
第1節 民間協力者の活動の促進等
内閣官房及び法務省は、2018年度(平成30年度)から、内閣総理大臣が顕彰する「安全安心なまちづくり関係功労者表彰」において、再犯の防止等に関する活動の推進において特に顕著な功績又は功労のあった個人又は団体を表彰している。2022年度(令和4年度)は、法務省を含む関係省庁や地方公共団体から推薦を得て、再犯を防止する社会づくりについて功績・功労があった合計8の個人及び団体を表彰した※22(資6-103-1参照)。

Column7 再犯防止を支える民間協力者の方々
1 篤志面接委員※23
名古屋刑務所篤志面接委員 東松 磐樹
① 篤志面接委員として活動するまでの経緯について教えてください。
警察官を定年退職してしばらく経った頃、刑事時代の先輩から「篤志面接委員にならないか。」と誘われ、ちゅうちょなく引き受けました。ちょうどその頃、現職当時を思い出して、「私が携わった被疑者は刑を終えてから、どんな生活をしているのだろうか。元気でいるのかな。」と気掛かりになっていた頃でした。また、「残りの人生で、これまでやり残してきたことを少しでも埋めることができれば。」と思い、受刑者の皆さんの改善更生に役立ちたいと考えて活動を始めました。
② 篤志面接委員の活動内容について、教えてください。
活動内容は、暴力団組員等の受刑者の皆さんに対し、社会復帰への手助けとして、暴力団離脱のための働き掛けを実施する「暴力団離脱指導」※24です。私の指導は、社会復帰を目指す受刑者の皆さんの背中をソッと押すような微力なものですが、主として、出所後の生活設計について相談に乗っています。社会復帰を目指す受刑者の皆さんは、「自虐感」を持っている方が少なくなく、そうした感情を払拭してもらうため、「誰でも人は優れた面を持っている」ので、「自分には、どんな特徴、特技があるか。やりたい仕事は何か。」を見つけ出し、自分に自信を持って社会に飛び込んでいくよう勇気付けています。

③ 篤志面接委員の活動のやりがいを教えてください。
「暴力団を抜けたいが、生活が心配だ。」、「自分達を社会が受け入れてくれるだろうか。」と出所後の生活に対して不安に思っている受刑者の皆さんは多くいます。確かに、まだまだ受刑者の皆さんが社会復帰するための「受皿」が不十分ではありますが、暴力団からの離脱に一番大切な事は、社会復帰をするという「強い意志と努力だ。」と指導しています。指導の際に、出所して人生に迷いが出た時に、「刑務所にいる間に受けた指導で、先生からこんな事を聞いた。」と思い出してくれたらなと念じながら話をすると、受刑者の皆さんは真剣に耳を傾けてくれます。その姿を見る時、篤志面接委員としての喜びとやりがいを感じます。
④ 印象に残っている体験談を教えてください。
これは失敗談になりますが、篤志面接委員になって間もない頃、受刑者の皆さんに一生懸命話しかけても一向に反応がなく、私の言葉が届いていないと感じ、「何か変なことを言ったのかな。」と悩んでしまったことがありました。よくよく考えると、無意識の内に「あなた達を指導してやるのだ。」とでも言わんばかりに、まさに上から目線の思い上がった指導ぶりで、内容も「自分が歩んできた人生訓、成功例」を並べ立て、受刑者の皆さんに対して自慢話でもしているかのようで、今思い返せば大変恥ずかしいものでした。その後は、この経験を強く胸に刻み、受刑者の皆さんと同じ目線で考え、彼らの心情に寄り添い、一緒に考える気持ちで相談に当たるように意識しながら、暴力団離脱に向けた指導に取り組んでいます。
2 教誨師※25
青森刑務所教誨師 高山 元延
① 教誨師として活動するまでの経緯について教えてください。
私は曹洞宗常現寺住職として、檀家さんや地域への寺院活動、布教活動、そして地域子ども会や町内会活動、特に青少年活動に従事していました。そんな中、当時、青森少年院で教誨活動をされていた先輩教誨師が、東京矯正管区内の矯正施設に移籍することとなり、その後任教誨師として、同じ曹洞宗の私に白羽の矢が立ち、平成元年、青森県教誨師会所属の教誨師として委嘱されました。
最初、私は辞退しましたが、「高山さん、あなたなら罪を犯した少年達の心が分かるはずだ。」、「大丈夫。あなたならやれる。」との先輩教誨師の言葉に励まされ、曹洞宗の教えに基づく被収容者の皆さんへの「教誨」を、私自身への「修行」として受け止め、今日まで私の使命として教誨活動を続けています。
② 教誨師の活動内容について、教えてください。
私の「教誨」は、曹洞宗の「坐禅」を基底とした「坐禅教誨」です。当初は脚を組んでの坐禅でしたが、現在は、足の不自由な人、脚を組めない人も楽な姿勢でできるようにと「イス坐禅」を行って「自己の心」を見つめる時間としています。
坐禅中は、静寂の空間となります。故に、私の教誨は、まさに「無言の教誨」でもありますが、1回目の坐禅が終わってから提唱講座の時間を設定しています。そこでは、仏教の教え、お釈迦様の物語、歴史上の人物から現代の出来事等を坐禅参加の被収容者の皆さんに分かりやすく説くように心掛けて講話し、更に2回目の坐禅をして終わります。

③ 教誨師の活動のやりがいを教えてください。
私は被収容者の皆さんに対して、坐禅の基本である「調身・調息・調心」をこれまで何度も説いています。
それは、現在の心構えとして、また、出所後の社会生活にも取り入れてもらいたいからです。「自分の姿勢や身の行いを常に調え、怒ったり、感情的になったりする前に、常に息を調える。そのことによって自分の心を調える」ということを理解してもらいたいとの思いがあるからです。
彼らの感想を直接聞くことはできませんが、私が帰る時になると、各自が安堵に満ちた顔になり、また、笑顔で見送ってくれることもあります。
その時私は、今日の教誨は良かったのかもしれないと感じたり、また、その逆を感じたりする時もあります。その「葛藤」がやりがいであるかもしれません。右の写真は私の「教誨活動日誌」です。まさにその「葛藤の歴史」であり、現在10冊目になりました。

④ 印象に残っている体験談を教えてください。
2013年(平成25年)師走、青森刑務所で「カラオケ大会」が開催されることとなり、その前月に同所所長から、審査委員長を引き受けてもらいたいとの要請がありました。
私は、お経は唱えますが歌はあまり上手ではありません。悩んだ末、私の住む街のカラオケ大会審査委員長の方に「どのような基準で採点すればよいのか。」と尋ねました。すると「母音をはっきり歌い切っているかです。」と教えられたのです。
当日、選び抜かれた歌自慢の被収容者の皆さんがステージで歌います。なるほど、それを基準にして聞くと違いが聞き取れました。終了後、そのことを講評で話すと、優秀賞の栄冠に輝いた彼は、にっこりと微笑みを私に返してくれたのです。
3 矯正施設で活動するスポーツインストラクター
名古屋刑務所豊橋刑務支所 檀林 典子
① 刑務所において活動するまでの経緯について教えてください。
スポーツのインストラクターの資格を持っており、これまで、スポーツジム等で10年以上の指導経験があります。現在も、地域の人々の健康に役立つよう、スポーツクラブでエアロビクス、アクアビクス、高齢者の健康体操、こどものスイミングの指導を行っています。
私の知人に刑務所の職員がおり、その職員から私の経験が、受刑者の皆さんの身体機能の維持と向上に役立ち、社会復帰に役立てることができるとの話があって、刑務所で私の仕事を生かすことができるならと興味を持ち、お引き受けすることにしました。
② 活動内容について、教えてください。
1回につき30分間のエアロビクスの指導を月に2回受刑者の皆さんに対して行っています。内容としては、音楽に合わせてウォーミングアップ、メインのエアロビクス、クールダウン、筋トレを中心に、参加者全員で体の動きを合わせ、全員が楽しく体を動かすことができることを心掛けています。
また、高齢者を対象に、週に1回1時間、全6回で、改善指導として健康運動指導※26を実施しています。呼吸を意識しながら筋力をつけることで転倒予防にも役立ち、受刑者の皆さんとコミュニケーションを取りながら心のケアとなるような指導をしています。

③ 活動のやりがいを教えてください。
社会で自分の意志でクラブや体操教室に通う人と、刑務所の中で授業の一環としてエアロビクスを受ける人とでは、特にモチベーションの面で大きな差があると感じます。体を動かすことが好きな人、嫌いな人、やる気がない人など様々であり、初めは私も戸惑いました。しかし、音楽をかけ、リズムに乗って体を動かしているうちに、受刑者の皆さんは私のコリオ(指示する運動の繰り返し)についてきてくれ、表情が少しずつ変わっていくのが分かります。30分という短い時間ではありますが、受刑者の皆さんの集中力、筋力、体力の向上に役立てられていると感じ、うれしく思います。
④ 印象に残っている体験談を教えてください。
健康運動指導は少人数なので、近くで受刑者の皆さんの表情を見ることができます。少しのコミュニケーションで、笑顔が見られるようになり、顔つきも柔らかくなるなどの変化が見られます。教室に入ってくるときは「体が痛い。」と言って、歩くのもつらそうで、椅子に座ったり、立ったりすることが一人でうまくできなかった人が、体操を終えて、帰る時にはスムーズに動けるようになったり、楽しかったという声が出たりするようになった様子を見ると、驚くと同時にやりがいもあると感じています。
4 保護司※27
高松地区保護司会 保護司 植松 勉
① 保護司として活動するまでの経緯について教えてください。
市役所の定年退職まであと数年というときのある日、保護司をしていた地域の先輩から「助けてほしい。これまでに十数人に頼んだが断られた。保護司になってくれないか。」との話がありました。突然のことでしたので、少々戸惑いながら「少し、考えさせてほしい。」と返事を保留しました。私自身、以前から地元の自治会活動に参加するなど、ボランティア活動に関心を持っていたこと、また、当時、家族の一人が更生保護関係の職にあったということもあり、家族全員の理解も得られたことから、保護司に従事するために必要な職場の手続を済ませ、保護司を引き受けることにしました。
② 地方公共団体との連携について、教えてください。
地元の地方公共団体からは、研修会場や面接場所として、当地区保護司会の更生保護サポートセンター※28の建物を始め、庁舎や地域のコミュニティセンターの会議室を無償で使用させていただき、また、事業費の助成等、色々な面で協力をいただいています。
また、地方公共団体の職員で保護司をしている方もいますが、その職員が研修会への参加等の保護司活動を勤務時間中に行うに当たっては、職務専念義務を免除してもらうこともあり、保護司活動に理解と協力をいただいています。
③ 高松地区保護司会の活動について教えてください。
昨今の保護司の担い手不足に対応するため、従来、保護司候補者検討協議会※29を3つの支部に設置していましたが、それを10ある分区すべてに設置して、これまでよりも情報網を広げ、新任保護司候補者の発掘に積極的に取り組んでいます。
また、新任保護司等の経験が浅い保護司の不安や悩みごとに対応するため、事例研究・意見交換会を定期的に開催し、経験豊富な保護司がアドバイスをするなど、安心して長く保護司活動を続けられるようにしている分区もあります。
時代に合わせた保護司会活動を模索するとともに、引き続き、地方公共団体や学校等とも連携しながら、地域とともに活動を続けていきたいと考えています。

5 更生保護女性会※30
安佐南地区更生保護女性会 会長 安達 千代美
① 更生保護女性会員として活動するまでの経緯を教えてください。
私は市議会議員として16年近く活動を続けていましたが、ちょうど引退をしようと考え始めた頃に、長く保護司を務めていた友人に声を掛けられ、保護司を引き受けました。保護司になって1年ほど経ってから、更生保護女性会への誘いがあり、更生保護女性会に入会しました。それまで、更生保護の世界をほとんど知りませんでしたが、仕事柄、地域のいろんな方から相談を受ける立場だったこともあり、さらに地域の皆さんのお役に立てるのであればと思い、地域への恩返しの気持ちから引き受けることとしました。今は、周りに支えられながら、会長を務めています。
② 更生保護女性会の活動内容について、教えてください。
こどもたちの登下校の見守り活動や挨拶運動、紙芝居の読み聞かせ、更生保護施設での食事作りの支援、地域のお祭りやイベントへの参加等の活動をしています。特に、地域の中での子育て支援に力を入れており、学校の先生や保護者を対象に、こどもたちの現状について話し合うミニ集会を開催しています。ミニ集会は、こども向けの紙芝居を保護者に見てもらうことで、こどもとの関わり方を考えてもらう機会となっています。また、高齢者サロンで行った、食育の紙芝居の読み聞かせは、一人暮らしの高齢者に日頃の食事について考えてもらう良い機会となりました。
③ 更生保護女性会の活動のやりがいを教えてください。
紙芝居の読み聞かせに来てくれたお子さんが、翌日の挨拶運動でたまたま顔を合わせて「更生保護のおばちゃんだ!」と気付いてくれた時は、とても嬉しかったです。このような活動の中で生まれる出会いがやりがいにつながっています。「ありがとう」が言えること、感謝の気持ちを持つ大切さをこどもたちに伝えていきたいと思い、「地域でこどもを育てる」ということを意識しています。私たち自身も、「相手を思う『心』」と「地域に育ててもらっている」という感謝の気持ちを胸に、「あのおばちゃんに話してみようかな」と思ってもらえるよう、笑顔で地域の皆さんと関わり、地域とのつながりや「ご縁」を大事にして活動しています。
④ 「紙芝居の読み聞かせ」の活動について教えてください。
制作した紙芝居は、食育をテーマにした「おばーの朝ごはん」と、万引きをしてしまう少女の物語で、非行防止をテーマにした「ミミちゃんのてとてとて」のほか数種類があります。保育園、児童館、放課後児童クラブなどで、腹話術の「のんちゃん」の人形を活用して紙芝居の読み聞かせをしています。「のんちゃん」の存在はとても大きく、こどもたちの心をつかんでくれます。また、広い会場でも見えやすいように、地域の中学校の美術部や、こどもを支援する大学のサークルの学生たちにお願いし、紙芝居を拡大したものを制作してもらいました。地域の力を借りて大きくなった紙芝居は、こどもたちも興味津々で聞いてくれました。今後も様々なイベントで使用していく予定です。

6 BBS会※31
市川BBSの会(千葉県) 清澤 拓治
① BBSとして活動するまでの経緯について教えてください。
大学1年生から20年以上BBS活動をしています。漠然と福祉を学びたいとの思いで福祉系の大学に入学し、大学の先輩に誘われて、大学に千葉県を活動拠点とするBBS会が発足するタイミングで入会しました。不登校児や非行少年の立ち直りをサポートするという取組に興味を持ったからです。私にとって、BBSとの出会いはその後の専門分野(児童福祉系)を決める上で大きなきっかけとなりました。
大学卒業後は、同じ千葉県内ですが、地元の市川に活動拠点を移し、今に至っています。大学生の頃から、BBSの活動とは別に、市川市内のボランティア活動にも参加していたため、卒業後は地元の方々と一緒にBBS活動を盛り上げたいと思い、移籍しました。
② BBSの活動内容について、教えてください。
BBSはBig Brothers and Sisters movementの略称です。少年たちの兄や姉のような立場で一緒に学び、楽しみ、一緒に汗を流す活動をしています。少年との「ともだち活動」※32や「グループワーク」のほか、「社会参加活動」として、地域に貢献する活動も行っています。市川BBSの会では、市民まつりへの参加活動やボッチャ体験等を社会参加活動と位置づけ、少年も、BBS会員とともにスタッフ・地域の一員として、地域の方々と一緒に汗を流せる場を作っています。
③ BBSの活動のやりがいを教えてください。
市川BBSの会の活動の特徴として、市川浦安地区保護司会や市川地区更生保護女性会を始め、子ども会、特定非営利活動法人、ボランティアグループ、福祉事業所等といった地域の方々と一緒に活動をすることがあります。地域のつながりが希薄になっている昨今ですが、ともだち活動の対象となる少年のほか、地域のこどもからご年配の方まで、年齢、障がいの有無を問わず、みんなが笑顔になっている姿や、みんなで協力しながら活動に取り組む姿を見ると、地区BBS会の活動は意味のあるものだと実感します。
④ 市民まつりへの参加活動について、具体的な活動内容や工夫していること、気をつけていること、今後の活動の展望などについて教えてください。
「いちかわ市民まつり」では、お面作りのお店を出店しています。これは、ともだち活動の対象となる非行少年の社会参加活動であるとともに、こどもの健全育成活動としての側面もあります。少年もスタッフとして、主に来場するこどもたちのお面作りをお手伝いします(紙を切る、お面にするなど)。こどもや保護者から感謝されることもあり、自己有用感の向上につながります。来場するこどもには、使った文具は元の場所に戻すよう、ゴミはゴミ袋に捨てるよう、席は譲り合うよう声掛けします。思いやりや協調性を育むことをこの活動では意識しており、こうしたことが非行・再非行を防止することにつながればと考えています。

7 協力雇用主※33
株式会社TRコーポレーション 宮武 哲也
① 協力雇用主になったきっかけについて教えてください。
協力雇用主となったのは10年ほど前です。ハローワークに求人票を提出したところ、「犯罪歴のある人でも大丈夫だろうか。」と相談を受けたことがきっかけでした。
受入れについて初めは戸惑いや不安がありましたが、思い切って雇用したところ、誠実に仕事に向き合う姿を見るにつれ、当初の不安な気持ちが信頼へと大きく変わっていきました。そして犯罪歴がある人は定職に就きづらいこと、それゆえに再犯を繰り返してしまうという状況を知り、自分が何か立ち直りに協力できないかと思い、協力雇用主になりました。
② 協力雇用主の活動内容について、教えてください。
協力雇用主として、刑務所や少年院を出所・出院した人を雇用するとともに、福岡県協力雇用主会北九州支部副会長を務め、志に賛同していただける新たな協力雇用主の募集活動にも力を入れています。
なお、協力雇用主とは別に、自立準備ホームの運営や保護司としての活動もしています。
③ 協力雇用主の活動のやりがいを教えてください。
立ち直りのためには、仕事だけでなく住む場所も重要だと考え、当社では住むところのない人には社員寮を提供し、家財道具もすべて準備します。また会社負担で資格取得をサポートします。責任ある立場で仕事ができるようになり、責任感ややりがいを持って働いてくれるようになります。
協力雇用主として支援してきた彼らが、今では会社を支える一員として私をサポートしてくれる存在になっていることに気づいた時、心からやりがいを感じます。
④ 非行や犯罪をした人を雇用する上で工夫していることを教えてください。
雇用を重ねる中で気づいたことは、社員としての扱いと立ち直り支援を両立させる必要性です。支援対象者であっても、基本的には他の社員と同じように対応しますが、仕事はチームでするものなので、チームにうまく溶け込むことができるよう配慮することが重要です。毎日の仕事終わりにはしっかり顔を見て話をし、社員が気軽に相談できるよう、無料で私に電話がつながるフリーダイヤルを設置し、一人一人と向き合っています。社員間の仲間意識を高め、風通しの良いチームづくりが重要だと思います。
8 更生保護協会※34
更生保護法人広島県更生保護協会 理事 中村 琢也
① 広島県更生保護協会の成り立ちや現在の組織について教えてください。
当協会は、1935年(昭和10年)11月7日に「広島県連合保護会」として設立され、数度の変遷を経て1957年(昭和32年)8月10日に「財団法人広島県保護観察協会」となり、1996年(平成8年)4月1日より「更生保護法人広島県更生保護協会」として活動を続けています。現在、普通会員237名、賛助会員375名、特別会員3名であり、役員として理事が23名、監事2名、評議員35名となっています。安定した財政基盤を築くために、広く地元の経済界から理事・評議員に就任いただいて、会員の増強を図っています。また、チャリティー事業等を積極的に実施して、更生保護に関する啓発活動と同時に資金協力のお願いをしています。
② 活動内容について、教えてください。
「チャリティー事業」として音楽会や落語会等を主催し、御参加の皆様に更生保護に関するスライド等を御覧いただくなどの啓発を行うとともに、「社会を明るくする運動」※35では、市内の主要箇所にあるデジタルサイネージを利用して市民の皆様に、同運動のコンテンツを御覧いただいています。こうした啓発活動を通じて更生保護の趣旨に賛同いただいた賛助会員や篤志寄付者の皆様から頂戴した会費や寄付金を、関係団体の皆様に助成金として交付しています。さらに、地元で活躍しているスポーツ選手とともに少年院等への慰問活動を行ったり、子ども食堂への参加等の実践活動を行ったりしています。
③ 活動のやりがいや困難であったことを教えてください。
2018年(平成30年)2月に、更生保護啓発活動として、保護司の活動を紹介した映画「君の笑顔に会いたくて」の上映会を企画しました。その際には、広島県保護司会連合会や広島県更生保護女性連盟を始め、関係団体や教育・福祉関係の諸団体の皆様に御協力いただき、多数の参加を得て上映会を実施することができました。この他、地方公共団体と連携した取組として、更生保護マスコットキャラクターの“ホゴちゃん”の着ぐるみを作成し、「社会を明るくする運動広島県推進委員会」に寄贈しました。県内における各種の更生保護関連イベントに積極的に活用いただいております。

④ 広島県更生保護協会として今後の展望、新たに取り組みたいこと等について、教えてください。
これからの更生保護活動は、もう少し幅の広い観点からの取組が期待されていると考えています。青少年向けの相談窓口の設置や子ども食堂の運営等はその一例です。また、これからの拡充が期待される更生保護地域連携拠点事業※36に対しても、積極的に実施を検討していきたいと考えています。こどもの成長を地域全体で見守り支える社会貢献活動が重要視され、その地域や支える方々の手によって充実が図られていく社会の実現を目指して、より有効な啓発活動や関係機関・団体との連携構築を行っていきたいと考えています。
Column8 持続可能な保護司制度の確立に向けた検討会の取組
法務省保護局
我が国の更生保護は、慈愛の心に基づく明治時代の免囚保護事業に源を発し、多くの民間篤志家の努力により、世界に類を見ない官民協働態勢のもとで発展を遂げてきた。その中でも保護司は、更生保護制度の中核を担っている。その地道な活動の積み重ねは、刑事司法の領域にとどまらず、安全に安心して暮らせる地域社会、ひいては日本社会の基盤を形成するもので、保護司は社会にとっての貴重な財産ともいうべき存在である。
1950年(昭和25年)に保護司法が制定され、現在の保護司制度の骨格が作られて以降、全国の保護司は、「人は変われる」という信念のもと、同じ地域に住む隣人の一人として、罪を犯した人や非行のある少年たちの立ち直りを支援するとともに、広報啓発活動や犯罪予防活動に積極的に取り組んできた。
この長年の活動実績を踏まえ、1998年(平成10年)には、保護司組織の位置付けを明確化するとともに、保護司及び保護司組織に対する地方公共団体からの協力規定を新設するなどの保護司法の改正が行われるに至った。
また、2021年(令和3年)に第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)のサイドイベントとして開催した「世界保護司会議」では、「世界保護司デー」の創設等を盛り込んだ「京都保護司宣言」が採択されるなど、“HOGOSHI”の輪は、我が国の枠を超えて世界への広がりを見せている。
一方で、日本国内では、保護司の高齢化が進んでいる上、担い手の確保も年々困難となっている。その背景として、地域社会における人間関係の希薄化といった社会環境の変化に加え、保護司活動に伴う不安や負担が大きいことが指摘される。
上記のように、時代を超えて承継されてきた保護司制度の本流をしっかりと見据え、次世代に受け継いでいくことが求められる中、2023年(令和5年)3月17日に閣議決定された「第二次再犯防止推進計画」では、「持続可能な保護司制度の確立に向けた検討・試行」(【施策番号64】参照)が盛り込まれた。
持続可能な保護司制度の確立に向けた検討・試行【施策番号64】
法務省は、時代の変化に適応可能な保護司制度の確立に向け、保護司の待遇や活動環境、推薦・委嘱の手順、年齢条件及び職務内容の在り方並びに保護観察官との協働態勢の強化等について検討・試行を行い、2年を目途として結論を出し、その結論に基づき所要の措置を講じる。
これを受け、法務省では、保護司や外部有識者等から構成される「持続可能な保護司制度の確立に向けた検討会」※37を設置した(令和5年5月17日法務大臣決定)。
検討会では、第二次再犯防止推進計画に例示されている事項に加え、これら実務的な課題を横断的に貫く理念として「保護司の使命」を検討することとしている。
2023年(令和5年)5月以降、定期的に検討会を開催して検討を進めることとしており、2024年(令和6年)に迎える更生保護制度施行75周年の節目に合わせて、一定の結論を出すことを目指している。


Column9 保護司制度の国際発信
法務省保護局
1.保護司制度の国際発信の意義
皆さんは、保護司制度を知っていますか。保護司とは、罪を犯した人と同じ地域の一員として、罪を犯した人の良き相談相手となり、その再犯防止や立ち直り支援に大きな貢献をしているボランティアです。
近年、フィリピンやケニアでは日本の保護司制度を参考にしたボランティア制度が導入されるなどしていますが、世界において保護司制度が広く認められているとは言い難い状況にあります。
国際発信を通じて保護司制度の国際的な認知度を一層向上させることは、多くの国々において再犯防止の取組を進める上での参考となり、世界全体の安全・安心な社会づくりに寄与するものであると考えています。
2.国際会議等における具体的な国際発信の取組
保護司制度の国際発信に関する主な取組について紹介します。
(1)第1回アジア保護司会議(2014年(平成26年)、東京)
保護司制度やそれに類するボランティア制度を導入しているアジア諸国等(韓国、フィリピン、シンガポール及びタイ。オブザーバーとして中国及びケニア。)から保護司等のボランティアや政府関係者等が集い、それぞれの制度や現状、課題について発表が行われました。会議の総括として、保護司の国際的ネットワークの構築などを盛り込んだ「アジア保護司会議における東京宣言」が採択され、この会議を契機に、日本の保護司制度の国際発信が活発になりました。
(2)第2回アジア保護司会議(2017年(平成29年)、東京)
第1回会議に引き続き、アジア諸国等から参加者が集い、保護司の社会的認知度の向上をテーマに議論が行われました。社会内処遇に関する国際会合である世界保護観察会議に併せての開催だったため、保護司に類似した制度のない国の方々にも、実際の保護司活動を知っていただく良い機会になりました。
(3)世界保護司会議(2021年(令和3年)、京都)
第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)のサイドイベントとして、アジア諸国のほか、ヨーロッパや北米等からの参加者も得て開催され、保護司を始めとする地域ボランティアが再犯防止の取組に参画することの重要性等について議論されました。本会議では、「京都保護司宣言」の採択を通じ、「世界保護司デー」の創設を目指すことなど、保護司に代表される民間ボランティアを世界に発信・普及させることの重要性等が確認されました。(詳細は令和3年版再犯防止推進白書の特集2「京都コングレス」参照。)
法務省保護局では、保護司組織や関係国とも連携しながら、今後とも保護司を始めとする地域ボランティアの更なる発展と普及に向けた国際発信を推進し、「誰一人取り残さない」社会の実現に取り組んでまいります。


Column10 更生保護地域連携拠点事業の取組
更生保護法人旭川更生保護協会 地域支援コーディネーター 澤田 弘志
国からの委託事業も初めて、事業内容も新規と初物尽くしで取り組んだ「更生保護地域連携拠点事業」(【施策番号92】参照)では、保護観察期間を終えた人、刑務所を満期で出所した人等が安心して相談できる“人と場所(居場所)づくり”のため、2022年(令和4年)10月1日から手探り状態で地域の支援ネットワーク構築等を進めてきました。その過程で感じたことなどを具体的な事例を交えて、御紹介したいと思います。
それでは、地域支援ネットワークの構築からお話させていただきます。
旭川保護観察所管内は、約22,856平方キロメートルと四国4県と京都府を足した広さで、管内の稚内市から旭川市間は259キロメートル、紋別市から旭川市間は180キロメートル離れています。担当するエリアが余りにも広いため、旭川市外に住む支援対象者の視点に立てば、旭川市は身近で気軽に訪れることのできる相談場所とは言い難いのが実情です。
最初は、旭川地域のネットワークを構築し、次に、遠隔地にも支援対象者がおり、支援が届きにくいという課題を解消するため、稚内地域と紋別地域のネットワーク構築に取り組みました。ネットワーク構築のために訪問した支援機関・団体に対して、事業の説明とネットワークへの参画を依頼する際には、保護観察所の御協力のもと作成した2種類(支援者向け、支援対象者向け)のパンフレットが、限られた時間で御理解いただくための効果的なツールとなりました。
初めのうちは、支援機関・団体からネットワークに参画するメリットを求められ大変困惑しましたが、事業成果が再犯防止につながり、安全・安心な地域づくりに役立つものとお話しし、理解を得られネットワークに参画していただきました。地域支援コーディネーターには、更生保護の知識の他に営業力が不可欠ではないかとさえ思ったところです。
支援事例の一つとして、ハローワークから相談要請があった50代男性の事例を御紹介します。
ハローワークがネットワークの一員であり、対応が難しい生活困窮の相談であったことから、連携相談として“つながった”ものです。支援対象者は、怪我により就労困難となり、生活困窮に陥っていました。じっくり時間を掛け、支援対象者から相談に至った経緯と内容を聞き取り、社会福祉協議会に支援対象者とともに訪問し、必要な支援を話し合い、「緊急小口資金」を申し込むこととなりました。
ただし、貸付金の実行までに日数を要し、この支援対象者は貸付実行日までのつなぎ資金が十分でなかったため、いつでも連絡が取れるようにするなど、日常生活の見守りをしっかりと行うこととなりました。支援までに要する期間を短縮できる制度が必要ではと考えさせられた事例でもありました。
最後に、この事業の今後の課題をお話しします。支援対象者が再び過ちを繰り返さないため、この事業の周知について、支援機関・団体におけるパンフレットの配布だけではなく、効果的な方法がないか検討する必要があります。加えて、各地域のネットワークの構築と並行して地域連絡会議を随時開催していくことが、各支援機関・団体スタッフの継続した意識づけには重要なものと感じています。
また、更生保護という言葉の認知度の低さをいかに向上させていくかという点や、支援対象者の目線に配慮した姿勢等を踏まえ、今後、どのように取り組んで行くべきか考えることが大切ではないかと感じています。



- ※22 令和4年安全安心なまちづくり関係功労者表彰の受賞者及び功績概要
(https://www.moj.go.jp/content/001390247.pdf) - ※23 篤志面接委員
【施策番号98】参照 - ※24 暴力団離脱指導
【施策番号73】参照 - ※25 教誨師
【施策番号98】参照 - ※26 健康運動指導
【施策番号35】参照 - ※27 保護司
【指標番号15】参照 - ※28 更生保護サポートセンター
【施策番号93】参照 - ※29 保護司候補者検討協議会
【施策番号90】参照 - ※30 更生保護女性会
【施策番号59】参照 - ※31 BBS会
【施策番号59】参照 - ※32 ともだち活動
【施策番号65】参照 - ※33 協力雇用主
【施策番号1、2】参照 - ※34 更生保護協会
保護司、協力雇用主、更生保護女性会、BBS会、更生保護法人等更生保護に協力する民間人・団体に対して助成、研修会の実施、顕彰等を行い、その活動を支援する団体。全国組織である日本更生保護協会と、各地方更生保護委員会や保護観察所に対応する形で更生保護協会がある。 - ※35 社会を明るくする運動
【施策番号101】参照 - ※36 更生保護地域連携拠点事業
【施策番号92】参照 - ※37 持続可能な保護司制度の確立に向けた検討会
検討会の議事録等は法務省ホームページで公表している。
https://www.moj.go.jp/hogo1/kouseihogoshinkou/jizokuhogo05.html