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法制度整備支援の現場から
~相手を知り,共に考える~

カンボジア法整備支援プロジェクトの長期派遣専門家として現地に赴任してから,早いもので2年が経ちました。カンボジアでは,日本の支援により民法と民事訴訟法が成立して既に施行されており,現在はそれらを適切に運用できる法律家を育成するプロジェクトを実施しています。そのため,基本的には私たち日本側が教える側で,カンボジア側が教えられる側,という立場になるわけですが,教師と生徒のような一方的な関係ではありません。

数学や物理のような人類普遍の科学法則を教えるのとは違い,法律はその国の人々の生活に根ざしたものですので,その国の社会文化も常に念頭に置いて考える必要があります。例えば,カンボジアの農村部では今でも大家族の習慣が残っており,自分の妻のいとこの旦那さんのように,民法上は親族関係にない人と同居している場合も珍しくありません。

また法律は,「√」や「Σ」といった世界共通の記号で表記される数学や物理などの分野と異なり,その国の言葉で表記されますので,相手の国の言葉を常に意識し,尊重する必要があります。例えば,日本語では,養子縁組関係を終了させる民法上の制度は「離縁」,親子の縁を切る社会生活上の慣習は「勘当」ですが,カンボジア語では,離縁も勘当も,どちらも同じ言葉が使われています。

このようなカンボジアの社会文化や言語については,逆に私たちがカンボジアの人たちから教えられる側です。こちらから関心を持って質問すれば,皆さん親切に教えてくれます。カンボジアで実際に発生している法律問題について,私たち日本側から日本の考え方を紹介しつつ,相手方からはカンボジアの実情について教えてもらいながら,互いに知恵を出し合って議論をしていると,相手方との間でなんとも言えない一体感を感じることができます。これも,法制度整備支援の仕事の魅力の一つではないかと思います。

(カンボジア長期派遣専門家 辻 保彦)

カンボジアの田園風景写真

田園風景

カンボジアの農村写真

農村