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2022年の国際テロ情勢

2 主な国際テロ関連動向

(1) 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の動向

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は、2月に続き10月にも最高指導者が死亡したものの、いずれも翌月に、新最高指導者が就任したことを発表したほか、テロや宣伝活動を継続した。ISILは、依然としてイラク及びシリアの治安当局の活動が及びにくい山間部、砂漠地帯等に6,000人から1万人のメンバー(注11)を擁しているほか、約2,500万ドルの資金(注12)も保持し、治安部隊、同部隊に協力する住民等に対するテロを継続している。1月には、シリアにおいて、自組織メンバーが収容されている施設を襲撃し、数百人のメンバーが脱走する事件を引き起こすなど、依然として高度な作戦を遂行する能力を有していることを示した。

さらに、4月に2月の最高指導者死亡に対する報復を呼び掛けた際には、イラク、シリア、アフガニスタン、ナイジェリア等で自組織及び関連組織によるテロが一時的に増加したほか、度々呼び掛けてきた刑務所等襲撃によるメンバーの解放が、シリアのみならず、ナイジェリア、コンゴ民主共和国で行われるなど、関連組織に対する影響力を維持していることを示した。

一方で、宣伝活動においては、いずれの最高指導者の就任発表後も、自組織及び関連組織のメンバーが忠誠を表明する画像を公開し、組織の結束が維持されていることを誇示した。また、ISILアラビア語週刊誌「アル・ナバア」等においては、2020年頃から活動が活発化してきている「中央アフリカ州」(注13)等のアフリカの関連組織を頻繁に取り上げ、その活動ぶりを称賛しており、6月に入り、イスラム教徒に対して「アフリカの地に移住し、ジハードを実行せよ」と初めてアフリカへの移住を呼び掛けた。ただし、2022年中においては、これに呼応する動きは確認されなかった。

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の動向

(2) 「アルカイダ」の動向

「アルカイダ」は、自派と協調する「タリバン」がアフガニスタンの実権を掌握した2021年8月以降、減少傾向にあった声明等の発出件数を増加させ、各地の情勢等に言及しつつ対米批判を含む自派の思想を主張し続けた。

最高指導者アイマン・アル・ザワヒリは、健康不安説が指摘される中において自派の思想を中心に声明の発出を続け、4月には、2月にインド南部・カルナタカ州においてイスラム教徒の女子学生が公立校で着用が禁止されていたヒジャブ(頭部を覆う衣類)を着用して登校した事案やウクライナ情勢について言及するなど、生存が確認されていたが、8月、米国が7月31日にアフガニスタン首都カブールでの空爆で同人を殺害したと発表した。

「アルカイダ」は、2011年5月の最高指導者オサマ・ビン・ラディン(当時)の死亡時には、報復を呼び掛ける声明を同月中に発出し、翌6月にザワヒリの最高指導者就任を発表したものの、今回の米国によるザワヒリ殺害発表に関しては、ザワヒリの生死に言及する内容や報復を呼び掛ける声明が発出されない状態が継続した。

「アルカイダ」は、米国によるザワヒリ殺害発表後も、同人名での声明等の発出を継続し、8月発行の機関誌「ワン・ウンマ」(アラビア語版第7号)では、表紙にアフリカ大陸のイラストを掲載するとともに、社説でソマリア拠点の関連組織「アル・シャバーブ」(注14)の活動を称賛し、「ソマリア首都モガディシュを手中に収めるのは時間の問題」と主張するなどした。また、11月には、FIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップカタール2022のボイコットを呼び掛けるなどした。

「アルカイダ」の動向

(3) 中東・アフリカ地域における国際テロ関連動向

中東地域では、イラク及びシリアで「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)によるテロが継続的に発生したほか、3月にはイスラエルでISIL支持者による銃撃事件、10月にはイランでISIL最高指導者に忠誠を誓う者による礼拝施設銃撃事件が発生した。

アフリカ地域では、各地でISIL及び「アルカイダ」の両関連組織によるテロが続発した。

マリ、ニジェール、ブルキナファソ等のサヘル諸国では、「アルカイダ」関連組織「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM)(注15)の傘下組織である「アルカイダ」系組織「イスラム・ムスリムの支援団」(JNIM)(注16)が、活動範囲をマリ北東部から徐々に南方へ拡大させ、ISIL関連組織「サヘル州」(注17)も、北東部を中心にマリ軍等に対するテロを繰り返した。このため、同地域では、JNIMと「サヘル州」による衝突も度々発生し、双方で多くのメンバーが死亡した。

ナイジェリア及びコンゴ民主共和国では、7月にISIL関連組織「西アフリカ州」(注18)、8月に「中央アフリカ州」(注19)がそれぞれ刑務所を襲撃し、合わせて1,600人以上の脱走を支援した。刑務所襲撃は、脱走した自組織メンバーを即戦力として再加入させ、部隊を増強することが可能となるため、今後もISIL関連組織が刑務所襲撃を企てる可能性が高いことが指摘された(注20)

ソマリアでは、「アルカイダ」関連組織「アル・シャバーブ」が、10月、首都モガディシュの教育省前で爆弾テロを実行したほか、11月には、大統領官邸に近接するホテルを襲撃するなど、警備が厳重な地区でのテロを相次いで実行し、テロ実行能力の高さを示した。

中東・アフリカ地域における国際テロ関連動向

(4) アジア地域における国際テロ関連動向

アジア地域では、様々な国際テロ組織が活動している旨指摘される中、各地で「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)関連組織等によるテロが発生した。

アフガニスタンでは、ISIL関連組織「ホラサン州」が、「タリバン」への攻撃、シーア派住民等を標的としたテロを繰り返しただけでなく、中国人を標的とするなど、外国権益に対するテロを複数回実行した。また、米国は、「アルカイダ」最高指導者アイマン・アル・ザワヒリを首都カブールで7月31日に殺害した旨発表し、「アルカイダ」が「タリバン」の保護下にあったと指摘した。

パキスタンでは、「バルチスタン解放軍」(BLA)(注21)が、パキスタンに進出する中国を「占領者」と位置付けた上で、4月、同国南部・シンド州に所在する「孔子学院」付近で自爆テロを実行した。また、「パキスタン・タリバン運動」(TTP)(注22)は、6月に「政府との無期限停戦」を主張したが、11月には「治安当局が停戦期間中にもかかわらず攻撃を継続した」として、「パキスタン全土の戦闘員に攻撃の再開を命ずる」との声明を発出した。

インドネシアでは、治安当局による取締りが続く中、ISIL関連組織「東インドネシアのムジャヒディン」(MIT)(注23)及び「ジャマー・アンシャルット・ダウラ」(JAD)(注24)の摘発が続き、12月、MITの勢力が壊滅された旨の発表がなされた。しかし、JADについては、同月、西ジャワ州バンドンの警察署で、JAD関係者による自爆テロが発生した。

フィリピンでは、治安当局による掃討作戦が進む中、ISIL関連組織の摘発が続いたが、これらの組織は、同国南部のミンダナオ島及びスールー諸島を拠点に活動を続け、治安当局や民間人を標的としたテロを継続した。

アジア地域における国際テロ関連動向

(5) 欧米諸国における国際テロ関連動向

欧米諸国では、イスラム過激主義に関連したテロ事件全体の件数は減少傾向にあるが、6月にノルウェー首都オスロの繁華街において、イスラム過激主義者とされる男(注25)が銃を乱射し、2人が死亡、21人が負傷する事件が発生したほか、12月には、米国のニューヨーク市において、イスラム過激主義の影響を受けたとされる男(注26)が刃物で警察官を襲撃し、3人が負傷する事件が発生した。

各国の治安当局は、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)や「アルカイダ」の過激思想に影響を受けた者によるテロ計画等に対する摘発を続けており、3月には、スペインにおいて、非政府組織(NGO)を悪用して「アルカイダ」系戦闘員の活動資金等を調達していたとして3人が逮捕された。また、6月には、ドイツで、ISILが発出する文書や動画をドイツ語に翻訳し頒布していたとされるISIL支持者の男が逮捕され、イタリアでも、爆弾テロを計画していたとしてISILへの参加を希望していた2人が逮捕された。

一方、欧米諸国では、白人至上主義、反ユダヤ主義、反政府主義等を主張する極右過激主義者によるテロが増加し、各国の治安当局は警戒を強化した。

ドイツでは、4月、電力インフラを破壊し、保健大臣を誘拐した上で爆発物を仕掛け、「内戦状況」を引き起こすことを計画したとして、反政府的な極右過激運動「帝国臣民」(注27)と結び付いた容疑者が摘発された。また、12月には、同国政府の転覆を計画したとして、「帝国臣民」等の影響を受けた者ら25人が逮捕された。英国では、10月、極右過激主義者が、南部・ドーバーの移民センターに爆発物を投げ込み、2人が負傷する事件が発生した。

欧米諸国における国際テロ関連動向

「タリバン」

021年8月に大統領府を掌握した「タリバン」戦闘員

2021年8月に大統領府を掌握した「タリバン」戦闘員(提供:AFP=時事)

最高指導者アーフンドザーダ(提供:AFP=時事)

最高指導者アーフンドザーダ(提供:AFP=時事)

「タリバン」は、1994年11月、モハンメド・オマルが、アフガニスタン南部・カンダハール州で設立したスンニ派グループである。1996年9月、アフガニスタン首都カブールを制圧し、「アフガニスタン・イスラム首長国」の樹立を宣言した。その後、「アルカイダ」最高指導者オサマ・ビン・ラディン(当時)らを保護下に置き、2001年9月の米国同時多発テロ事件後も同人の身柄引渡しを拒否したことから、国連安保理決議に基づく米国主導の有志連合軍による攻撃を受け、2001年12月、同「政権」は崩壊した。2002年の武装活動再開後、徐々に支配地域を拡大し、2021年8月にカブールを制圧して実権を再度掌握し、9月に「暫定内閣」の「閣僚」を発表した。最高指導者は、ハイバトゥッラー・アーフンドザーダである。

なお、「タリバン」は、女性に関し、2022年3月に中等教育の停止、同年12月に高等教育の停止、アフガニスタンで活動する国内・国際NGOにおける勤務停止等を決定し、国際社会から、女性・女児の権利の制限を強めているとして非難されている。

2023年1月31日現在、「タリバン」の「暫定政権」を承認している国はなく、カナダにおいては、テロとの関係がある団体又は個人を特定したリスト「Listed Terrorist Entities」に「タリバン」を掲載している。

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