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ケニア現地セミナーを開催しました
ケニアに対するアジ研の技術支援
国連アジア極東犯罪防止研修所(通称「アジ研」)は、国連と日本国政府との協定に基づき昭和37年に設立され、現在は法務省法務総合研究所が国連と協力して運営する研修機関です。主に途上国の刑事司法実務家に対し、刑事司法や犯罪者処遇に関する国際研修を実施しているほか、特定の国や地域を対象とする二か国支援も実施しています。今回ご紹介するケニアの非行少年や若者の立ち直り支援もそのうちの一つです。
今年(2024年)4月、ケニアの保護観察ボランティア制度の確立に向けたJICAプロジェクトがスタートしました。ケニアは日本の保護司制度を参考に、2005年から保護観察ボランティア制度を導入していますが、候補者の選定や育成、保護観察官との協働態勢の方法が定まっていない等の理由から、停滞状態にありました。今回のプロジェクトは、上記の課題を解決し、非行少年や若者の社会内処遇を充実させることを目指して始まりました。アジ研は、1990年代にケニアの少年司法実務改善のための支援を開始して以後、長年に渡り継続的に同国を支援してきたことで培われた良好な関係と、保護司との連携による日本の社会内処遇のノウハウを活かし、技術支援という形でプロジェクトに携わっています。今年11月、アジ研山内所長及び担当教官がケニアに出向き、現地関係者との協議や視察、第一線で活躍する保護観察官に向けたセミナー等を行いました。セミナーに参加した保護観察官の真剣な姿勢からは、プロジェクトへの関心の高さや、保護観察対象者に少しでも充実した支援を提供したいという強い熱意をうかがい知ることができました。

熱心に受講する保護観察官

プロジェクトミーティングの様子
ケニアの社会内処遇の現状と課題
ケニアは2005年に保護観察ボランティア制度を導入したものの、同国における社会内処遇の実施には様々な課題があります。例えば、ケニアには約2,000人の保護観察官がいますが、社会内処遇よりも裁判の資料として被告人の生活環境などの調査を行う判決前調査に時間を割かなければならず、保護観察対象者へのケアは十分に行き届いているとは言えません。ケニアは40以上もの部族からなる多民族国家であり、地方に赴任した保護観察官がその土地の対象者と言葉が通じず困るケースもあるなど、言語バリアは深刻です。さらに、貧困により交通費が出せなかったり、そもそも公共交通機関が通っていない場所に住んでいたりと、保護観察所に行くことも難しい対象者がたくさんいます。
このような課題がある一方で、ケニアは地域の結びつきが非常に強い国です。家族や親戚、ご近所さんとの絆が強く、自分が暮らす土地の文化や価値観を大切にし、多くの人が地域のために貢献しようという気持ちを持っています。保護観察対象者が住んでいる地域内に、日本の保護司のように立ち直りを支援する保護観察ボランティアがいれば、文化的・言語的な障壁や地理的な不便さなどの多くの課題を解決できることになります。
プロジェクトを支える現地専門家の奮闘
アフリカの国々には明るくのんびりしたイメージを抱きがちですが、ケニアの人々は誇り高く、なかなかに自己主張が強いところがあり、物事は一筋縄にはいきません。現地で実際にプロジェクトを指揮しているJICAの専門家は、文化の違いに日々頭を抱えながらも、相手の意見を尊重し、粘り強く議論を重ねています。日本のやり方を押しつけるのではなく、ケニアにとって本当に意味のある実用的な制度、プロジェクト終了後も持続可能な制度を作るためにはどうしたらよいか、試行錯誤を繰り返し奮闘する姿には、非常に感銘を受けました。アジ研は、今後もJICA専門家の方々と力を合わせ、日本の歴史ある保護司制度で得た知見や経験を惜しみなくケニアに提供し、本プロジェクトを推し進めていきたいと考えています。

プロジェクト関係者との記念撮影
