での「ジハード」(注5)支援を呼び掛ける中、イスラム教徒の青年が、「ジハード」のためにアフガニスタンやパキスタンに渡航するようになった。

2001年の米国同時多発テロ事件後、英国は、「テロとの闘い」を推進し、米国と共にアフガニスタン(2001年)及びイラク(2003年)に進攻したほか、国内で過激なイスラム教説教師らの取締りに乗り出した。これに対し、「アルカイダ」は、英国を攻撃対象として繰り返し警告を発するとともに(注6)、英国籍を持つ移民らを利用してテロを企図するようになった。

2005年7月には、主要国首脳会議(G8サミット)の開催中、「アルカイダ」に接触していたと指摘されるパキスタン系英国人ら4人がロンドンの地下鉄等において自爆し、52人が死亡する事件が発生した(注7)

2006年8月には、英国発北米行きの複数の航空機を標的とする同時爆破テロ計画が摘発され、「アルカイダ」から訓練を受けたパキスタン系英国人ら計25人が逮捕された。このほか、既存のテロ組織等とのつながりを持たない者によるテロ関連事件も発生してきた。2008年5月、インターネットを通じてイスラム過激主義に影響を受けて過激化した英国人が、南西部・エクセターのショッピングモールで爆弾を爆発させて逮捕された。2010年5月には、インターネット上で視聴したアンワル・アル・アウラキ(「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)幹部、2011年9月にイエメンで死亡)の説教の影響を受けて過激化したバングラデシュ系英国人が下院議員を刺し、殺人未遂で逮捕された。

2010年2月、AQAP幹部アンワル・アル・アウラキと同国在住のバングラデシュ人が共謀し、米国行き航空機の爆破を計画していたことが明らかとなったほか、同年10月には、中部のイーストミッドランズ空港に駐機中の貨物機から爆発物が発見される事案が発生し、AQAPが犯行を主張したが、その後、英国では、「アルカイダ」又は「アルカイダ」関連組織が直接テロを企図した事件は確認されていない。

他方、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)に関しては、2017年5月、中部・マンチェスターのコンサート会場付近でリビア人が自爆し、22人が死亡した事件のほか、同年6月、英国人ら3人がロンドン市内で歩行者の列に車両で突入した後、付近のレストラン等を襲撃し8人が死亡する事件など、ISILが犯行を主張するテロが複数発生した。また、2021年10月には、南東部・エセックス州リーオンシーで、ISILとの関連を主張していたソマリア系英国人の男が、下院議員を刃物で殺害する事件も発生した。

そのほか、英国では、近年、極右過激主義に関連した若者の摘発事案が相次いでおり、MI5のケン・マッカラム長官が、2021年7月、若者の極右過激主義思想への傾倒に対する懸念を表明した。2022年10月には、南部・ドーバーの移民センターに燃料爆弾が投げ込まれる事件が発生し、極右過激思想を持った単独犯によるテロと認定された。同国におけるイスラム過激主義及び極右過激主義に基づくテロは、テロ組織との正式な関連を持たずに犯行を実行・計画する「自発的なテロリスト」によって引き起こされる可能性が高いとされている(注8)

近年、英国で発生した主なテロ関連事案は次頁の表(当庁作成)のとおりである。

【主なテロ関連事案(2020年以降)】

年月日 場 所 概 要
20. 1. 9 ケンブリッジシャー  コンゴ系英国人及び英国人が刑務所内で職員を襲撃(5人負傷)
20. 2. 2 ロンドン  スリランカ系移民の男が、通行人を襲撃(2人負傷)。「アーマク通信」がISILによる犯行と主張
20. 6.20 レディング  リビア人が、公園で市民を襲撃(3人死亡、3人負傷)。「アーマク通信」がISILによる犯行と主張
21.4.19 ロンドンデリー  「新IRA」が、警察車両爆破未遂
21.10.15 エセックス  ソマリア系英国人が、地元有権者と面会中の下院議員を刺殺
21.11.14 リバプール  男(国籍不明)が、婦人病院前でタクシーを爆破させて死亡(1人負傷)
22.10.30 ドーバー  極右過激思想を有する英国人が、移民センターに爆弾を投てき(負傷者なし)
22.11.17 ティロン  「新IRA」が、警察車両を爆破

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