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平成11年版 犯罪白書のあらまし 〈第5編〉 犯罪被害者と刑事司法

〈第5編〉 犯罪被害者と刑事司法
1 犯罪被害とその国家的救済
 (1) 犯罪被害者数の推移第5表参照
 警察に認知された犯罪に係る事件の被害者数を見ると,平成10年には,交通関係業過を除く犯罪により1,350人が死亡し,重傷者が約2,500人,軽傷者が約2万4,000人に達しており,交通事故による死亡者は9,200人余り,負傷者が99万人余りに上っている。また,財産犯による被害者は約170万人で,被害総額は約2,650億円に達しており,性犯罪の被害者も,強姦が約1,870人,強制わいせつが約4,250人に上っている。
 (2) 現行刑事手続における被害者への配慮
 我が国では,被害者に犯人の処罰を求めて告訴を行う権利が認められ,処分結果が告訴人に通知されるほか,被害者に対して,事件の処理結果や判決結果等を通知する制度や,検察審査会への審査申立て及び管轄地方裁判所に対する付審判請求等,加害者が不起訴となった場合の救済制度等も設けられている。また,被害の軽重や被害者の被害感情,加害者の被害者に対する謝罪,弁償及び示談の有無等は,起訴便宜主義の下での検察官による訴追の要否の判断や裁判所における量刑の判断に当たっての考慮要素となり得るものである。
 一方,証人威迫罪やいわゆる権利保釈の除外事由に関する規定等,被害者が加害者から不当な威迫を受けることを防止するための規定や,被告人・傍聴人の退廷や裁判所外・公判期日外の証人尋問に関する規定等,被害者等が証言する際の負担を軽減するための規定も設けられている。
 また,被害者から加害者に対する民事責任の追及が,加害者に賠償能力がないことの事情があって効果をあげ得ない場合があるため,一定の範囲内で国が直接被害者の救済に当たる制度として,(1)生命,身体を害された被害者及びその遺族に対して一定の給付を行う,犯罪被害者等給付金支給法に基づく給付金支給制度のほか,(2)自動車損害賠償責任保険法に定められたものもあり,また,事実上被害者救済の機能を営むものとして,証人等の被害等の防止に関する法律に基づくものがある。
 さらに,犯罪者の処遇においても,受刑者に対して,被害者及びその家族等に謝罪する意識やしょく罪意識をかん養するための指導が行われたり,被害弁償などの内容やこれに対する努力の有無が,地方更生保護委員会における仮出獄の許可の判断に当たって考慮される等,被害者に対する謝罪,被害弁償等を加害者に促すための配慮がなされている。
2 犯罪被害の実態と被害者の捜査・裁判に関する認識・要望等
 法務総合研究所では,犯罪被害者又はその遺族の被害の実態等を明らかにするため,平成9年1月1日から11年3月31日までの間に有罪判決の言渡しのあった殺人等,業過致死,傷害等,業過傷,窃盗,詐欺等,強盗,恐喝,強姦及び強制わいせつの十罪種の犯罪の被害者及び遺族合計1,132人を対象とする調査を行った。
 (1) 事件による影響
  ア 認知件数・検挙人員(第6表参照

 殺人等・業過致死の遺族や強姦・強制わいせつの被害者の多くが,多様な精神的影響を受けている。「何をする気力もなくなった」とするものの比率は,殺人等・業過致死の遺族で70%を超え,「病気になったり,精神的に不安定になった」の比率は,殺人等・業過致死の遺族及び強姦・強制わいせつの被害者でおおむね50%以上となっている。また,「夜眠れなくなったり,悪夢に悩まされるようになった」は,殺人等及び強姦で60%以上となっており,「感情がまひした(喜びや悲しみを感じられない)ような状態となった」や「自分としての実感がない(自分が自分でない)ような状態となった」の比率も,殺人等・業過致死の遺族で30%台から40%台,強姦の被害者で20%台である。
 その他の罪種でも,80%台の者が,何らかの精神的影響を受けたとしている。
  イ 生活面への影響

 生活面で何らかの影響があったものは,殺人等・業過致死の遺族では,80%以上に上っており,「家庭が暗くなった」とするものが,ほぼ70%に達し,「子育てに影響があった」がほぼ20%,「家庭が崩壊した」がほぼ10%である。
 強姦及び強制わいせつの被害者では,70%台のものが,生活面で何らかの影響があったとしており,「引っ越さなければならなくなった」も,強姦で20%を超え,強制わいせつでは約13%となっている。また,「仕事や学校を続けられなくなった」は,強姦で約18%である。なお,強姦及び強制わいせつの被害者で,「親しい人との関係が悪くなった」とするものの比率は,それぞれ約18%,約15%である。
 その他の罪種でも,傷害等,業過傷,詐欺等及び恐喝では,過半数の者が生活面で影響を受けており,「生活が苦しくなった」とするものの比率は,傷害等(約43%),業過傷(約41%),詐欺等(約37%)で,「仕事や学校を続けれられなくなった」の比率は,業過傷(約26%),傷害等(約18%)などで高い。
 (2) 謝罪及び示談・賠償金支払等の状況等
  ア 加害者側からの謝罪

 加害者側が「謝罪した」とするものの比率は,全体では約48%であり,業過致死及び業過傷で60%台から70%台と高くなっているのに対し,殺人等では約25%,窃盗では約35%であり,その他の罪種では,40%から50%台となっている。
  イ 示談

 示談が「成立した」とするものの比率は,全体では約36%であり,業過致死で約58%と高くなっているのに対し,その他の罪種では,殺人等以外の罪種で30%台から40%台で,殺人等では約10%にすぎない。これに「交渉中である」を加えたものの比率を見ても,業過致死(約85%)及び業過傷(約68%)以外の罪種では,いずれも50%を下回っており,殺人等においては約20%にすぎない。
  ウ 民事訴訟提起状況

 各罪種共に,「起こしておらず,今後も起こすつもりはない」とするものの比率が最も高く,全体では約57%である。「起こした」と「今後起こす予定である」を併せたものの比率は,殺人等(約26%),業過致死(約23%)及び傷害等(約22%)で高い
 (3) 捜査・刑事裁判に関する認識等
  ア 捜査協力の負担

 捜査に対する協力に負担を感じたものが全体では約34%であり,特に,強盗,強姦及び強制わいせつでは,いずれもほぼ50%と高くなっている。
 負担に感じた内容については,全体では,「他人に知られないような配慮が足りなかった」,被害者側の「言い分を聞こうとしなかった」,「しつこく聞いてきた」,「呼び出される際,自分の都合に対する配慮が足りなかった」,被害者に「落ち度があるようなことを言われた」,「被害者(遺族)としての悲しみや苦しみをわかっていないと感じた」とするものの比率が,いずれも10%未満であるのに対し,「時間的拘束が大きかった」,「警察と検察庁で,同じことを聞かれた」,「呼び出しの回数が多かった」は,いずれも10%を超えている。
 もっとも,「被害者(遺族)としての悲しみや苦しみをわかっていないと感じた」が殺人等・強姦では20%前後となっている。また,強姦及び強制わいせつでは,「女性の気持ちをわかっていないと感じた」,「担当者が男性だった」が少なくなく,特に殺人等,強姦及び強制わいせつにおいては,被害者等の心情への配慮が求められているといえる。
  イ 証人出廷の負担

 証人として出廷した被害者等169人のうち,負担を感じたものは,全体では約46%で,特に,強盗,強姦及び強制わいせつで,いずれも70%を超えている。
 負担に感じた内容は,全体では,「被告人がいるところでは証言しづらかった」の比率が最も高く,特に強姦・強制わいせつでは,その比率が50%を超え,被告人の面前での証言が被害者等に相当の心理的負担をもたらしていることを示している。
  ウ 刑事裁判を傍聴した際の感想

 裁判を傍聴した被害者等200人のうち,不満が残ったものは,全体では,約74%であり,罪種別では,殺人等・業過致死で共に80%を超えている。
 不満が残った内容については,強制わいせつを除くすべての罪種で「加害者に反省の態度がみられなかった」とするものの比率が最も高く,殺人等,業過致死,傷害等及び窃盗では60%を超えている。また,「被害者(遺族)の気持ちが考慮されていない」の比率は,殺人等,業過致死及び強姦で40%を超え,被害者側の「言い分が反映されていない」の比率も,殺人等・業過致死で30%台と,他の罪種と比べ高くなっている。
 (4) 裁判結果その他の情報の認識等
 加害者の裁判結果については,全体では50%以上の者が知っており,特に,殺人等,強姦,業過致死及び傷害等では,知っているとするものの比率が高い。
 裁判の内容について,全体では,「軽すぎると思っている」とするものの比率が約54%と最も高く,「適当であると思っている」の比率は約23%,「重すぎると思っている」の比率は0.2%にすぎない。特に,殺人等及び業過致死では,「軽すぎると思っている」とするものの比率が,それぞれ約81%,約65%と高くなっており,多くの遺族が,軽すぎるという不満を抱いていることがうかがわれる。
 (5) 被害感情
 現在,加害者を「許すことができない」とするものの比率は,全体では約64%であり,罪種別では,殺人等が約91%で最も高く,次いで強姦の約84%である。一方,「許すことができる」とするものの比率は,全体では約16%にすぎず,罪種別では,殺人等,傷害等,強姦及び強制わいせつで低く,いずれも10%未満である。
 (6) 捜査・裁判に対する要望等
 捜査・裁判等に対する要望等で,最も多いのは,刑事司法機関に対する情報提供への希望・不満を述べるものであった。また,取調べの日時や被害者等の立場・プライバシー等への配慮を求めるものが多いほか,被害者の権利が保障されていないことに対する不満を訴えるもの,被害者が刑事手続から排除されていることへの不満や刑事手続への参加の希望を訴えるもの,被害者等の気持ちなどについて,刑事手続で意見表明することを希望するものなどがあった。
 このほか,刑事司法機関に対する要望として,加害者側の報復等からの保護,加害者に対する,被害者等への謝罪・賠償金支払等の指導・支援,被害者支援体制の整備等多方面にわたる要望が寄せられた。
3 犯罪被害の回復等の実態
 法務総合研究所では,法務省刑事局が全国の地方検察庁の協力を得て実施した「犯罪被害の実態調査」(平成9年6月の1か月間に,有罪判決の言渡し,略式命令請求及び不起訴処分が行われた事件3,372件を対象としたもの。)の結果を分析した。
 (1) 財産犯の被害回復
 財産犯全体では,被害全額が回復されている事案が約66%に上っており,被害が全く回復されていない事案は約23%である。
 また,被害額と被害回復状況を見ると,被害が少額の事案では,被害全額が回復されている事案の占める比率が高く,被害額が大きくなるに従い,その比率が低くなっているが,被害額500万円を超え1,000万円以下の事案でも,30%を超える事案で被害が全額回復されている。このように,被害全額が回復されている事案の比率が,被害額が少額の事案だけではなく,高額の事案でもかなり高い数値となっているなど,刑事手続の過程で被害回復が図られていることが認められる。
 (2) 財産犯の被害回復状況と処分内容第3図第4図参照
 財産犯全体について,被害額・被害回復の程度別に,起訴猶予の比率及び実刑判決の比率を見ると,全体として,被害額が多額になるに従い,起訴猶予の比率が低く,実刑判決の比率が高くなっており,同程度の被害額であっても,被害回復率が高いほど,おおむね起訴猶予の比率が高く,実刑判決の比率は低くなっている。被害額1万円以下の事案について見ると,起訴猶予の比率が,被害全額回復では80%近くに達しているのに対し,全く被害回復なしでは30%程度にとどまっている。他方,被害額500万円を超え1,000万円以下及び1,000万円を超える事案について見ると,実刑判決が,全く被害回復なしでは,いずれも80%を超えているのに対し,被害全額回復では30%から50%程度となっている。
 このように,財産犯では,被害額や被害回復状況が,訴追の要否及び量刑に当たっての判断要素の一つとされていることがうかがえ,このことが,刑事手続の中で被害者に対する弁償や示談を促す一因となっているものと考えられる。
 (3) 生命・身体犯及び性犯罪の示談状況
 生命・身体犯では,示談が成立したものの占める比率(示談成立率)は,傷害なしでは約17%と低いが,加療期間が2週間以下及び2週間を超え1か月以下の場合は,いずれも30%近くを占め,1か月を超え3か月以下では約37%と高くなっている。これに対し,3か月を超える傷害では12.5%,死亡では2.9%と極端に低くなっている。
 性犯罪では,示談成立率が,生命・身体犯と比べて全体として高くなっており,強制わいせつでは50%近くに達し,強姦でも30%を超えている。
 (4) 生命・身体犯及び性犯罪の示談状況と処分内容等
 生命・身体犯について,被害の程度別,示談の成否別に処分内容を見ると,傷害なし及び加療期間2週間以下の比較的軽微な事案では,示談成立の事案において起訴猶予の比率が,示談未成立の事案において略式命令の比率が,それぞれ高い。一方,加療期間3か月を超える傷害事案及び死亡事案においては,示談が成立したものは,それぞれ1件と少ないが,いずれも執行猶予になっているのに対して,示談未成立の場合では,実刑の比率が,加療期間3か月を超える傷害事案で30%近く,死亡事案で80%近くに上っている。
 性犯罪について,罪名別,示談の成否別に処分内容を見ると,強制わいせつでは,示談成立事案の半数以上が告訴取消しで不起訴となっており,公判請求された場合でも,示談が成立した事案は,ほとんど(12件中11件)が執行猶予となっているのに対し,示談未成立の事案は,公判請求された事案の半数近く(25件中12件)が実刑となっている。また,強姦で公判請求された場合では,示談未成立の事案の90%以上(36件中35件)が実刑となっているのに対して,示談成立の場合は,半数以上(16件中9件)が執行猶予となっている。
 生命・身体犯及び過失犯については,被害者死亡等結果が重大な事案で,示談未成立の場合は実刑の比率が高くなるなど,示談の成否が処分内容に影響を与えていることがうかがえる。また,性犯罪では,被害者との示談の成否が,量刑等に当たっての重要な要素となっていることがうかがわれる。
4 加害者が長期刑で受刑中の犯罪被害者等の意識
 法務総合研究所では,平成9年9月30日現在で仮釈放の要件となる法定期間を経過した,無期刑を含む長期刑受刑者に係る生命・身体犯(殺人,強盗,強姦,強制わいせつ,傷害及びその他の犯罪により人を死傷させたものをいう。)の被害者及びその遺族を対象とする面接調査を実施した。調査対象事件は94件で,そのうち被害者本人を対象とするものが5件で,その余は遺族を対象とするものである。
 なお,事件から調査実施日までの平均経過年数は約12年8か月である。
 (1) 事件が被害者等に及ぼした影響
  ア 日常生活面への影響(第5図参照

 日常生活面への影響が「あった」とするものは86.2%で,「配偶者」と「父母」では,影響があったとするものの比率が9割を超えている。影響の内容は,「家庭が暗くなる」が最も多く,次いで,「マスコミの取材・報道による不快感」,「子どもの養育面での影響」となっている。
  イ 精神的影響

 精神的影響が「あった」とするものは90.4%で,「被害者本人」及び「配偶者」では全員が精神的影響が「あった」としており,いずれの関係においても,その8割以上が,精神的影響が「あった」としている。影響の内容は,「悪夢・不眠・熟睡できない」及び「事件を思い出す・もう一度事件に遭った様な恐怖を体験する」が最も多い。
  ウ 影響の残存

 事件が及ぼした影響に関して,今も困っていることが「ある」としたものは41件(43.6%)で,その内容は,日常生活面に関するものが10件,精神的影響に関するものが33件となっており(重複選択による。),精神的影響は,日常生活面への影響と比較して,長期間を経てもなお続いていることを示している。
 (2) 加害者に対する感情及び社会復帰に対する意見等
  ア 加害者に対する感情等(第6図参照

 加害者に対する被害者等の感情では,「憎い」及び「かかわりたくない」とするものが多く,加害者に対する感情の変化については,「変化なし」とするものが67.0%となっている。
 変化したものの変化の要因については,「時の経過とともに」が大半で,「謝罪や賠償が成立した」を挙げたものはない。一方,事件からの経過年数と加害者に対する感情との関連を見ると,刑名の大半が無期懲役である,経過年数が15年以上の事案において,「憎い」とするものが3分の1を占めているなど,年数が経過してもなお加害者に対する感情が融和しないものが少なくないことがうかがわれる。
  イ 判決結果に対する認識

 加害者に対する判決結果については,「知っている」とするものが約8割を占め,さらに,結果を知りたくないとしたものを除き,判決に対する評価を尋ねたところ,「軽すぎる」が65.5%,「ちょうどよい」が14.9%で,「重すぎる」と答えたものはなかった。
  ウ 加害者の社会復帰に対する意見等

 加害者の社会復帰(仮釈放)に対しては,「絶対反対」が53.2%で半数を超えているが,「仕方がない」も28.7%となっており,「本人のためならそれでいい」は11.7%,「一日も早く」は2.1%となっている。事件からの経過年数と加害者の社会復帰に対する意見との関連を見ると,「絶対反対」とするものは,経過年数15年以上でも56.7%に達しており,刑名の大半が無期懲役であるこの種の事件において,年数が経過してもなお加害者の社会復帰に反対する被害者等が少なくないことがうかがえる。
 なお,釈放時期など加害者に関して「知りたい事項がある」としたものは,43.6%である。
5 犯罪被害に対する加害者の意識
 法務総合研究所では,全国の刑務所,拘置所,少年刑務所及び少年院の協力を得て,(1)平成10年10月27日から11年2月26日までの間に,全国の刑務所等に入所中の受刑者のうち,事件(事件が複数の場合は,そのうち,本人が最も重大な被害を与えたととらえるもの)の罪名が殺人等,業過致死,傷害,業過傷,窃盗,詐欺等,強盗,恐喝及び強姦等である者2,200人,及び(2)10年11月16日現在,全国の少年院に在院している少年のうち,少年院送致となった事件(事件が複数の場合は,そのうち,本人が最も重大な被害を与えたととらえるもの)の非行名が,殺人等,傷害,窃盗,強盗,恐喝及び強姦等である者2,098人を,それぞれ対象として,犯罪被害及び被害者に対する意識・感情等についての特別調査を行った。
 (1) 犯罪被害に関する認識第7図第8図参照
 受刑者,少年院在院者共に,ほとんどの者が被害者にどの程度の被害を与えたかを認識しており,精神的被害についても,それぞれ半数以上の者が,与えたことを認識していると答えている。罪種別では,被害者に「大きな精神的被害を与えた」とするものは,受刑者の強姦等(79.7%),強盗(61.6%)及び少年院在院者の強姦等(89.7%)で高く,被害者の家族が「精神的なショックを受けた」とするものは,受刑者の業過致死(86.2%)・強姦等(68.4%)・殺人等(67.8%)及び少年院在院者の殺人等(89.5%)・強姦等(87.2%)で高くなっている。
 被害者やその家族の生活への影響の認識については,「影響はない」とするものが,少年院在院者では,被害者に対しては約11%,被害者の家族に対しては約10%であるのに対し,受刑者では,いずれも約23%と高くなっており,特に,傷害及び恐喝では,「影響はない」とするものが,被害者に対しては,それぞれ33.3%,29.6%,被害者の家族に対しては,それぞれ34.7%,34.5%と,他の罪種に比べて高くなっている。
 (2) 被害者等に対する意識
  ア 被害者等の気持ちを聞いたことの有無

 被害者やその家族の気持ちを聞いたことがあるかについては,受刑者で62.2%,少年院在院者では71.8%の者が「聞いたことはない」と答えている。また,被害者の気持ちについて詳しく知りたいかについては,少年院在院者では,「知りたいと思う」とするものが「知りたいとは思わない」とするものを大きく上回っているが,受刑者では,「知りたいとは思わない」とするものが6割を超えている。
  イ 被害者等の感情に関する認識

 被害者やその家族が抱いている感情については,少年院在院者では,被害者等は「一生,自分をにくみ続ける」,「自分がいつまでも施設から出てこないことをねがっている」と思うとするものが,それぞれ43.3%,35.0%となっているのに対し,受刑者では,それぞれ16.1%,11.7%にとどまっている。少年院在院者では,被害者が強い被害感情を持ち続けていると認識しているものが多いのに対し,受刑者では,被害感情が融和していると認識しているものが比較的多いことがうかがえる。
 (3) 被害者に対する感情等
  ア 被害者等に対する感情(第9図参照

 被害者に対し申し訳ないと思っているとするものが,受刑者では89.2%,少年院在院者では92.9%となっているが,受刑者では恐喝(65.8%)及び傷害(66.7%)で,少年院在院者では傷害(85.7%)で,その比率が他の罪種に比べて低くなっている。また,受刑者のうち,暴力団に関係しているものについては,申し訳ないと思っているとするものは6割にとどまっている。
  イ 被害者に対する感情の変化

 申し訳ないとする気持が事件後から現在までの間に強まったとするものは,受刑者では33.6%,少年院在院者では60.2%に上っている。強まったきっかけとして,施設の職員の面接や指導を挙げるものが,受刑者で40.3%,少年院在院者では66.2%となっている。
 (4) 被害弁償等
  ア 謝罪

 実際に被害者に「謝罪した」とするものは,受刑者で36.8%,少年院在院者で17.5%であるが,「謝罪するつもりはあるが,していない」とするものは,受刑者では52.7%,少年院在院者では72.9%である。一方,「謝罪するつもりはない」とするものは,受刑者で10.5%,少年院在院者で9.5%であり,特に,傷害(25.7%)及び恐喝(23.3%)の受刑者で高くなっている。
  イ 示談

 被害者やその家族との示談が成立しているとするものは,受刑者で34.7%,少年院在院者で26.8%であり,これを含め,示談について何らかの努力をしているとするものは,受刑者では45.3%,少年院在院者では35.5%である。示談をするつもりがないとするものは,受刑者では7.1%,少年院在院者では3.4%であるが,受刑者の恐喝(18.5%)及び傷害(15.6%)では,他の罪種に比べて高くなっている。
  ウ 弁償

 被害者やその家族に弁償したとするものは,受刑者で34.8%,少年院在院者で28.1%であり,これを含め,金銭的償いの意思を表明しているものは,受刑者では76.5%,少年院在院者では60.5%である。弁償するつもりはないとするものは,受刑者で8.5%,少年院在院者で4.1%にとどまっているが,受刑者の恐喝(24.1%)及び傷害(19.5%)では,他の罪種に比べて高くなっている。
 (5) 償いに対する意識
 罪の償いとして,「社会で更生すること」が重要であると感じているものが,受刑者及び少年院在院者について,それぞれ半数を超えており,「被害者やその家族に謝罪すること」及び「被害者やその家族の許しを得ること」とするものは,それぞれ1割程度となっているが,「被害者やその家族に謝罪すること」とするものが受刑者の業過致死(36.1%)及び少年院在院者の殺人等(20.6%)で,「被害者の家族の許しを得ること」とするものが受刑者の殺人等(30.6%)及び業過致死(26.2%)で高くなっており,生命を侵害することとなった者では,償いを被害者側とのかかわりの中でとらえるものの比率が高くなっている。
6 諸外国における被害者施策
 1985年に,国連総会において,犯罪及び権力濫用の被害者に関する司法の基本原則の宣言が採択されているほか,諸外国では,刑事手続による被害者の地位の確立・強化,被害者の意見陳述の機会の確保,刑事手続における被害回復,証人尋問における被害者の保護・支援等に関して様々な施策が講じられている。

● 目次
◯ 〈はじめに〉
◯ 〈第1編〉 犯罪の動向
◯ 〈第2編〉 犯罪者の処遇
◯ 〈第3編〉 少年非行の動向と非行少年の処遇
◯ 〈第4編〉 各種の犯罪と犯罪者
◯ 〈第5編〉 犯罪被害者と刑事司法
◯ 〈おわりに〉