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英国

(1) 背景

英国では、1990年代に、過激なイスラム教説教師らが、首都ロンドンのモスク等で、礼拝参加者らに対して海外での「ジハード」支援を呼び掛ける中、イスラム教徒の青年が、「ジハード」のためにアフガニスタンやパキスタンに渡航するようになったとされる。

2001年の米国同時多発テロ事件後、英国は、「テロとの闘い」を推進し、米国と共にアフガニスタン(2001年)及びイラク(2003年)に進攻したほか、国内で過激なイスラム教説教師らの取締りに乗り出した。これに対し、「アルカイダ」は、英国を攻撃対象として繰り返し警告を発するとともに(注1)、英国籍を持つ移民らを利用してテロを企図するようになった。

2005年7月には、主要国首脳会議(G8サミット)の開催中、英国で生まれ育ったパキスタン系英国人ら4人がロンドンの地下鉄等において自爆し、52人が死亡する事件が発生し、事件後、「アルカイダ」が犯行声明を発出した(注2)

また、2006年8月には、英国発北米行きの複数の航空機を標的とする同時爆破テロ計画が摘発され、「アルカイダ」から訓練を受けたパキスタン系英国人ら計25人が逮捕された。同事件では、飲料用ペットボトルに隠匿した過酸化水素水を機内に持ち込んで爆弾を組み立てることが計画されていたことから、同事件を契機として、航空機への液体の持込みが厳しく制限されることになった。

このほか、既存のテロ組織等とつながりを持たない者によるテロ関連事件も発生してきた。2008年5月、インターネットを通じて過激化したとされる英国人(21歳)が、南西部・エクセターのショッピングモールで爆弾を爆発させ、逮捕された。2010年5月には、インターネット上で視聴したアンワル・アル・アウラキ(「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)幹部、2011年9月にイエメンで死亡)の説教の影響を受けて過激化したとされるバングラデシュ系英国人の女(21歳)が下院議員を刺し、殺人未遂で逮捕された。

一方、北アイルランドでは、英国からの分離を求める「アイルランド共和軍」(IRA)等のカトリック系民族主義・分離主義過激組織と英国による統治継続を求めるプロテスタント系過激組織が対立し、1970年頃からテロが頻発した。IRAは、1990年代に入ってもテロを続発させたが、1998年4月、包括和平に合意し、2005年9月には武装解除を完了した。しかし、こうした動きに反発するIRAの一部勢力は、1990年代後半以降、「真のIRA」(RIRA)、「継続IRA」(CIRA)等の分派組織を結成し、テロを継続した。

(2) テロ関連動向

英国では、2010年2月、アンワル・アル・アウラキと同国在住のバングラデシュ人が共謀し、米国行き航空機の爆破を計画していたことが明らかとなったほか、同年10月には、中部のイーストミッドランズ空港に駐機中の貨物機から爆発物が発見される事案が発生し、AQAPが犯行を自認したが、その後、「アルカイダ」又は「アルカイダ」関連組織が直接テロを企図した事件は確認されていない。

他方、2017年には、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)に何らかの影響を受けたとみられるテロが5件発生したほか、2019年11月にロンドンで発生したパキスタン系英国人による襲撃テロ及び2020年2月に同地で発生したスリランカ系移民の男による襲撃テロについて、ISILと関連を有する「アーマク通信」がISILによる犯行と主張した。また、同年6月には、南部・レディングで、リビア人による襲撃テロが発生した。同人は、犯行の数日前にISIL関連のウェブサイトにアクセスしていたとされる。2021年10月には、南東部・エセックス州リーオンシーで、ISILとの関連を自認していたとされるソマリア系英国人の男が、下院議員を刃物で殺害した。

イスラム過激思想に起因するとされる最近の主なテロ関連事案は次のとおりである。

【主なテロ関連事案(2017年以降)】

摘発日又は発生日 摘発又は発生場所 概要
17. 3.22 ロンドン  英国人の男(52歳)が、ウェストミンスター橋で、歩行者の列に車両で突入して4人を殺害後、国会議事堂敷地内に侵入し、刃物で警察官を刺殺
17. 5.22 中部・マンチェスター  リビア人の男(22歳)が、コンサート終了後の会場と地下鉄駅構内を結ぶ通路で自爆し、22人が死亡。ISILが犯行声明を発出
17. 6. 3 ロンドン  英国人ら3人(22~30歳)が、ロンドン橋で、歩行者の列に車両で突入した後、付近のレストラン等を襲撃し、8人が死亡。ISILが犯行声明を発出
17. 9.15 ロンドン  地下鉄車両に置かれた爆発物が爆発し、30人が負傷。ISILが犯行声明を発出。イラク人の男(18歳)が殺人未遂容疑等で逮捕
18.12.31 マンチェスター  ソマリア出身の英国在住の男(25歳)が、駅で通行人を襲撃し、3人が負傷
19.11.29 ロンドン  パキスタン系英国人の男(28歳)が、集会参加者を襲撃するなどし、2人が死亡、3人が負傷。ISILと関連を有する「アーマク通信」がISILによる犯行と主張
20. 1. 9 南部・ケンブリッジシャー  コンゴ系英国人の男(24歳)及び英国人の男(25歳)が刑務所内で職員を襲撃し、5人が負傷
20. 2. 2 ロンドン  スリランカ系移民の男(20歳)が、通行人を襲撃し、2人が負傷。「アーマク通信」がISILによる犯行と主張
20. 6.20 南部・レディング  リビア人の男(25歳)が、公園で市民を襲撃し、3人が死亡、3人が負傷。「アーマク通信」がISILによる犯行と主張
21.10.15 南東部・エセックス  ソマリア系英国人の男(25歳)が、地元有権者と面会中の下院議員を刺殺
21.11.14 中部・リバプール  男(国籍不明)が、婦人病院前でタクシーを爆破させて死亡、1人が負傷

一方、北アイルランドでは、2012年、RIRAが武装自警組織「反麻薬共和行動」等と合併し、「アイルランド共和軍」と称する新たな組織(通称「新IRA」)を設立したとされ、同組織は、2019年にロンドンの物流拠点、グラスゴー大学等5か所に爆発物の入った小包が送付された事件(3月)、ロンドンデリーにおいて女性ジャーナリストが殺害された事件(4月)等に関与したとされる。英国保安局(MI5)及び北アイルランド警察は、「新IRA」に対する取締りを実施し、2020年8月に幹部ら10人を逮捕したほか、2021年には、上記女性ジャーナリスト殺害事件に絡み、「新IRA」のメンバーが逮捕された。こうした中でも、「新IRA」による活動は継続して確認されており、2021年4月には、ロンドンデリーにおいて警察官の車両爆撃未遂事件が発生した。

(3) 今後の注目点

英国では、2017年以降、ISILに関連したテロ及び摘発事案が散発的に発生したことから、ISILの思想が依然として浸透していることが確認できる。また、当局が、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に係る外出規制下で自宅で過激化した者によるテロの脅威に言及(注3)する中、2021年10月には、ISILとの関連を自認していたとされる者によるテロが発生した。このほか、近年同国において極右過激主義に関連した若者の摘発事案が相次いでいるところ、保安局(MI5)のケン・マッカラム長官は、2021年7月、若者の極右過激主義思想への傾倒に対する懸念を表明した。同国におけるイスラム過激主義及び極右過激主義に基づくテロは、テロ組織との正式な関連を持たずに犯行を実行、計画する「自発的なテロリスト」によって引き起こされる可能性が高い(注4)とされ、引き続き留意が必要である。

また、過去にテロ関連犯罪等で収監歴のある人物によるテロも相次いでおり、刑務所内での脱過激化プログラムの効果が疑問視されているほか、刑務所内で一般犯罪の受刑者がイスラム過激主義者の影響を受ける場合もあるとされ、今後、これらの受刑者の出所が予定される中、過激思想を保持した出所者の動向にも注意が必要である。

北アイルランドにおいては、2021年3月及び4月、英国のEU離脱に関する北アイルランドの通関手続に係る取決めに対する不満を抱えるプロテスタント系住民とカトリック系住民との対立に絡む暴動が多発し、100人近い警察官が負傷したほか、2021年11月には、プロテスタント系住民が多数を占める地区において、武装した男がバスを占拠し放火するなど、情勢が不安定化する中、IRAの分派組織による活動が継続して確認されており、その動向を注視する必要がある。

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