西ドイツ（当時）では、1960年代に一部の若者を中心に反米等をスローガンとした運動が展開され、「ドイツ赤軍派」（RAF）が設立された。RAFは、独占資本主義及び帝国主義の打倒を掲げ、1972年5月にフランクフルトの米軍兵舎に対する爆弾テロ、1991年2月に在ドイツ米国大使館銃撃事件等の米国権益を標的にしたテロを実行した。また、1989年11月のドイツ銀行頭取爆殺事件や1991年4月の企業信託管理公社総裁暗殺事件といった経済界の要人へのテロも実行した（注17）。

また、1972年9月、「パレスチナ解放人民戦線」（PFLP）（注18）系の武装組織「黒い9月」（注19）が、西ドイツ（当時）のミュンヘンで開催されていたミュンヘン・オリンピックのイスラエル選手団宿舎を襲撃するなどして、同選手団11人を含む12人が死亡する事件が発生した。

ドイツでは、2007年9月、「イスラミック・ジハード・ユニオン」（IJU）（注20）によるドイツ国内の米軍基地等を標的とした爆弾テロ計画が摘発された。2008年3月には、アフガニスタンの米軍基地で、ドイツ人による初の自爆テロが発生し、IJUが犯行を主張した。

2011年4月には、西部・デュッセルドルフ及び同ボーフムで、「アルカイダ」メンバーとされるモロッコ人ら3人（注21）が、国内での爆弾テロを計画した容疑で逮捕された。主犯格のモロッコ人は、2001年、留学のためドイツに入国した後、2010年にパキスタンに渡航し、「アルカイダ」訓練キャンプにおいて、「アルカイダ」幹部から指示を受けたとされる（注22）。

「イラク・レバントのイスラム国」（ISIL）関連のテロも、2016年以降、散発的に発生しており、2016年7月の南部・ビュルツブルクを走行する列車内での乗客襲撃事件や、南部・アンスバッハの野外音楽祭会場付近における爆弾テロは、実行犯が、ISILメンバーらからの指示に基づき計画、実行したものである。さらに、同年12月には、首都ベルリン中心部で、クリスマスマーケットへのトラック突入事件が発生し、ISILが犯行声明を発出した。2020年10月には、東部・ドレスデンで、ISILを支持するシリア人による観光客への襲撃事件が発生した。

他方、テロ計画の摘発事案も発生しており、2018年6月、西部・ケルンで、国外のISIL関係者と連絡を取り、猛毒の「リシン」を用いたテロを計画していたチュニジア人が逮捕されたほか、2019年1月に北部・ディットマールシェンで、同年11月にはベルリンで、それぞれ爆弾テロを計画していた者らが逮捕された。2020年4月には、西部・エッセン等で、シリア及びアフガニスタンのISIL幹部と連絡を取り、ドイツ駐留米軍基地等を標的としたテロを計画していたタジキスタン人4人が逮捕された。2021年9月には、ISILのメンバーと連絡を取り合っていたとされるシリア人の少年が、西部・ハーゲンでユダヤ人礼拝施設に対する攻撃を計画していたとして逮捕された（注23）。

一方、反ユダヤ、外国人排斥等の極右過激主義思想に基づくテロとして、2019年10月には、東部・ハレのユダヤ教礼拝施設周辺で襲撃事件が、2020年2月には、西部・ハーナウのシーシャ（水たばこ）バー2か所で外国人を標的とした銃撃事件が発生した。さらに、極右過激組織等が、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う規制への反対を呼び掛ける抗議行動を活発化させた。2022年4月及び10月には、同国保健相誘拐計画に関与した「帝国臣民」（注24）メンバーが逮捕されたほか、同年12月には、ドイツ政府を転覆する計画を進めたとして同組織メンバーが逮捕される事案が発生した。

ドイツでは、2022年もISILの影響を受けた者の摘発事案が発生していることから、当局はイスラム過激組織等のメッセージがインターネット上でアクセス可能であることに懸念を表明している（注25）。他方、引き続きこうした過激思想に感化された者らによるテロの発生に警戒を要するとしているが、極右過激主義思想に基づくテロの取締りについては困難な課題であるとされている（注26）。

近年、ドイツで発生した主なテロ関連事案は下表（当庁作成）のとおりである。

【主なテロ関連事案（2020年以降）】

年月日	場所	概要
20.02.19	ハーナウ	ドイツ人が、外国人を狙い銃撃（9人死亡）
20. 8.19	ベルリン	イラク人が、自動車で他の車両に突入（6人負傷）
20.10. 4	ドレスデン	シリア人が、観光客を襲撃（1人死亡、1人負傷）
22.12.07	ドイツ各地、イタリア、オーストリア	「帝国臣民」メンバー25人が、ドイツ政府の転覆を計画した容疑で逮捕