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平成15年版犯罪白書のあらまし 〈第5編 変貌する凶悪犯罪とその対策〉

〈第5編 変貌する凶悪犯罪とその対策〉

 はじめに
   治安悪化の実相を解明するため,暗数が少ないとされる凶悪犯罪(殺人及び強盗)に焦点を当て,「地方裁判所で死刑・無期懲役の求刑がなされた重大事犯の動向に関する特別調査」及び「強盗事件を犯す少年の実態とその問題性に関する特別調査」を全国規模で実施し,統計資料に基づく分析に加え,これらの調査結果を基に,凶悪犯罪の実態と背景・要因等を分析・検討するとともに,対策と課題についても論及した。

 最近における凶悪犯罪の概況第6図アイウ参照
   殺人の認知件数は,平成3年ころから横ばいないし微増傾向にあり,検挙件数と検挙人員に大きな差はなく,単独犯が多い傾向がうかがわれる。強盗の認知件数は,2年から増加傾向に転じ,8年以降急増しており,14年には7年の3倍に達している。検挙人員が検挙件数を上回る傾向があり,強盗に共犯事件が相当数含まれていることを示している。また,強盗では,ここ数年,侵入強盗,非侵入強盗とも増加傾向にあるが,特に後者,中でも路上強盗の増加傾向が著しく,昼間より夜間の犯行が増加する一方で,重傷率が上昇傾向にある。

 凶悪犯罪の変化の特質を表す五つのキーワード
   凶悪犯罪の変貌を的確に理解するため,「若年犯罪者の変貌」,「暴力団と外国人犯罪者の変貌」,「社会的背景とその影響」,「犯罪発生の地域的変動」,「女性,未成年者,高齢者の被害の増加」の5つのキーワードに即して分析を進めた。

 (1)  若年犯罪者の変貌 (第7図 参照
   年齢別検挙人員人口比を見ると,殺人については,犯罪少年と高年齢層がやや上昇傾向にある。一方,強盗については,若年者,特に犯罪少年の人口比が平成8年以降急激に上昇しており,取り分け16,17歳の中間少年層の上昇傾向が顕著である。少年では,路上強盗が増加し,強盗の共犯率は成人に比して高くかつ上昇しており,動機は,遊興費充当/小遣い銭欲しさが大半を占めているほか,学職別で見ると無職少年とともに高校生が増加傾向にある。このような背景には,親の指導力低下や無職少年の増加,少年の意識における変化のほか,深夜営業飲食店等の増加等少年を取り巻く環境の変化がある。

 (2)  暴力団と外国人犯罪者の変貌 (第8図第9図参照
   暴力団関係者による殺人はおおむね減少傾向にある一方で強盗が増加傾向にある。財産犯に関しては,不況を背景に,従来型の恐喝からより安直ないし暴力的な強盗・窃盗の奪取犯等へとシフトする兆しが見られる。
 来日外国人の凶悪犯罪も増加傾向にあり,強盗では,正規滞在者及び不法滞在者による犯行がいずれも増加し,集団化が進む一方で,暴力団との連携事案も見られる。

 (3)  社会的背景とその影響
   無職者や経済的破綻者の増大等の社会的背景が,無職凶悪犯罪者の増加や強盗の動機の変化(生活困窮及び債務返済を動機とするものの増加)に影響を与えていると考えられる。

 (4)  犯罪発生の地域的変動
   最近5年間については,殺人・強盗とも,認知件数・検挙件数・検挙人員のいずれについても人口の多い県が多い傾向にあり,特に強盗の場合,東京及びその周辺の首都圏と大阪への集中ぶりが際立っている。発生率を見ると,殺人は高低の分布が全国に分散しているのに対して,強盗は東京及びその周辺と大阪に偏在している。
 過去20年間における地域的変動を見ると,殺人については,各都道府県間の発生率の増減格差は小さいが,強盗については,発生率の増減に大きな格差がある。増加が大きいのは,東京・大阪周辺のベッドタウン地域等であり,東京圏に関しては,発生率の増減におけるドーナツ化現象が生じている。
 来日外国人による殺人は東京が突出しているほか,その周辺に集中している。強盗は,殺人以上に東京が突出して全国の40%程度を占めている。

 (5)  女性・未成年者・高齢者の被害の増加第10図アイウ参照
   強盗では女性被害者が人数・比率ともに上昇している。未成年者については,未成年人口が減少しているにもかかわらず,強盗の被害者が増加している。高齢者を見ると,殺人・強盗ともに被害者数・比率が増加・上昇の兆しを示しており,今後の動向に注意する必要がある。
 凶悪犯罪による高齢者の被害件数が増加している背景としては,ア高齢化社会の出現,イ高齢者単身(独居)・夫婦のみ世帯の増加,ウ比較的金融資産を多く保有している高齢者世帯が多くなったことなどが挙げられる。

 特別調査―最近の強盗事犯少年の実態及びその問題性―
   強盗事犯少年の実態等を明らかにするため,全国の少年鑑別所に平成14年及び5年に入所した男子少年を対象に特別調査を実施した。

 (1)  共犯・事件のエスカレート化に関する分析(14年対象者)第11図参照
   共犯関係と犯行態様の関係を見ると,非侵入強盗の共犯率・多数共犯率が目立ち,共犯者数が増えるにつれて被害者を負傷させる程度が進んでいく傾向が見られる。また,事件に関する認識については,強盗事犯少年の半数以上が予想以上にエスカレートしたとの認識を有していた。

 (2)  動機・手口の着想等に関する分析(5年対象者と14年対象者との比較)
   5年対象者と14年対象者を比較すると,犯行場面における最関心事としては,金品奪取を挙げる者が増えており,その動機としては「遊興費欲しさ」「簡単に金品が手に入るのなら欲しい」の割合が増えている。犯行手口の着想については,共犯では「友人・先輩・共犯者から聞いた」,単独犯では「マスコミ報道や本などにヒントを得た」の割合が増えている。

 (3)  環境とのかかわり等に関する分析(14年対象者)第12図第13図参照
   家族関係では,14年対象者の六割は何らかの問題を抱えているほか,保護者の指導力については,「放任」の多さが目立っている。学校や社会への適応状況が悪く,世間については無関心ないし疎外感を抱いている者が半数を超えるなど,現実の社会から浮遊していると感じている少年が多い。また,「将来のことはあまり考えていない」者が4割近くいる。

 (4)  資質の特徴に関する分析(14年対象者)
   強盗事犯少年の多くが,集団場面では気分のままに行動し慎重な行動選択が困難であること,身近な人以外の立場を考えていないこと,手段を選ばずにその時々の物欲を満たそうとする傾向を有することがうかがえる。しかしながら,暴力に快感を覚えるような著しい攻撃性を有する少年は比較的少ない。

 (5)  最近の強盗事犯少年の問題性
   強盗事犯少年の問題性を要約すると,アその多くが,暴力に対する抵抗感が乏しく,思考や行動が短絡的で,他人への思いやりに欠ける,集団場面では慎重な行動選択が困難で,集団の一員として手段を選ばずにその時々の欲望を満たそうとする傾向が強いことがうかがわれること,イ家庭は,表面的には問題がないように映るものの,実は放任する保護者が多く,家庭機能が十分に働いていないこと,ウ社会の一員としての自覚に欠け,学校・職場その他社会不適応状況下にあること,が挙げられる。

 特別調査―重大な凶悪事犯の近年の動向―
   平成10年から14年の間に,全国の地方裁判所において,死刑又は無期懲役求刑がなされた殺人及び強盗の事件(重大事犯)のうち,前記期間内に第一審判決のなされたものについて,特別調査を実施した。調査対象とした被告人数は,殺人群が106人,強盗群が295人であり,事件数は,殺人群89件,強盗群222件である。

 (1)  行為者属性による分析
   犯行時の年齢を見ると,未成年者・20歳代の若年層が,殺人群で23.6%,強盗群で28.8%となっており,30~50歳代はいずれも7割弱である。若年者による重大犯罪を概観すると,取り立てて落ち度のない被害者に対し,集団の力を背景に激しい暴行や,リンチを加え,ついには殺害に至るという「エスカレート型犯罪」と呼ぶべき類型が認められた。中高年の犯罪者には,用意周到な完全犯罪志向の犯罪類型が散見される。また,外国人のみ,ないしは外国人と日本人の共犯による事件は26件を数え,来日外国人強窃盗団と暴力団が連携する事件も見られ,常習性の強い職業的強盗団の暗躍や連続強盗強姦犯の存在も認められた。

 (2)  動機・背景分析
   強盗の動機は,「生活費・送金資金のため」が最も多く,次いで,「遊興費のため」,「借財返済資金のため」,「債務を免れるため」となっており,借金がらみの動機が一般の強盗の場合に比して多い。
 そのほか,「窃盗から強盗への移行型犯罪」とでも呼ぶべき類型が48件認められた。

 (3)  行為・態様分析
   犯行の時間帯を見ると,殺人は,夜間を中心とした時間に65.6%が集中しているのに対し,強盗では日中と夜間がほぼ同程度の割合となっている。強盗の犯行場所は,7割近くが屋内犯行であり,就寝前に侵入する「上がり込み強盗」や「その他の屋内での強盗」が多くなっている。手口の面では,睡眠導入剤を始めとする薬物の悪用や,護身用具であるはずのスタンガン,催涙スプレーの悪用などが注目される。

 (4)  犯行の広域化
   車両等を用いて移動しつつ犯罪を行う事例が見られるなど,広域化している。

 (5)  被害者から見た分析
   重大事犯における死亡・重傷被害については,殺人・強盗一般の場合と比べ,女性比がやや高いといえる。また,強盗では,高齢の独居世帯がねらわれた事件が34件あった。重大事犯のうち,強盗について被害者と被告人の面識率は,6割を超えていることが注目される。

 凶悪犯罪の刑事処分と処遇の実情

 (1)  検察と裁判
   殺人,強盗とも嫌疑が十分に認められればほぼ9割以上が公判請求されており,公判請求人員は,近年,殺人がやや増加,強盗が急増している。科刑状況は殺人,強盗とも重罰化が進んでいる。少年に対する家庭裁判所の終局処理状況を見ると,殺人,強盗とも,少年院送致が増加傾向にあるなど,全体として保護処分の厳格化傾向が見られる。

 (2)  矯正施設における処遇
   強盗について新受刑者数が増加傾向にあり,新受刑者を見ると,初入者,L級受刑者,来日外国人の数が増加傾向にある。少年院新収容者では,殺人・強盗とも長期処遇対象者が増加傾向にある。

 (3)  更生保護
   保護観察処分及び少年院仮退院後の保護観察対象者に関する新規受理人員の推移を見ると,強盗については近年いずれも急増している。仮出獄後の保護観察対象者及び保護観察付き執行猶予者の新規受理人員を見ると,殺人ではともに減少傾向,強盗ではともに増加傾向にある。

 まとめ

 (1)  変貌する凶悪犯罪の特質と背景・要因
   強盗犯罪の実相に関し,その変動の特質は以下の5点に集約される。
  ア  少年を中心とした路上強盗の増加
     背景には,深夜営業店舗等の増加に伴う市民の深夜外出機会の増加,家庭の指導力低下,就業の困難化,少年の意識の変化等の事情がある。
  イ  成人を中心とした屋内強盗の増加
     背景には,不況による無職者の増加,経済的破綻者の増大,生活困窮・債務返済を動機とする犯行の増加等の事情がある。
  ウ  暴力団と来日外国人強盗犯の増加
     暴力団による恐喝に代わる金品獲得手段としての強盗の増加,正規滞在者と不法滞在者の犯行の増加と強窃盗団の登場等が見られる。
  エ  大都市圏への集中と近隣地域への拡散の兆候
  オ  被害の増加と深刻化(重傷率の上昇と女性・未成年者・高齢者等の被害者の増加)
 背景として,エスカレートしやすく共感性の乏しい少年や来日外国人等による荒っぽい犯行の増加等が見られる。

 (2)  対策と課題
  ア  防犯面での対策と課題
     街頭緊急通報装置(スーパー防犯灯)の設置,パトロール強化・犯罪に関する情報の市民への提供等の施策の充実に加え,官民連携した防犯活動の更なる充実・発展が重要である。
  イ  検挙・捜査面での対策と課題
     迅速・的確な検挙と徹底した捜査による事案の真相解明が不可欠である。少年犯罪については,早期かつ的確な対処が重要である。暴力団及び外国人による犯罪については,銃器の取締り,収益剥奪を活用した組織の弱体化,捜査情報の集積と共有化,不法入国者等を水際で阻止する対策が重要である。
  ウ  処罰面での対策と課題
     悪質重大な事案に対しては,被害者感情にも十分配慮しつつ厳しい量刑で臨むことが必要である。
  エ  矯正及び更生保護における対策と課題
     矯正施設では,被害者の視点を取り入れた教育の実施,罪の意識を覚せいさせる指導等地道な処遇の充実が,また,更生保護の分野においては,学校や地域社会等との協力関係の維持拡大が重要である。
  オ  刑事司法関係以外での対策と課題
     少年犯罪に対しては,家庭,学校,地域社会が関係機関と協力すること,また,薬物,手錠,催涙スプレー等犯罪に悪用されがちな物品の拡散に留意することが必要である。

 (3)  結語―凶悪犯罪の少ない住み良い社会を求めて―
   現下の犯罪情勢に適切に対応するためには,出入国・在留管理体制を含む刑事司法関係諸機関の人的・物的体制の整備等,刑事司法の充実を図ることが何よりも重要である。次に,しつけと教育の問題が重要であり,少年の心身に悪影響を与える児童虐待や配偶者からの暴力(ドメスティック・バイオレンス)についても,その防止を図る必要がある。さらに,地域社会の絆の復活と社会環境の整備も重要である。刑事司法関係諸機関,関係官庁,家庭・学校・職場・地域社会等すべての組織・個人が,お互いの垣根を越えて一致協力し,凶悪犯罪を防止する努力を続けていくことが肝要である。



● 目次
 
○ 〈はじめに〉
○ 〈第1編 平成14年の犯罪の動向〉
○ 〈第2編 犯罪者の処遇〉
○ 〈第3編 犯罪被害者の救済〉
○ 〈第4編 少年非行の動向と非行少年の処遇〉
○ 〈第5編 変貌する凶悪犯罪とその対策〉