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法制度整備支援の現場から

日本では,裁判所に行けば,誰もが訴訟記録を閲覧することができます(日本民事訴訟法91条1項)。これに対し,カンボジアでは,訴訟記録の閲覧が認められるのは,当事者及び利害関係を疎明した第三者に限られます(カンボジア民事訴訟法258条1項)。また,判決の言渡しは公開の法廷で主文を朗読することによって行われ,理由については,相当と認めるときに朗読又は要旨を告げれば足りるところ(同法188条1項,3項),理由が全く述べられない場合もあると聞いています。さらに,現時点では,ウェブサイト等で判決書が一般に公開されてもいません。つまり,判決言渡しを傍聴し,その場で理由が述べられない限り,どのような理由に基づいて結論に至ったのか,裁判官の判断過程が公にされる機会はありません。司法の透明性確保の観点からは,課題が残ります。

報道によると2019年8月には,フン・セン首相が,一部の弁護士が裁判官に賄賂を渡している旨指摘し,アン・ヴォン・ワタナ司法大臣に対し,司法の汚職防止を徹底するよう求めたとのことです。これを受けて,アン・ヴォン・ワタナ司法大臣も,司法関係の幹部が集まった会議において,司法における汚職防止対策を徹底することを明らかにしました。

タイムリーにも,2017年4月に開始されたJICAの民法・民事訴訟法運用改善プロジェクト(フェーズ5)は,活動の柱の一つに民事判決書の公開を掲げています。民事判決書を一般に公開することによって,裁判官に対し,民法・民事訴訟法に基づいた適切な判決書を起案することを意識付け,判決書の質を改善することを目指しています。この活動は,ひいては司法の透明性確保に資する活動です。

これまでの間,カンボジアの全ての始審裁判所(日本でいう「地方裁判所」)から,2017年4月以降に言い渡された民事判決書を収集し,裁判官等と一緒に分析しています。分析に当たっては,多くの裁判官に共通する注意点や誤解しやすいポイントなどを抽出しています。そして,2019年5月からほぼ毎月開催しているセミナーの一環として,分析結果を全始審裁判所の裁判官に共有しています。今後は,民事判決書の分析を続け,分析結果をセミナーで共有するとともに,セミナーを実施済みの事例については,民事判決書を司法省のウェブサイトで一般に公開する予定です。カンボジアの民事判決書の質が向上し,司法の透明性確保が図られるか否かは,これからの活動にかかっています。カンボジアが司法の汚職防止に向けて本腰を入れて取り組む今,民事判決書を早期に公開するため,引き続きカンボジア司法関係者と力を合わせていきたいと思います。

(カンボジア長期専門家 福岡 文恵)

セミナーの様子

セミナーの様子

専門家及びスタッフ集合写真(司法省前)

専門家及びスタッフ集合写真(司法省前)